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2025年12月31日 (水)

今年2025年を個人的に振り返る

今年2025年を個人的に振り返ると、何といっても、明確に高齢者の仲間入りをしたので、特に、私は9月が誕生日なもので、たっぷりある夏休みから年後半くらいは、いわゆる終活の前触れとして、銀行口座やクレジットカードの整理=解約にいそしみました。それでも、クレジットカードは2枚、銀行口座が4行残りました。とはいっても、自分ではよく整理した方だと考えていて、あと残すところ3年余りとなった再就職後の第2の人生で、お仕事を止めるころにはさらに整理を進めたいと考えています。ただ、クレジットカード2枚、ゴールドと通常カード、それと、メガバンクと地方銀行とネット銀行の銀行口座3行は最低限必要そうな気がしています。

よいお年をお迎えください

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2025年12月30日 (火)

今年の Book of the Year

先日、今年の #2025年の本ベスト約10冊 ということで、経済書・専門書編と小説編で、それぞれ、約10冊をリストアップしましたが、番外編で今年2026年の Book of the Year は『ポケモン生態図鑑』(小学館)で決まりです。何といっても、フルカラー200ページ近い充実した内容ながら、税別1300円というのは抜群のコスパだろうと思います。孤島に1冊だけ持って行くとすれば、『歎異鈔』かこれか、私は大いに迷うんではないかと思います。

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最後に、ついでながら、私の見立てによる Person of the Year は、参議院選挙で当選されたラサール石井先生です。コチラは、ぶっちぎりです。

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2025年12月29日 (月)

ようやく年賀状を出す

年賀状を印刷して投函しました。
今年2025年から年賀状はデジタルに切り替えつつありますが、卒業生向けだけはご家族にもご覧いただきたいので神の年賀状を学生諸君の帰省先にお送りすることにしています。毎年のことながら、来年の年賀状だけはかなり強力に結婚を勧める内容としました。

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2025年12月28日 (日)

#2025年の本ベスト約10冊

ツイッタ(現在はX)で、年末に #2025年の本ベスト約10冊 というハッシュタグが流行っています。私もマネしたいと思います。ただし、諸般の事情により、10冊程度に絞り切ることは難しく、経済書・専門書部門と小説部門でそれぞれ10冊ほど上げてみたいと思います。以下の通りです。

  1. 経済書・専門書部門
    • オードリー・タン & E. グレン・ワイル『Plurality』(サイボウズ式ブックス)
    • ジョセフ E. スティグリッツ『スティグリッツ 資本主義と自由』(東洋経済)
    • ヤニス・バルファキス『テクノ封建制』(集英社)
    • ウィリアム・ラゾニック & ヤン-ソプ・シン『略奪される企業価値』(東洋経済)
    • 森川正之『不確実性と日本経済』(日本経済新聞出版)
    • ユヴァル・ノア・ハラリ『NEXUS 情報の人類史』上下(河出書房新社)
    • 中野剛志『基軸通貨ドルの落日』(文春新書)
    • 橋本健二『新しい階級社会』(講談社現代新書)
    • 田中将人『平等とは何か』(中公新書)
  2. 小説部門
    • 塩田武士『踊りつかれて』(文藝春秋)
    • 伏尾美紀『百年の時効』(幻冬舎)
    • 鈴木光司『ユビキタス』(角川書店)
    • 伊坂幸太郎『さよならジャバウォック』(双葉社)
    • 逢坂冬馬『ブレイクショットの軌跡』(早川書房)
    • スティーヴン・キング『ビリー・サマーズ』上下(文藝春秋)
    • 宮島未奈『成瀬は都を駆け抜ける』(新潮社)
    • 伊与原新『宙わたる教室』(文藝春秋)
    • 上條一輝『深淵のテレパス』(東京創元社)
    • 寝舟はやせ『入居条件: 隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください』(角川書店)

経済書・専門書部門の表紙画像です。

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小説部門の表紙画像です。

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2025年12月27日 (土)

