ミスター・ドーナツでまたまたポケモンゲットだぜ!
またまた、ミスター・ドーナツでポケモンゲットです。今月初めは、定番のピカチュウでしたが、今回は、見ての通りで、タマゲタケというポケモンです。No.590のきのこポケモンです。ここまで行くと、さすがの私もついていけません。直感的に、色が薄い色違いのディグダではないか、と思ってしまいました。
どうでもいいことながら、私のスマホはSonyのXperiaなのですが、タマゲタケの顔を認識しました。なかなか高性能だと実感しました。
またまた、ミスター・ドーナツでポケモンゲットです。今月初めは、定番のピカチュウでしたが、今回は、見ての通りで、タマゲタケというポケモンです。No.590のきのこポケモンです。ここまで行くと、さすがの私もついていけません。直感的に、色が薄い色違いのディグダではないか、と思ってしまいました。
どうでもいいことながら、私のスマホはSonyのXperiaなのですが、タマゲタケの顔を認識しました。なかなか高性能だと実感しました。
今週の読書感想文は以下の通りです。来年度に2回生向けの授業を何と初めて担当するので、いろいろとデータ処理系の教科書として使えそうな本を買って読んでみて、ついついたくさんの本を読むハメになってしまいました。
まず、櫻本健[編著]『経済系のための情報リテラシー』(実教出版)は、経済学部、経営学部、商学部などの大学の経済系の初学者、1年生で初めて経済学や統計学を学習する学生を読者に想定していて、大学初学年の最初のセメスターでパソコン操作やデータ処理を学ぶため教科書として書かれています。櫻本健[編著]『経済系のための経済統計分析』(実教出版)は、初学者向けの『経済系のための情報リテラシー』の続編と位置づけられています。ですので、経済学部、経営学部、商学部などの大学の経済系の初学者、1-2年生で経済学や統計学を学習する学生を読者に想定した統計情報分析の教科書です。角川総一『経済統計はウソをつく』(三和書籍)では、経済分野に限らず、データ分析をする際に見落としがちな点を投資家やアナリストの視点から取り上げています。政府統計の盲点、あるいは、意図的ではないにせよ、フェイクっぽい部分の指摘もあります。伊坂幸太郎『さよならジャバウォック』(双葉社)は、作家デビュー25周年を記念した書下ろし長編ミステリであり、ヒトの脳に寄生し本来の性格を増幅する役割を果たすジャバウォックをめぐって起こるさまざまな事件を解明・解決することになります。伊与原新『藍を継ぐ海』(新潮社)は、第172回直木賞受賞作で、5話からなる短編集であり、この作者独自の視点が示されています。人間とは、宇宙とはいわずとも、地球の中でもちっぽけな存在であり、ヒトを大きく超える自然の流れを通して、科学によって知りうる範囲の大きさを実感させられます。朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』(新潮社)は第171回芥川賞受賞作品であり、結合双生児として生まれた姉妹が主人公ですが、そもそも、父親が兄の体内に胎児として胎児内胎児として兄から遅れて1年半後に出生しています。読んでいて、自分と他人の境界について、また、生と死ついて、考えさせられます。田中世紀『なぜ男女格差はなくならないのか』(講談社現代新書)では、男女間賃金格差に対するメルカリの是正アクションをモチーフにして、男女の賃金格差に限定してさまざまな角度から問い直しています。幅広い範囲の議論ながら、差別と格差の関係に関する議論など、雑な印象を受けました。瀧浪貞子『藤原摂関家の誕生』(岩波新書)では、平安期初期の桓武天皇や平城天皇のころの皇位継承にまつわって、皇太子の地位や役割、また、有力貴族の間での合意形成などから、藤原家北家が権力を握って、古典古代の日本における摂関政治につながる端緒を的確にひも解いています。
今年2025年の新刊書読書は1~10月に261冊を読んでレビューし、11月に入って今週までに24冊、今週の8冊を加えると合計で293冊となります。今年も年間で300冊に達するのはほぼ確実と受け止めています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。
まず、櫻本健[編著]『経済系のための情報リテラシー』(実教出版)を読みました。編著者は、立教大学経済学部の准教授です。編著者以外のチャプター執筆者6人のうち半分の3人も立教大学経済学部の教授・准教授となっています。本書は、経済学部、経営学部、商学部などの大学の経済系の初学者、1年生で初めて経済学や統計学を学習する学生を読者に想定しています。大学初学年の最初のセメスターでパソコン操作やデータ処理を学ぶため教科書として書かれており、4編13講の構成となっています。冒頭第1編では、経済学や統計学ではなく、そもそも、Windows11のOSの下でOffice2021をベースにして、基本的な操作ができるように工夫されています。たぶん、Office2021をバージョンアップしたMicrosoft36にも応用できるだろうと思います。ワープロソフトのWord、表計算ソフトのExcel、プレゼンスライドを作成するPowerPointのそれぞれの基本的な操作が取りまとめられています。第2編のマクロとミクロの経済を分析する、では、企業や家計、さらに、国内総生産(GDP)などの統計データを取り上げています。第3編の利子と価格の変動を計る、では、ごく簡単な金利のシミュレーションをはじめ、価格や為替レートの変動をデータとして捉える方法を論じています。最後の第4編のデータを整理し集計する、では、政府が提供している地方データのRESASの活用も含めて、幅広いデータの活用に及んでいます。編著者の在籍している立教大学経済学部と私の勤務する立命館大学では、学生の学力的にはそれほど大きな差はないものと思いますが、私の担当する2年生向けの教科書としては、さすがに「初学者向け」を標榜する本書は少し物足りないかもしれない、と受け止めました。最後に、同じ編著者が同じ出版社から本書の続編として、1年生後期ないし2年生向けに『経済系のための経済統計分析』も出版しています。
次に、櫻本健[編著]『経済系のための経済統計分析』(実教出版)を読みました。編著者は、立教大学経済学部の准教授です。編著者以外のチャプター執筆者7人のうちの3人も立教大学経済学部の教授・准教授となっています。本書は同じ出版社、同じ編著者の初学者向けの『経済系のための情報リテラシー』の続編と位置づけられています。ですので、経済学部、経営学部、商学部などの大学の経済系の初学者、1-2年生で経済学や統計学を学習する学生を読者に想定しyた統計分析の教科書となっています。大学初学者の後期のセメスターである秋学期や2年生の最初のセメスターに向けた5編14講の構成となっています。第1編でワープロソフトやプレゼンテーション向けのスライド作成ソフトの応用的な解説をした後、第2編では経済分野への活用として、経済成長、環境指標、消費、不平等度を取り上げ、第3編では経営や会計分野への応用として、企業活動、損益分岐点分析、債権価値の変動、さらに、第4編では、人口と地域経済の分析のため、人口データ、GIS=地理情報システム、そして、なぜか、季節調整に注目しています。季節調整がどうし、この第4編で取り上げられているのかは謎でした。最後の第5編では、財政や政策の応用として、財政や社会保障とともに、そういった政策の波及効果についても考えています。繰り返しになりますが、同じ編著者の同じ出版社からの『経済系のための情報リテラシー』の続編となっており、1年生後期ないし2年生向けのテキストなのですが、両者の間に少しギャップがあるように感じます。1年生前期向けの『経済系のための情報リテラシー』はやや易し過ぎ、1年生後期ないし2年生向けの本書はやや難しい印象です。
次に、角川総一『経済統計はウソをつく』(三和書籍)を読みました。著者は、証券関係専門誌を経て、(株)金融データシステムを設立し、我が国初の投信データベースを開発・運営している、と紹介されています。本書では、経済分野に限らず、データ分析をする際に見落としがちな点を投資家やアナリストの視点から取り上げています。政府統計の盲点、あるいは、意図的ではないにせよ、フェイクっぽい部分の指摘もあります。ただ、経済データというのはかなり特殊な部分があり、それなりの注意を払う必要があることは確かです。本書では何ら言及されていませんが、通常、経済データ、特に、投資家やアナリストが注目している経済データは時系列と呼ばれるものであり、通常は定期的かつ継続的に公表されています。GDP統計は毎四半期、また、失業率や物価指数は毎月、といった公表頻度です。その意味で、本書で取り上げている中で私が注目したのは、前年比という指標の見方です。季節調整は本書ではそれほど重きを置かれていませんが、もともと、消費者物価指数(CPI)などは、季節調整値が公表されているものの、原系列の前年同月比で見るのが、ほぼほぼ世界でデフォルトになっています。ですから、本書でも指摘しているように、その1年間で動学的にどのようなパスを通ったかは無視されますし、1年前に何らかのイレギュラーな要因があった可能性も無視されます。このあたりは重要なポイントです。もうひとつは、経済データに限らず、平均値を用いた誤解があり得るケースです。本書のこの指摘ももっともです。ひとつは分布が無視されるおそれが大きいです。ですので、平均値とともに中央値など集団を代表する他の指標も見ておく必要があります。ただ、本書で章を立てて説明しているものの、実質値と名目値は、まあ、いいんではないかという気もします。最後に、大学の授業でテキストとして用いるには、少し勇気が要りそうです。
次に、伊坂幸太郎『さよならジャバウォック』(双葉社)を読みました。著者は、日本でももっとも人気のあるミステリ作家の1人です。本書はデビュー25周年を記念する書下ろし作品となっています。まず、タイトルにあるジャバウォック=Jabberwockとは、ルイス・キャロルによる『鏡の国のアリス』に登場する、というか、正しくは小説の中の書物の詩で言及されている架空の生物であり、ドラゴンのような形で挿絵に描かれたりする怪物です。はい、私の無教養をさらすと『ふしぎの国のアリス』だと思っていました。私は『ふしぎの国のアリス』は読んでいますが、『鏡の国のアリス』は読んでいません。本書では、ヒトの脳に寄生し本来の性格を増幅する役割を果たす、とされています。あらすじを考えると、主人公は夫の転勤にしたがって仙台に引越した量子であり、翔という幼稚園児の息子とともに3人で暮らしています。しかし、転勤と時を同じくして夫のDVが始まり、とうとう流れで量子は夫を殺害してしまいます。その時、量子の大学時代のサークルの後輩である桂凍朗が現れ、2人で死体を山奥まで運んで処理します。そのあたりで量子の記憶が不確かになり、絵馬と破魔矢と名乗る若い夫婦に起こされます。他方、別の流れのストーリーがあって、斗真がマネージャーをしているミュージシャンの伊藤北斎がいて、かつてSNSでの発言が炎上して活動を長らく停止していたのですが、いろいろあって、活動を再開してコンサート準備を始めます。この量子のパートと斗真のパートが、交互ではないにしても2つの流れを作り出して、もちろん、最後にはいっしょになったりするわけです。ミステリですので、あらすじは適当に切り上げますが、私の気になっているところで、本書で何度か登場する「キャンパス」は、『魔王』だったか、『モダンタイムス』だったかの播磨坂中学校に相当するんだろうか、と考えたりしました。
次に、伊与原新『藍を継ぐ海』(新潮社)を読みました。著者は、科学の視点などを基にした小説を書き続けている作家であり、私はテレビドラマ化もされた『宙わたる教室』を読んでいます。本書により第172回直木賞を受賞しています。本書は5話からなる短編集となっていて、この作者独自の視点が示されており、宇宙とはいわずとも、地球の中でも、人間とはちっぽけな存在であり、ヒトを大きく超える自然の流れを通して、科学によって知りうる範囲の大きさを実感させられます。収録順に各話ごとのあらすじは以下の通りです。すなわち、「夢化けの島」では、地質学の研究者であり、大学の助教をしている30歳過ぎの久保歩美を主人公に、山口県最北端で朝鮮半島にも近い見島を舞台に、江戸期からの伝統ある萩焼の土を探している陶芸家の三浦光平の人となりや行動を描きます。「狼犬ダイアリー」では、東京でうまくいかずに奈良県東吉野村に逃げるように移住して来て、webデザイナーをしている主人公のまひろなのですが、大家の息子の拓己が狼を見たといっていることから、狼の歴史や伝承に興味を持ち、狼という孤独な存在や協力関係の構築などに思いを馳せます。「祈りの破片」では、長崎県長与町の役場に勤める小寺が、空き家から光が漏れているという苦情を聞きつけて調査をすると、長崎への原爆投下後に収集された膨大な量の瓦、石、ガラスの破片といった謎めいた収集物をを発見します。「星隕つ駅逓」では、主人公の信吾は北海道遠軽町白滝地区で郵便局員として働いており、先代が勤めていた野知内駅逓の取壊しが決定した矢先、近くに隕石が落ちたと知って、妊娠していた信吾の妻の様子が少しおかしくなり、隕石の発見場所を偽ったりします。最後の表題作「藍を継ぐ海」では、漁師をしている祖父に引き取られて徳島県阿須町で暮らしている沙月は、浜で産卵したウミガメの卵を盗んで育てようとしますが、カナダの先住民ハイダ族の血を引く青年ティムと出会って、ウミガメと潮の流れ、遠く離れた土地と命の連鎖に思いを馳せます。
次に、朝比奈秋『サンショウウオの四十九日』(新潮社)を読みました。著者は作家であり、本書により第171回芥川賞を受賞しています。本書の主人公は、濱岸杏と濱岸瞬の姉妹なのですが、この2人の主人公は結合双生児として生まれ、瞬は誕生後5年を経過してから「発見」されます。それまでは、杏だけが両親とかの周囲に認識されていたわけです。ひとつの身体を共有しつつも、それぞれが別の意識と人格を持っているわけで、外から見れば1人だけれども、内側では2人が共存している、といった複雑な存在として描かれています。パート・パートによって2人の視点が入れ代わり、「私」と「わたし」の主語で区別されています。 実は、この姉妹の父親も双子であり、同様に、複雑な出生の経緯があります。すなわち、父親の濱岸若彦は兄の濱岸勝彦の体内に胎児、正確には、胎児内胎児としてどまっていて、兄から遅れて1年半後に出生します。兄の濱岸勝彦が病弱であったのに対して、姉妹の父親の濱岸若彦は健康に問題ありません。姉妹は、看護関係の大学を出ていますが、今は両親とは別のところに住まいし工場で働いています。そして、タイトルに関連して、姉妹の叔父である濱岸勝彦が亡くなり、その49日をめぐる時間をきっかけにして、濱岸杏と濱岸瞬の姉妹は自分たちの存在、意識、生死、片方の1人が死んだらどうなるのか、といった問題を深く考えたりします。読んでいて、自分と他人の境界は決して自明ではないとか、生きることや死ぬことについて、いろいろと考えさせられました。
次に、田中世紀『なぜ男女格差はなくならないのか』(講談社現代新書)を読みました。著者は、オランダ王国フローニンゲン大学助教授であり、ご専門は政治学や国際関係論だそうです。本書では、日本で根強く残されている男女の格差について、メルカリが2023年11月にwebサイトで明らかにした「『説明できない格差』を埋めてより良い社会にしていきたい - 男女間賃金格差に対する、メルカリが考える是正アクション」の記事をモチーフにして、男女の賃金格差に限定してさまざまな角度から問い直しています。タイトルからして経済、所得や賃金以外のさまざまな格差を論じていると期待していたのですが、その点はやや期待外れでした。男女の賃金格差だけに焦点を当てるのであれば、もっとふさわしいエコノミストを何人も私は知っています。ただ、女性に対するアファーマティブアクションとして、さまざまな場面でのクォータ制、あるいは、身近な女性専用車両に対する反対意見、副作用や社会的な分断などについて論じているところは目新しく感じました。私のようなエコノミストから考えると、まず、格差すべてが悪いというわけではありません。ただ、本人の責任範囲外の要因に基づく格差はできる限り排除すべきであり、そのもっとも大きな要因のひとつは性的な格差です。もちろん、人種や親ガチャなどもそうです。他方で、本人の努力による格差はある程度は許容される、とも考えるべきです。勉強したのでいい成績が取れて、いい学校に進学できて、いい就職先で高収入を得られる、などです。もちろん、この格差も程度問題であって、社会的に容認できないほどの大きな格差は是正されるべきといえます。もうひとつの視点は、本書でも最後の方で言及されている点であり、格差が差別に結びついているかどうかです。統計的差別は本書では言及されていませんが、差別的な何かが格差を生じている原因であれば、それは是正されるべきだと多くのエコノミストは考えていると思います。そのあたりの差別と格差の議論が本書ではややゴッチャにされているような気がして、とても幅広い範囲の議論ながら、少し雑な印象を受けました。
次に、瀧浪貞子『藤原摂関家の誕生』(岩波新書)を読みました。著者は京都女子大学の名誉教授であり、ご専門は日本古代史です。平安京や桓武天皇などに関するご著書がいくつかあって、そのあたりがご専門家という印象があります。本書では、タイトル通りに、日本の古典古代の平安期に絶大なる勢力を誇った藤原北家の摂関政治がどのように形成され、制度化され、その支配構造を固めていったのかについて歴史的に跡付けています。要するに、一言でいえば、当時は天皇の即位に3つの条件があり、第1に、天皇の即位と皇太子の立太子がセットであって、皇太子が決まっていないと即位できず、第2に、その皇太子は一定の年齢に達していることが必要で、天皇を補佐する能力があるとみなされなければならず、第3に、天皇家だけの意向では即位できず、貴族層のそれなりの広範な合意を必要とした、ということです。加えて、皇后は天皇家出身者に限定されていたようです。その上で、桓武天皇が亡くなって皇太子の平城天皇が即位する際に、平城天皇が後継として即位することは既定路線であった一方で、桓武天皇は平城天皇が皇太子を選ぶように選択を任せたにもかかわらず、なかなか選べずに、結局、藤原氏の権力を大きくさせたわけです。すなわち、平城天皇の皇太子に嵯峨天皇が立太子した際に、藤原内麻呂の次男である藤原冬嗣が東宮亮となり、その後も権力を振るった、ということです。アッサリ表現するとこうなりますが、実際のところは読んでみてのお楽しみ、ということになります。専門外の私の知る限りでも、日本の古典古代の中でも平安初期の桓武天皇から次の次の嵯峨天皇のあたりは天皇の権限が強かった時期です。でも、そのころに、藤原摂関家の勢力勃興の兆しが生じ始めていたのは興味深いところでした。私のような古典古代の歴史に興味ある向きはぜひオススメです。
本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計が、さらに、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも10月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+1.4%の増産でした。2か月連続の増産となります。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.7%増の13兆0520億円を示し、季節調整済み指数は前月から+1.6%の上昇となっています。雇用統計のヘッドラインは、失業率は前月から横ばいの2.6%、有効求人倍率は前月からやや低下して1.18倍を、それぞれ記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
鉱工業生産10月は1.4%上昇、2カ月連続プラス 自動車増産が寄与
経済産業省が28日公表した10月の鉱工業生産指数速報(2020年=100)は前月比1.4%上昇し2カ月連続のプラスとなった。自動車の増産が寄与した。ロイターがまとめた民間予測中央値の0.6%低下に反する結果となった。生産の基調判断は「一進一退」で据え置いた。
自動車工業は前月比6.6%増で0.83ポイント指数を押し上げた。普通乗用車が米国向けなどの輸出増を背景に、軽乗用車は新型車の出荷増により、それぞれ増えた。リチウムイオン電池や航空機用発動部品なども増加した。
半面、指数を押し下げた業種は電子部品・デバイス(前月比6.7%減)など。品目別では記録媒体SSD向け半導体メモリーの生産が減ったほか、コンベヤー、運搬用クレーン、印刷用紙、製紙パルプなども減少した。
企業の生産計画に基づく予測指数は、11月が前月比1.2%の低下、12月が同2.0%低下となっている。生産計画は上振れ気味となる傾向があり、これを補正した11月予測の試算値は前月比2.6%低下となった。
生産計画を上方修正した企業よりも下方修正した企業の割合が多く、企業の間では、「米関税含め先行きを懸念する声が多く、海外需要も強くない」(経産省)とみる向きも多いようだ。また、足元の日中関係悪化との関連は不明だが「レアアースなど(重要部材の)供給リスクを懸念する声」(同)があった。
小売販売額10月は前年比1.7%増、PCなど家電増・食品はマイナス
経済産業省が28日公表した10月の商業動態統計速報によると小売販売額は前年比1.7%増の13兆0520億円だった。ロイター集計の民間予測は同0.8%増でこれを上回った。パソコンや暖房器具の販売が増えた一方、食品の販売点数減少が響いた。
<飲食料品、販売点数減少でマイナス>
業種別の前年比は、家電などの機械器具が8.0%増、ドラッグストアなど医薬品・化粧品が5.1%増、自動車4.8%増など。一方、ガソリンなど燃料は3.3%減、織物・衣服1.7%減、飲食料品0.2%減だった。ウィンドウズ10のサポート終了の関連需要が続いたパソコンのほか、暖房器具、軽自動車の新型車投入効果などが寄与した。飲食料品は販売点数の減少が響き、3カ月連続のマイナスだった。
業態別の前年比では、家電大型専門店が11.0%増、ドラッグストアが6.0%増、スーパー5.5%増、百貨店4.0%増、コンビニエンスストア2.6%増、ホームセンターが0.2%増だった。
ドラッグストアはコメや調剤医薬品が伸びた。スーパーは「価格上昇が寄与したが、販売点数は減少傾向」(経産省)という。コンビニは気温低下でホットコーヒーやおでんが好調だった。
完全失業率10月は2.6%、雇用情勢底堅く 有効求人倍率は1.18倍に低下
政府が28日に発表した10月の雇用関連指標は、完全失業率が季節調整値で2.6%となり、3カ月連続で同水準だった。就業者数が女性を中心に増加しており、総務省は雇用情勢は引き続き悪くないとの見方を示している。一方、有効求人倍率は前月に比べて0.02ポイント低下の1.18倍で、2021年12月(1.17倍)以来の低い水準だった。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.20倍が見込まれていた。
総務省によると、10月の就業者数は季節調整値で6846万人と、前月に比べて12万人増加。完全失業者数(同)は185万人で、前月から4万人増加した。
女性の正規の職員・従業員数(実数)は1380万人で、比較可能な2013年1月以降で過去最多となった。担当者は、社会で女性が働く環境の整備が進んできたことも一因にあるとみている。
仕事をしておらず、探してもいない「非労働人口」に区分されていた人々が、職に就いたり仕事を探したりするようになり、労働市場のパイが拡大している。総務省の担当者は「雇用情勢は引き続き悪くない」との認識を示している。
<求人数が減少>
厚生労働省によると、有効求人数(季節調整値)は前月に比べて1.8%減少。省人化の取り組みや最低賃金の引き上げの影響などで求人を見直す動きがみられた。事業者からは求人を出しても人手が埋まらないという「求人疲れ」の声も聞かれた。
有効求職者数(同)は0.003%減少した。ほぼ横ばいの状況だが、最低賃金の引き上げに伴い、いわゆる「年収の壁」を超えないように調整する動きもみられるという。有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たりに企業から何件の求人があるかを示す。3年10カ月ぶりの低水準となったものの、引き続き1倍は上回っており、厚労省の担当者は「雇用情勢が悪化しているとはみていない」とした。
大和証券の鈴木雄大郎エコノミストはインバウンド需要に陰りがみられていることに加え、日中関係の悪化に伴い、中国からの観光客の減少が懸念されていると指摘。「人手不足感の強い宿泊業・飲食サービス業などの対個人関連サービスの業種を中心に労働需給が緩む可能性がある。こうしたことも、一段と求人を減らす要因となりうる」との見方を示している。
いくつかの統計をまとめて取り上げましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

