製造業のマイナスを非製造業でカバーした4-6月期の法人企業統計
本日、財務省から4~6月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で見て、売上高は前年同期比+0.8%増の371兆9112億円、経常利益も+0.2%増の35兆8338億円に上っています。さらに、設備投資も+7.6%増の12兆8214億円を記録しています。この設備投資を季節調整済みで見ると、GDP統計の基礎となる系列については前期比+1.6%増となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
製造業の経常利益11.5%減 4-6月法人企業統計、関税の影響大きく
財務省が1日発表した4~6月期の法人企業統計によると、経常利益は製造業が前年同期比11.5%減と2四半期連続のマイナスとなった。米国の関税措置の影響が大きいとみられる。全産業(金融・保険業を除く)は3四半期連続のプラスで35兆8338億円と過去最高を更新した。伸び幅は0.2%にとどまった。
法人企業統計は上場企業以外も含む日本企業全体の動向を調べている。4~6月期分は第2次トランプ米政権の関税措置が本格的に発動してから初めての集計となる。
経常利益を業種別でみると、自動車などの輸送用機械が29.7%減と目立って落ち込んだ。財務省は米国の通商政策や為替の影響と説明した。化学も研究開発費の増加や為替の影響により、19.0%減だった。
非製造業は6.6%増えた。サービス業が17.2%の大幅なプラスだった。娯楽や宿泊業で客数が増え、客単価も上昇した。運輸業、郵便業はインバウンドを中心に顧客数が増え、20.3%伸びた。
全産業の売上高は0.8%増にとどまった。製造業は1.3%増、非製造業は0.6%増だった。いずれも伸び幅は新型コロナウイルス禍からの回復が進み始めた2021年以降で最小となった。
中長期の投資は堅調だ。設備投資は7.6%増え、12兆8214億円だった。2四半期連続でプラスとなった。製造業が16.4%増と2桁の伸びを記録した。輸送用機械は43.4%増えた。電動車の生産体制を強化する設備投資が目立った。
非製造業は3.0%増えた。データセンター向けが堅調で、情報通信業は19.9%伸びた。新規店舗や物流施設の建設投資などで卸売業、小売業は13.0%増だった。
財務省は4~6月期の結果について「景気が緩やかに回復している状況を反映した。物価上昇の継続、米国の通商政策などの影響を含め、企業の動向を注視したい」と総括した。
同日、24年度の法人企業統計も発表した。全産業の経常利益は前年度比7.5%増の114兆7288億円だった。「内部留保」にあたる利益剰余金は6.1%プラスの637兆5316億円で過去最高を更新した。
長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

法人企業統計の結果について、基本的に、企業業績は好調を維持していると考えるべきです。まさに、それが昨年来の株価に反映されているわけで、東証平均株価については、トランプ関税で揺れた4月初旬は33,000円台まで落ちましたが、その後は回復して7月下旬からは4万円台の水準に回帰しています。ただし、個人消費などと違って、企業業績は基本的に好調を維持しているものの、引用した記事にもあるように、米国の関税政策により伸びは大きく減速しています。特に、輸出に依存する割合の高い製造業では停滞感が大きくなっているのも事実です。もちろん、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。先行きの景気への影響という点に関しては製造業、中でもトランプ関税の影響の大きい自動車産業の動向が今後一段と悪化する可能性が高いと考えられますから、こういった輸出産業に注目すべきであろうと考えます。4~6月期に関しては、自動車などの製造業の停滞を非製造業がカバーする形になりましたが、先行きの景気のサステイナビリティはそれほど高くないと覚悟しておくべきです。売上や利益といっtら景気動向から設備投資に着目すると、上のグラフのうちの下のパネルで見て、前々から企業業績に比べて設備投資が出遅れているという印象がありましたが、最近時点での堅調さは、人手不足に対応した本格的な設備投資増である可能性は無視できません。季節調整していない原系列の統計の前年同期比で見ても、売上高、経常利益、設備投資とも非製造業の中では、卸売業・小売業、サービス業、運輸業・郵便業といった労働集約的と考えられている産業が、情報通信業とともに、上位に食い込んでいる場合があります。景気動向に関しては自動車をはじめとする製造業に注目しつつ、設備投資動向に関しては人手不足による影響が大きい非製造業、中でも、こういった比較的労働集約的な業種の動向が注目されます。

続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。そして、現在でも労働分配率の低下は続いています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半の75%近い水準と比べて、最近時点では▲20%ポイント近く労働分配率が低下している、あるいは、コロナ禍の期間の65%ほどと比べても▲10%ポイントほど低下している、と考えるべきです。名目GDPが約600兆円として50-100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。ただ、さすがに分配については昨年2024年や今年2025年の春闘では人口減少下の人手不足により賃上げ圧力が高まった結果として、労働分配率が下げ止まった可能性が示唆されていしたが、決してそうはなっていません。昨年今年と春闘ではあれだけの賃上げがありながら、まだ労働分配率は低下し続けている可能性が高いと考えるべきです。これでは消費は伸びません。日本経済の成長には大きなマイナス要因だと私は考えています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。設備投資の本格的な増加が始まったことが期待される一方で、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金はまだまだ伸びが続いています。また、4枚めのパネルにあるように、直近統計で2020年くらいからは、人件費の伸びが高まっている可能性が見て取れますが、人件費以上に経常利益が伸びているのがグラフの傾きから明らかです。労働分配率の低下と整合的なデータであると考えるべきです。加えて、トランプ関税などを考慮すると、現時点では人件費の伸びが続くかどうかは不明です。アベノミクスではトリックルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇する経済が終焉して、資本分配率が低下して労働分配率が上昇することにより、諸外国と比べても高いインフレにならずに日本経済が成長するパスが実現できる可能性が生じており、それは中期的に望ましい、という私の考えは代わりありません。
本日の法人企業統計を受けて、来週9月8日に4~6月期のGDP統計速報2次QEが内閣府から公表される運びとなっています。私は1次QEから大きな変更なく少しだけ上方修正と考えていますが、日を改めて取り上げたいと思います。
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