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2025年10月25日 (土)

今週の読書は経済書をはじめいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、マイケル・キーン & ジョエル・スレムロッド『課税と脱税の経済史』(みすず書房)は、税金や課税、そして、合法的な租税回避と違法な脱税という税に関するテーマを、シュメール時代の粘土板から始まって、ブロックチェーンの利用やデジタル課税に至るまで追って、数千年に渡る歴史的物語となっています。エマニュエル・トッド『西洋の敗北』(文藝春秋)では、ウクライナ戦争や中東の武力衝突などに関して、歴史人口学、家族人類学、社会構造の観点から解き明かそうと試みており、タイトル通りに、西洋は終焉しつつあって敗北し、歴史は大きな転換点にある、という結論を導いています。織守きょうや『ライアーハウスの殺人』(集英社)では、祖父母から莫大な遺産を相続した主人公が孤島に洋館を建てて、かつて小説の新人賞に応募した作品を酷評したミステリ好きの仲間を招待して殺害を試みますが、初日から計画が狂い始めて、ラストには大きなどんでん返しが待っています。一本木透『七人の記者』(朝日新聞出版)では、主人公の大学新聞部の記者が大学内で総長候補とされている有力男性教授のセクハラ問題を追及するうち、大学出身の政治家らが絡む私学助成金の不正受給疑惑に突き当たり、取材を進めて真実を明らかにしますが、大手メディアには無視されてしまいます。エマニュエル・トッド『西洋の敗北と日本の選択』(文春新書)では、前著の『西洋の敗北』を受けた形で、今後の日本の対応を考えていて、日本にとっての米国はパートナーとか同盟国ではなく、米国は日本から見て主人であり、日本は米国の属国であると強調しています。アレステア・レナルズ『反転領域』(創元推理文庫)では、19世紀、ノルウェー沿岸を航行して極地探検に向かう探検隊のデメテル号を舞台にし、ノルウェー沿岸のフィヨルドのどこかにある古代建築物を探しますが、発見したところで重大な事故が起こり、物語が大きく反転します。
今年2025年の新刊書読書は1~9月に242冊を読んでレビューし、10月に入って先週までの分を加えて255冊、さらに今週の6冊を加えると合計で261冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、マイケル・キーン & ジョエル・スレムロッド『課税と脱税の経済史』(みすず書房)を読みました。著者は、まず、キーン氏は東京大学の東京カレッジ潮田フェロー、といわれてもピンとこないのですが、国際通貨基金(IMF)財政局の次長として20年以上に渡り、加盟各国に対するアドバイスなどで税制に携わってきたようです。また、スレムロッド教授は、ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスのビジネス経済学および公共政策教授であり、国際税制学会の会長も務めた経験あるそうです。本書の英語原典のタイトルは Rebellion, Rascals, and Revenue であり、2021年の出版です。本書は5部構成なのですが、税金や課税、そして、合法的な租税回避と違法な脱税という税に関するテーマを、シュメール時代の粘土板から始まって、ローマ期の皇帝カリグラの奇抜な税制、さらには近年のタックスヘブンに関する「パナマ文書」の暴露、あるいは、ブロックチェーンの利用やデジタル課税に至るまで、数千年に渡ってタイトル通りに課税と脱税の歴史的物語となっています。それほど税制に関する理論的な展開はありませんが、例えば、窓に課税されると窓の少ない建築になったり、といった税に起因する生活面も含めた経済活動の歪みの例を物語として収録しています。本書には言及ありませんが、税による建築の変化としては、「うなぎの寝床」なんてのが日本にあったと社会科なんぞで教えているような気がします。ただ、税が典型的ではありますが、経済政策というのは、基本的に、均衡に向かう自然な経済活動に対して、何らかの歪みをもたらすことを目的としています。政策当局としては、経済活動で達成される自然な均衡が望ましくないという判断を持って、その近郊をずらす、というか、違う均衡に持っていこうとするわけです。典型的には、二酸化炭素排出を減らすべく炭素税を重課する、といったところです。本書では、理論面はそれほど重視してはいませんが、ラムジーによる弾性値の低い財に課税すべきという一般原則に言及しています。ただ、この原則は理論的には支持されても、弾性値の低い財なんてのは基礎的な必需財ですから、政策としては一般国民から評価されるとは限りません。税の帰着、すなわち、例えば、消費税は消費者が払っているのか、それとの生産者が払っているのか、といった理論的に難しい課題は、難しいと本書では正直に答えているだけです。それでも、読み物としては十分楽しく構成されています。ですので、アカデミアというよりも一般の読者の方が楽しめるかもしれません。