今年納めの読書は経済書2冊のほか計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、小峰隆夫・村田啓子『最新 日本経済入門[第7版]』(日本評論社)は、いかにも大学の年半期に使う教科書を意識した構成ながら、それ以外にも日本経済について勉強したい幅広い読者に有益であろうと思います。ただ、大学に入学したばかりの1年生には少し骨かもしれません。佐藤隆広・西山博幸[編著]『新新貿易理論とインド経済』(ミネルヴァ書房)では、メリッツ教授らによる新々貿易理論(NNTT)を数式を展開しながら解説しつつ、NNTTの分析枠組みでもってインド経済を実証的に捉えようと試みています。ただ、推計結果には少し疑問があったりはします。宮島未奈『成瀬は都を駆け抜ける』(新潮社)は、成瀬あかりを主人公とするシリーズ第3作、完結編です。京都大学に入学し理学部の1回生となった成瀬あかりは同じ学部の友人ができ、森見登美彦らの京大文学をテーマとする達磨研究会に入り、京都も極めようとします。幸村百理男『東大理三の悪魔』(宝島社)では、中学の数学の授業で「論理は1次元、理解は2次元、実感は3次元」という言葉を聞いてから、脳内で革命的変化が起きたように物事の見え方が変わり、成績を伸ばして東大理三に合格してした主人公と米国大富豪の後継者の関係でストーリーが進みます。池本大輔『サッチャー』(中公新書)では、英国初めての女性首相であり、1980年代の米国レーガン大統領とともに世界的に新自由主義的な経済政策を推し進めたサッチャー首相の伝記であり、経済政策とともに政治や外交、核兵器の廃絶などにおける英米の違いなども議論しています。辻村美月『嘘つきジェンガ』(文春文庫)では、嘘や詐欺で長らく保たれていた均衡が崩壊する時点がやって来る3話からなる短編集です。嘘や詐欺といった虚構の世界に入っていく人間の弱さといったものにも真剣に立ち向かって、何らかの解決を示している点が評価できる短編集です。背筋ほか『令和最恐ホラーセレクション クラガリ』(文春文庫)は、6話のホラー短編から編まれたアンソロジーです。人知を超えて近代科学では解明できないような奇怪な現象や怪異な存在が登場するわけではありませんが、違和感と呼ぶにはあまりにも大きな歪みを感じるホラー集です。
今年2025年の新刊書読書は1~11月に293冊を読んでレビューし、12月に入って先週までに312冊、今週の7冊を加えると合計で319冊となります。昨年に続いて、今年も年間で300冊に達しています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、小峰隆夫・村田啓子『最新 日本経済入門[第7版]』(日本評論社)を読みました。著者はそれぞれ、大正大学地域構想研究所客員教授と立正大学大学院経済学研究科教授です。現職はそういうこということなのですが、お2人とも内閣府の官庁エコノミストのご出身で、当然に、私とは面識があります。本書は第7版ということで、前回の第6版が2020年3月の出版でしたから、コロナの緊急事態宣言の直前ということで、5年余りを経過して、それなりの変更あったことと思います。15章構成で、いかにも、大学の年半期の授業を意識しているのですが、それ以外にも日本経済について勉強したい幅広い読者に有益であろうと私は考えます。ただ、大学に入学したばかりの1年生には少し骨かもしれません。私の勤務する立命館大学経済学部でも、私が日本経済論を教えていたころは、大学2年生からの配当となっていました。本書も、ミクロ経済学やマクロ経済学などの基礎を1年生で勉強してから取り組む、といった感じかもしれません。15年前の長崎大学から今の立命館大学でも、私が授業で教科書として使っている有斐閣の『新 入門・日本経済』では、長らく続いたデフレの影響からか、物価やインフレ・デフレについて章立てしていませんが、本書ではキチンと章立てしていて物価安定の重要性や需給ギャップについても取り上げています。他方で、本書では企業部門の活動がスッポリと抜け落ちていて、日本経済のエンジンとしての企業活動が把握しにくくなっています。いかにも官庁エコノミストご出身らしいともいえますが、その点で私の不満が大きく、今後も有斐閣の教科書を使うような気がします。また、本書では高度成長の終焉については、1970年代の2度に及ぶ石油危機だけが原因ではないとしていて、私の見方に一致します。私の見解は役所にいたころの共著論文で「日本の実質経済成長率は、なぜ1970年代に屈折したのか」にある通りです。ただ、日本の戦後の経済史を極めて大雑把に振り返ると、1945年の終戦から超インフレ期も含めて10年ほどの戦後混乱期、1950年代なかばから1960年代を通じての高度成長期、1970年代の石油危機によるインフレやニクソン・ショックによる固定為替制の終焉、さらに、1980年代、特に、その後半のバブル経済期、1990年代初頭のバブル崩壊から始まる長い停滞期、特に、1990年代末からのデフレ期、と進むと、1970年代の石油危機やニクソン・ショックによる高度成長の終了、というのは、判りやすいといえば判りやすく、学術的な正確性よりも授業における学生の納得感という意味では捨てがたいことも事実です。まあ、「間違ったことを教えているのか」と問われれば反省すべき点はあるかもしれませんが、50年を経た今となってはそう重要でもない気もします。