まず、引用した記事でもロイター調査による市場の事前コンセンサスは▲0.6%の減産とありますし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも同じく▲0.6%の減産が予想されていました。いずれにせよ、実績である+1.4%の増産は市場予想からかなり上振れした印象です。特に、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのレンジ上限が+0.3%でしたので、ややプライズとして受け止められています。ただし、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。昨年2024年7月から1年余り連続の据置きです。先行きについては記事にもある通り、製造工業生産予測指数を見ると、足下の11月は補正なしで▲1.2%の減産、翌12月も▲2.0%の減産となっています。上方バイアスを除去した補正後では、足元の11月の生産は▲2.6%の減産と試算されています。
経済産業省の解説サイトによれば、10月統計における生産は、増産方向に寄与したのは自動車工業が前月比+6.6%増で+0.83%の寄与度、電気・情報通信機械工業が前月比+4.2%増で+0.35%の寄与度、輸送機械工業(除く、自動車工業)が+5.8%増で+0.17%の寄与度、などとなっています。他方、減産方向に寄与したのは、電子部品・デバイス工業が前月比▲6.7%減で▲0.42%の寄与度、汎用・業務用機械工業が▲1.8%減で▲0.13%の寄与度、パルプ・紙・紙加工品工業が前月比▲1.0%減で▲0.02%の寄与度、などとなっています。引用した鉱工業生産(IIP)に関する記事の最後のパラで、需給両面の不安要素が並べてありますが、普通乗用車が米国向け輸出で伸びていますから、本日公表の10月統計を見ている限り、米国の関税政策の影響はそれほど大きくない、ということになるのかもしれません。

続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、8月統計こそ猛暑による外出手控えなどの影響で伸びがマイナスにを記録しましたが、9月統計では+0.2%、本日公表の10月統計でも+1.7%に戻っています。引用した記事にある通り、実績の+1.7%像はロイターによる市場の事前コンセンサス+0.8%を上回っています。季節調整済み指数の前月比も+1.6%を記録しています。ただし、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断して、本日公表の10月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.3%の上昇となり、先月9月統計で下方修正した「弱含み傾向」に据え置いています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、10月統計ではヘッドライン上昇率、生鮮食品を除く総合のコアCPI上昇率ともに+3.0%となっていますので、前年同月比がプラスであるとはいえ、10月統計の実質消費はマイナスの可能性が高いと考えるべきです。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンド観光客により、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。このインバウンド消費を考え合わせると、国内消費の実態は本日の統計に示された小売業販売額のマイナス以上のマイナスとなっている可能性は考慮しておかねばなりません。

続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの統計であり影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事にもあるように、ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.20倍が見込まれていましたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、失業率が2.5%、有効求人倍率は1.20倍でした。本日公表された実績で、失業率2.6%、有効求人倍率1.18倍はともに、ロイターによる市場の事前コンセンサスを下回り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのほぼ下限といえますが、引用した記事の最初のパラにあるように、総務省統計局の見方に従って、雇用情勢は引き続き悪くなく、雇用は底堅いとの記事に仕上がっています。というのは、失業率が上昇している背景を考えると、確かに失業者数が増加していて、季節調整していない原系列の統計で見て、失業者数は8月が前年同月から+7万人増、9月+11万人増、10月13万人増となっている一方で、就業者数は8月+20万人増の後、9月+49万人増、10月も+52万人増と、ともに失業者数の増加を超えて増加しています。では何が起こっているのかというと、非労働力人口が減少しています。8月は前年同月から▲52万人減となった後、9月▲83万人減、10月も▲87万人減を記録しています。ですから、専業主婦や高齢者、だけとは限りませんが、労働市場に参入していなかった非労働力人口が労働市場に参入して、就業者と失業者ともに増加させている、というわけです。基本は、春闘における賃上げによる就業意欲が高まり、賃金上昇に伴って労働市場への参入が増加している、と考えるのが伝統的な経済学の見方であろうと思います。何といっても、失業率はまだ2%台半ばですし、有効求人倍率は1を超えています。
米国のサンフランシスコ連銀から What Is a Tariff Shock? Insights from 150 years of Tariff Policy と題するワーキングペーパーが明らかにされています。現在のトランプ大統領による関税政策を分析する一環として、連銀ですから物価などに焦点を当てた150年にわたる関税ショックを分析し、何と、世間一般でいわれているような関税の物価押上げ効果ではなく、逆に関税率の引上げが物価を沈静化させる、という結論を導いています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、論文の引用情報は次の通りです。
続いて、サンフランシスコ連銀のサイトから Abstract を引用すると次の通りです。
Abstract
In this paper we exploit 150 years of tariff policy in the US and abroad to estimate the short-run effects of tariff shocks on macro aggregates. A careful review of the major changes in US tariff policy since 1870 shows no systematic relation between the state of the cycle and the direction of the tariff changes, as partisan differences on the effects and desirability of tariffs led to opposite policy responses to similar economic conditions. Exploiting this quasi-random nature of tariff variations, we find that a tariff hike raises unemployment (lowers economic activity) and lowers inflation. Using only tariff changes driven by long-run considerations-a traditional narrative identification-gives similar results. We also obtain similar results if we restrict the sample to the modern post World War II period or if we use independent variation from other countries (France and the UK). These findings point towards tariff shocks acting through an aggregate demand channel.
要するに、11月15日付けの Fortune 記事 "Fed researchers say tariffs actually lower inflation - because they're demand shocks that slam employment and economic activity" で報じられているように、関税が需要ショックとなって雇用と経済活動を停滞させるからインフレが抑制される、ということです。リポート p.13 にある Figure 4: Tariff changes and the economy, United States を引用すると次の通りです。
左の列の2つのグラフが、関税ショックの当該年と翌年のインフレへの影響、右の列は同じく失業率への影響となっています。グラフから明らかなように、関税ショックによりインフレ率は低下し、失業率は上昇する、というわけです。にわかには肯定し難い気もしますが、150年の期間のエピソードにはいろいろあって、スムート-ホーリー関税法=Smoot-Hawley Tariff Actも含まれているわけで、ひょっとしたら、そうなのかもしれないと思わないでもないのですが、まさか、米国連邦準備制度理事会(FED)の一翼を担うサンフランシスコ連銀が関税率引上げを肯定するかのような分析結果を出すとは思いもしませんでした。
本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月8月の+2.7%から、9月は+3.0%と4か月ぶりにふたたび+3%台を記録しています。ただ、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIの上昇率は+2.9%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
企業向けサービス価格10月は+2.7%、日中関係悪化で懸念の声も
日銀が26日に公表した10月の企業向けサービス価格指数(速報)は、前年比2.7%上昇し、伸び率は前月の3.1%を下回った。昨年10月の値上げの反動で、郵便・信書便の上昇率が大幅に縮小したことが要因。前月比では0.6%上昇した。
高市早苗首相の存立危機事態を巡る発言で日中関係が急速に悪化し、調査対象先からは今後宿泊キャンセルが出ることへの懸念の声が出ており、日銀担当者は宿泊サービスの価格動向を注目点に挙げた。
内訳では「運輸・郵便」が2.0%上昇で、前月の3.6%上昇を下回った。このうち、郵便・信書便は前年比変わらずとなり、前月の24.5%上昇から失速した。このほか、外航貨物輸送は4.1%下落で前月の4.0%上昇から下落に転じた。外航貨物輸送(除く外航タンカー)では、運賃に含まれる燃料油価格が上昇した前年同月の反動が見られた。
一方で、「諸サービス」のうち、宿泊サービスは18.1%上昇と、伸び率は前月の11.1%を上回った。大阪・関西万博の閉幕直前で駆け込み需要が高まるもとで、インバウンド需要の増勢が再び強まってきている。
日銀担当者は今後の注目点として、中国人旅行客の減少が、宿泊サービスなどインバウンド需要の増勢を受けてこれまで力強い伸びを示してきたサービス価格に及ぼす影響を挙げた。現時点でデータとして具体的に出てきているわけではないが「調査先からは、この先キャンセルが出てくるのではないかと懸念する声が聞かれている」という。11月速報、12月速報で影響が出てくる可能性があり、注視していきたいとしている。
調査対象146品目のうち、上昇は109、下落は20でその差は89。前月の98より少なかった。
生産額に占める人件費投入比率の違いで分類した指数では、「高人件費率サービス」が3.0%上昇と前月の3.4%上昇を下回った。郵便・信書便の伸び率大幅縮小が要因。半面で、「低人件費率サービス」は2.4%上昇で伸び率は前月と変わらなかった。
注目の物価指標だけに、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、今年2025年6月統計で+2%台に減速し、6~10月の5か月連続で+2%台を記録しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてコンスタントに上昇を続けている一方で、今年2025年年央までは国内企業物価指数ほど上昇率が大きくなかったのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、PPI国内物価と同様に6~8月統計で3か月連続で+2%台後半となった後、9月統計で再び+3%に上昇率が加速した後、本日公表の10月統計では+2.7%を記録しています。まだ、日銀物価目標の+2%を大きく上回って高止まりしています。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なるものの、+3%前後の高い上昇率はデフレに慣れきった国民や企業の意識からすれば、かなり高い物価上昇と映っている可能性が大きいと考えるべきです。人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率のサービス価格であっても+2%超の上昇率を示しており、高人件費率のサービスでは+3%台の上昇率となっています。すなわち、人件費をはじめとして幅広くコストアップが価格に転嫁されている印象です。その意味では、政府や日銀のいう物価と賃金の好循環が実現しているともいえますが、実態としては、物価上昇が賃金上昇を上回っており、国民生活が実質ベースで苦しくなっているのは事実と考えざるをえません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて本日公表された10月統計のヘッドラインSPPI上昇率+2.7%への寄与度で見ると、宿泊サービスや土木建築サービスや建物サービスといった諸サービスが+1.35%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率のほぼ半部を占めています。加えて、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスなどといった情報通信が+0.65%、さらに、道路貨物輸や国内航空旅客輸送や旅行サービスなどの運輸・郵便が+0.33%、ほかに、不動産+0.24%、リース・レンタルが+0.08%、金融・保険が+0.05%などとなっています。
先行きの企業向けサービス価格について考えると、引用した記事の5パラ目にあるように、中国人旅行客の減少がもし大きくなれば、宿泊サービスをはじめとしたサービス価格にも影響が出る可能性は否定できません。
全米経済研究所(NBER)から "The Economic Impact of Brexit" と題するワーキングペーパーが報告されています。タイトル通りに、英国のEU離脱=BREXITが英国経済に及ぼした影響を分析しています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、論文の引用情報は次の通りです。
続いて、NBERのサイトからABSTRACTを引用すると次の通りです。
ABSTRACT
This paper examines the impact of the UK's decision to leave the European Union (Brexit) in 2016. Using almost a decade of data since the referendum, we combine simulations based on macro data with estimates derived from micro data collected through our Decision Maker Panel survey. These estimates suggest that by 2025, Brexit had reduced UK GDP by 6% to 8%, with the impact accumulating gradually over time. We estimate that investment was reduced by between 12% and 18%, employment by 3% to 4% and productivity by 3% to 4%. These large negative impacts reflect a combination of elevated uncertainty, reduced demand, diverted management time, and increased misallocation of resources from a protracted Brexit process. Comparing these with contemporary forecasts - providing a rare macro example to complement the burgeoning micro-literature of social science predictions - shows that these forecasts were accurate over a 5-year horizon, but they underestimated the impact over a decade.
当然のことながら、BRXITは英国経済にマイナスの影響を及ぼしたわけで、リポートから Figure 8: Estimated impact of Brexit を引用すると次の通りです。
見れば判りますが、左上がGDP、右上が投資、左下が雇用、右下が生産性、のそれぞれに対するBREXITの影響をミクロとマクロで推計しています。繰り返しになりますが、BRXITは英国経済にマイナスの影響を及ぼしたわけで、方向は明らかなのですが、それを経済指標ごとに定量的に把握する点にこの論文の価値があると考えるべきです。加えて、英国の多くの有権者は、BREXITが英国経済にマイナスに影響があることは十分に理解していたと私は考えますが、そういった経済的な損失を上回る何らかの利得があると考える人が多かったのが、投票結果につながったのだろうと理解すべきです。
11月15日に帝国データバンクから「2026年正月シーズンおせち料理価格調査」の結果が明らかにされています。コメをはじめとして食料品価格の高騰が続く中、全国の大手コンビニエンスストア・百貨店・スーパー・外食チェーン・日本料理店などのうち、前年と価格が比較可能なおせち料理を対象に調査を行っています。比較対象は110社・ブランドであり、標準的な三段重、または3~4人前サイズの税込価格となっています。まず、帝国データバンクのサイトからSUMMARYを引用すると次の通りです。
SUMMARY
2026年正月のおせち料理の平均価格は2万9098円(税込)となり、前年に比べて1054円・3.8%の値上げとなった。原材料価格の高騰や包装資材、配送費用の上昇など、物価高の影響を受けて多くのおせちが値上げを余儀なくされた。1000~2000円の小幅な値上げにとどめた商品が多かった一方で、高級志向のおせちでは、食材のグレードアップに伴い大幅な値上げがみられるなど、価格の二極化が進んでいる。
ということで、2026年正月の平均価格は税込みで2万9098円となり、前年の2万8044円に比べて+1054円、率にして+3.8%の値上げです。3年ぶりに値上げ幅が1000円を超えて、いよいよ、おせちのブリュームゾーンである「3万円の壁」が近づいていると帝国データバンクでは指摘しています。もっとも、質の向上や限定感で高価格をめざすプレミアムおせちが3万円を超える一方で、大容量やコスパを打ち出すおせちも少なくなく、二極化が広がる可能性も指摘しています。下のグラフは帝国データバンクのサイトから おせち料理 平均価格推移 を引用しています。
もちろん、こういったおせちの値上げは食料品価格の上昇や人件費の高騰などのコストアップに起因する部分がかなりあります。ですから、前年まで価格高騰が続いた輸入サーモン類のほか、太平洋での漁獲枠が拡大し漁獲量が増えたことで値下がりが続いたマグロ類などの価格上昇圧力が弱まる兆し見られた一方で、「子孫繁栄」の願いが込められるイクラは、秋鮭の記録的な不漁などを受けて価格が急騰しているほか、数の子でも海外産を中心に円安や加工地での人件費上昇といったコスト高を受けて値上がりが続いていて、魚介類以外にも、猛暑の影響で不作が続く黒豆類、鶏卵などで大幅な値上げが見込まれる、と帝国データバンクでは指摘しています。下の画像は帝国データバンクのサイトから おせち料理の原材料価格動向 を引用しています。
さて、ひと月あまり後に控える今年のお正月はどうなりますことやら?
びわこ文化公園の紅葉です。
この園内に県立美術館や図書館があるのですが、思いっ切り不便な立地です。ですので、三連休でも人出はそう多くありません。しかも、私の場合は自転車でアクセスするのですが、帰り道に県道なのに側溝があって怖いです。まあ、このあたりの人は自動車で行くんでしょうね。
今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、D. ヒュー・ウィッタカー『新しい日本のつくり方』(東洋経済)では、人口減少と高齢化が進み成熟した日本経済について、現在の停滞を突破し変化する方向性について、金融化、コミュニタリアン、新たな開発国家、の3つを示していますが、「絵に描いた餅」になる可能性も私は感じました。山本英弘[編著]『現代日本の政治的不平等』(明石書店)では、政治参加の不平等と政治代表の不平等に着目し、2020年から何度かのウェブ調査や郵送調査を繰り返しており、とてもサンプル数が小さいので代表性に難点がありそうな気もしますが、それでも大胆に定量的な分析を試みています。恩田陸『珈琲怪談』(幻冬舎)では、中年男性4人、すなわち、音楽プロデューサーの塚崎多聞、作曲家の尾上、外科医の水島、検事の黒田が、京都、大阪、神戸といった関西に加えて、東京や横浜を回って怪談を持ち寄り、仕事上が行き詰まった際にインスピレーションを与えられたりしています。藤岡陽子『僕たちは我慢している』(COMPASS)では、東京にある全国屈指の進学校、男子単学で中央6年間一貫制の進学校の野球部を舞台に、同級生だけでなく、部活の先輩後輩も含めた仲間との友情、家庭における親との微妙な関係、成長期にある個人としての大人への道のりや成長、などが感じられます。菊池正史『自壊する保守』(講談社現代新書)では、戦後政治を吉田内閣から歴史的に振り返り、いわゆる吉田ドクトリンとして語られる対米依存の強い「軽武装と経済重視」であった宏池会こそが保守本流と指摘し、「反戦意識」も含めて、安倍内閣から保守が自壊したと捉えているようです。田所昌幸『世界秩序』(中公新書)では、グローバリゼーションをさらに進めた世界の統合について考え、4条件を示しています。すなわち、構造、権力、制度、文化や規範、であり、将来のシナリオを4つ示すとともに、最後に、仲間を増やして敵を減らし、自立しつつ生き残る日本を模索しています。
今年2025年の新刊書読書は1~10月に261冊を読んでレビューし、11月に入って先週までの18冊と今週の6冊を加えて合計285冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などのSNSでシェアしたいと予定しています。
まず、D. ヒュー・ウィッタカー『新しい日本のつくり方』(東洋経済)を読みました。著者は、英国オックスフォード大学日産現代日本研究所の教授です。本書の眼目として、人口減少と高齢化が進み、成熟しきった日本経済について、現在の停滞を突破し変化する方向性を示そうと試みています。その方向性は3つあり、金融化、コミュニタリアン、新たな開発国家、となります。歴史的に戦後日本経済を振り返り、企業と政府と社会が相互補完的に発展を目指す日本型システムが存在したことを確認しつつ、バブル経済の崩壊とも時期的に一致した1990年代からのグローバル化の進展や人口減少に転じる時期なども重なって、日本経済が停滞に陥った事実を明らかにします。その上で、デジタル化やグリーン化の方向性を考え、人口減少下でのスマートシティなどの地域経済を取り上げ、企業構造を論じます。私が印象的であったのは、日本では米国タイプのスタートアップ企業による創造的破壊ではなく、有機体的な形での代謝的刷新に基づくイノベーションが有効、という点です。確かに、その昔は、画期的な新製品を生み出すプロダクト・イノベーションよりも、日本はプロセス・イノベーションの方に優位性がある、といわれていたこともあり、何となく理解できる点だと感じました。また、企業ガバナンスも新自由主義的な株主優位ではなく、ステークホルダー資本主義のいいところを伸ばす方が確実性が高い、との指摘は私も同じように感じています。ただ、雇用については、戦後日本経済の大きな特徴のひとつである安定した雇用、例えば、長期雇用と年功賃金を見直す必要を論じており、私としてはやや疑問に感じます。企業金融でのメインバンク制の崩壊と雇用の安定性の喪失が日本経済の長期低迷につながり、まさにそれが新自由主義的な経済システムへの移行の本質であった、と私は考えています。最後に、本書では、やや小難しいところながら、コントロールされた不均衡を持ち出し、諸制度が米国的な置換えや消耗ではなく、日本では積重ねと切換えのプロセスをたどる、と指摘しています。この指摘と雇用の安定性の見直しとは明らかに矛盾しています。最後に、本書では岸田内閣当時の「ソサエティ5.0」を高く評価しており、それはそれで理解できるのですが、このままではまさに「絵に描いた餅」状態なわけで、政府や経営者団体が方向性を示すことができるのと実際に実行されるのでは大きな差があることを実感します。私の実体験としても、15年ほど前に長崎大学経済学部教授をしていたころ、長崎経済同友会で組織した都市経営戦略策定会議に参加して「みんなでつくろう元気な長崎」という提言を取りまとめたことがあります。しかしながら、その後、長崎経済が元気になったというお話は、不勉強にして聞き及んでいません。
次に、山本英弘[編著]『現代日本の政治的不平等』(明石書店)を読みました。編著者は、筑波大学人文社会系教授です。編著者以外の各チャプターの著者も筑波大学人文社会系の教員や出身者が多くを占めている印象です。タイトル通りに、政治的不平等をテーマにしている本書は2部構成となっていて、第1部で政治参加の不平等、第2部で政治代表の不平等をそれぞれ取り上げています。本書の特徴としては、何度かのウェブ調査や郵送調査を2020年から繰り返しており、とてもサンプル数が小さいので代表性に難点がありそうな気もしますが、それでも大胆に定量的な分析を試みている点です。私はエコノミストですが、経済的な不平等、例えば、所得の不平等と政治的な参加や代表の不平等は、お互いに密接に関係していることは明らかであり、互いに原因や結果になってグルグルと回っているように考えています。ですので、一方的な因果関係を考えることはそれほど意味ないと感じています。経済的な不平等は貧困とともに国民生活を直撃しており、ひどい場合には生活が成り立たないケースも見受けられる一方で、政治的な不平等は国民の間での分断を引き起こしかねない危うさがあります。すなわち、国民は生産や消費といった経済活動に何らかの形で関わっている一方で、政治的には安定した民主主義社会が運営されているように見えて、実は、参加や代表といった政治へのアクセスが、政治的な無関心にも支えられる形で、ごく限られた一部の国民だけに集中し始めているように見えます。本書でも年代別の投票率の差が大きい点を指摘していますし、若年層や低所得者層は政治的にある意味で不利な立場に置かれている、それも、自己責任が主張される各個人の自由な選択の下で、そういった不平等なシステムが大きな抵抗も受け入れられていくように見えます。私が興味深かったもうひとつの点は、こういっ政治的な不平等が政治プロセスの結果として生み出される政策にどのように反映されるか、という点です。政治的に無関心で投票にも行かないと、政策的に不利な影響を受けかねないわけで、その点を鋭く突いているのが「日本人ファースト」というスローガンだと私は考えています。そして、繰り返しになりますが、単純で一方的な因果関係ではなく、年齢や所得などのグループで政治的な不平等をこうむっている国民が、結局のところ、政策面でも不利な立場に置かれる危険があると考えるべきです。高齢者には手厚い社会保障も、子育てや家族には冷たい印象がありますし、政治参加の差が政策の不平等につながり、場合によっては、それらが悪循環を形成するおそれすらあります。政治的な不平等は経済的な、例えば、所得の不平等などと違って定量的に把握しにくく、いわば見えない不平等がある可能性も高いわけですから、本書のような定量的な分析が必要になる、と私は強く感じました。
次に、恩田陸『珈琲怪談』(幻冬舎)を読みました。著者は、ミステリなどのエンタメ小説の作家です。2016年に『蜜蜂と遠雷』で直木賞を受賞しています。本書は、塚崎多聞のシリーズらしいのですが、私は不勉強にしてよく判っていません。登場人物は中年男性4人であり、主人公的な役割をしているのが塚崎多聞であり、音楽プロデューサーをしています。ほかの3人は、作曲家の尾上、外科医の水島、検事の黒田、となります。時折、黒田が欠けたりするんですが、この4人で各地を回って怪談を持ち寄ります。全国各地とはいえ、6話からなる連作短編集となっている本書では、順に、京都、横浜、東京、神戸、大阪、そしてふたたび京都、となります。東海道新幹線のほぼ両端、ということになるわけです。あらすじも何もなく、タイトルも番号になっていますので、季節と繰り返しになる場所は、「珈琲怪談Ⅰ」が真夏の京都なのですが、黒田は欠席しています。それから数か月後の「珈琲怪談Ⅱ」が寒風吹きすさぶ横浜、その次のゴールデンウィーク明けの「珈琲怪談Ⅲ」が東京の神田神保町、「珈琲怪談Ⅳ」は深まる秋の小春日和の神戸で、それから間をおかずに、「珈琲怪談Ⅴ」は大阪の梅田や中之島、そして、最後に、「珈琲怪談Ⅵ」では晩秋の京都、となります。一応、基本は珈琲怪談なのですが、コーヒーではなくビールを飲んで麦酒怪談になったり、最後の京都御所近くの老舗和菓子店の喫茶室では抹茶怪談になったりします。怪談はとりとめのないものですが、尾上の創作活動が行き詰まった際にインスピレーションを与えてくれたり、あるいは、黒田が難事件を解決するきっかけになったりします。このイベントのきっかけがそもそも尾上の気分転換から始まっているようです。それぞれ、生々しく現実的なものから、しばしば「これは怪談ではないかもしれないが...」で始まる怪談もどき、あるいは、はっきりしたオチのないお話など、さまざまです。ただ、怪談自体はほぼ実話であり、作者が体験したものであったり、人から聞いたものであったりする、とあとがきに記されています。同時に、立ち寄るお店もモデルがあるということです。怪談を楽しむ、というよりも、気のおけない間柄が想像される登場人物4人の軽妙なおしゃべりの語り口の方が楽しめるような気がします。
次に、藤岡陽子『僕たちは我慢している』(COMPASS)を読みました。著者は、小説家です。本書は、昨年2024年に旗揚げした文藝復興の出版を目指すCOMPASS社の記念すべき第1弾です。舞台は東京なのですが、全国でも有数の進学校、中高一貫校の征和学院高校の野球部を舞台にしています。東京の山手線の新橋から20分ほど北ということですし、巣鴨や麻布と並ぶご三家の一角だそうですから、明らかに、開成をモデルにしています。関西の進学校として灘にも言及されています。ほかに、女子校の雙葉や桜蔭なども登場しますので、「征和学院高校」以外の高校はほぼほぼ実名だったりします。もちろん、東大・京大をはじめ大学名はすべて実名だと思います。ということで、主要な登場人物は生徒が4人と教師が1人で、まず、千原道人は中学のころは野球部のエースピッチャーでしたが、高校では部活を辞めて勉強に専念します。中小企業経営の父は白血病で入退院を繰り返して健康がすぐれません。穂高英信も野球部員で、曽祖父の代から続く総合病院の院長と小児科医の父母のもとに生まれ、弟も同じ征和学院高校に通う秀才ながら、兄として跡継ぎとなることを期待されています。中森輝一は高校でエースとなり野球部のキャプテンも務めましたが、3年生最後の夏の地方大会を終えて部活を2年生に引き継いだ後、受験勉強に身が入りません。香坂淳平は野球部ではありませんが、これら3人と深く関わりを持ちます。中学から学年400人のトップの成績を維持しています。クラス担任の関先生は数学の教師で、生徒たちの悩みに応えたり、重要な役割を果たします。我が家では、私自身が関西ではそこそこのレベルの中高一貫の男子進学校に通っていましたし、男の子2人は東京でやっぱり中高一貫の男子進学校に通っていましたので、何となくこの小説の雰囲気は理解できます。ただ、本書では4人とも家の跡取りを期待されているのですが、私の場合は父が完全なワーキングクラスでデスクワークなんかほとんど経験もなく、私にはホワイトカラー職についてくれればそれでいい、という感じでしたし、私は国家公務員でしたので、子どもたちが後を継ぐような家業というものがありませんでした。本書では、病気の父親に役立つことをしようとしたり、部活を熱心にやるあまり受験勉強が少し後回しになったり、実に私や子どもたちの世界の出来事になぞらえる事のできる世界観を感じます。また、思春期の難しい時期で、かつ、地理的にもほかの意味でも、一気に世界が広がる年代ですから、同性の男の間での友情などなど、同級生だけでなく、部活の先輩後輩も含めた中学と高校の仲間との友情、家庭における親との微妙な関係、そして、何よりも成長期にある個人としての大人への道のりや成長、そういったものが強く感じられ、今だけでなく将来をいいもの、豊かな方向として捉えられ、大学受験という大きな転機を乗り越え、先に進む意欲を感じる良い小説でした。はい、最後の最後に、こういった我慢する高校時代を経て、私なんぞが教えている大学に入るわけですので、大学ではもっとのびのびと過ごして欲しいと思います。
次に、菊池正史『自壊する保守』(講談社現代新書)を読みました。著者は、日本テレビの政治部のジャーナリストであり、2005年から総理官邸にある記者クラブのキャップも経験しています。最近、裁判が始まった安倍元総理の暗殺事件から3年を経て、今年2025年は東京都議選で「手取りを増やす」をスローガンにした国民民主党が得票を伸ばし、参議院選では「日本人ファースト」を掲げた参政党が躍進しましたし、自民党の総裁選の結果を受けて、政治とカネの問題から公明党が連立与党から離脱し、日本維新の会が連立に加わった、というあたりの政治情勢はまだ記憶に新しいところです。自民党を中心とする連立与党が大きく変容するとともに、参政党という右派ポピュリズム政党の一定の力を持つに至っています。そういった現在の政治情勢を本書では、タイトル通りの「自壊する保守」と考え、さまざまな角度から分析を試みています。その前提に、実に2020年9月まで7年9か月に渡って一強政権を作り上げた安倍内閣を対象に、保守の岩盤支持層の役割を重視しています。現在の高市内閣にもこの岩盤支持層が戻ってきているという報道もあるだけに、この考えは高市政権の将来を考える上にも必要な視点であろうと私は考えています。ただ、その安倍内閣が政権を下りた後、菅内閣は短命でしたし、岸田内閣こそ3年続きましたが、その後の石破内閣も1年という短命でした。本書では、日本の保守政権が長らく継続してきたのは「バラマキポピュリズム」に依拠する部分が小さくなく、その負の遺産が政治とカネという形で表面化し、国民の批判にさらされてきたと指摘しています。そのうえで、戦後政治を吉田内閣から歴史的に振り返り、いわゆる吉田ドクトリンとして語られる対米依存の強い「軽武装と経済重視」であった宏池会こそが保守本流と指摘します。これに関連して、本書では「反戦意識」も重視されています。ですので、岸内閣での安保改定は保守本流ではない内閣での典型のひとつとして取り上げられ、逆に、田中内閣での日本列島改造こそバラマキの保守本流として位置づけられています。21世紀に入って、小泉内閣からの新自由主義的な経済政策が「右派ポピュリズム」台頭の兆しと指摘し、そのあたりから「軽武装と経済重視」を旨とする保守本流の崩壊が始まるという分析です。2009年の政権交代による民主党政権時代が左派ポピュリズムかどうかは別にして、安倍内閣は2つのポピュリズム、すなわち、従来のバラマキポピュリズム、さらに、戦前回帰も想起させかねない保守的なイデオロギーに根ざした右派ポピュリズム、に支えられて来たと主張します。保守本流ではないわけです。その上、これまた、この両方のポピュリズムとも現在の高市内閣に引き継がれている感があります。特に、経済重視ではなく軍事費のGDP比2%を目指す現在の高市内閣は、本書の視点からして、保守の自壊を進めているのだろうと私は考えています。
次に、田所昌幸『世界秩序』(中公新書)を読みました。著者は、防衛大学校教授を経て、長らく慶応義塾大学教授を務め、現在は名誉教授となっています。本書は、副題にあるようにグローバル化を考え、その先の世界統合を考えています。ただ、本書冒頭では国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ専務理事の論文を引きつつ、2008-21年あたりからグローバリゼ^ションの逆転が起こっている可能性も指摘しています。その上で、本書ではグローバル化、あるいは、世界の統合の4条件を示しています。すなわち、、(1) 技術や自然環境などの構造、(2) 国家などの権力基盤、(3) 国際法や通貨制度といった共通ルールとしての制度、(4) 文化や規範、例えば、共通の価値観や宗教など、となります。そして、古典古代のローマ帝国から停滞の中世ヨーロッパを経て、世界を制覇したモンゴル帝国など、近代にいたる前近代の広域秩序の拡大・統合、そして、その後の分解のダイナミクスをたどりますが、何といっても詳しい考察の対象となるのは近代に入ってからの大英帝国と米国です。大英帝はやや軽めに取り上げられ、約100年前の第1次世界対戦後、世界の覇権を握り、帝国となったのは米国こそが中心となる対象です。すなわち、第2次世界大戦後、米国は戦勝国として、国際経済や安全保障や文化などでさまざまな国際制度を構築し、自由民主主義と市場経済を軸に世界を統合しました。しかし、そのグローバル秩序は21世紀に入って限界に近づき、テロの挑戦を受けたり、リベラリズムの理想と現実の矛盾も浮き彫りになる、と指摘しています。そして、広く知られている通り、トランプ政権の登場となるわけです。その上で、世界秩序としては4つの将来シナリオを提示します。(1) 1つの世界では再グローバル化、(2) 3つの世界では米中の新しい冷戦の世界とグローバルサウスからなる3つの世界、(3) 多数の世界では再近代化のような各地域ごとの秩序が近代国家ベースで分散する世界、(4) 無数の世界になってしまうと新しい中世となる可能性すらあります。そして、最後には、日本について考えます。すでに日本は大国ではなくなり、もちろん、小国でもないわけですので、どのようにして仲間を増やし、敵を少なくしていくか、そして、いかに自立して生き残るか、を戦略的に考える必要があると指摘します。もちろん、日本が生き残るために必要となる国家アイデンティティや外交ビジョンなどに示唆に富む方向性が示されていますが、そのあたりは読んでみてのお楽しみです。
本日、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI) が、また、財務省から貿易統計が、それぞれ公表されています。いずれも10月の統計です。CPIについては、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+2.9%からやや加速して+3.0%を記録しています。日銀物価目標の+2%に比べてかなり大きなインフレが続いています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から42か月、すなわち、3年半続いています。ヘッドライン上昇率も3.0%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+3.1%と高止まりしています。また、貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.6%増の9兆7663億円に対して、輸入額も+0.7%増の9兆9981億円、差引き貿易収支は▲2318億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
消費者物価指数、10月3.0%上昇 2カ月連続で伸び拡大
総務省が21日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が112.1となり、前年同月と比べて3.0%上昇した。2カ月連続で上昇率が拡大した。伸び率が3%台になったのは7月以来3カ月ぶりだ。
生鮮食品を除く総合指数の上昇は50カ月連続となった。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は3.0%の上昇だった。
エネルギー価格は2.1%上昇し、2カ月連続のプラスだった。電気代は3.5%、都市ガス代は1.3%上昇した。政府による電気・ガス料金の補助の規模が前年実施した「酷暑乗り切り緊急支援」より小さかった反動を受けた。
生鮮食品を除く食料は7.2%上昇した。価格の上昇が続くものの、伸び率は3カ月連続で縮小した。コメ類の上昇率は40.2%だった。前年同月に比べた伸びの縮小が続き、生鮮食品を除く食料の上昇率を押し下げている。備蓄米は集計の対象外で、コシヒカリなど銘柄米の値動きを調べている。
原材料価格の高騰でチョコレートが36.9%上昇した。昨秋からの鳥インフルエンザの影響による供給不足で鶏卵も13.6%上昇し高い伸びが続く。
インバウンド(訪日外国人)の増加などによる需要拡大で宿泊料は8.5%上昇した。
10月の対米輸出3.1%減、自動車7.5%減 下落幅は縮小
財務省が21日発表した10月の貿易統計速報によると、米国向けの輸出額は1兆7540億円となり前年同月に比べて3.1%減った。減少は7カ月連続となる。減少率は5月から9月まで5カ月連続で10%を超えていたのと比べると、小幅にとどまった。
トランプ米政権の関税政策が影響し、自動車の対米輸出の落ち込みが続いている。
米国向けの自動車輸出額は7.5%減の4607億円で、台数ベースでは0.9%減の11万9028台となった。輸出額の落ち込み幅が10%を下回ったのは4月以来で6カ月ぶりとなる。
トランプ米政権が発動した自動車関税は、9月16日に27.5%から15%に引き下げられた。対米輸出を下押しする影響が薄れてきた可能性がある。
全世界に対しての輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2318億円の赤字だった。赤字は4カ月連続となる。
輸出額は3.6%増の9兆7663億円だった。欧州連合(EU)やアジア向けが伸びた。半導体などの電子部品や原動機がけん引した。
輸入は0.7%増の9兆9981億円だった。米国からの航空機関連が伸びた。
何といっても、消費者物価指数(CPI)は現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やや長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+3.0%ということでした。実績の+3.0%とジャストミートしたということのようです。また、エネルギー関連の価格については、引用した記事にもある通り、「電気・ガス料金負担軽減支援事業」による補助は9月いっぱいで終了しましたが、今年は昨年に比べて反動が小さいようです。加えて、「燃料油価格定額引下げ措置」によるガソリンなどの価格の引下げについては、11月中旬から実施ですので、本日公表の10月統計には反映されていないようです。ということで、品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率である+3.0%に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、繰り返しになりますが、政府補助金などによりエネルギーの寄与度は前月9月統計からプラスに転じています。ヘッドラインCPI上昇率に対するエネルギーの寄与度は前月の9月統計の+0.17%に対して、10月は+0.16%となっています。したがって、いわゆる寄与度差は+0.01%しかありません。ヘッドライン上昇率で見て、9月統計から10月統計にかけて+0.1%ポイントの上昇率の加速があったわけですが、エネルギーの寄与は小さいといえます。CPI総合の前年同月比上昇率の+3.0%へのエネルギーの寄与も+0.16%にとどまっています。逆にいえば、エネルギーを除く物価が上昇している、と考えるべきです。例えば、生鮮食品を除く食料価格の上昇は引き続き大きく、前年同月比で+7.2%、寄与度で+1.74%に上ります。CPI総合の上昇率である+3.0%の半分以上が食料というわけです。特に、食料の中で上昇率が大きいのはコメであり、生鮮食品を除く食料の寄与度+1.74%のうち、コシヒカリを除くうるち米だけで寄与度は+0.22%に達しています。引用した記事とは少し分類が異なりますが、上昇率は前年同月比で+39.6%ですから、一時のピークは超えた可能性がありますが、まだまだきわめて高い上昇率と考えるべきです。コメが値上げされれば、当然に、おにぎりやすしの価格も上がります。ただ、消費者物価の全体、というか平均として上昇率としてはまだ日銀の物価目標である+2%を超えているものの、物価上昇がピークアウトしつつある可能性もあります。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+7.2%、寄与度+1.74%に上ります。その食料の中で、これも繰り返しになりますが、コシヒカリを除くうるち米が大きく値上がりしていて、寄与度も+0.22%あります。新米が出回り始めたとはいえ、銘柄米はまだまだ高止まりしています。消費者物価指数(CPI)は継続性を重視して、品目指定で価格を調べているので、引用した記事にあるように、安価な備蓄米などはCPIには組み入れられていません。うるち米を含む穀類全体の上昇率は+16.8%、寄与度は+0.43%に上ります。コメ価格の推移は下のグラフの通りです。主食のコメに加えて、カカオショックとも呼ばれたチョコレートなどの菓子類も上昇率+12.2%、寄与度+0.33%に上っています。特に、その中でも、チョコレートは上昇率+50.9%、寄与度0.19%に達しています。コメ値上がりの余波を受けたおにぎりなどの調理食品が上昇率+6.5%、寄与度+0.25%、調理食品の中でもおにぎりが上昇率+16.4%、寄与度0.03%に上っています。同様に、すしなどの外食も上昇率+4.3%、寄与度+0.20%を示しています。ほかの食料でも、ブラジルの天候不良による需給逼迫のため、コーヒー豆などの飲料も上昇率+8.7%、寄与度0.15%、乳卵類も上昇率+7.8%、寄与度+0.11%、鶏肉などの肉類が上昇率+3.7%、寄与度+0.10%、などなどと書き出せばキリがないほどです。食料はエネルギーとともに国民生活に欠かせない基礎的な財であり、実効ある物価対策とともに、価格上昇を上回る賃上げや最低賃金の大幅な引上げを期待しています。