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次に、エマニュエル・トッド『西洋の敗北』(文藝春秋)を読みました。著者は、フランス出身のの歴史人口学者・家族人類学者であり、ご専門の分野に限定されず幅広い評論活動をしているように、私は受け止めています。本書のフランス語の原題は La Défaite de i'Occident であり、2024年の出版です。基本的に、本書では、著者の専門分野に基づいて、ウクライナ戦争や中東の武力衝突などに関して、歴史人口学、家族人類学、社会構造の観点から解き明かそうと試みています。その結論を先取りすると、タイトル通りに、西洋は終焉しつつあって敗北し、歴史は大きな転換点にある、ということです。その昔に、レッド・ツェッペリンが反対のタイトルのアルバムだか、曲だかを出していたような気がしますが、時代が変わったのでしょう。ということで、まず、ウクライナ戦争についてはロシアの勝利を予想しています。本書が執筆された時点で米国政権はバイデン大統領でしたが、金融化・サービス化した米国経済では戦争遂行に必要な工業生産力が低下しており、兵器や軍需産業の生産力が十分ではない、という分析結果が反映されています。ウクライナ戦争については単なる地域紛争という見方を排して、西洋が敗北しつつある証拠のひとつと捉えています。ただ、もちろん、その「西洋」というグループには、当然に、日本も入ります。その日本も入る西洋において、経済的な工業生産力の減退のみならず、出生率の低下やその背景となっている宗教や信仰の衰退、すなわち、本書でいうところの宗教ゼロ状態、ないし、プロテスタンティズム・ゼロ状態を強く指摘しています。要するに、西洋的な価値基盤となっているプロテスタンティズムに基づく労働倫理、あるいは、宗教的な共同体が、国家モデルとして変質しており、それが自由と民主主義、工業化による経済発展モデル、また、途上国などに対するグローバルなリーダーシップの発揮、といった西洋近代の枠組みを揺るがしている点を強調しているわけです。ということで、私は本書の論調に賛同するものではありませんが、例えば、ウクライナ戦争においては、ロシアが侵略者であり、一方的に攻め込まれたウクライナを無条件に支援する必要性というものを本書では否定していて、ウクライナを failed nation とみなして、ロシア側の侵攻に対する部分的ながらも正当性にも目配りしています。こういった反対の見方や意見についても、ある程度は情報として接しておくことは重要だと感じます。

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次に、織守きょうや『ライアーハウスの殺人』(集英社)(集英社)を読みました。著者は、ミステリ作家です。本書では、孤島のクローズド・サークルでの密室殺人やデスゲームを主題とし、複雑怪奇などんでん返しがラストに用意されています。主人公は、芦川彩莉であり、まだ20歳前のJKだったころに、祖父母の残した莫大な遺産が転がり込んできて、孤島を購入して洋館を建てます。まあ、このあたりのでだしは、江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』と似ていなくもありません。建てられた洋館には隠し通路なんかのギミックがあり、なぜか、来鴉館と命名され本書のタイトルにつながるわけです。その来鴉館に何人かを招待します。芦川彩莉は、小説の新人賞に応募した作品をウェブ上で知り合ったミステリ好きの仲間から酷評された過去があり、酷評したショーゴ、詩音を殺害するターゲットとして招待します。自分の考えたプロットで殺害する、ということです。ゲームの雰囲気を出すために刑事や霊能者といったキャラクターも必要と考え、生前から祖父母がお世話になっていたという矢頭刑事と自称霊能者の真波も招待されます。他方で、芦川彩莉の協力者は、祖父母のところで働いていた家政婦のアオイと新たに雇ったメイドのアリカです。お金のためなら何でもしてくれるアオイには殺人計画の真実を話してあり、ポンコツで危機管理能力に欠ける雇い主とは違い、冷静沈着で頼りになります。アリカには、あくまで体験型クローズドサークルミステリのゲームであると説明してあり、女優としての演技力に期待されています。殺害のターゲットとなるショーゴを初日の夜に空き部屋におびき寄せて殺害する予定が、芦川彩莉はうっかり寝落ちしてしまったにもかかわらず、なぜかショーゴは翌朝に予定通りに死体となって、予定通りにアオイに発見されます。そして、主人公である芦川彩莉のプランが少しずつ狂い始めます。ということで、ミステリですのであらすじはこのくらいにしておきます。はい、読み進めば理解できるのですが、なかなかに複雑な人間関係であり、みんなが嘘をついているというわけの判らない結末を迎えます。ラストのどんでん返しは大がかりなのですが、ちゃんとついていける読解力を必要とします。私が思い浮かべたのは、O. ヘンリーの短編集にあるジェフ・ピーターズとアンディ・タッカーのコンビのシリーズ何話かが本書のトリックに似ている、という点でした。

