3か月ぶり増産となった鉱工業生産指数(IIP)と名目では増加を続ける商業販売統計と底堅い雇用統計
本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、さらに、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも9月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.2%の増産でした。2か月ぶりの減産となります。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.5%増の12兆6130億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.3%の上昇となっています。雇用統計のヘッドラインは、失業率は前月から横ばいの2.6%、有効求人倍率も前月と同じ1.20倍を、それぞれ記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
鉱工業生産9月は2.2%上昇、3カ月ぶり増 半導体製造装置などけん引
経済産業省が31日公表した9月の鉱工業生産指数速報(2020年=100)は前月比2.2%上昇の102.8で、3カ月ぶりに上昇した。半導体製造装置などの増産が押し上げた。生産の基調判断は「一進一退」で据え置いた。
生産実績を押し上げたのは半導体製造装置などの生産用機械(前月比6.2%増)のほか、定期修理終了によるポリプロピレン増産が寄与した無機・有機化学(同9.1%増)など。大型案件があった橋りょうなど金属製品工業(同7.6%)も好調だった。
一方、航空機用発動部品など自動車を除く輸送機械(同6.6%減)、通信用ケーブル光ファイバ製品などの鉄鋼・非鉄金属工業(同0.5%減)が減産となった。
経産省の幹部によると、自動車業界から米関税の影響に関するコメントは特になかったという。
企業の生産計画に基づく予測指数は10月が1.9%上昇、11月が0.9%低下となっている。経産省が策定している、生産計画を上方修正している企業の割合から下方修正している割合を差し引いたマインド指標では、10月の調査結果は9月より改善しているという。ただ、経産省は生産について「依然として楽観視できる状況にはなく、要注視だ」(幹部)としている。
小売業販売額9月は前年比+0.5%、コメ値上げなどで2カ月ぶりプラス
経済産業省が31日発表した9月の商業動態統計速報によると、小売販売額は前年比0.5%増の12兆6130億円だった。コメ値上げなどでドラッグストアの販売増などが寄与した。
<スーパー販売、数量ベースではマイナス>
業種別の前年比では、ドラッグストアなどの医薬品・化粧品小売業と、家電などの機械器具小売業がそれぞれ5.9%増と伸びた。一方、ガソリンスタンドなどの燃料小売り業は4.9%減少した。飲食料品小売業も0.3%減だった。
業態別の前年比でもドラッグストアが5.1%と大きく伸びた。コメなど食品の販売増がけん引したが、「価格要因で数量ベースでは前年比横ばい」(経産省)という。
スーパーも4.2%増だったが、「増額は価格要因で数量ベースでは若干マイナス」(同)という。
家電大型専門店は基本ソフト(OS)「ウィンドウズ10」のサポート終了に伴うパソコン特需やスマートフォン、ゲーム機が好調で5.4%増加した。
一方、ホームセンターは昨年夏に防災買いだめ需要などが発生した反動で2.3%減だった。
完全失業率9月は2.6%、雇用情勢は底堅い 有効求人倍率1.20倍
政府が31日発表した9月の雇用関連指標は、完全失業率が季節調整値で2.6%で、前月と同水準だった。より良い条件を求める人々によって労働市場のパイは拡大しており、総務省は雇用情勢は悪くないとの見方を示している。有効求人倍率は1.20倍で、前月から横ばいだった。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.20倍が見込まれていた。
総務省によると、9月の就業者数は季節調整値で6834万人と、前月に比べて24万人増加。完全失業者数(同)は181万人で、前月から2万人増加した。
正規の職員・従業員数(実数)は3760万人、このうち女性が1379万人。いずれも比較可能な2013年1月以降で最多となっている。
仕事をしておらず探してもいない「非労働人口」に区分されていた人々が、職に就いたり仕事を探したりするようになり、労働市場のパイが拡大している。総務省の担当者は「雇用情勢は引き続き悪くない」との認識を示した。
<有効求人数、有効求職者数ともに減少>
厚生労働省によると、有効求人数(季節調整値)は前月に比べて0.7%減少。卸売業や小売業では、省人化や物価高騰の影響などで求人を控える動きがみられたという。製造業は人件費や原材料費の上昇が経営を圧迫している。価格転嫁にも限界があるとの声や、米関税のマイナス影響を不安視する向きもあった。
一方、有効求職者数(同)は0.8%減少。現場からは景気の先行き不透明感から転職に慎重になっているとの声も上がっていたという。
大和証券のエコノミスト、鈴木雄大郎氏は、今後、最低賃金が大幅に引き上げられることから「中小企業を中心に一段とコストが増加することが見込まれる」と指摘。求人を出すことを控える動きが強まる可能性が高く、「求人数が一段と減少することで、有効求人倍率は緩やかに低下していく」とみている。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たりに企業から何件の求人があるかを示す。9月は前月に続き22年1月(1.19倍)以来の低水準となったが、厚労省の担当者は「雇用情勢は特に悪化していない」との認識を示している。