続いて、貿易統計のグラフは上の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲3000億円ほどの貿易赤字が見込まれていたところ、実績の▲2318億円の赤字はやや上振れした印象です。予測レンジ内でしたので、大きなサプライズはありませんでした。季節調整済みの系列でも、10月はわずかに▲40億円ほどの赤字にとどまっています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた1950-60年代の高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。すなわち、引用した記事のタイトルのようにトランプ関税で日本の輸出が減少して貿易収支が赤字の方向に振れることではなく、貿易を含めた資源配分の最適化ができなくなってしまう点が問題と考えるべきです。
本日公表された10月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで▲4.3%減ながら、金額ベースで▲9.1%減となっています。石油価格が低迷している商品市況を反映しています。さらに、エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+7.0%増となっていて、輸入総額の前年同月比伸び率+0.7%増を上回って推移しています。ただ、食料品のうちの穀物類は数量ベースで▲1.7%減、ただし、金額ベースでは+0.8%増となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで▲35.5%の大幅減、金額ベースでも▲3.1%減を記録しています。なぜか食料品ではなく原料品に分類されている大豆は、重量ベースで+37.3%増、金額ベースでも+29.6%像を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が引用した記事でも注目されていますが、世界全体では金額ベースで+0.4%増となったものの、米国向けは▲7.5%減となっています。米国向け自動車輸出における数量ベースは、わずかに▲0.9%減なのですが、金額ベースでは▲7.5%減となっているのは、明らかに、日本のメーカーあるいは輸出商社の方で関税を相殺するような価格設定により、販売台数の維持・拡大を図っていることを表していると考えるべきです。どこまでこういった関税負担がサステイナブルであるかは私には不明です。電気機器は金額ベースで+5.8%増、一般機械も+2.3%増とプラスの伸びを示しています。輸出だけは国別の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で+2.1%増、中国も含めたアジア向けの地域全体では+4.2%増を記録しています。他方で、引用した記事の冒頭にもある通り、米国向けは▲3.1%減と回復がままなりません。ただ、西欧向けは+8.8%増となっています。いうまでもありませんが、今後の輸出については、米国との関税率が決着していますので、緩やかに回復することが期待されます。