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次に、一本木透『七人の記者』(朝日新聞出版)を読みました。著者は、社会派の作家なのですが、朝日新聞の記者のご経験もあるようです。私はAIをテーマにした『あなたに心はありますか?』を読んだことがあります。本書は大手メディアへの失望感が露わになっているのですが、なぜか、朝日新聞出版から出ています。主人公は宝城大学の新聞部に所属する美ノ輪七海です。宝城大学は、都の西北ではなく都内北部に位置するとされていますが、学生数4万人マンモス大学であり、政治家やジャーナリストを輩出しているということですので、何となくの雰囲気でいえば早稲田大学をモデルにしているように私は感じました。主人公の七海は、大学内での総長候補とされている有力男性教授のセクハラ問題を追及するうち、宝城大学出身の政治家らが絡む私学助成金の不正受給疑惑に突き当たります。タウン誌「ふるさと宝城」編集長の虎吹徹三や大学の新聞部OBのカメラマン天多教之に相談を持ちかけて、タウン誌の事務所を拠点に取材を始めます。そこに、新聞・テレビ・WEBニュースのジャーナリスト経験者が集まって、6人で「有志記者連合」を結成して取材を進めます。加えて、美ノ輪七海の弟のユズルが、ひきこもりながら、本書でも言及されている Belling the Cat よろしく、公開されているソースからさまざまな情報特定の割出しに乗り出します。しかし、大手メディアは政権や広告主からの圧力で、少なくとも幹部や上層部は政権に歯向かう気はなく、しかも、WEB版での配信やSNSでの拡散も、「サイバー攻撃等対処法」に基づいて稼働しているJUSTICEなるシステムが、本来のサーバー攻撃の防御、あるいは、ファクトチェックに基づくフェイクニュースや誹謗中傷のへの対応、といった機能を超えて、政権に不利な情報を瞬時にbanすることとなってしまい、情報が国民に伝わりません。最後に、決定的な証拠を入手し、決して意外ではない団体やジャーナリストが協力し、都会の大手メディアではなく地方メディアから情報が伝わり始めて、きわめて印象的なラストを迎えます。一般の多くの読者には息詰まる展開だろうと思うのですが、まあ、私のような横着者は少しだらけてしまう部分もありました。当然に予想される決着です。ですので、爽やかな勧善懲悪的な結末と受け止める読者もいれば、私のようにかなり現実のメディアと権力者の関係に近い実態にうんざりする読者もいそうな気がします。タイトルは、作者があとがきでも言及していますが「七人の侍」へのオマージュということです。