いくつかの統計をまとめて取り上げましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事にはロイター調査による市場の事前コンセンサスはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+1.6%の増産が予想されていました。いずれにせよ、実績である+2.2%減は市場予想からやや上振れした印象です。ただし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのレンジ上限が+2.7%でしたので、大きなサプライズというわけではありませんでした。ですので、だからかどうかは不明ながら、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。昨年2024年7月から1年余り連続の据置きです。先行きについては記事にもある通り、製造工業生産予測指数を見ると、足下の10月は補正なしで+1.9%の増産、翌10月は▲0.9%の減産となっています。上方バイアスを除去した補正後では、10月の生産は▲0.5%の減産と試算されています。
経済産業省の解説サイトによれば、9月統計における生産は、増産方向に寄与したのは生産用機械工業が前月比+6.2%増で+0.52%の寄与度、無機・有機化学工業が+9.1%増で+0.37%の寄与度、金属製品工業が+7.6%増で+0.30%の寄与度、などとなっています。他方、減産方向に寄与したのは、輸送機械工業(除、自動車工業)が前月比▲6.6%減で△0.21%の寄与度、鉄鋼・非鉄金属工業が▲0.5%減で▲0.03%の寄与度、となっています。
引用した鉱工業生産(IIP)に関する記事の最後に、「依然として楽観視できる状況にはなく、要注視だ」との経済産業省の発言がありますが、この統計を見ている限り、米国の関税政策の影響はそれほど大きくない、ということになるのかもしれません。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、伸び率はとうとう先月の8月統計で▲0.9%と42か月ぶりのマイナスを記録していた後、9月統計では+0.5%に戻っています。8月統計では猛暑による外出手控えなどの気候の効果があったのかもしれません。引用した記事にある通り、売上の増減は価格の変化に起因していて、数量ベースではそうれほど大きな変化は見られないような印象も受けます。コメの売上増やガソリンの売上減は、数量ベースよりも名目ベースの変化の方が大きい印象です。ただ、あくまで印象であって統計的な裏付けがあるわけではありません。ということで、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断していて、本日公表の9月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.8%の低下となりましたので、5月統計で下方修正した「一進一退」から、「弱含み傾向」に明確に1ノッチ下方修正しています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、9月統計ではヘッドライン上昇率が+2.7%、生鮮食品を除く総合のコアCPI上昇率でも同じく+2.9%となっていますので、前年同月比がプラスに戻ったとはいえ、9月統計の実質消費はマイナスの可能性が高いと考えるべきです。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンド観光客により、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。このインバウンド消費を考え合わせると、国内消費の実態は本日の統計に示された小売業販売額のマイナス以上のマイナスとなっている可能性は考慮しておかねばなりません。

引用した記事にもあるように、ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.4%、有効求人倍率は1.22倍が見込まれていましたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、失業率が2.4%、有効求人倍率は1.20倍でした。本日公表された実績で、失業率2.6%、有効求人倍率1.20倍はともに、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのほぼ下限といえますが、引用した記事の3パラ目にあるように、それほど雇用が悪化しているという見方は示されていません。というのは、失業率が上昇している背景は失業者数の増加であり、季節調整していない原系列の統計で見て、失業者数は8月が前年同月から+7万人、9月も+11万人となっている一方で、就業者数は8月+20万人、9月+49万人と、ともに失業者数の増加を超えて増加しているからです。では何が起こっているのかというと、非労働力人口が減少しています。8月は▲52万人減、9月は▲83万人減を記録しています。ですから、専業主婦や高齢者、だけとは限りませんが、労働市場に参入していなかった非労働力人口が労働市場に参入して、就業者と失業者ともに増加させていつ、というわけです。基本は、春闘の結果などを受けて、また、人手不足に対応して、賃金上昇に伴って労働市場への参入が増加している、と考えるのが伝統的な経済学の見方であろうと思います。何といっても、失業率はまだ2%台半ばですし、有効求人倍率は1を超えています。




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