目を米国に転じると、政府予算が成立せずに政府機関がシャットダウンし、統計発表が延期されていたのですが、ようやく、米国労働省から9月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、7月統計の+79千人増から8月統計では+22千人増と市場予想を下回り、失業率は7月の4.2%から+0.1%ポイント上昇して4.3%を記録しています。いつもの米国雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。
先週11月13日、米国のセントルイス連銀から The State of Generative AI Adoption in 2025 と題するリポートが明らかにされています。生成AIの活用が労働生産性にどのような影響を及ぼしているか、について、単なる生成AIを利用する労働者数だけではなく、労働者が業務でAIを使用する時間を測定し、米国における18-64歳の労働者の生成AIの使用時間は2024年11月の4.1%から2025年8月には5.7%に増加している For the entire U.S. workforce ages 18 to 64, the share of work hours spent using generative AI increased from 4.1% in November 2024 to 5.7% in August 2025. ことを明らかにしています。
上のグラフはセントルイス連銀のサイトから Labor Productivity Growth and Industry-Level Usage of Generative AI を引用しています。破線は傾向線ですが、平均的に、時間節約が1%ポイント増加した産業では、パンデミック前の傾向と比較して、生産性の伸びが2.7%ポイント高くなっている on average, industries with 1 percentage point higher time savings experienced 2.7 percentage points higher productivity growth relative to their prepandemic trend. ことが示されています。これは因果関係ではありませんが、労働生産性の決定要因は多岐に及ぶことから、生成AIも労働生産性を高めている可能性が大いにあると結論しています。それほど単純な結論に飛びつくことは控えますが、AIの活用が労働生産性を向上させる可能性については否定のしようがないと私は考えています。
最後に、私個人の感想ですが、上のグラフの左下のAIの活用が進まず、労働生産性も低下している産業のひとつに政府=Governmentがあります。米国においてすらこうなんですから、日本政府はもっとなんでしょうね。
本日、内閣府から9月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から+4.2%増の9278億円と、3か月ぶりの増加を記録しています。ただし、同時に公表された7-9月期の統計は前期比▲2.1%減の2兆7158億円となっています。また、10-12月期の見通しは+0.2%増の2兆7212億円と見込まれています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
機械受注2.1%減 7-9月期、4四半期ぶりマイナス
内閣府が19日発表した7~9月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前期比2.1%減の2兆7158億円だった。4四半期ぶりにマイナスに転じた。9月末時点の10~12月期の受注見通しは前期比0.2%増とほぼ横ばいだった。
7~9月期は非製造業が5.0%減だった。通信業や金融・保険業で電子計算機などの受注が落ち込んだ。不動産業も前期からの反動減があった。
製造業は3.4%増だった。汎用・生産用機械の電子応用装置などで大型案件の受注がありプラスに寄与した。
内閣府の見通しで10~12月期はプラスに転じるもののほぼ横ばいだ。米国による一連の関税政策による影響について、内閣府の担当者は「全体としては明確には表れていない」と述べた。
9月単月の民需は前月比4.2%プラスの9278億円と3カ月ぶりに増加した。製造業が23.3%増と全体をけん引した。非製造業は8.7%マイナスとなった。
内閣府は9月の基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いた。民需(船舶・電力除く)の毎月のぶれをならした3カ月移動平均は0.5%減と4カ月連続で減少した。
包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比+2.3%増と見込まれていました。実績の+4.2%増はやや上振れした印象ながら、レンジ上限+5.0%を下回っていますし、大きなサプライズはありませんでした。いずれにせよ、振れの大きな統計ですので四半期ベースでコア機械受注をならして見ると、1~3月期前期比+3.9%増の後、4~6月期も+0.4%増でしたが、おそらく、米国のトランプ関税の影響もあって、本日公表の7~9月期は▲2.1%減を記録しました。ただ、10~12月期はほぼ横ばいながら、+0.2%増が見込まれています。また、月次統計を見ると、9月のコア機械受注が前月比+4.2%と3か月ぶりのプラスでしたが、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」で据え置いています。9月統計を業種別に季節調整済みの前月比で見て、製造業が+23.3%増の一方で、船舶・電力除く非製造業は▲8.7%減となっています。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を見込んでいる一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は見込み得る範囲の近い将来にはまだ続くことが歩く予想されますし、DXやGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、為替への影響を別にしても、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかです。トランプ関税は一段落したとしても、どう考えても、先行きについてリスクは下方に厚いと考えるべきです。
先週11月13日に、経済協力開発機構(OECD)から Effective Carbon Rates 2025 と題するリポートが公表されています。もちろん、pdfのリポートもアップロードされています。まず、OECDのサイトからIntroductionを引用すると下の通りです。
Introduction
Countries balance diverse and interconnected policy objectives when deciding how to tax energy use or price carbon emissions. These policy objectives include raising public revenue, ensuring affordable energy, safeguarding competitiveness and reducing emissions. Effective Carbon Rates 2025 provides comparable data and insights into how 79 countries, accounting for 82% of global greenhouse gas (GHG) emissions, use carbon taxes, emissions trading systems (ETSs), and fuel excise taxes. Two key trends emerge from the latest data: carbon pricing policies are increasingly diverse and flexible to balance diverse policy objectives, and their adoption, particularly that of ETSs, continues to expand to new countries and more sectors.
要するに、世界の温室効果ガス(GHG)排出量の82%を占める79か国が、炭素税、排出量取引制度(ETS)、燃料物品税をどのように活用しているかについて、比較可能なデータと知見を提供しています。私ははなはだ専門外ですので、リポート p.34 から Figure 2.A.2. Average Effective (Marginal and Average) Carbon Rates by country を引用するにとどめたいと思います。
平均及び限界それぞれの炭素税の税率をグラフにしています。日本はピンクの矢印を目印に置いておきましたが、やっぱり、こういった気候変動対策の面では先進国の中で立ち遅れているのが見て取れます。
本日、内閣府から7~9月期GDP統計速報1次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比▲0.4%減、年率換算で▲1.8%減を記録しています。マイナス成長は6四半期ぶりです。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.0%、国内需要デフレータも+2.2%に達し、2年あまり9四半期連続のプラスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
7-9月実質GDP、年率1.8%減 輸出低迷で6四半期ぶりマイナス
内閣府が17日発表した2025年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.4%減、年率換算で1.8%減だった。輸出が低迷し、6四半期ぶりにマイナスとなった。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率2.4%減だった。
前期比の実質成長率に対する寄与度をみると、内需はマイナス0.2ポイントと3四半期ぶりのマイナスで、外需はマイナス0.2ポイントと、2期ぶりのマイナスとなった。
輸出は1.2%減と2四半期ぶりのマイナスとなった。米国による一連の関税政策の影響もあり自動車の輸出減が響いた。企業による特許など知的財産権の使用料の受け取りも落ち込んだ。
インバウンド(訪日外国人)消費は1.6%減で、4四半期ぶりのマイナスになった。香港からの訪日客数が5月から直近の9月まで前年を下回った。一部地域からの訪日客消費で伸び悩みがみられた。
輸入は0.1%減と3四半期ぶりのマイナスだった。原油・天然ガスが落ち込みに寄与した。
民間住宅への投資は9.4%減と大きく落ち込んだ。マイナスは3四半期ぶりだった。4月から住宅の省エネルギー基準が厳しくなり、3月に生じた駆け込み需要の反動減があった。GDP統計は工事の進捗に応じて計上されるため、7~9月にマイナス影響が表れた。
GDPの過半を占める個人消費は0.1%増で、伸びは鈍ったもののプラスが続いた。猛暑の影響でアルコール類を含む飲料全体が好調だった。外食などの飲食サービスもプラスだった。
他方、秋物衣料の販売が振るわなかったほか、自動車も落ち込んだ。
設備投資は1.0%増と4四半期連続増となった。人手不足を背景とした省力化投資などの影響でソフトウエア投資が伸びた。
政府消費は0.5%増と2四半期連続増となった。医療費の増加があった。公共投資は0.1%増と2四半期ぶりのプラスだった。
民間在庫は成長率に対して0.2ポイントのマイナス寄与だった。
名目GDPは前期比0.1%増、年率換算で0.5%増だった。GDPの実額は年換算で実質が561兆7653億円、名目が635兆8225億円だった。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比2.8%上昇した。
城内実経済財政相はGDP速報値について「景気が緩やかに回復しているとの認識に変化はない」との談話を公表した。
ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、雇用者報酬については2種類のデフレータで実質化されていてる計数が公表されていますが、このテーブルでは「家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃及びFISIM)デフレーターで実質化」されている方を取っています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、です。正確な計数は自己責任で内閣府のリンク先からお願いします。
| 需要項目 | 2024/7-9 | 2024/10-12 | 2025/1-3 | 2025/4-6 | 2025/7-9 |
| 国内総生産GDP | +0.4 | +0.7 | +0.2 | +0.6 | ▲0.4 |
| 民間消費 | +0.8 | +0.0 | +0.3 | +0.4 | +0.1 |
| 民間住宅 | +0.8 | ▲0.1 | +1.3 | +0.3 | ▲9.4 |
| 民間設備 | ▲0.0 | +0.6 | +0.9 | +0.8 | +1.0 |
| 民間在庫 * | (+0.1) | (+0.0) | (▲0.3) | (+0.6) | (▲0.3) |
| 公的需要 | ▲0.1 | ▲0.0 | ▲0.1 | ▲0.1 | +0.5 |
| 内需寄与度 * | (+0.8) | (▲0.3) | (+0.9) | (+0.3) | (▲0.2) |
| 外需(純輸出)寄与度 * | (▲0.3) | (+1.0) | (▲0.7) | (+0.2) | (▲0.2) |
| 輸出 | +2.0 | +2.0 | ▲0.4 | +2.3 | ▲1.2 |
| 輸入 | +3.3 | ▲2.2 | +2.5 | +1.3 | +0.0 |
| 国内総所得 (GDI) | +0.6 | +0.7 | ▲0.1 | +1.2 | ▲0.3 |
| 国民総所得 (GNI) | +0.5 | +0.3 | +0.4 | +0.7 | +0.5 |
| 名目GDP | +1.0 | +1.2 | +0.9 | +1.6 | +0.1 |
| 雇用者報酬 (実質) | +0.2 | +1.2 | ▲1.5 | +0.8 | +0.6 |
| GDPデフレータ | +2.6 | +3.1 | +3.3 | +2.9 | +2.8 |
| 国内需要デフレータ | +2.3 | +2.5 | +2.7 | +2.2 | +2.2 |
上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、プラス寄与している中で目立っているのは水色の民間設備くらいで、少し見づらいのですが、マイナス寄与は緑の民間住宅、灰色の民間在庫、黒の純輸出となっています。