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次に、エマニュエル・トッド『西洋の敗北と日本の選択』(文春新書)を読みました。著者は、フランス出身のの歴史人口学者・家族人類学者であり、ご専門の分野に限定されずに幅広い評論活動をしているように、私は受け止めています。本書は、すでに月刊誌の『文藝春秋』に掲載された記事や対談を収録しています。基本は、『西洋の敗北』を受けての日本への対応、適用ということになります。ですので、ウクライナ戦争での米国の敗北は政権がバイデン大統領からトランプ大統領に交代しても同じ結論です。というのも、生産せずにドルを印刷して世界から輸入して成り立っていることに変わりはないからです。ですので、ウクライナ戦争を終わらせることができるのは米国ではなくロシアである、と本書で明言しています。最近の動向をニュースで見る限り、そうかもしれない、と私自身も考え始めています。もちろん、タイトル通りに本書では、日本が世界、あるいは、西洋の中でどのように位置づけられているかが明記されています。すなわち、現在は西洋社会の一員であるものの、明治維新は独立を保つために近代化を進めたわけであり、21世紀におけるBRICsの先駆けであったとの認識が示されています。そして、日本にとっての米国はパートナーとか、同盟国ではあり得ず、米国は日本から見た主人であり、日本は米国の属国であると強調しています。はい、日本国内でも決して少なくない知識人はそう考えているのではないかと思います。ですから、著者は以前から日本は核兵器を保有すべきという主張でしたが、本書でも、核兵器は持たない、か、自ら保有するものであって、日本が米国の核の傘にあるという見方を明確に否定しています。ですから、米国をあてにできない中で、日本は中国と対峙しなければならないわけですので、日本はかなり困難な状態に置かれていることを十分認識すべきという主張です。ただし、日本やドイツを直系家族構造、大雑把に、長子に重点を置く家督相続制を意味しているのだろうと思いますが、そのように位置づけ、中国やロシアの兄弟が平等な兄弟家族構造と対比させて世界の構造をひも解く、という視点は私の理解は及びませんでした。いずれにせよ、前著の『西洋の敗北』と同じで、決して賛同するわけではありませんが、私自身の見方と違う主張として、ある程度の尊重はします、という読書姿勢でした。

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次に、アレステア・レナルズ『反転領域』(創元推理文庫)を読みました。著者は、英国のSF作家です。ウェールズの人らしいのですが、ゴルフで有名な地にあるセント・アンドリューズ大学で天文学の博士号を取得しているということです。英語の原題は Eversion であり、2022年の出版です。舞台は小型帆船デメテル号であり、ノルウェー沿岸の極地探検に向かっています。19世紀なのですが、蒸気船ではなく帆船のようです。本書の登場人物はそれほど多くなく、船医のサイラス・コードが主人公として視点を提供します。ほかに、警備を担当するラモン、地図制作担当のレイモン・デュパン、探検隊隊長はトボルスキー、器具制作担当にブリュッカー、ファン・フュフト船長と副長のヘンリー・マーガトロイド、モートロックは船員で、なぜか、女性の言語学者であるエイダ・コシルが乗船しています。探検隊は、ノルウェー沿岸のフィヨルドのどこかにある古代の巨大建築物を探しています。このあたりを通ったエウロパ号が以前に発見したのですが、その発見情報はまだ公表されていない、という設定です。デメテル号は流氷の入り江へ船首を進め、そこでエウロパ号を発見します。明らかに難破船となっており、巨大建築物を最初に発見したとされるのですが、エウロパ号が遭難したとは誰も聞いていません。ですので、デメテル号に不穏な空気が立ちこめ、中には、船長に騙されたという者まで現れます。もめている最中に、デメテル号は舵が利かぬまま前方の岸壁に迫り、コード医師は折れたマストの下敷きで亡くなってしまいます。ここからストーリーが大きく「反転」します。タイトル通りの展開です。そのあたりは読んでみてのお楽しみです。なお、私の不十分な英語力ながら、"eversion" よりも "inversion" の方が「反転」の意味でよく使うような気がします。"eversion" は、例えば、巾着袋を裏返しにするようなイメージで、一般的な「反転」は "inversion" ではないか、と思います。ただし、本書の中の会話でも、「inversion、いや eversion か?」という趣旨のセリフを見た記憶がありますので、このタイトルは作者が熟考した上で選んだのだろうと私は想像しています。ただ、ストーリーの進み方としては、むしろ、Evolution がよかった気もしないではありません。いずれにせよ、久しぶりにしっかりしたSF小説を読んだ気がします。

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