OECD「国際教員指導環境調査 (TALIS)」
先週火曜日の10月7日、経済協力開発機構(OECD)から「国際教員指導環境調査 (TALIS)」Teaching and Learning International Survey 2024 の結果が公表されています。初等中等教育における教員の現状と課題を報告しています。私自身は大学教員ですので、直接の関係はありませんが、大学には、当然、初等中等教育を受けた学生が入学して来るわけですし、昨今の教師の待遇に関する議論も気にかかるところであり、pdfの全文リポートからいくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。
まず、リポート p.108 から Figure 3.2. Change in teachers' total working hours, from 2018 to 2024 を引用すると上の通りです。日本はどこに位置しているかといえば、一番左のもっとも長時間労働を強いられている国となっています。2018年から2024年までの6年間でかなり減少したとはいえ、教師の労働時間は週55時間ほどに上っており、悲しくも、先進国が加盟するOECD諸国の中では教師の労働時間は他を大きく引き離してトップとなっています。国内での教師の働き過ぎという議論とも整合的です。
続いて、順番はさかのぼりますが、リポート p.59 から Figure 1.12. Teachers' use of artificial intelligence を引用すると上の通りです。教師が人工知能(AI)を使っているかどうかです。これは、フランスに次いで低い割合となっています。まあ、そうなのでしょう。政府といわず、企業といわず、もちろん、学校でも二歩は先進国の中ではAI利用がもっとも遅れた国のひとつとなっています。
続いて、リポート p.250 から Figure 7.10. Change in teachers' satisfaction with employment terms (excluding salaries), from 2018 to 2024 を引用すると上の通りです。教師がお給料以外の面でどれだけ満足感を得られているかを国際比較しています。日本のポジションは一番右のもっとも教師の満足度が低い国となっています。これも、国内での議論と整合的なのだと思います。
続いて、リポート p.252 から Figure 7.12. Change in teachers' salary satisfaction, from 2018 to 2024 を引用すると上の通りです。では、教師がお給料にどれくらい満足しているかの国際比較では、何とか、どん尻は逃れていますが、OECD加盟国の中では決して高くなく、お給料の面でも満足度は低い、といえそうです。
初等中等教育の現場における日本の教師の悲しくも哀れな現状が明確に示されていると私は感じました。何かの折に書いた気がしますが、教育だけは何の裏付けもなしに現場を離れたところで方針が決定され、「しっかりやるべし」というように決定された方針に沿って教師が教えることが求められます。予算がないから道路ができない、という自明の因果関係を飛び越えて、予算があろうがなかろうが、設備が整っていようがどうだろうが、教師がやるべきという大量の業務と責任だけを初等中等教育機関の教師は押し付けられています。しかも、私のような高等教育機関の大学教員は教育において、かなり大幅な自由裁量が認められていますが、初等中等教育では「学習指導要領」というきわめて厳しい制約条件が課されます。救命胴衣や浮き輪などを何も持たされず、しかも、手足を縛られて水に投げ込まれ、しっかり泳げといわれているようなものです。日本の教育水準が大きく低下し、生産性も上がらず、先進国の地位から落ち始めていることを実感します。
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