引用した記事にある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前期比年率で▲2.4%のマイナス成長であり、予想レンジの上限が0%ということでしたのでレンジ内ながら、実績の年率▲1.8%のマイナス成長は大きなサプライズはなかった印象です。ただし、引用した記事のあるように、内需のうちの消費はプラスを記録した一方で、それほど伸びが大きいわけではなく、設備投資の方が寄与度が大きくなっています。ただ、7-9月期の大きな特徴は、省エネ基準の適用義務化などを含む法改正に従って、住宅着工が4月から大きく減少し、タイムラグを伴ってGDPベースの民間住宅に波及し、マイナス寄与が大きくなっています。在庫のマイナス寄与は、むしろ、在庫の圧縮が進んだと評価すべきで、悲観する必要はありません。内需寄与度は△0.2%となっていて、純輸出=外需寄与度もトランプ関税の影響などにより▲0.2%となっていて、内外需ともにマイナスながら、民間住宅のイレギュラーな制度的要因に起因する部分が無視できないと考えるべきで、景気の回復基調に大きな変化はないということです。
そして、季節調整していない原系列の前年同期比でGDPデフレータが+3%近く、国内需要デフレータも+2%超の上昇を示しており、特に、消費に関してはコメをはじめとする食料の値上がりが続いている中で、伸びが鈍化している点も印象的です。引用した記事にある猛暑効果に加えて、春闘の賃上げに支えられた雇用者報酬の堅調な伸びが消費の伸びに寄与していると考えるべきです。すなわち、2024年年末ボーナスの反動で、2025年1~3月期こそ実質雇用者報酬は▲1.5%減となりましたが、4~6月期+0.8%、そして、本日公表の7~9月期も+0.6%と順調に伸びています。先週にシンクタンク予想を取りまとめた今年2025年年末ボーナスも期待できるようですし、消費を中心とする景気拡大が続くことに期待がかかります。
Dave Brubeck カルテットによる Take Five です。1964年のベルギーにおけるライブだそうです。作曲は、アルトの Paul Desmond です。タイトル通りの5拍子ジャズであり、典型的な変拍子曲です。
どうでもいいことながら、リーダーの Dave Brubeck は、自分がソロを取るとき以外は、ほとんど鍵盤なんて見ていないんですね。古典音楽でも、ピアノ以外の楽器がカデンツァを取る場合は楽譜なしの演奏を求められますが、ピアノだけは楽譜を見てもいいことになっていると思います。まあ、ソルフェージュで練習させられるんですけどね。
今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、左三川郁子『ポスト非伝統的金融政策』(日本経済新聞出版)は、昨年2024年に非伝統的金融政策を終えた日銀の金融政策を振り返って評価し、将来、再びデフレと取り組む際の政策判断の材料を提供することを目的としています。各章が解説編と実証編で構成されています。デヴィド・グレーバー『啓蒙の海賊』(岩波書店)の最大の主張は、啓蒙思想というものが欧州起源だけではなく、海賊、すなわち、海賊船や海賊船が本拠をおいたマダガスカル島もきわめて啓蒙的、というか、自由平等といった近代民主的な思想で運営されていた、という人類学的な発見を明らかにすることです。方丈貴恵『アミュレット・ワンダーランド』(光文社)は、アミュレット・ホテルを舞台とするシリーズ第2弾であり、犯罪者専用となっているホテル別館で、ホテルに損害を与えず、敷地内で傷害・殺人事件を起こさない、というホテルの掟の下で起こる事件をホテル探偵の桐生らが解明します。潮谷験『誘拐劇場』(講談社)では、関西のベッドタウン滋賀県大津市の水倉地区で起きた薬物事件に端を発し、薬物撲滅キャンペーンを展開した俳優が国会議員まで上り詰めたのですが、その議員が実は薬物製造・流通の元締め的な存在ではないのか、と疑う女性が誘拐されます。是川夕『ニッポンの移民』(ちくま新書)では、増え続ける外国人を概観した後、いくつか日本の移民に関する定説めいた議論、日本には移民政策がないといった一般認識について考え、さらに、移民一般、というか、なぜ移民が生じるのか、また、なぜ移民は日本に来るのか、といった議論を展開しています。森バジル『ノウイットオール』(文春文庫)は5章から構成されていて、順に、推理小説、青春小説、科学小説、幻想小説、そして、恋愛小説、となっています。たぶん、連作短編集であり、私個人としては、2話目の青春小説、高校生の男女が漫才のM-1グランプリを目指すのが印象深かったです。
今年2025年の新刊書読書は1~10月に261冊を読んでレビューし、11月を迎え先週までの12冊と今週の6冊を加えて合計279冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。
まず、左三川郁子『ポスト非伝統的金融政策』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、日本経済研究センター(JCER)の金融研究室長兼主席研究員です。経済学の分野の研究だと、たぶん、「主任研究員」がシニアエコノミストで、「主席研究員」がチーフエコノミストに当たるんではないか、という気がします。例外を除けば、チーフエコノミストは、普通、研究機関に1人だけだと思います。といった点は別にして、本書では、タイトル通りに、昨年2024年に非伝統的金融政策、あるいは、異次元緩和を終えた日銀の金融政策を振り返って評価し、将来、再びデフレと取り組む際の政策判断の材料を提供することを目的としています。学術書っぽいんですが、既存研究、特に米国の連邦準備制度(FED)や各連銀などの手法を当てはめた分析が多い印象です。ですので、手法的に目新しさはありませんし、序章と9章からなる構成ですが、各章の前半が解説編、後半が実証編に割り当てられていて、解説編をよく読めば、それほど理解が困難ということはなさそうです。まず、序章で日銀が四半世紀に渡って実施してきた非伝統的な金融政策を概観した後、第2章の当座預金をどこまで減少させられるか、と第3章の自然利子率については、私も興味ある実証的な推計結果が示されています。すなわち、当座預金残高につては、ニューヨーク連銀にならって時変係数VARの手法を用いることにより、短期金融市場に大きなストレスをかけることなく、2025年5月末時点の527兆円から280兆円程度まで縮小できる、との試算結果を示しています。また、Laubach-Williams の手法など、いくつかの推計方法で自然利子率を推計し、1.2%から2.8%という結果を得ています。単純に考えて、イールドカーブの傾きにもよりますが、現在の政策金利の0.5%というのは、それなりに緩和的な水準であると結論しています。第4章から第6章では、満期がないリスク性試算である上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)などの買入れの政策効果と同時に副作用としてのリスクを検証しています。ETFについては、日銀が高い比率で株式を間接保有している場合、なんと、一般的な議論に反して、企業ガバナンスの強化につながるという結果が示されています。とても確率は低いながら、選挙で社会主義的な内閣が成立したりすると、ひょっとしたら、すんなりと社会主義に移行できる可能性が示された、と受け止めるエコノミストは私くらいでしょうが、興味深い結果です。第6章では、社債買入れの効果を分析し、リスクプレミアムに相当する社債スプレッドの縮小には効果があった一方で、設備投資への影響は認められなかった、との分析結果を示しています。ほかにも、プルーデンス政策や家計に眠っていた紙幣のままのタンス預金の動向の分析なども示されています。
次に、デヴィド・グレーバー『啓蒙の海賊』(岩波書店)を読みました。著者は、英国ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)人類学教授でしたが、2020年9月に亡くなっています。ご著書の中で、私は『負債論』、『ブルシット・ジョブ』、また、共著の『万物の黎明』などを読んでいます。本書の英語の原題は Pirate Enlightenment, or the Real Libertalia であり、2019年の出版です。本書の最大の主張は、啓蒙思想というものが欧州起源だけではなく、海賊、すなわち、海賊船や海賊船が本拠をおいたマダガスカル島もきわめて啓蒙的、というか、自由平等といった近代民主的な思想で運営されていた、という人類学的な発見を明らかにすることとなっています。その例証として、海賊船では操船の役割は互選により決められていて、略奪品成果の分配はとても平等であったと分析しています。加えて、マダガスカル島の東北海岸で海賊が現地女性と結びつき、現地社会と再構成した混交社会においては、啓蒙的な思想、というか、近代民主主義的な思想、すなわち、自由・自治・平等といった思想が醸成されるだけではなく、実践されていた可能性を示しています。そういった歴史的なエビデンスを積み重ねた論証を試みています。そのあたりは、私な人類学の専門的知識を有していませんので、正確、というか、学術的な評価はできませんが、2点だけ疑問に感じています。第1に、冒頭で主張されているのですが、著者ご本人のフィールドワークの成果とはいえ、「カリブの海賊の多くがマダガスカに定住していたこと」を知り、大英図書館のメイユール手稿に大きな部分を依存した研究成果を本書に記しているのですが、その信憑性がどれほどのものか、何とも判断できかねます。本書で、カリブの海賊とマダガスカルの関係を後づけているのは1700年前後、おおむね1690年代から1720年代であり、いわゆる大航海時代が15世紀なかばから17世紀なかばですので、17世紀終わりから18世紀初頭の時期にはカリブ海からマダガスカルに航海するのはさほど難しくはなかったとはいえ、マダガスカル島というのがカリブ海から離れすぎていると感じるのは私だけではないと思います。第2に、欧州の啓蒙運動との関連がまったく不明です。繰り返しになりますが、啓蒙思想の起源が欧州のサロンやコーヒーハウス以外にもあった、それが海賊やマダガスカルである可能性を本書では指摘していますが、果たして、海賊やマダガスカルから欧州に波及したのか、その反対か、はたまた、まったく独立・並立した動きか、については、もう少し論証が欲しいところです。また、何ら根拠ありませんが、現在の日本や欧米先進国における自由民主主義はカリブの海賊ではなく、欧州起源の啓蒙思想なのではあるまいか、と私は、繰り返しますが、根拠なく考えていたりします。確かに、とても興味深い主張なのですが、検証できない点がやや難点ではないか、と思います。
次に、方丈貴恵『アミュレット・ワンダーランド』(光文社)を読みました。著者は、京都大学ミス研ご出身のミステリ作家です。本書はアミュレット・ホテルを舞台とするシリーズ第2巻となります。私は前作の『アミュレット・ホテル』も読んでいます。舞台となるアミュレット・ホテルは別館が犯罪者ご用達、というか、犯罪者専用となっていて、ホテルに損害を与えず、敷地内で傷害・殺人事件を起こさない、というホテルの掟さえ守られていれば、武器の調達などが自由にできる、という破天荒であり得ない設定です。主要なホテル側の登場人物は、オーナーの諸岡、ホテル探偵の桐生が主人公で、多くのストーリーで視点を提供し、オーナー諸岡の右腕のホテルマンが水田であり、本書でチョッピリ過去が明らかになります。各話のあらすじは、まず、「ドゥ・ノット・ディスターブ」では、犯罪者専用の別館ではなく、本館の方で著名な宝石が盗まれ、同じような時間帯に別館で、犯罪者向けの動画配信をリアルタイムで行っていた杉川奇句が刺殺されます。杉川奇句は双子の1人で、もう1人は杉川夜来となります。桐生が謎を解明します。続いて、「落とし物合戦」では、ホテルの落とし物の窓口となっているラウンジ&バーであるブラック・カイザーにやや変わった落とし物が持ち込まれ、犯罪者たちが「落とし主」を自称して落とし物合戦が始まりますが、桐生が真相を突き止めます。続いて、「ようこそ殺し屋コンペへ」では、イタリアの犯罪組織であるユピテルが殺し屋コンペをホテル内で始めます。当然ながら、ホテルの掟とコンペのルールが大きく矛盾を来たし、コンペ参加者の間で殺し合いやほかの事件・事故が多発し、桐生が混乱の発生源を突き止めます。最後に、「ボマーの殺人」では、ホテル別館の最上層で結婚式が行われている時に、正体不明の爆弾魔=ボマーがその結婚会場に爆弾をセットしたと諸岡を脅迫し、ホテルの乗っ取りを企みます。分断された最上層の諸岡らと下層部分にいる桐生らが協力して爆弾の解除に挑みます。ということで、この作者のミステリ作品は、私はだいたい読んでいて、いわゆる特殊設定ものなのですが、初期の作品は竜泉家の一族シリーズなど、近代物理学に反する設定で、タイムマシンで時空を行き来したりするものでした。このアミュレット・ホテルのシリーズは、近代物理学には反しないのですが、現代法倫理に反しています。ですが、やや苦しい設定のミステリが多く、どこまでシリーズが続くかは、私は少し不安に感じています。京大ミス研先輩の綾辻行人なんかは館シリーズが10巻続いていますが、ハッキリ言って、このシリーズがそこまで継続できるかどうかは疑問です。
次に、潮谷験『誘拐劇場』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、私はデビュー作の『スイッチ』、さらに最近作の『伯爵と三つの棺』と『名探偵再び』を読んでいます。作品ごとにシリーズではなく、まったく違う設定のミステリに挑戦していると聞き及んだことがあります。あらすじは、滋賀県大津市内の丘陵地の水倉地区で小学3年生の4人がLSDの一種の薬物で、バニッシュと名付けられたペーパーアシッドによる事件が発生します。捜査に当たって、さらに、その後の薬物対策キャンペーンも携わったのが滋賀県警の刑事である義永誠で、加えて、有名な若手俳優で水倉地区出身の師道一正もイメージキャラクターとして積極的に薬物対策キャンペーンを進め、事件の真相も義永刑事と師道一正が協力して突き止めます。しかし、義永誠は薬物中毒の暴漢に襲われて殺害され、遺児の義永真理子が残されます。時が経ち、師道一正は国会議員まで上り詰めます。しかし、元子役の支倉彼方と義永真理子は、滋賀県警で亡くなった義永誠の後を継いだ刑事の朝雲らとともに、師道一正に疑念を抱いて、実は、師道一正こそが黒幕としてバニッシュのレシピを入手して薬物売買の元締めたらんとしているのではないか、と考え始めます。特に、師道一正が主導して始めたMKという位置情報アプリ、Pokémon GO のような位置情報アプリを使っているのに対抗して、MK2というアプリを開発したところ、義永真理子が誘拐されてしまいます。支倉彼方はSNSで集まった協力者とともに、師道一正に対してゲームを挑み、その正体を突き止めようと試みます。果たして、師道一正はバニッシュのレシピを入手して薬物の製造や流通の黒幕となることを目指しているのか、それとも、薬物撲滅を目指す従来からの姿勢には変化はないのか、息詰まる応酬の中から最後に真実が明らかにされます。ということで、実に複雑で入り組んだ事実関係を読み解くには、それなりに読解力が必要です。ただ、薬物や誘拐をはじめとして、伝統的・古典的なミステリの要素に加えて、いかにも現代的な味付けが施してあり、繰り返しになりますが、Pokémon GO のような位置情報アプリ、当然のようにSNSを通じた協力者集めや通信、地方政府レベルにおける非正規雇用の拡大と派遣切りのような非正規雇用の雇止め、AIもどきのボットがチャットに参加する、などなど、必ずしもテクノロジー関係だけではない現代的な社会の雰囲気を強く感じさせる要素が持ち込まれています。その上、疑惑の対象となっている師道一正が俳優から政治家になった人物であり、さまざまな偽装や信用のおけない言動や行動など、とても一般人ではマネの出来ないキャラクターとなっています。ミステリとしての謎解きとともに、そのあたりの読ませどころも満点です。
次に、是川夕『ニッポンの移民』(ちくま新書)を読みました。著者は、国立社会保障・人口問題研究所の国際関係部部長であり、以前は内閣府にもお勤めで、経済社会総合研究所の課長補佐をしていたころに、上席主任研究官だった私とも面識ありました。でも、ほとんど、いっしょに仕事をしたという感覚ではありません。本書では、序章で増え続ける外国人を概観した後、いくつか日本の移民に関する定説めいた議論などについて考え、さらに、移民一般、というか、なぜ移民が生じるのか、また、なぜ移民は日本に来るのか、といった点を議論しています。まず、一般的な定説めいた言辞として「日本に移民政策がない」という点を否定しています。これには私も賛成です。一般的に、移民政策として考えるべきは、国境管理、出入国管理と在留政策、統合政策、出国政策の4点であると本書では既存研究から引いていますが、当然にして、これらの政策は日本でも立派に存在します。当たり前です。その上で、リベラル・パラドクスも日本で発生しているわけです。これも当たり前です。リベラル・パラドクスとは、人権や民主主義的な観点から移民を受け入れるべきであるとする一方で、移民を受け入れると一定の観点から「国民」と考えるべき同質性を備えた国民国家の性格が薄れていく、というものです。ただ、日本については、きわめてリベラルな移民政策を取っている、という本書の主張はその通りだと私は考えます。そして、第2章では日本の移民政策の歴史を概観し、1950-70年代の管理と排除の時代から始まって、最近20年くらいの人口減少下の労働移民政策の展開までを後づけています。そして、日本に限らず移民が国境を超えて移動する原理原則のようなものを分析し、さまざまな理論を紹介しています。私は専門外ですので、このあたりは読んでいただくしかありません。また、ギャラップの調査結果などを示して、日本はまだまだ移民先として人気があり、それだけに、将来を見据えた移民政策の展開が必要、ということになります。最後に、私が理解した範囲で、少し物足りなかった点を2点だけ上げておきたいと思います。まず、第1に、日本の移民政策を難しくしているのは在日コリアンの問題です。本書でも指摘しているように、戦後直後しばらくは本国への帰国が目指されていました。しかし、本書では言及されていませんが、朝鮮戦争の勃発と日本の高度成長による所得向上により、必ずしも帰国する人がそれほど多くはなかった、というのも事実です。在日コリアンが日本に強制連行された人が少なからず含まれていることもあって、強制帰国という手段は適当ではありません。この在日コリアンの問題は、欧州諸国で旧植民地からの移民受入れとは違うタイプの問題を生じさせている可能性があります。第2に、移民、特に労働移民のバックグラウンドにある技術進歩について、もう少し考えるべきです。特に、AIの活用などの将来の技術進歩とそれにマッチしたスキルを考えれば、オーター教授らの研究にあるように、スキルの高い方と低い方の両極の労働需要が高まる可能性があり、中程度のスキルの必要性が低下することから、日本でもどのような労働移民を受け入れる政策を持つべきかを考えるべきです。どこかの政党のように「日本人ファースト」で外国人を敵視しかねない政策ではなく、リベラルでありかつ国民のことも移民のことも十分に考えた政策の将来像を望みます。
次に、森バジル『ノウイットオール』(文春文庫)を読みました。著者は、「会社員」と紹介されています。文庫になる前の本書の単行本で第30回松本清張賞を受賞して単行本デビューをしています。本書は5章から構成されていて、順に、推理小説、青春小説、科学小説、幻想小説、そして、恋愛小説、となっています。基本、ジャンルが違いますし、ストーリーとしては独立・並立していて、それぞれで完結しています。ただし、同時並行で進行していて登場人物も重なっているので、連作短編集というべきかもしれません。順にあらすじは、推理小説「探偵青影の現金出納帳」では暴力団員=ヤクザから殺人事件の謎を解明するよう、探偵の青影千織と助手の春崎が依頼されます。青影は「顧客第一」をモットーに、真相ではなく顧客の求める謎解きを展開し、高額の報酬を請求します。青春小説「イチウケ!」では、進学校の高校生男女、土橋千尋が浅黄葉由に誘われて漫才コンビを組んで、M-1出場、そして、グランプリ獲得を目指します。科学小説「FUTURE BASS」では、2話までと大きく雰囲気を変えて、漫才コンビを組んだ男子生徒と付き合っている同級生の夏目桜花が18歳の誕生日を迎えて不思議な能力を授かり、過去と未来が複雑に入り組んだ事件に巻き込まれることになります。まあ、SFといえるかもしれません。幻想小説「ラクア=ブレズノと死者の記憶」では、骨を食う吸骨鬼族の1人とともに、骨を食われる方の魔法使い族の1人ラクア=ブレズノが将軍殺害などの冒涜行為により闇界に飛ばされて再会してしまいます。恋愛小説「恋と病」では、30歳になって恋人に振られた乙黒奈実が、熱心に歌会に通っていると、とてもいい短歌を詠むとげとげヘアーの冬木翼が新メンバーとして参加してきます。最後に、私の感想を2点だけ、繰り返しになりますが、松本清張賞受賞作ということで、冒頭の推理小説に注目されがちですが、私は2番目の青春小説がよかったです。それから、第5話の冒頭に「閾値」という用語に「しきいち」とルビが振ってあります。私の知る限り、心理学ではこれは「いきち」と読みますが、経済学では「しきいち」と読みます。著者が1992年生れの九州大学ご卒業ということで、経済学部の卒業生なのかもしれない、と考えたりしました。
先月末から今月初めの各種統計がほぼ出そろって、来週11月17日に、7~9月期GDP統計速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である7~9月期ではなく、足元の10~12月期から来年にかけて先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。先行き経済について言及しているシンクタンクは大和総研やみずほリサーチ&テクノロジーズなどであり、この両機関のリポートでは詳細に分析されていますので長々と引用してあります。いずれにせよ、1次情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまででクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。
| 機関名 | 実質GDP成長率 (前期比年率) | ヘッドライン |
| 日本総研 | ▲0.7% (▲2.7%) | 10~12月期の実質GDP成長率は小幅ながらプラスに転じると予想。世界景気の減速が外需の重石となるものの、内需が景気を下支えする見込み。ソフトウェア投資を中心に企業の設備投資意欲は旺盛であるほか、インフレ率の低下を受けた家計の購買力改善が消費の追い風に。 |
| 大和総研 | ▲0.7% (▲2.8%) | 2025年10-12月期の日本経済は、プラス成長に転じると見込んでいる。所得環境の改善が個人消費を下支えするほか、設備投資も増加しよう。輸出は、サービス輸出が増加する一方、トランプ関税の影響が続くことで財輸出が伸び悩み、減少が続くとみられる。 個人消費は増加すると予想する。2025 年春闘では前年以上の高水準の賃上げが実施された上、10 月以降は最低賃金が各地で大幅に(全国加重平均で 6.3%)引き上げられ、非正規雇用者の賃金を中心に上昇圧力がかかる。食料品の価格上昇の鈍化などを背景に物価上昇率は今後低下していくとみられ、実質賃金の上昇などによる所得環境の改善が個人消費の増加を促そう。 設備投資は増加すると予想する。日本銀行「全国企業短期経済観測調査」(日銀短観)によると、9月調査時点での2025年度の設備投資計画(全規模全産業、除く土地、含むソフトウェア・研究開発)は前年度比+9.5%と堅調だった。トランプ関税の影響により輸出企業の一部で投資意欲が下押しされる面はあるものの、日本経済全体ではソフトウェアや研究開発にけん引される形で、設備投資の増加基調が維持されると見込んでいる。 住宅投資は4月以降、着工額が低迷している影響から、減少が続くと予想する。 公共投資は、工事費の高騰などを背景に、横ばい圏での推移にとどまるとみられる。政府消費は、高齢化に伴う医療費増などにより増加に転じよう。 輸出は減少が続くと予想する。トランプ関税への対応で、米国での販売価格を引き上げたり、現地生産・調達を増やしたりする企業が増加するとみられ、財輸出は米国向けを中心に弱含むとみられる。他方、サービス輸出は7-9月期の反動もあって増加すると見込んでいる。 |
| みずほリサーチ&テクノロジーズ | ▲1.0% (▲3.9%) | 10~12月期についても、関税による製造業収益の下押しが設備投資や冬のボーナスの重石になることで、経済活動の回復ペースは緩やかなものになるだろう。現時点で、10~12月期は年率+0%台半ば程度の成長にとどまると予測している。 一方で、企業による関税コストの価格転嫁は時間をかけて段階的に実施される見通しであり、関税による米国経済・日本経済への影響は「浅く・長く」発現することが見込まれる。9月の米国の消費者物価指数をみても前月比+0.3%と緩やかなインフレに留まっており、これまで価格転嫁が進んでいなかった衣料品や新車等で物価上昇がみられるものの、既に価格転嫁が進んでいた家具や玩具などは価格上昇が一服している。関税により特定の時期に米国で急激なインフレが生じるリスクは低下していることに加え、堅調なAI関連投資や株価の上昇による下支えを受けて米国景気の減速ペースは緩やかなものになる可能性が高い。 内需についても、食料インフレが徐々に鈍化することが見込まれるほか(10月の都区部消費者物価指数をみるとコメを中心に食料価格の前年比は縮小傾向で推移していることが確認できる)、株高が消費者マインドを改善させることも押し上げ要因となり(10月の消費者態度指数が前月差+0.5%Ptと改善しており、内閣府も基調判断を「持ち直している」に上方修正した)、個人消費は緩やかながらも回復傾向が継続するとみている。 以上を踏まえ、日本経済は、前述したとおり関税影響が重石になるものの、景気後退入りは回避できる公算が大きいと現時点でみている。 企業収益への影響という点では、輸出企業の採算円レート(輸出企業全体で130.1円/ドル、輸送用機器で124.7円/ドル)対比でみて足元(本稿執筆時点)のドル円相場(1ドル=154円程度)は輸出企業全体で約18%、輸送用機器で約23%の円安水準であり、関税による企業収益への影響は(円安は内需に依存する非製造業・中小企業などで原材料コストの上昇を通じて下押し要因になる面もあるが、企業全体としてみれば)緩和されると考えられる。関税コストによる製造業への打撃は避けられず、前述したとおりボーナスや設備投資への波及が見込まれるにせよ、企業全体としてみれば企業収益が持ち堪えることで設備投資は増加基調を維持し、賃上げ気運も継続される可能性が高いと現時点でみている(来年の春闘賃上げ率については、2025年対比では鈍化は避けられないものの、人手不足の深刻化等を受けて4%台半ば程度の水準で着地する可能性が高いとみている)。 ただし、足元では、これまで堅調に推移してきた米国経済について、AIブームの持続性やプライベートクレジットの動向に対する懸念材料(具体的には、投資の過剰不安、消費の資産効果依存、相場のテック依存、企業破綻・不正の増加等への懸念)も浮上している。現時点では、銀行の健全性等を踏まえればシステミックリスクに発展する蓋然性は小さいとみているが、株価の大幅な調整が逆資産効果等を通じて実体経済(米国経済及び日本経済)に波及する可能性も否定できないことから、引き続き動向に注視する必要がある。 |
| ニッセイ基礎研 | ▲0.7% (▲2.7%) | 現時点では、輸出の減少ペースが緩やかとなる中、民間消費、住宅投資、設備投資が増加することから、10-12月期の実質GDPは前期比年率0%台前半の小幅なプラス成長になると予想しているが、輸出を中心に下振れリスクは高い。 |
| 第一生命経済研 | ▲0.5% (▲2.2%) | 7-9月期のマイナス成長の主因は外需と住宅投資だが、特に住宅投資の落ち込みが大きい(7-9月期のGDP成長率を前期比年率▲1.5%Pt下押すと予想)。25年4月の建築基準法・省エネ法改正によって、省エネ基準の適合義務化や「4号特例」の縮小など、住宅建設や大規模リフォームのコスト増・手続き負担増・工期長期化が生じた。多くの事業者が改正前に着工を前倒ししたことで3月の住宅着工は急増したが、駆け込み需要の反動が生じたことで4-6月期の着工は歴史的な減少となった。この着工減がタイムラグをもって住宅投資に反映されることで、7-9月期の住宅投資は急減するだろう。 |
| 三菱UFJリサーチ&コンサルティング | ▲0.6 (▲2.2%) | 2025年7~9月期の実質GDP成長率(1次速報値)は、前期比-0.6%(前期比年率換算-2.2%)と、マイナス成長に陥ったと見込まれる。個人消費や設備投資など内需に底堅さはあるものの、先送りされたトランプ関税のマイナスの影響が本格化したことがマイナス成長の主因となった。また住宅投資は、制度変更によって着工件数が急減した影響が時間差をおいて表れたことで大幅なマイナスとなった。 |
| 伊藤忠総研 | ▲0.2% (▲0.7%) | 10~12月期は、①関税の影響一巡による輸出の持ち直し、②物価上昇ピークアウトを受けた個人消費の復調、③強気の計画を背景とした設備投資の拡大、の有無や強弱が注目点となる。これらのうち、設備投資はトランプ関税を踏まえた計画見直しなどから一時停滞もあり得るが、自動車の回復で輸出の、物価上昇の頭打ちで個人消費の復調が期待できるため、10~12月期の実質GDP成長率は前期比でプラスに復すると予想される。 |
| 明治安田総研 | ▲0.6% (▲2.4%) | 7-9月期は住宅投資と輸出のマイナスが景気の押し下げ要因になったとみられる。建築基準法改正の影響による住宅投資の落ち込みは一時的である可能性が高いが、輸出については、関税が引き続き自動車を中心に下押し圧力になるとみられる。また、個人消費については、物価上昇率が年後半にかけて鈍化し、12月には実質賃金がプラス圏に浮上するとみているが、プラス幅は限定的なものになると予想される。一方、設備投資は、外需の低迷が抑制要因になることが見込まれるが、継続的な省力化投資が下支えするかたちで底堅く推移するとみる。これらを踏まえると、年度後半の日本景気は緩やかな回復が続くというのがメインシナリオである。 |
| 農中総研 | ▲0.3% (▲1.2%) | 7~9月期のGDPについて、実質成長率は前期比▲0.3%(同年率換算▲1.2%)と、6期ぶりのマイナスと予想する。なお、前年比は0.8%と5期連続のプラスが見込まれる。一方、名目成長率は前期比0.3%(同年率1.1%)と、前期から減速するものの、12期連続のプラスとなるだろう。 |
| 東京財団 | ▲0.41% (▲1.64%) | モデルは、9月初以降、マイナス成長を予測してきたが、こうした背景には、追加関税が課されている米国向け自動車輸出の落ち込みなどの動きがあり、米国の通商政策の影響によりGDPが下振れする可能性を示唆している。 |
テーブルを見れば明らかな通り、7~9月期のGDPはマイナス成長、しかも、内需も外需(純輸出)もどちらもマイナス寄与、というのがほぼほぼ一致した見方となっています。まあ、いいところはないように見えなくもありません。ただし、マイナス寄与の大きな部分は住宅投資に起因しています。すなわち、今年2025年4月から着工される建築物に関して、省エネ基準の適用義務化などを含む法改正が行われたことで、住宅着工は3月に駆け込みで急増した後、4月以降に大きく減少しています。この住宅着工の減少がタイムラグを伴って7~9月期のGDP統計に反映されると考えられます。設備投資もそうですが、住宅投資も、着工から完成まで一定の期間の経過がありますが、GDP統計では進捗ベースで計上されるからです。ですので、というか、何と申しましょうかで、足元の10~12月期には緩やかながらプラス成長に回帰する、というのも説得力ある見方だと私は受け止めています。ただ、景気局面も明らかに後半に入っており、米国の通商政策をはじめとして、先行きまだまだ不透明要因が残っていますので、リスクは引き続き下方に厚そうな気がします。
下のグラフは、日本総研のリポートから、実質GDP成長率(前期比年率) を引用しています。
本日、日銀から10月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+2.7%の上昇となり、9月統計の+2.8%から小幅に減速しています。ただ、依然として高い伸びが続いています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
企業物価指数、10月2.7%上昇 伸び率は縮小
日銀が13日発表した10月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は127.5と前年同月と比べて2.7%上昇した。伸び率は9月(2.8%上昇)から0.1ポイント縮小した。民間予測の中央値(2.5%上昇)を0.2ポイント上回った。
9月分の上昇率を2.7%から2.8%に遡及修正した。企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
金属製品は0.7%上昇し、伸び率は9月(2.5%上昇)から1.8ポイント縮小した。電力・都市ガス・水道は0.5%下落した。
農林水産物は31.4%上昇した。伸び率は9月(31.9%上昇)から鈍化したものの、コメ価格の高止まりを背景に高水準がつづく。
日銀が公表している515品目のうち、価格が上昇したのは366品目、下落したのは125品目だった。24品目では価格が変わらなかった。
インフレ動向が注目される中で、長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

ヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率について、引用した記事には民間予測の中央値が+2.5%とありますが、私の見た範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.5%でした。実績の+2.7%はやや上振れた印象で、引き続き、日銀物価目標の+2%を大きく上回っていることは事実です。上昇幅が縮小したとはいえ、上昇率が高止まりしている要因は、農林水産物とそれに連動した飲食料品の価格上昇です。引き続き、コメなどが高い上昇率を示しています。また、対ドル為替相場は、高市内閣の成立により金利の再引上げにブレーキがかかる可能性があり、10月には+2.2%の円安が進みました。さらに、私自身が詳しくないので、日本総研「原油市場展望」(2025年11月)をエネルギー価格の参考として見ておくと、10月のWTI原油先物価格は、上旬に50ドル台後半に下落、中旬には50ドル台後半で一進一退の後、10月下旬から11月にかけては60ドル前後に反発しています。そして、「原油価格は、来年にかけて50ドル台後半に下落する見通し」とされています。ただ、円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年2025年5~7月にはケタの下落を続けていましたが、10月には△1.5%と下落幅を縮小させています。いずれにせよ、国内物価の上昇は原油価格ではなく国内要因による物価上昇であることは明らかです。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず、引用した記事にもある通り、農林水産物は9月の+31.9%からやや減速しつつ、10月も+31.4%と高止まりしています。これに伴って、飲食料品の上昇率も9月は+4.8%と、8月と同じ上昇率となっています。電力・都市ガス・水道は9月の+0.6%から、10月は▲0.5%と前年比マイナスに戻っています。引用した記事にもある金属製品は9月の+2.5%から10月は+0.7%に上昇率が減速していますが、非鉄金属は9月の+9.6%から10月には+11.8%と、2ケタ上昇に加速しています。
今月11月に入って、例年のシンクタンク4社から2025年年末ボーナスの予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。可能な範囲で支給総額に言及している部分を取っています。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまででクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほリサーチ&テクノロジーズのみ国家公務員+地方公務員であり、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員ベースの予想、と明記してあります。第一生命経済研ではそもそも公務員は予想の対象外です。
| 機関名 | 民間企業 (伸び率) | 公務員 (伸び率) | ヘッドライン |
| 日本総研 | 42.4万円 (+2.6%) | 73.3万円 (+12.3%) | 今冬の賞与を展望すると、民間企業の支給総額は前年比+2.5%と、昨年から伸びが低下するものの、冬季賞与としては5年連続で増加する見通し。支給対象者数は横ばい圏にとどまる一方、一人当たり支給額は同+2.6%と増勢を維持。 |
| みずほリサーチ&テクノロジーズ | n.a. (+2.2%) | n.a. (+6.7%) | 米国の関税影響のなかで企業業績が持ちこたえていること、人手不足感の強まりが賃金上昇圧力を生んでいることから、冬季ボーナスは増加傾向を維持する可能性大 |
| 三菱UFJリサーチ&コンサルティング | 42.3万円 (+2.3%) | 78.0万円 (+19.4%) | 2025年冬の民間企業(調査産業計・事業所規模5人以上)のボーナスは、前年比+2.3%と5年連続で増加が見込まれる。企業業績の改善と人手不足の深刻化を背景に、夏に続き、2%台の伸びとなる見込み。 |
| 第一生命経済研 | n.a. (+2.6%) | n.a. | 物価高により、家計に賃上げの恩恵が感じられないことへの問題意識は高まっており、企業も物価高への配慮を行わざるを得ないことに加え、人手不足感が強まっていることも人材確保の面から賃上げに繋がったとみられる。夏のボーナス増に続き、冬についてもこの交渉結果が反映される形で増加が予想される。 |
今年前半の経済上の最大の懸念は米国の通商政策であり、いわゆるトランプ関税でしたが、従来からは少し高率の関税という結果となったとはいえ、日米間で関税交渉が決着したことで先行きの不透明感はかなり和らぎましたし、何よりも、企業業績が十分に持ちこたえています。逆にいえば、価格転嫁が進みすぎていて、企業の内部努力によるコストアップの吸収が不十分だという気にもなります。そして、人口減少下での人手不足は深刻の度合いを増しています。先進国の中でh,我が国はひときわデジタル化やAIの活用が遅れており、人手不足解消に役立っていません。我が国賃金システムはボーナスという伸縮性に富んだ項目があり、それによって人材を引き付けている部分があります。また、1人当たりボーナスが増加するとともに、ボーナス支給対象労働者数も増加し、支給総額はそのかけ算で増えることになり、消費を下支えする効果が期待されます。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。
本日、内閣府から9月の景気ウォッチャーが、また、財務省から8月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+0.4ポイント上昇の47.1、先行き判断DIも+1.0ポイント上昇の48.5を記録しています。経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+4兆4833億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。
街角景気10月は6カ月連続改善、判断を上方修正 万博・株高寄与か
内閣府が11日公表した景気ウオッチャー調査によると、街角の人々からヒヤリングした景気の現状判断指数(DI)は前月比2.0ポイント上昇の49.1となった。景気の良し悪しの境目とされる50は20カ月連続で下回ったものの、6カ月連続で改善し、基調判断は前月の「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」に上方修正した。
インバウンド需要や猛暑一服、株高などが好影響を及ぼした可能性があると内閣府では推察している。
先行きの判断については「価格上昇の影響等を懸念しつつも、持ち直しが続くとみられる」に表現を変更、米関税に関する文言を削除した。
指数の前月比の内訳は、企業動向関連が2.7ポイント、家計関連が2.1ポイント、雇用関連が0.2ポイントそれぞれ改善した。
地域別では全国12地域中10地域が前月比で改善した一方、北陸と沖縄は悪化した。
回答者のコメント内に登場するキーワード別検索では、インバウンドや万博、株などが前月比で増えた。
回答者からは「万博の盛り上がりに合わせて来客数が大きくのびた」(近畿の百貨店)、「株高などの影響が大きく、富裕層中心に消費に力強さが戻ってきている」(北関東の百貨店)、「インバウンドがかなり増えてホテルの稼働率が上がっている」(南関東の住宅販売会社)などのコメントがあった。
もっとも物価高などを懸念する声は引き続き多い。「米卸値の下落が見えず、家計の節約志向は年末に向けますます強まる」(沖縄のスーパー)、「物価上昇で日々の生活に精一杯で外食までに足が向かない」(東海の一般レストラン)などのコメントがあった。
経常黒字9月は4.48兆円で過去最大、海外子会社からの配当金が増加
財務省が11日に発表した国際収支速報によると、9月の経常収支は4兆4833億円の黒字だった。黒字額は比較可能な1985年の統計開始以来、過去最大を更新した。第一次所得収支の黒字幅拡大が全体を押し上げた。
ロイターが民間調査機関に行った事前調査では、予測中央値は2兆4677億円程度の黒字だった。
投資に伴う利子や配当の動向を示す第一次所得収支が4兆9497億円の黒字で、前年同月から2兆2343億円増加した。財務省によると、日本企業の海外子会社からの配当金が増えた。第2次所得収支は4878億円の赤字だった。
貿易・サービス収支は214億円の黒字だった。前年同月から6971億円増加し、黒字に転換した。
長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

