大企業製造業の業況判断DIが2期連続で改善した9月調査の日銀短観
本日、日銀から9月調査の短観が公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは6月調査から+1ポイント改善して+14、他方、大企業非製造業は横ばい+34となりました。また、本年度2025年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+8.4%増と、3月調査の+6.7%増から上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
大企業製造業の景況感、2四半期連続の改善 日銀9月短観
日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回2025年6月調査(プラス13)から改善しプラス14だった。2四半期連続で改善した。
大企業非製造業の景況感は横ばい、プラス34
大企業非製造業の景況感は6月から横ばいのプラス34だった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。9月調査の回答期間は8月27日~9月30日で回答率は99%だった。9月10日までにおおむね7割の回答があったという。
日米関税交渉が合意に達して以来、初めての短観となった。民間エコノミストの予想では、大企業製造業は改善、大企業非製造業は小幅悪化を見込んでいた。
大企業製造業では、日米の関税交渉の進展による不確実性の低下や、コスト高を販売価格に転嫁する動きの広がりが景況感の改善に寄与した。
業種別にみると、自動車が2ポイント改善しプラス10となった。トランプ米大統領は9月4日に日本に課した25%の自動車向け追加関税の税率を12.5%に下げる大統領令に署名し、同16日から適用が始まった。はん用機械も4ポイント改善しプラス27になった。
一方、トランプ政権の関税政策をめぐっては品目別の関税が広がりをみせ、米国に敵対的とみなす国々への税率引き上げも続く。日本企業には世界経済の減速など悪影響を懸念する声も根強い。
鉄鋼は11ポイント悪化しマイナス14、紙・パルプが3ポイント悪化の26となった。日銀の担当者は「米国の通商政策が景況感の改善と悪化の両方向の要因と指摘する声が聞かれた」と話した。
インバウンドの需要鈍く
大企業非製造業では、価格転嫁の進展がみられた一方、インバウンド(訪日外国人)の需要の鈍化や、物価高による消費の落ち込みが重荷となった。宿泊・飲食サービスは19ポイント悪化のプラス26となった。
先行きでは製造業が2ポイント悪化のプラス12、非製造業は4ポイント悪化のプラス28を見込む。関税による需要の落ち込みのほか、人件費の上昇や物価高による消費の減速が懸念材料としてあがる。
企業の物価見通しは全規模全産業で1年後は前年比2.4%、3年後は2.4%と前回調査から横ばいだった。5年後は2.4%と0.1ポイント上方修正された。
企業の事業計画の前提となる25年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=145円68銭だった。前回調査は145円72銭で、円高方向に修正された。
日銀は経済・物価情勢をみながら追加利上げの機会を探っている。今回の短観はおおむね市場の事前想定通りの結果になり、少なくとも利上げを妨げる要因にはならないとの声が出ている。
いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

一昨日、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内ながら、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは小幅に改善、との予想が緩やかなコンセンサスであったと私は考えています。例えば、私が見た範囲で、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ロイターによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回6月調査から+2ポイント改善の+15と予想されていました。本日公表された大企業製造業の景況判断DIの+14という実績は、横ばい圏内の動きという意味でも、動きの幅のマグニチュードでも大きなサプライズはありませんでした。ただ、大企業製造業の業況判断指数DIの改善幅が+2ではなく+1だった点、さらに、悪化すると見込まれていた大企業非製造業の業況判断指数DIが横ばいであった点を総合的に考える必要があります。何度か同じことを繰り返しましたが、米国との関税交渉が決着したので先行き不透明感が払拭されて、足元の業況判断指数DIは上向いた一方で、それにしても、米国の関税率が以前からは引き上げられているので、先行きの景況感は下向き、ということです。
業種別に少し詳しく足元の景況判断DIを見ると、基本的に引用した記事の通りながら、大企業製造業では、素材業種が前期から+12のままで横ばいであったのに対して、加工業種は+13から+15にやや改善しています。中でも、トランプ関税との関係で注目され、我が国リーディングインダストリーのひとつである自動車は前回調査から+2ポイント改善の+10となりましたが、先行きは▲2ポイント悪化すると見込まれています。はん用機械が+4ポイント改善して+25、造船・重機等も+9ポイント改善して+32,といったところが加工業種で見られます。他方、素材業種では、鉄鋼が▲11ポイント悪化して▲14、石油・石炭製品も▲9ポイント悪化の0などとなっています。景況感に関しては 鉱工業生産指数(IIP)や商業販売統計などを見る限り、概ねハードデータとソフトデータの整合性は十分あるような気がします。ただ、トランプ関税は決着したものの、国内景気や海外の地政学的要因などに起因して先行き不透明感は大きく、景況感についても、製造業・非製造業おしなべて大企業・中堅企業・中小企業ともに先行きは悪化すると予想されています。

続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学における生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感がほぼ払拭されました。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。グラフを見ても理解できる通り、大企業・中堅企業・中小企業ともコロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが高水準だった背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が安定的に上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人手不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性がある、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないために、そう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、繰り返しになりますが、低賃金労働者が不足しているだけであって、外国人を含めて低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性が十分あるのではないかと感じます。

続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。規模別に見ると、大企業が6月調査の+11.5%増から上方修正されて+12.5%増、そして、中堅企業も+3.4%増から上方修正されて+5.6%増、中小企業でも▲5.6%減から減少幅が縮小してされて▲2.3%減と、人手不足を設備投資による資本ストック増で要素間代替を試みるような動きが観察されます。大企業に比べて規模の小さい企業での雇用増を図ることが厳しく、設備投資で代替させようとの動きと私は受け止めていますが、中小規模の企業は現時点ではまだマイナス計画です。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の6月調査では全規模全産業で+6.7%増の高い伸びが計画されています。当然jのように、3月調査よりも上積みされています。デジタルトランスフォーメーション(DX)だけでなく、カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)、さらに、グローバリゼーション=国際化などに対応した投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。ただ、GDPベースの設備投資やその先行指標である機械受注などのハードデータと日銀短観に示されたソフトデータの間でまだ不整合があるような気がします。計画倒れにならないことを願っています。
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