景気ウォッチャーの現状判断DIは、最近では4月統計で前月から大きく▲2.5ポイント低下して42.6となった後、5月統計で反発して+1.8ポイント上昇の44.4、そして、本日公表の10月統計の49.1まで6か月連続で上昇を記録しています。先行き判断DIも同様に上昇を見せており、10月統計は前月から+4.6ポイント上昇の53.1となっています。先行き判断DIについても、現状判断DIとともに6か月連続の上昇です。本日公表の10月統計の季節調整済みの現状判断DIをより詳しく前月差で見ると、家計動向関連のうちでは、小売関連が+2.5ポイント、サービス関連が+2.1ポイント、それぞれ上昇した一方で、住宅関連が▲1.2ポイント、飲食関連が▲0.2ポイント、それぞれ低下しています。住宅関連については、9月統計で前月から+5.3ポイント上昇した反動もあり、ならしてみれば、前々月の8月統計から+4.1ポイントお上昇していますので、それほど悪化したという印象ではありません。企業関連では、製造業が+2.5ポイント、非製造業も+3.1ポイント、それぞれ上昇しています。製造業でも、米国の通商政策の影響が一巡した可能性が十分あります。また、家計関連と企業関連とは別の雇用関連は前月から+0.2ポイントと、小幅に上昇しています。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を5月から「景気は、持ち直しの動きがみられる。」と上方修正したのですが、10月統計では「景気は、持ち直している」と半ノッチ上方修正しました。ただし、国際面での米国の通商政策とともに、国内では価格上昇の懸念は大いに残っていて、今後の動向が懸念されるところです。景気判断理由の概要について、引用した記事にもいくつかありますが、内閣府の調査結果の中から、家計動向関連に着目すると、「政権が代わり、期待感で一杯である。来街者などとも話すが、とても期待をしており、将来に幾らか希望が出てきた様子である(東京都)。」といった新政権への期待を上げた意見を見かけました。

続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。引用した記事にもあるように、ロイターによる市場の事前コンセンサスは+2兆5o00億円程度の黒字でしたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、同程度の見込みでしたので、実績の+4.5兆円近い黒字はやや上振れた印象です。季節調整していない原系列の統計では、引用した記事にもあるように、貿易・サービス収支が+200億円を少し上回るくらいの黒字ながら、第1次所得収支が5兆円近い黒字を計上しています。何といっても、日本の経常収支は第1次所得収支が巨大な黒字を計上していますので、貿易・サービス収支が赤字であっても経常収支が赤字となることはほぼほぼ考えられません。はい。トランプ関税によって貿易収支や貿易・サービス収支の赤字が拡大したとしても、第1次所得収支で十分カバーできると考えるべきです。ですので、経常収支にせよ、貿易・サービス収支にせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はありません。エネルギーや資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常収支や貿易収支が赤字であっても何の問題もない、逆に、経常黒字が大きくても特段めでたいわけでもない、と私は考えています。ただ、米国の関税政策の影響でやたらと変動幅が大きくなるのは避けた方がいいのは事実です。

今日は、我が家の結婚記念日です。
今年は結婚30周年になります。結婚記念日はめでたい限りですが、30年ですのでめでたさもひとしおです。
忘れないうちにポストしておきます。
本日、内閣府から9月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+1.0ポイント上昇の108.0を示した一方で、CI一致指数は+1.8ポイント上昇の114.6を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから報道を引用すると以下の通りです。
景気動向一致指数9月は1.8ポイント上昇、3カ月ぶり改善=内閣府
内閣府が10日公表した景気動向指数速報によると、足元の動きを示す一致指数は前月比1.8ポイント上昇の114.6と3カ月ぶりに改善した。
一致指数から機械的に決まる基調判断は「下げ止まりを示している」で据え置いた。
一致指数を構成する各種経済指標のうち、投資財出荷指数や鉱工業生産指数、卸売販売額などが指数を押し上げた。半導体製造装置やフラットパネル製造装置の生産・出荷、電子部品の東南アジア向け輸出入増などが寄与した。
先行指数も前月比1.0ポイント上昇の108.0と5カ月連続で改善した。最終需要財在庫率指数やマネーストック、新設住宅着工床面積などが押し上げ要因だった。化粧品など非耐久消費財の在庫率改善などが寄与した。
いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

9月統計のCI一致指数は、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、前月から+1.7ポイントの改善が見込まれていましたので、実績の+1.8ポイントの上昇はやや上振れた印象です。また、3か月後方移動平均は3か月連続の下降で前月から▲0.44ポイント下降し、7か月後方移動平均も前月から▲0.35ポイント下降し、これまた、3か月連続の下降となっています。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、5月統計から「下げ止まり」に下方修正されましたが、今月9月統計でも「下げ止まり」に据え置かれています。私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、それはそれで正しいと今でも考えていますが、米国経済に関する前提が怪しくなってきた印象で、トランプ政権が乱発している関税政策により、インフレの加速と消費者心理の悪化の両面から消費を押し下げる効果が強いため、米国経済がリセッションに陥る可能性も無視できない、と考えています。加えて、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めは景気を下押しすることが明らかであり、引き続き、注視する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.37ポイントがもっとも大きく、次いで、生産指数(鉱工業)の+0.36ポイント、商業販売額(卸売業)(前年同月比)が+0.35ポイント、などが上昇の方向で寄与しています。マイナス寄与は、耐久消費財出荷指数と有効求人倍率(除学卒)だけで、ともに▲0.05ポイントに達しない小さなマイナス寄与です。ついでに、前月差+1.0ポイントと上昇したCI先行指数の上昇要因も数字を上げておくと、最終需要財在庫率指数が+0.57ポイント、マネーストック(M2)(前年同月比)が+0.37ポイント、新設住宅着工床面積が+0.28ポイントなどとなっています。高値をつけていた株価は少し下げ始めていて、やや先行き不透明な動きを続けていますが、景気動向指数の先行指数に含まれていますし、今後の景気動向を占う上で何らかの参考になるかもしれません。
ミスター・ドーナツでポケモン・ゲットです。
左三川郁子『ポスト非伝統的金融政策』(日本経済新聞出版)を一気に読み切ってしまいました。今週土曜日の読書感想文で取り上げます。
今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、肥後雅博『経済統計への招待』(新世社)は2部構成であり、第1部が総論として経済統計の作成方法と利用方法に着目し、各論として第2部で経済統計の利用方法を取り上げています。私なんかが、もしも、本書を教科書にした授業をすれば、学生諸君は退屈で仕方ないだろうと思います。酒井隆史・山下雄大[編著]『エキストリーム・センター』(以文社)では、フランス革命史がご専門のフランスのパリ第一大学のピエール・セルナ教授のいうエキストリーム・センター=極中道が、実は極右に甘く、場合によっては共謀すらしかねない存在として、いくつかの論考や対談を収録しています。伏尾美紀『百年の時効』(幻冬舎)は、昭和100年を意識したミステリであり、1974年(昭和49年)に東京の佃島で起こった一家4人殺傷事件を起点に、昭和初期の満州開拓団に源流を求め、令和となった現在の時点から解き明かされます。謎解きだけでなく、歴史的な暗い影が言及されています。逢坂冬馬『ブレイクショットの軌跡』(早川書房)では、自動車のブレイクショットの軌跡をたどりつつ、ヘッジファンド会社副社長、板金工、不動産会社営業、投資塾の経営者や講師、さらにその背景にいるさまざまな人々の遍歴から、日本だけでなくアフリカまで幅広くストーリーが展開します。野宮有『殺し屋の営業術』(講談社)では、殺し屋の殺人現場をセールスで訪れてしまった営業マンが、口封じで殺されるのを回避するため、きわめて高度な営業能力を殺し屋のために駆使し、ライバルともしのぎを削りつつ、上部組織の暴力団へのノルマ達成の目標に立ち向かいます。マーティン・エドワーズ[編]『本好きに捧げる英国ミステリ傑作選』(創元推理文庫)は、大英図書館の出版部門が手がけるブリティッシュ・ライブラリ・シリーズの1冊として、ビブリオミステリ bibliomystery という本や作家に関する英国ミステリを17話収録したアンソロジーです。
今年2025年の新刊書読書は1~10月に261冊を読んでレビューし、11月を迎え先週の6冊と今週の6冊を加えて合計273冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。
まず、肥後雅博『経済統計への招待』(新世社)を読みました。著者は、東京大学経済学部教授であり、その前は日銀のご出身です。私が国家公務員を定年退官して関西に移り住んだ際には、日銀京都支店長であったと記憶しています。公務員のころ、私は総務省統計局の勤務経験があるのですが、本書の著者も日銀から総務省に出向していたことがあり、私はいっしょにシェアリング・エコノミーの計測という仕事に取り組んだ記憶があります。統計局出向時に消費統計の担当課長だったとはいえ、私は根っからの統計ユーザなのですが、本書の著者は日銀でいくつかの統計作成の実務にも携わっていたと承知しています。本書は2部構成であり、第1部が総論として経済統計の作成方法と利用方法に着目し、各論として第2部で経済統計の利用方法を取り上げています。東大の3-4年生向けのテキストであったような記述を見かけたのですが、私はそれほど教師の力量がないので、もしも、本書を教科書にした授業を担当したりすれば、学生諸君は退屈で仕方ないだろうと思います。特に、第1部では、統計作成におけるテクニカルな内容が満載で、統計作成方法による分類の調査統計、業務統計、加工統計とか、作成主体による公的統計と民間統計とか、学生諸君の興味を向けてもらう努力をがんばらないと、私なんぞでは苦しそうな気がします。ただ、第2部の各論編ではマクロ経済学のそれぞれの部門ごとに、企業、労働、家計、物価、対外バランス、財政・金融と進んで、最後に国民経済計算の章を置いていますので、統計利用者への一定のガイダンスにはなるのだろうという気はします。日本の公的統計は、総務省の統計委員会でいろいろと議論されていますが、良し悪しは別として、私の印象ではSNA統計至上主義に見えます。すなわち、正確なGDPを算出するために、その基礎統計である各統計を整備する、というのが大きな眼目のひとつです。その意味で、本書ではSNA統計をラストの章に置いていて、順次、各統計を解説するという構成も一案かもしれません。統計を読み解いたりする業務に携わっているビジネスパーソンも本書のレベルまで詳細を収録していると、役に立つ人は少なくないものと思います。逆に、大雑把に経済統計を概観したいビジネスパーソンや1-2年生といった大学生でも低学年のうちは、本書で本格的に統計を勉強するのは、あまりに詳細すぎて少しまごつくかもしれません。私は来年度に2年生向けに授業を担当することになり、英文リポートの輪読か、統計指標を基礎にしたプレゼン資料の作成で迷っているところです。ただし、本書を基にした授業は私にはムリそうな気がしています。
次に、酒井隆史・山下雄大[編著]『エキストリーム・センター』(以文社)を読みました。編著者おふたりは、大阪公立大学教授で、ご専門は社会思想や都市史、および、中央大学ほか非常勤講師で、ご専門は政治哲学や政治思想史だそうです。本書のタイトルである「エキストリーム・センター」あるいは極中道、または省略したエキセンとかは、フランス革命史がご専門で、フランスのパリ第一大学のピエール・セルナ教授の著書「21世紀の最初の四半期にあって極中道をいかに定義すべきか」L'extrême centre ou le poison français などに由来するようです。ただ、「センター」とはいいつつも、偏向や偏りを廃するという意味での中道 centre であり、左右両極のポピュリズムを排するといった志向から、実は、エキストリーム・センターは極右に甘く、場合によっては共謀すらしかねない存在と考えられています。ですので、中道 centre を標榜しながらも、実質的には既存体制の延長・強化を通じてファシズム的・抑圧的な政治を準備したり支えたりする構図を批判することを本書は目的としています。そういった観点から、エキストリーム・センターを発案したセルナ教授の小論をはじめとして、多くの論文や対談が寄せられて、本書に収録されています。フランス発祥の概念ながら、今となっては米国のトランプ政権や大陸欧州などで極右ないし極右ポピュリズム政権が成立しているのは、多くの識者が認めているところだと思います。本書では、繰り返しになりますが、セルナ教授の寄稿をはじめとして、そもそものエキストリーム・センターに関する解説、ファシズムの準備としてのエキストリーム・センター論、フェミニズムとの関連性、英国のEU離脱=BREXIT、大阪・関西万博におけるパソナ・パビリオンの脱政治実践、というか、パソナ・パビリオンにおけるパソナの不存在、などなどの観点からエキストリーム・センターが論じられています。そのあたりの詳細は読んでみてのお楽しみです。最後に私の方から付け加えておくと、思い出したのが、はるか昔の民社党の政治姿勢です。これまた、さらに昔の社会党から分派した右派勢力だったのではないか、と不確かながら記憶していますが、この民社党というのは、まさに「左右の全体主義」に反対し、おそらく、当時の与党自民党よりも右派に位置する政党ではなかったか、と思います。本書では、フランス政治史や思想史が長々と編集部に対して語られるていたりして、何とも難解な部分を含んでいるのですが、ただ、従来からの右派と左派、あるいは、古い見方の保守と革新、といった対立を中和・緩和して、分断を抑止するかのごとき中道は、安易に信頼を置くべき対象であるかどうか、改めて考えるに当たって、多くの読者に大いに参考になる読書だと私は考えます。
次に、伏尾美紀『百年の時効』(幻冬舎)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、『北緯43度のコールドケース』により第67回江戸川乱歩賞を受賞してデビューしています。そのデビュー作とその続編である『数学の女王』まで私は読んでいます。ただ、第3作の『最悪の相棒』は未読ですが、この『百年の時効』がとてもいい出来だと感じましたので、さかのぼって読んでみようかと考えているところです。私が見ている範囲では、この『百年の時効』は最近のSNSの読書アカウントからもっとも多く取り上げられている本のひとつだと思います。タイトル通りに昭和100年を意識したミステリ作品です。起点となる事件は、1974年(昭和49年)に東京の佃島で起こった一家4人殺傷事件であり、葛飾警察署に所属する28歳の藤森菜摘が兜町の異端児と呼ばれた相場師の孤独死に駆けつけるところからストーリーが始まります。藤森菜摘は警視庁本庁に呼び出されて、捜査一課管理官草加文夫から1年を期限に佃島事件の再捜査を命じられます。孤独死した人物は佃島事件の重要参考人の1人でした。藤森菜摘は先輩刑事の捜査ノートなどを引き継いで捜査に当たり、小説のストーリーとしては、1950年(昭和25年)に起きた函館の惨殺事件、横須賀にあった児童養護施設の火事、さらに、その背景にあった昭和初期の満州開拓団の人間関係などなど、単行本で550ページを超える大作にふさわしく時代的にも、地理的にも、大きなスケールで展開されます。さまざまな事件の真犯人を探るだけでなく、新たに技術的に可能となった科学的な捜査手法も導入され、共犯者、動機、証拠などなど幅広い要素が盛り込まれた重厚なミステリに仕上がっています。単なるミステリの謎解きではなく、1974年に起きた過激派による三菱重工ビル爆破事件やオウム真理教の一連の事件をはじめ、実際の歴史的な出来事が暗くて影の部分の背景として、仮名や偽名を使うことなく実名で言及され、事実関係が少しずつ明らかになっていきます。最後には、そういったものがすべて藤森菜摘により明らかにされ、読者もおそらくは大いに納得させられるのですが、真実が明らかになったからといっても、決して「それでよかった」という安易な結末ではありません。ある意味で清々しい結末ながら、重い読後感が残ります。最後に、この作者のデビュー作『北緯43度のコールドケース』を読んだ私の感想は、「いっぱいのトピックを詰め込み過ぎたので、謎解きを主眼とするミステリ小説としてはいいとしても、書物、というか、小説としてはそれほど評価できなかった」というものでした。要するに、詰め込み過ぎ、ということです。他方で、本書のような長い歴史を対象にしたミステリは、この作者に向いていそうな気がします。
次に、逢坂冬馬『ブレイクショットの軌跡』(早川書房)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、2021年に『同志少女よ、敵を撃て』で第11回アガサ・クリスティー賞を受賞してデビューし、翌2022年にも同じ作品で本屋大賞しています。私はこのデビュー作は読んでいます。デビュー作が第2次大戦時の欧州を舞台にしていたのに対し、本書は現在の日本が舞台になっています。本田昴という自動車会社を姓と名の両方に持つ若者が、まさに、自動車会社の期間工の2年と11か月に渡る就業期間を終えたところからストーリーが始まります。タイトルのブレイクショットというのは、自動車の車名であるとともに、ビリヤードを始める最初のショット、という意味もあるとストーリーの中で明らかにされています。有吉佐和子『青い壺』の自動車版と申しましょうか、そういった人の手を渡り歩く自動車ブレイクショットを取り巻く人々の遍歴となります。右ハンドルの国内使用者ですので、基本的に、地理的な舞台は日本国内なのですが、大きく改造されて、「ホワイトハウス」という名でアフリカ紛争地帯に送り込まれたりもしているようです。単行本で600ページ近い大作ですので、いろんな登場人物が多彩なストーリーを紡ぎ出しています。あらすじは難しいながら、1章ではヘッジファンドの副社長としてマネーゲームを演じる若手経営者を中心にヘッジファンド社長のスキャンダルの対処にスポットが当てられます。2章では、板金工として善良な仕事を心がけながらも偽装修理に接してしまう男を描きます。3章では、ヘッジファンド副社長と板金工のそれぞれの息子がサッカーで交流しつつ、板金工が運転中の事故で高度脳障害になり、その息子が稼ぎを得るために始めた投資塾の講師の仕事に着目します。4章では、ブラックな不動産会社に務める営業担当者がその投資塾をカモの猟場にしようと企みつつ、逆に、深みにはまってゆきます。5章以降は読んでみてのお楽しみということで、ラストは、キチンとした読後感のいい終わり方をします。でも、途中では、反社勢力がここまで活動を広げているのか、不動産の営業ってやっぱりこうなのか、と思わせる展開もあります。ボリューム的にいっても、大作、力作ですし、終わり方も「善良」なラストなのですが、私には何か違和感が残りました。70歳近い現在でも、公務員や教師を長く務め、経済社会の闇の部分を知らず、社会の闇の部分がホントにこうなのか、という実感がないせいかもしれません。
次に、野宮有殺し屋の営業術『講談社』(講談社)を読みました。著者は、1993年福岡県生まれで長崎大学経済学部を卒業し、2018年第25回電撃小説大賞で選考委員奨励賞を受賞し作家デビューしています。私が長崎大学経済学部で日本経済論を教えていたのは2008-10年ですので、私が長崎を去った後に大学生になったという年回りかと思います。本作品は今年2025年の第71回江戸川乱歩賞受賞作です。ということで、主人公は鳥井一樹であり、防犯カメラの訪問販売員、営業をしていますが、防犯カメラの前にもさまざまな会社で多彩な商品の営業を担当し、常に営業ノルマを達成してきた凄腕の営業マンです。しかし、その完璧さ故に満たされない虚しさも同時に感じています。そんなある日、夜遅いアポイント先で顧客の死体を発見してしまいます。鳥井は殺人の目撃者ですので口封じに殺されそうになりますが、持ち前の会話術を駆使して、暴力団巣ケ谷傘下の殺人請負会社である極東コンサルティングの営業マンとして、上部組織に上納するノルマ、2週間で2億円という絶望的な金額を達成する営業活動をすると申し出て、命ばかりは助けられます。そして、その言葉通りに抜群の営業能力でノルマ達成に突き進みます。極東コンサルティングは社長で営業や渉外をやっている風間のほか、殺し屋が3人いて、実行役の耳津、さらに、同じく実行役の元暴力団の鉄砲玉で年配の樫尾、そして、引きこもりながらテック関係に詳しい籠原、となります。最後の籠原だけが女性です。ミステリですので詳細は書きませんが、後半ではライバル組織であり、組織力や大きさでは極東コンサルティングの上部組織である巣ケ谷とは比べものにならない日本でも最大級の暴力団である周防商会の殺人請負会社のコンビと対決することになります。殺し屋の営業マンとしてだけではなく、いかにも行動経済学を駆使して顧客に大したこともない商品を売り込む営業の真髄が楽しめます。心理学のジークムント・フロイトの快楽原理、あるいは、ノーベル経済学賞も受賞したダニエル・カーネマンらのプロスペクト理論などが、なかなか正確に言及されていたりします。もちろん、営業活動一般につかえるテクニックですので、違法スレスレのマルチ商法や明確に違法な詐欺にも応用されているのは広く知られている通りです。最後に、私の感想をしょうもなくも2点だけ書いておきたいと思います。まず、終わり方が、これでいいと感じる読者もいれるのでしょうが、周防商会のライバルが盛んに口にする「バカンス」まで広げてもよかったんではないか、と私は感じました。もうひとつ、さらにしょうもない点で、初めに登場した殺し屋のミミズは「耳津」という名だと判ったのですが、情報屋のカラスは最後までカラスのままでした。コチラも漢字の名が欲しいと感じてしまいました。
次に、マーティン・エドワーズ[編]『本好きに捧げる英国ミステリ傑作選』(創元推理文庫)を読みました。編者は、1955年英国生まれのミステリ作家・評論家であり、評論『探偵小説の黄金時代』(国書刊行会)でMWAアメリカ探偵作家クラブ賞、アガサ賞などを受賞しており、英国推理作家協会(CWA)の会長をつとめ、2020年には英国推理作家協会賞ダイヤモンド・ダガー(巨匠賞)を受賞しています。本書の英語の原題は Murder by the Book であり、2021年の出版です。もともとは、大英図書館 British Library の出版部門が手がけるブリティッシュ・ライブラリ・シリーズの中の1冊として出ています。編者の序文を別にしても、タイトル通りに、本や作家に関する英国ミステリを17話収録したアンソロジーです。さすがに、収録作品が多過ぎるので、作品タイトルや作者は出版社のサイトをご覧いただくことで代替したいと思います。作者と日本語タイトルと英語のタイトルが一覧されています。本に関するミステリはビブリオミステリ bibliomystery というそうで、英国ミステリでもなければ、短編でもないところながら、私なんかはウンベルト・エーコの『薔薇の名前』を思い出したりします。本書は三題噺ではないですが、「本」=ミステリ、「英国」、「短編」というカテゴリーで編まれています。各短編には、扉のウラに、詳細な作者の紹介が編者から寄せられています。収録順もよく考えられているように、私は感じました。最初の方では軽めのミステリが多く、徐々に難しげなミステリーになり、5話目には長めのフィリップ・マクドナルド作品が配置されています。全部は無理なので、私の印象に残った短編をいくつか取り上げておきます。第2話のE.C.ベントリー「救いの天使」では、死んだ富豪が残したメッセージを庭園から読み取ります。第4話のS.C.ロバーツ「メガテリウム・クラブの奇妙な盗難事件」はホームズのパスティーシュであり、ディオゲネス・クラブと双璧をなす変わり者のクラブでなくなった本をホームズが探します。第5話のフィリップ・マクドナルド「殺意の家」はこの作者を代表する短編のひとつといえ、お互いに殺意を持っている結婚9年目のボーデン夫妻の犯罪サスペンスで、ラストの終わり方にやや底意地悪いものを感じます。第9話のロイ・ヴィカーズ「ある男とその姑」は2度目の妻の姑を殺す事件をテーマにした倒叙ミステリで、動機から犯人の性格に特異なものを感じます。第12話のヴィクター・カニング「性格の問題」は、作家の妻が作家になって夫より売れるようになったことから、夫が妻を完全殺人で殺すことを考えます。第14話のジョン・クリーシー「名誉の書」では、主人公ががボンベイで友人となったバブラオ・ムーシンという男が絵はがき売りから詳細を発揮して手広く本屋を経営するようになりますが、長男のクリシュナとの関係から悲劇を迎えます。最終話のナイオ・マーシュ「章と節」では、アレン警視の不在中、妻のトロイを訪れた古本屋が警視なら興味を持ちそうな聖書を持ち込み、古本屋とトロイが調査を進めることになります。英語ではなく、翻訳では謎解きを理解するのが難しそうな気がします。私自身は、E.C.ベントリー「救いの天使」が好みなのですが、一般的なミステリ読者であれば、ロイ・ヴィカーズ「ある男とその姑」やナイオ・マーシュ「章と節」が高い評価を受けるような気がします。
本日、総務省統計局から9月の家計調査の集計結果が公表されています。統計のヘッドラインとなる2人以上の世帯消費支出の前年同月比は、実質+2.3%の増加、名目+5.5%の増加となりました。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから報道を引用すると以下の通りです。
9月の実質消費支出1.8%増 5カ月連続プラス、車購入費押し上げ
総務省が7日発表した9月の家計調査によると、2人以上世帯の消費支出は30万3214円だった。物価変動の影響を除いた実質で前年同月比1.8%増加した。5カ月連続でプラスとなった。自動車の購入費などが押し上げた。
QUICKが事前にまとめた予測中心値は2.5%増だった。
自動車等関係費が19.8%上がった。総務省の担当者は「中古車や軽自動車への支出が増加した可能性がある」と指摘する。2024年は台風などの影響で外出機会が減っており、その反動が出たとみられる。
10月からふるさと納税の仲介サイトでポイント付与が禁止となったことに絡み、9月は駆け込み利用によって寄付金が149.1%増加した。
食料は0.5%減と、4カ月連続で減った。菓子類が6.1%減少したほか、玉ねぎやネギなど生鮮食品の価格が上昇し、節約傾向に拍車をかけている。
直近は支出が減っていたコメは15.5%増と5カ月ぶりに増加した。24年8月は台風や南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)などが続き、災害に備えるための購入が増えた。翌9月は購入量が減った影響で25年9月は前年同月比で増加に転じた。
勤労者世帯の実収入は51万935円だった。名目で3.4%増となった。実質は持ち家の家賃換算分を除くベースで前年同月から横ばいだった。
いつもの通り、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、家計調査のグラフは下の通りです。上のパネルは、名目及び実質の消費支出の前年同月比の推移であり、下は季節調整済みの名目指数及び実質指数です。いずれも影をつけた期間は景気後退期です。

まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは実質消費支出の前年同月比が+2.5%と予想されていました。実績の+1.8%はやや下振れした印象ながら、もともとが振れの大きな統計ですのでサプライズというほどのことはありません。品目別に私が注目していたのは食料なのですが、前年同月比で見て名目+6.2%増、実質▲0.5%減でした。食料支出の実質減少は4か月連続となっており、明らかに、インフレによる食料需要の減退が見られます。日本の食品企業はJTや酒類会社を別にすれば、かなり増収増益に企業が多いと私は感じているのですが、メディアなどでは「便乗値上げ」のの意見はまったく聞こえてきません。消費者庁の便乗値上げのweb窓口が設置されたのが2022年4月ですから、そろそろいろんな数字が出てきてよさそうに感じているのですが、大手メディアで報じられていないような気がするのは、私だけなのかもしれません。よく実体が判らない自動車等関係費などの交通・通信が実質で+11.1%伸びて、寄与度も+1.64%に上り、9月統計のほとんどを占めています。振れの大きな費目ですので、どこまでサステイナブル化は不明です。
上のグラフのうちの下のパネルの季節調整済みの指数を見ても、明らかに、2022年からのインフレ局面から停滞が始まっています。名目指数が伸びているのはインフレによる価格上昇によるものであり、百貨店などのインバウンド消費を別にすれば、国内家計による実質消費は停滞していると考えるべきです。
本日、厚生労働省から9月の毎月勤労統計が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、賃金指数について季節調整していない原系列で見て、名目の現金給与総額は29万7145円と前年同月比+1.9%となったものの、消費者物価上昇率を下回ったため実質賃金は前年同月比で△1.4%減と、9か月連続のマイナスを記録していますまず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから報道を引用すると以下の通りです。
9月実質賃金1.4%減、9カ月連続マイナス 物価に賃上げ追いつかず
厚生労働省が6日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で1.4%減った。賃金は伸びているものの物価上昇に届かず、9カ月連続のマイナスとなった。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は29万7145円と1.9%増えた。基本給にあたる所定内給与は26万8653円で1.9%伸びた。2025年の春季労使交渉は2年連続で高水準の賃上げにつながった。賃上げの広がりが所定内給与を押し上げたとみられる。
総実労働時間は134.2時間と0.4%減った。就業形態別では一般労働者が0.1%増の159.4時間、パートタイム労働者が1.1%減の78.4時間だった。
実質賃金の計算に使う9月の消費者物価指数(持ち家の家賃換算分を除く総合)の上昇率は3.4%だった。8月は3.1%で伸び率は拡大した。
コメ類の上昇率は49.2%で、8月の69.7%より下がった。昨年の秋から今年の春にかけて流行した鳥インフルエンザの影響などで鶏卵は15.2%上昇した。
厚労省は3月分から実質賃金の算出に消費者物価の総合指数を使う新方式を導入した。新方式による9月の実質賃金は1.0%減と、従来方式よりも下げ幅は0.4ポイント縮んだ。
いつもの通り、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、毎月勤労統計のグラフは下の通りです。上のパネルは名目及び実質の賃金上昇率の前年同月比であり、下は景気に敏感な製造業における所定外労働時間指数の推移です。いずれも影をつけた期間は景気後退期です。

まず、賃金については、9か月連続の前年同月比マイナスというのもさることながら、変動の大きな部分を除いて、「きまって支給する給与」を見ると、もっと延々とマイナスが続いている実体があります。すなわち、よくも悪くもボーナス制度が広く普及した日本の賃金システムの中で、現金給与総額の実質の伸びがプラスになったのは直近では昨年2024年11-12月です。要するに、業績見合いのボーナスが伸びて昨年末に前年比プラスになったわけで、「きまって支給する給与」はずっと長く実質マイナスが続いているわけです。しかも、今年8-9月はともに名目の伸びで+1.8%ですので、日銀物価目標を下回っています。すなわち、現在のインフレが一応の収束を見て、日銀物価目標の+2%まで落ち着いたとしても、今くらいの賃上げが続いたとすれば、勤労者の「きまって支給する給与」については前年比マイナスが続くことになりかねません。ですので、足元の物価上昇に見合う賃上げというのは労働者からすれば当然の要求としても、もしも、もしもそれが達成できないとしても、少なくとも+2%程度の賃上げは中小企業も含めて、おしなべて必要である点は理解されなければなりません。日本的な雇用慣行である年功賃金のもとで、ベースアップがなくても定期昇給によって、個別の労働者の昇給は確保されているように見えなくもないのですが、物価上昇に応じて労働者の生活を守るだけでなく、マクロの消費を喚起するために、ベースアップが必要と考えるべきです。なお、製造業の所定害労働時間、いわゆる残業時間についても景気回復局面の後半に入ってジワジワと減少傾向にあり、給与総額の伸び悩みに拍車をかけています。
最後に、本日の毎月勤労統計では夏季賞与についての公表もあり、5人以上規模の事業所で426,337円、前年から+2.9%増、30人以上では496,889円、+3.8%増となっています。
先週10月27日、帝国データバンクから上場企業を対象に「今年の猛暑」影響に関する調査の結果が明らかにされています。pdfでもアップロードされています。まず、帝国データバンクのサイトからSUMMARYを引用すると下の通りです。
SUMMARY
2025年の猛暑による影響や対応を開示した上場企業は183社にのぼり、そのうち114社が業績や新商品の開発でプラス効果を公表した。影響を受けた企業の総数は前年の102社から79.4%増加し、プラス効果の企業も同63社から81.0%増加した。他方、「マイナス」影響を受けた企業は69社で、前年の39社から76.9%増加し、猛暑による外出減少で飲食店やアウトドア商材の苦戦が目立った。猛暑需要の取り込みには、同じ業態でも明暗が分かれた。
続いて、帝国データバンクのサイトから、猛暑による影響を開示した」企業、その内訳と業種別のプラスの影響のグラフは下の通りです。
プラスの効果が昨年2024年63社から、今年2025年114社に増加している一方で、マイナスの影響も39社から69社に増加しており、猛暑の影響についてはプラスが60%あまりで、マイナスも40%足らずという構図は変化ありません。ただ、今年の猛暑の方が昨年よりも厳しかったので社数がどちらも増加しています。プラスの効果のうち小売業の比率が高いのは理解できるところです。リポートでも、「夏物衣料を中心としたアパレル製品や冷感商品、エアコンなどの空調機器、ハンディファンなど猛暑対策グッズの需要が急増した」と指摘しています。清涼飲料水やアイスクリームもそうなんだろうと思います。加えて、帝国データバンクでは、ショッピングセンターやスーパーなどエアコンの効いた屋内施設を開放することで、集客力の向上、滞在時間の長期化などから消費を促す効果があった可能性も示唆しています。製造業でも、エアコン関連のほか、ボディケア製品、飲料水、耐熱・遮光製品など、幅広く効果が見られたと報告されています。
全米経済調査会(NBER)から2世紀に渡るイノベーションはどのようなスキルの労働を必要としたかについての研究論文 "Technology and Labor Markets: Past, Present, and Future; Evidence from Two Centuries of Innovation" が明らかにされています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。
次に、NBERのサイトからABSTRACTを引用すると以下の通りです。
ABSTRACT
We use recent advances in natural language processing and large language models to construct novel measures of technology exposure for workers that span almost two centuries. Combining our measures with Census data on occupation employment, we show that technological progress over the 20th century has led to economically meaningful shifts in labor demand across occupations: it has consistently increased demand for occupations with higher education requirements, occupations that pay higher wages, and occupations with a greater fraction of female workers. Using these insights and a calibrated model, we then explore different scenarios for how advances in artificial intelligence (AI) are likely to impact employment trends in the medium run. The model predicts a reversal of past trends, with AI favoring occupations that are lower-educated, lower-paid, and more male-dominated.
大規模言語モデル(LLC)、要するに、大雑把にAIと近い処理能力を有する技術を用いて、労働が技術にどの程度エクスポージャーされているかを指標化し、職業場別雇用と組み合わせて、技術進歩が労働需要をいかに変化させたかを検証しています。その結果、以下の3タイプの職業への需要が高まったことを確認しています。
これらをグラフで実証しています。下のグラフは論文から Figure 4: Technology Exposure and Shifts in Labor Demand Across Occupations を引用しています。

Osaka Jazz Channnel のピアノトリオによる Alice in Wonderland です。三拍子のワルツですので、伝統的なジャズではありませんが、Tale Five などで有名な Dave Brubeck カルテットによってい始められた変拍子ジャズの名曲といえます。当然ながら、もともとは、ディズニーのアニメ「ふしぎの国のアリス」の主題歌です。ビル・エヴァンスなどのピアニストのトリオで取り上げられていますが、私は不勉強にして、ホーンの入ったコンボでの演奏は耳にしたことがありません。なお、演奏は、ピアノが柳原由佳、ベースが千北祐輔、ドラムスが久家貴志となっています。昨年2024年8月の収録です。

2025 APEC Leaders' Gyeongju Declaration
1. We, the Economic Leaders of APEC, met in Gyeongju, Republic of Korea, from October 31 to November 1, 2025. This year, under the APEC theme “Building a Sustainable Tomorrow,” we have advanced our shared objectives through three priorities - Connect, Innovate, Prosper - during our meetings across the Korean cities of Seoul, Busan, Jeju, Incheon and culminating in Gyeongju, a thousand-year-old capital with rich cultural heritage.
2. The Asia-Pacific region stands at a pivotal juncture. We acknowledge the global trading system continues to face significant challenges. Further, the rapid advancement of transformative technologies such as artificial intelligence (AI), and demographic shifts that are reshaping labor markets, carry profound and long-term implications for APEC member economies. In this regard, we call for strengthened cooperation and concrete actions to enable economic growth that benefits all.
3. We underscore that current circumstances further demonstrate APEC's importance and role as the premier forum for regional economic cooperation as well as an incubator of ideas. We will continue to be guided by our collective mission as set forth in the APEC Putrajaya Vision 2040, with the goal of realizing an open, dynamic, resilient, and peaceful Asia-Pacific community by 2040, for the prosperity of all our people and future generations including through the implementation of the Aotearoa Plan of Action.
Connect: Building the World's Most Dynamic and Interconnected Regional Economy
4. We reaffirm our shared recognition that robust trade and investment are vital to the growth and prosperity of the Asia-Pacific region, and remain committed to deepening economic cooperation to navigate the evolving global environment. We acknowledge the importance of a trade and investment environment that promotes resilience and benefits for all. We note the various discussions on the current state and future of global trade and recognize the need for cooperation among economies in this regard.
5. We will advance economic integration in the Asia-Pacific region in a manner that is market-driven, including through the work on the Free Trade Area of the Asia-Pacific (FTAAP) agenda. We will continue working together to enhance experience sharing, capacity building, business engagementand technical cooperation efforts among members, aimed at strengthening member economies' readiness to participate in high-standard and comprehensive regional undertakings.
6. Recognizing the contribution of the services sector to economic growth, and the expanding role of digitally enabled services, we will continue to enhance the competitiveness of APEC economies in this sector. We take note of the role of the APEC Services Competitiveness Roadmap (ASCR) (2016-2025) in supporting effective reform and growth of the services sector in the APEC region.
7. We will continue to promote various trade facilitation efforts, such as measures to enhance transparency, advance paperless trade and cross-border e-commerce, encourage deeper cooperation on standards and streamline conformity assessment procedures. We acknowledge the benefits of these efforts in lowering trade costs and facilitating the participation of micro, small and medium enterprises (MSMEs) in cross-border trade. We also recognize the potential of AI-enabled procedures in facilitating trade and encourage voluntary experience sharing on AI adoption and related policies.
8. Acknowledging that global supply chains are facing multiple challenges, we support efforts to ensure resilient supply chains, as an integral part of global value chains, across the Asia-Pacific region, including through greater engagement of the private sector in APEC's relevant discussions. We reaffirm our commitment to implementing Phase Three of the Supply Chain Connectivity Framework Action Plan (SCFAP III) (2022-2026), strengthening regional and global connectivity to reduce the impact of disruptions, lower transaction costs and promote trade. We will foster capacity building, technical assistance and cross-border collaboration in support of these efforts.
9. We reaffirm our commitment to promoting innovation, productivity and dynamism across the Asia-Pacific region, including through structural reform. We welcome the endorsement of the Strengthened and Enhanced APEC Agenda for Structural Reform (SEAASR) (2026-2030) as a new and reinforced framework. We also welcome the endorsement of the Incheon Plan under the Finance Ministers' Process.
10. We recognize the detrimental impact of corruption as a threat in that it transcends borders, distorts markets, erodes public trust and facilitates crimes, including organized crimes. We reaffirm that anti-corruption efforts must be more innovative, better coordinated and more effective. We will continue our efforts to deny safe haven to corruption offenders and illicit assets.
11. We emphasize the importance of promoting connectivity in our region. In this regard, we note the work aligned with the APEC Connectivity Blueprint (2015-2025), including its ongoing final review to be concluded in 2026. Recognizing the importance of business exchanges in enhancing regional trade and investment, we welcome APEC's efforts in facilitating business mobility and enhancing connectivity through the APEC Business Travel Card (ABTC), and encourage fully participating economies' uptake and acceptance of the virtual ABTC. We also reaffirm the importance of quality infrastructure development and investment.
12. We acknowledge the positive contribution of the cultural and creative industries (CCIs) to economic growth, and affirm the importance of robust intellectual property protections. We recognize the increasing role of CCIs in economic growth and their role in fostering people-to-people ties, as well as in encouraging better understanding and mutual respect among member economies in the Asia-Pacific. We also recognize the growing role of CCIs in economic and cultural exchanges in the region, and advances in digital technologies, including AI, are fostering creativity and enabling innovation across the entire process of creation, production, distribution and consumption of cultural and creative products in the APEC region. We note that dialogue and cooperation among APEC economies in CCIs will contribute to economic growth in the region.
Innovate: Preparing the Region for the Digital and AI Transformation
13. We acknowledge that advancements in science and technology can contribute to addressing common challenges and create new drivers of growth in the APEC region. We also acknowledge that research and development collaboration, including partnerships among institutions, businesses and startups, including those related to Science, Technology and Innovation (STI), voluntary exchanges of scientific talent, and policy and knowledge sharing, as well as capacity building, can enhance the overall innovative capacity of the Asia-Pacific region and thereby contribute to its future economic growth.
14. We recognize that the innovation driven by digital transformation can play a critical role in enhancing connectivity, productivity and participation of all people and businesses across the Asia-Pacific region, thereby contributing to the realization of their full economic potential. We encourage member economies to enhance voluntary information sharing on ICT and digital policies that accelerate regional economic cooperation, as appropriate. We remain committed to the APEC Internet and Digital Economy Roadmap (AIDER), and note with appreciation this year's work in advancing its effective implementation. We recognize the need to develop an approach that maximizes opportunities and address challenges in the rapidly evolving digital landscape, consistent with international law. We underscore the importance of bridging digital divides, improving digital connectivity, enhancing digital literacy and making the benefits of digital transformation accessible to all, including by prioritizing capacity building, policies that build digital skills and competencies and greater public-private collaboration. We also emphasize the importance of strengthening trust and confidence in the digital and AI ecosystem, for our people, workers and businesses, including MSMEs. Recognizing the increasing importance of data to the digital economy, we will continue our cooperation on facilitating the flow of data, and strengthening business and consumer trust in digital transactions.
15. We recognize the potential of AI to fundamentally reshape economies worldwide by unlocking new frontiers for innovation, enhanced productivity, improved competitiveness, economic prosperity and resilience. We hereby endorse the APEC AI Initiative as a joint step toward advancing successful AI transformation within APEC, building AI capacities at all levels, including through regional cooperation, and cultivating an investment ecosystem for resilient AI infrastructure. We also call for continued efforts to enhance security, accessibility, trustworthiness and reliability in realizing the benefits of AI for all with balanced and human-centered approaches to our workforce, education and capacity building policies. We encourage economies to explore collaborative approaches toward the benefits of AI transformation for and meaningful participation by all in the AI-driven economy, thereby laying the foundation for a society where everyone benefits from technological advancements and AI is leveraged to enhance the well-being of all our people.
Prosper: Addressing Challenges Together and Sharing the Benefits of Growth with All
16. We affirm the importance of ensuring that opportunities and benefits of growth and prosperity are enjoyed by all in the Asia-Pacific. In this regard, we recognize APEC's prior and ongoing work to address barriers to economic participation, promote economic empowerment for all and create an environment for resilient economic growth.
17. We reiterate the importance of fostering an enabling business environment for MSMEs and startups to grow, including through supporting entrepreneurship, removing regulatory barriers, enhancing supply chain networks, strengthening connectivity among key stakeholders, including with large companies and unlocking opportunities to improve their productivity, efficiency and ability to innovate. We also note efforts made by economies to promote the development of MSMEs, such as through the Lima Roadmap to Promote the Transition to the Formal and Global Economies (2025-2040).
18. Ongoing demographic changes, characterized by declining birth rates, aging populations and accelerated urbanization, are bringing about fundamental and long-term transformations to the Asia-Pacific economy and community. We recognize that the wide-ranging economic impacts of demographic changes call for our collective response through holistic and inter-generational policies. In this regard, we endorse the APEC Collaborative Framework for Demographic Changes, through which we reaffirm our commitment to working together to unlock new opportunities to maximize economic growth and prosperity for all in the Asia-Pacific region. Acknowledging that the region's future prosperity depends on empowering our next generation, we look forward to continuing to provide young people with the opportunities for development and tools to actively shape their future.
19. We will intensify our cooperation and coordination to effectively respond to global challenges including energy, food security, environment, extreme weather events and natural disasters, to build a more resilient Asia-Pacific. Noting the rising demand for electricity across the APEC region, we recognize the need to ensure a stable power supply and encourage economies to diversify their power sources and technologies, support necessary investment and foster technological innovation, while enabling efficient market operation and market-based instruments, such as power market design and energy attribute certificates, to enhance power system flexibility, resilience and stability, in line with domestic circumstances and priorities. We acknowledge the important role that natural gas and LNG can play in providing sustainable, secure, affordable and reliable energy as well as flexibilities in our respective energy systems. Recognizing the vital importance of modernizing and expanding electricity infrastructure to strengthen energy security, we acknowledge that enhancing grid infrastructure and deepening regional interconnectivity can foster more efficient and reliable grids. We note discussions on renewable energy and energy intensity. We also note the innovative potential of AI in the energy sector.
20. We underscore the importance of strengthening food security through minimizing food supply chain disruptions, promoting productive, resilient and innovative agri-food systems and preventing and reducing food loss and waste, as well as the efficient use of agricultural resources, recognizing there is no “one-size-fits-all” approach.
21. We will also collaborate to improve the resilience of marine and coastal communities and promote the conservation and management of ocean resources, including by combating illegal, unreported and unregulated fishing and addressing the growing challenge of marine debris, while leveraging science- and technology-based approaches.
22. We reiterate our commitment to building resilient, sustainable, accessible, age-responsive, multisectoral and future-ready health and care systems across the region, while acknowledging the innovative potential of digital health and AI to enhance patient-centered health service delivery, early detection, diagnosis, treatment and overall health outcomes. In this regard, we welcome efforts to promote access to the benefits of digital technologies, such as AI, to improve health for all and call for stronger collaboration to broaden access to digital health tools and domestic capacity-building in this field. Recognizing disaster risk management is a pivotal foundation for economic growth, we endeavor to secure a safe and resilient future.
Looking Ahead
23. We recognize that robust multi-stakeholder engagement is one of APEC's unique features that enhances its function as an incubator of ideas. We look forward to further strengthening multi-stakeholder engagement, as appropriate, including with the APEC Business Advisory Council (ABAC) and Pacific Economic Cooperation Council (PECC), such as through the APEC CEO Summit, among other events.
24. We thank the Republic of Korea for hosting the 2025 APEC Ministerial Meeting and the Ocean-Related, Human Resources Development, Education, Trade, Digital and AI, Food Security, Women and the Economy, Energy, Small and Medium Enterprises, Health and the Economy, Finance and Structural Reform ministerial meetings, as well as high-level dialogues on Anti-Corruption Cooperation, and Cultural and Creative Industries. We commend the outcomes of the 36th APEC Ministerial Meeting as an important basis for future cooperation.
25. We thank the Republic of Korea for successfully hosting APEC in 2025. We also express our sincere appreciation to the people and city of Gyeongju for the warm hospitality and thorough preparations for the Leaders' Meeting. We look forward to the upcoming APEC host years of the People's Republic of China (2026), Viet Nam (2027), Mexico (2028), Singapore (2030), Japan (2031), Chile (2032), Papua New Guinea (2033) and Peru (2034).
今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、竹谷多賀子『クリエイティブツーリズム論』(水曜社)では、旅先でクリエイティブな活動に参加するクリエイティブツーリズムについて概説するとともに、金沢での都市型、丹波篠山での農村型、珠洲の過疎地型のそれぞれのクリエイティブツーリズムを、経済効果と合わせて実践的に紹介しています。結城真一郎『どうせ世界は終わるけど』(小学館)では、100年後に直径22キロの小惑星が地球に落下し、多くの生物種が絶滅を迎えるとの設定で、その後に展開される短編を収録しています。ついつい、ネヴィル・シュート『渚にて』と比べてしまい、やや物足りない感想が残るかもしれません。芦沢央『嘘と隣人』(文藝春秋)では、神奈川県警の刑事を定年退官した直後の60歳過ぎの平良正太郎が主人公となって、警察に通報するほどではないが、元刑事にちょっと相談したくなるようなトピックの出来事を収録しているミステリ短編集です。やや読後感の悪いイヤミスも含まれています。谷原つかさ『「ネット世論」の社会学』(NHK出版新書)では、従来の世論、すなわち、社会を代表する普遍的な民意と異なり、往々にして個々人による勝手な心情が表明されたネット世論は、ポジとネガの両極端に分布が偏る特徴があるとし、選挙やジャニーズ事件でネット世論が果たした役割を考えます。リチャード・デミング『私立探偵マニー・ムーン』(新潮文庫)は、終戦直後の米国中西部を舞台に、戦争で右足を失ったハードボイルドな私立探偵のマニー・ムーンが警察と対立しつつも協力し、地元のカジノ組織やギャングの犯罪に立ち向かう、という短編よりもやや長めの中編を収録しています。カーター・ディクスン『爬虫類館の殺人』(創元推理文庫)では、戦時下の英国の首都ロンドンの動物園長が空襲を避けるために閉園を迫られ、さらに園内で密室状態で中から目張りされた自室でガス中毒により死亡します。ヘンリー・メリヴェール卿が自殺ではなく他殺であると真相を明らかにします。
今年2025年の新刊書読書は1~9月に242冊を読んでレビューし、10月に入って先週までの19冊を加えて261冊となります。11月を迎え今週の6冊を加えて合計267冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。
まず、竹谷多賀子『クリエイティブツーリズム論』(水曜社)を読みました。著者は、龍谷大学経営学部の准教授であり、本書は文化とまちづくり叢書の一環として出版されています。タイトルにあるクリエイティブツーリズムというのは、単に受け身で観光を楽しむだけではなく、何らかの地域の活動などに参加し、典型的には、その名の通りに何かをクリエイトする創造的な活動にも携わる観光といえます。本書では、まず冒頭の第1章と第2章で従来の受け身の観光ではないクリエイティブツーリズム、特に、観光客と地域住民などとの間の共創の関係にスポットを当てて解説を加えています。その上で、第3章では都市型クリエイティブツーリズムという観点から、金沢における工芸を取り上げています。金沢における工芸は、観光客を引き付ける役割だけでなく、金沢の多様性や持続可能性を向上させているという結論が得られています。続く第4章では、農村型クリエイティブツーリズムとして丹波篠山の実践活動、丹波焼の陶芸に親しむ「陶泊」という観光活動に着目しています。そして、第5章では、過疎地域におけるクリエイティブツーリズムとして能登半島の「最崖の地」珠洲におけるアートツーリズムや復興活動への参加を取り上げています。珠洲については、観光というだけでなく移住も含めた地域振興が考えられており、さらに、独自調査のデータも収集されています。もちろん、この実践活動に注目した3つの章ではキャッシュフローと経済効果についても示されていて、当然ながら、芸術や何やの創造的な活動だけでなく、それなりの付加価値を生み出す経済活動の側面が強く意識されています。第6章と第7章では日本におけるクリエイティブツーリズムの可能性の広がりや今後の課題などが検討され、終章でクリエイティブツーリズム研究の系譜、とくに、クリエイティブツーリズムに先立つカルチュラルツーリズム(文化観光)の先行研究成果などが示されています。実は、私も観光経済学はマクロ経済学の視点から研究したこともあり、今年の夏休みには "How Tourism Promotes Economic Development: A Case of Cambodia" と題する論文を書き上げて、校正をしているところで、もうすぐ紀要に掲載される運びとなります。でも、おそらく、日本に限らず、途上国や新興国でもこういっ観光資源の拡充が観光収入拡大のみならず、地域の多様性や持続可能性に重要な役割、すなわち、直接的な経済的便益だけではなく、広い意味での外部経済をもたらす活動となり得る観点は重要だと考えています。サステイナビリティの観点からは、観光についてはむしろオーバーツーリズムの方に議論が傾きがちで、確かに、私なんかも京都に出かける折にはそう感じるのですが、逆に、農村型や過疎地型のクリエイティブツーリズムもあるわけですし、金銭的な利益の他に観光が地域にもたらす何らかの利点は、これからもひとつの研究の眼目になるかもしれません。
次に、結城真一郎『どうせ世界は終わるけど』(小学館)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、アンソロジーなどに収録されている短編は別として、書籍としては私は『#真相をお話します』と『難問の多い料理店』を読んでいます。本書は連作短編集であり、ある年の6月に直径22キロの小惑星、後に「ホープ」と名付けられる小惑星が100年後の地球に落下して、多くの生物種が絶滅すると予想される、というニュースを思春期、大雑把に高校生のころに接した人を主人公にした短編を収録しています。例外は第4話の「オトナと子供の真ん中で」だけで、ここでは、主人公の小学6年生の親がその年代に該当します。あらすじは収録順に、まず、「たとえ儚い希望でも」では、ニュース発表の直後に高校生、JKだった金井希望が主人公です。高校の友人の吉岡日向が自殺した葬儀のシーンから始まりますが、吉岡日向の企みにより、同級生の鏑木悠馬と付き合うようになった高校のころを回想します。続いて、「ヒーローとやらになれるなら」はニュース発表から7年後を舞台に、大学生で就活中の村井健太郎が主人公で、この世に生きた証を残そうと奮闘しているのですが、同じ高校に通った2年上の諏訪部芹奈のヒーローだったことを知ります。続いて、「友よ逃げるぞどこまでも」はニュース発表から12年後を舞台に、主人公が猫と逃げてきた無人島に、脱獄した受刑者が現れます。主人公と脱獄囚の氏名を書くとネタバレになりますが、この2人の間には浅からぬ因縁があります。続いて、「オトナと子供の真ん中で」はニュース発表から20年後を舞台に、小学6年生の男子児童の蹴斗が主人公で、同級生の山路芽衣とともに、東京へ向かいます。目的地は東京三鷹です。そこに何があるかというと...。続いて、「極秘任務を遂げるべく」はニュース発表から21年後を舞台に、娘に宇宙飛行士だと勘違いされ、しかも、小惑星に対する極秘ミッションに就いていると誤解されている父親が主人公です。この父親の世代は、ゆとり世代、さとり世代に続くみとり世代と呼ばれている、という設定です。最後に、表題作「どうせ世界は終わるけど」はニュース発表から32年後を舞台に、それまでの短編5話をつなぎ合わせる形の総集編的な位置づけとなっています。登場人物はそれまでの短編と、ある意味で、重なります。主人公は「みっくん」と呼ばれていますが、ネタバレを避けると、いずれかの短編に登場した誰かの子供、ということになります。小惑星に対するミッションロケットの打上げが、こういった技術の先進国ではない日本の種子島、というのがやや非現実的な気がしますが、まあ、そのあたりは雰囲気です。最後に、地球最後の日とか、人類の滅亡とかは、私が読んでいるだけでも、あまりに有名なSF小説のネヴィル・シュート『渚にて』とか、日本であれば伊坂幸太郎の『終末のフール』とか、ほかにもいっぱいあるんでしょうが、そういった作品と比較すると本書は少し物足りない読書でした。
次に、芦沢央『嘘と隣人』(文藝春秋)を読みました。著者は、小説家であり、本書は第173回直木賞候補作です。私はこの作家さんの作品は、アンソロジーに収録された短編はいくつか読んだことがありますが、書籍としては初めてだと思います。ということで、神奈川県警の刑事を定年退官した直後の60歳過ぎの平良正太郎が主人公となっているミステリ連作短編集です。中には、やや読後感のよくないイヤミスも含まれています。大雑把に、地域的には川崎市や横浜市が舞台になっていますが、娘の住む東京で展開される短編もあります。タイトル通りに、警察に通報するほどではないが、元刑事だったらちょっと相談したくなるようなトピックの出来事を収録していますが、実はそれが大事件だったりするものも含まれています。私が聞き及んだ範囲では、この作品の主人公がまだ現役の刑事だったころの小説も同じ作者が書いているようです。誠に不勉強ながら、私はソチラは読んでいません。ということで、あらすじは、収録順に、まず、「かくれんぼ」では娘のママ友に出会って自転車を借りパクされるのですが、彼女が別れようとしているDV夫から隠れていたのに、子供を遊ばせていた公園をなぜ突きとめられたのか、の謎を考えます。続いて、「アイランドキッチン」では、8階から飛び降りた女性の謎を考えます。クレーマー女性による鬱に起因する自殺だったのか、それとも、クレーマー女性による他殺だったのか、加えて、ひどく後から発見されたという遺書は本物かどうか、といった謎です。続いて、「祭り」では、主人公の引越にまつわるトピックであり、引越し業者のパワハラめいたやり方から、かつて、引越し業者で働いていたベトナム人と認知症だった高齢男性の2人の遺体が発見された事件の謎について考えます。フィクションですが、外国人労働の実態が垣間見えます。続いて、「最善」では、登戸駅での母親の抱っこ紐のバックル外しと同じタイミングで起こっていた痴漢事件の犯人として、主人公の妻の澄子の友人の夫が逮捕されたところから始まり、登戸駅での2つの事件の真相に迫ります。最後に、表題作の「嘘と隣人」では、SNSで脅迫めいた書込みをされているということで、主人公と同じマンションに住む隣人の知り合いが困っていて、探偵事務所を開いている主人公の先輩を紹介して簡単に書込み主は判明するのですが、別の事案についての真相に考えが至り、何とも後味の悪い結末を迎えます。
次に、谷原つかさ『「ネット世論」の社会学』(NHK出版新書)を読みました。著者は、立命館大学産業社会学部の准教授です。まず、冒頭で、経済学のようにマクロとミクロという表現は取っていませんが、世論という用語について、社会を代表する普遍的な民意と個々人による勝手な心情表明という世論の2面を明らかにしています。第1章でネットに限らない世論を考えた後、第2章と第3章では政治活動に対する世論、ということで、国政選挙と大阪府知事選挙に着目し、第4章では、マスメディアが沈黙したジャニーズ問題でネット世論が果たした役割を考え、最後の第5章でフェイクニュースをはじめとするネット世論が陥りやすい欠点を指摘しています。ネット世論を考える場合、動画や静止画ではなく、テキストベースであれば旧ツイッタのXとFacebook、ということになるのですが、本書ではほとんどXにしか着目していません。たぶん、私の下衆の勘繰りでは、字数制限がありデータ分析がしやすいんだろうと想像しています。そして、従来の世論とネット世論の違いを浮かび上がらせているのは、国際大学の山口准教授が光文社新書の『正義を振りかざす「極端な人」の正体』で示したグラフであす。すなわち、従来の世論が賛成から反対のリッカートスケールで正規分布のようなベルカーブの結果を示すのに対して、ネット世論では反対と賛成の両極に分布が偏るフタコブラクダのようなグラフとなります。要するに、本書でも言及されているように、フィルターバブルやエコーチェンバーのために、自分と同じ意見を表明したポストしかタイムラインに流れないようになってしまい、ネット世論は代表性がない、ということになります。ですから、大阪府知事選挙で現在の吉村知事を支持する意見表明はきわめて少なかったにもかかわらず、投票では違う結果が示されることになってしまいます。ただ、投票結果が文句なしに代表性あるかどうかは、やや疑わしいところではありますが、選挙ではそれ以外に依って立つべき根拠がありません。経済学では、例えば、景気のホントの実体を表す指標は統計などから直接観察できず、その観察不能な景気指標から影響を受けている観察可能なGDPとか、失業率とか、所得とか、消費とかによって状態空間表現したモデルを解いて、その景気実体を表すホントの景気指標を計算する、なんて計量手法があったりします。私も3年前の紀要論文 "Identifying Trough of Recent COVID-19 Recession in Japan: An Application of Dynamic Factor Model" で推計してみたことがあります。最後に、世論やネット世論から少しずれるかもしれませんが、私は経済指標が発表されるごとに学生諸君にニュースに接するように示唆していて、しかも、SNSやweb検索ではなく、ネットでもいいのでニュースサイトとか、紙またはネットの新聞サイトで見るようにアドバイスしています。そうでないと、フィルターバブルかエコーチェンバーか、そういったものに影響されるだけでなく、経済指標の世間的なニュースとしての位置づけが判らないからです。紙の新聞というのは、あるいは、テレビのニュース番組もそうですが、学生諸君がそれほど興味ないかもしれないものの、世間的に重要なニュースをトップで報じてくれます。新聞の1面記事というのはそういう役割もあると考えるべきです。世論を読み解くのも重要ですが、世論を形成するリテラシーも重要だと思います。
次に、リチャード・デミング『私立探偵マニー・ムーン』(新潮文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、本書のあとがきの解説によれば、「アメリカ・ミステリ界のオールラウンド・プレイヤー」ということです。本書の時代背景は戦争の終わった後の1950年前後、地理的にはイリノイ州にミシシッピ川で接しているということで、ミズーリ州のセントルイスあたりを想像すれば間違いないと思います。主人公はタイトル通りに私立探偵のマニー・ムーン、ファーストネームを省略しなければマンヴィル・ムーンです。戦争で右足を失い、アルミの義足をつけています。そして、ムーンの婚約者だったファウスタ・モレニはファシストのイタリアから逃れて米国に来て、カジノのディーラーとして結構な稼ぎがあります。いまだに、ムーンに言い寄る女性を敵視します。ジャッキー・モーガンは元金庫破りでムーンに恩義を感じていて、しばしば助力します。ウォーレン・デイは警察の殺人課トップの警視であり、ムーンと対立しつつも協力したりして悪人に立ち向かいます。そして、ハネガン警部補などの部下も登場します。エディ・ダンカンは弁護士であり、ムーンがピンチの際に助けを求めたりします。ということで、基本、マニー・ムーンが地元のギャングやカジノ組織の犯罪に警察とともに立ち向かう、というストーリーですが、いかにも戦争からの帰還兵らしくハードボイルドです。レンジャー仕込みの格闘術を身につけ、ワルサーP38を携帯しています。もちろん、女性にもよくモテます。そのたびに、ファウスタ・モレノが嫉妬の炎を燃やしたりします。本書は7篇の中編から構成されています。各話は大雑把に文庫本のページで100ページくらいのボリュームとなっています。第2話の「悪魔を選んだ男」The Man Who Chose the Devil を別にすれば、本邦初訳だそうです。収録順に、あらすじは、まず、「フアレスのナイフ」The Juarez Knife では、暗黒街の顔役バグネルとつながりがあり、カジノの顧問などをしている評判のよくない弁護士から、ムーンはボディガードの依頼を受けますが、ムーンがオフィスに出向いたところ、その弁護士は密室でナイフにより殺害されてしまいます。続いて、「悪魔を選んだ男」The Man Who Chose the Devil では、男が拳銃で射殺れた事件で、十分な動機があって、殺害に使われた銃の所有者であり、その銃に指紋も残っている人物は警察の留置場に勾留されていた、という鉄壁のアリバイがありました。続いて、「ラスト・ショット」A Shot in the Arm では、ムーンは上流階級の美しい娘の成年後見人となって、大邸宅に住み込んで、モルヒネ中毒からの回復に助力しますが、その女性がムーンの隣の自室で毒物を注射されて殺害されます。続いて、「死人にポケットは要らない」No Pockets in a Shroud では、対立するギャングの両方からムーンはボディガードを依頼されるのですが、密室状態のカジノのオフィスで銃殺事件が起こり、ムーンも命を狙われることになります。ファウスタ・モレノがカジノのディーラーとして本格的に登場し、すべてではありませんが、ムーンのパーソナルヒストリーも明らかになります。続いて、「大物は若くして死す」Big Shots Die Young は前話の続編であり、ムーンが地方検事のアパートに呼び出されると、暗闇からサイレンサー付きの銃で発砲され、応射して殺害することになりますが、同じように呼び出されていた警察のデイ警視などに目撃されます。続いて、「午後五時の死装束」Five O'Clock Shroud では、ギャンブル組織への強硬措置を表明していた市長候補について、実はその人物こそギャンブル組織の裏の大ボスであるとの証拠文書を入手するようムーンは依頼されますが、証拠書類が明らかになった翌日にその市長候補が両手首を切って失血死します。警察は自殺と判断しますが、ムーンは独自に調査を進めます。最後に、「支払いなくば死あるのみ」Pay Up or Die では、魅力的な人気女優から舞台終了後に楽屋を訪ねて欲しいと依頼されて、ムーンが行ってみると、楽屋内で射殺事件が起こり、使用された拳銃はムーンがファウスタにやったものではないか、と疑われます。ということで、文庫本ながら、800ページ近いボリュームですので、ついつい長くなりましたが、いかにも古き良き時代の米国のハードボイルドのミステリです。魅力あふれる探偵と美女とアクションと謎解きがしっかり楽しめます。
次に、カーター・ディクスン『爬虫類館の殺人』(創元推理文庫)を読みました。英語の原題は He Wouldn't Kill Patience であり、1944年の出版です。ですので、本書の前に邦訳は出ていたのだろうと思いますが、今年2025年に新訳として創元推理文庫から出版されています。著者は、戦前からご活躍の古典的なミステリ作家であり、密室ミステリで有名かと思います。このカーター・ディクスン名義とともに、本名のジョン・ディクスン・カーとしても、いくつかミステリ作品を出版しています。本書は、ヘンリー・メリヴェール卿のシリーズであり、ギデオン・フェル博士のシリーズとともに、この作者のミステリの中核のひとつをなしていると思います。作品の舞台は1940年、第2次世界大戦中の英国の首都ロンドンです。もっと狭くは、ロイヤル・アルバート動物園となります。ロイヤル・アルバート動物園というのが実在する、もしくは、実在したのかどうかは私は知りませんが、ロイヤル・アルバート・ホールというのは有名な劇場で、音楽コンサートを収録したアルバムもいろいろとあります。私はエリック・クラプトンによる2枚組を持っていたりします。ジャック・ブルースとジンジャー・ベイカーとともにクリームのメンバーで収録しています。ロイヤル・アルバートというのは、いうまでもなく、大英帝国の最盛期に君臨したヴィクトリア女王の夫であったアルバート公にちなんだ命名です。ということで、繰り返しになりますが、この作品はH.M.ことヘンリー・メリヴェール卿のシリーズであり、ロイヤル・アルバート動物園の園長であるエドワード(ネッド)・ベントンが、ボルネオから樹上性ヘビ、ペイシェンスと名付けられたヘビが届いた日の夕刻に、自宅でガス中毒で亡くなります。部屋は扉と窓すべてが内側から厳重に目張りされた密室でした。ヘビやトカゲを集めた爬虫類館が空襲の脅威により閉園を迫られていたことから、自殺という見方も成り立ちますが、ベントン園長の娘のルイーズはヘビのペイシェンスを道連れに自殺することはありえないと主張し、ヘンリー・メリヴェール卿が謎解きに挑戦する、というストーリーです。事件前には、フーディーニよろしく脱出マジックを得意とする奇術師2人が動物園を訪れていたりします。実に、思わせぶりな2人だったりします。いかにもこの作者らしい密室ミステリがたっぷりと楽しめます。もちろん、十分に近代物理学に耐える解決、しかも、経済学に則った動機に基づく解決が用意されています。
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