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次に、佐藤隆広・西山博幸[編著]『新新貿易理論とインド経済』(ミネルヴァ書房)を読みました。編著者はそれぞれ、神戸大学経済経営研究所教授と兵庫県立大学国際商経学部教授です。本書はタイトルからも明らかな通り、メリッツ教授らが切り開いた新々貿易理論(NNTT)を解説しつつ、NNTTの分析枠組みでもってインド経済を実証的に捉えようと試みています。ひとつお断りですが、本書では「新新貿易理論」と漢字を2つ並べていますが、このレビューでは通常の表記に従って「新々貿易理論」と表記しています。悪しからず。なお、本書は完全な学術書であり、冒頭の2章ではかなり詳細な数式の展開がなされています。ということで、3部構成のうち、前半2章では新々貿易理論(NNTT)、中盤の2章でグローバル化の中のインド経済、最後に日本企業のインド経済における活動に、それぞれ着目しています。私は今さらながらという気もしますが、メリッツ教授の新々貿易理論(NNTT)の理論展開の方に興味があり、インド経済は流し読みした程度です。これまた、今さらながらで、貿易理論は3世代あり、古典派経済学の伝統的なリカード貿易理論はいわゆる比較生産費説であり、私はこれを大学で教えています。絶対生産費ではなく国内における相対価格の優位性に基づいて貿易が行われる、というものです。ヘクシャー-オリーン・モデルとして精緻化され、国と国の間の貿易構造の説明には有効ですが、なぜ完全特化しないのか、あるいは、産業内の貿易については説明できません。戦後の経済学でデキシット教授とか、バグワティ教授が切り開いて、クルーグマン教授が完成してノーベル経済学賞を受賞したのが新貿易理論であり、規模の経済と製品差別化を導入して独占的競争貿易モデルを基にしています。産業間だけでなく産業内貿易についても説明力を有します。しかし、産業内ですべての企業が輸出を行うわけではありませんし、輸出が生産性の高い一部の企業だけであるという観察され定型化された事実を説明できません。最後の第3世代の新々貿易理論では企業に関して生産性が異なるという異質性を許容し、そのことによって輸出する企業と輸出しない企業が混在する現実経済を説明できることになりました。本書では、この新々貿易理論について、やや単純化し、例えば、貿易相手国を1国だけとして2国モデルにするとか、労働賃金をニューメレール財とするとかです。おそらく、これらの単純化によって数式の展開がかなり簡素化されているような気がします。そして、この理論展開を基にして、実際のデータを用いた実証分析がなされています。推計結果のパラメータの符号が理論値と反対だったり、統計的な有意性がなかったりして、少し疑問が残ったりはするのですが、こういうふうに実証するのかと勉強になりました。参考文献も私のような専門外のエコノミストには有り難かったです。

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次に、宮島未奈『成瀬は都を駆け抜ける』(新潮社)を読みました。著者は、小説家であり、京都大学文学部のご出身です。本書は成瀬あかりを主人公とする『成瀬は天下を取りにいく』と『成瀬は信じた道をいく』に続くシリーズ第3作、最終巻です。第1作の『成瀬は天下を取りにいく』が本屋大賞を受賞したこともあり、出版社では本シリーズの特設サイトを開設しています。本書では、成瀬あかりは膳所高校を卒業して京都大学理学部に入学しています。経済学部だったら、私の後輩だったのですが、チョッピリ残念です。6話の短編からなる連作短編集です。収録順にあらすじは以下の通りです。まず、「やすらぎハムエッグ」では、入学式で知り合った坪井さくらが視点を提供します。表紙画像は入学式に際して、おばあちゃんの着物を成瀬が着ているという設定です。坪井はほのかに思いを寄せる高校の同級生と同じ京大を目指し合格しますが、彼は東大に志望校を変更していました。しかし、京大に来て同じ理学部1回生の成瀬と知り合います。続いて、「実家が北白川」では、農学部1回生で家が北白川にある梅谷誠が視点を提供します。梅谷は、達磨研究会なる森見登美彦の京大文学をこよなく愛するサークルに入会し、成瀬と坪井もいっしょになります。サークル会長の工学部2回生の木崎輝翔からもらったガイドブックを基に成瀬は京都を極めようとします。続いて、「ぼきののか」では、私の勤務する立命館大学の学生、ぼきののか、こと、田中ののかという簿記の検定試験をテーマにした動画配信者が視点を提供します。ぼきののかは、簿記2級に落ちていたことを視聴者に正直にいえなかったのですが、北野天満宮で成瀬といっしょになり、また、視聴者から簿記2級不合格の事実を暴露されて炎上します。続いて、「そういう子なので」では、成瀬あかりの母親の美貴子がストーリーを進めます。地元のパトロール活動をしていた成瀬に、びわテレ「ぐるりんワイド」のプロデューサーから「びびっと!びわびと」への出演を依頼され、家にも取材に来て母親の美貴子もテレビに登場します。続いて、「親愛なるあなたへ」では、競技かるた高校選手権で成瀬と出会った西浦航一郎がストーリーを進めます。西浦は京都の大学、たぶん、京大ならざる京都の大学に入学し、広島を離れて下宿しているのですが、多忙を極める成瀬にはなかなか会うことがかなわず、鳩居堂のレターセットで成瀬に手紙を書いて文通しています。最後に、「琵琶湖の水は絶えずして」では、島崎みゆきが東京から成瀬に呼び出されてストーリーを進めます。すなわち、盲腸で入院したため、成瀬はびわ湖大津観光大使の仕事を篠崎かれんとともに果たすよう島崎に依頼します。この最終話では、オールスターキャストで、今までに成瀬と関わった多くの人物がズラリと登場します。最後に、本書は京大や京都の地理に詳しくなくても、それなりに楽しむことは十分可能です。主人公である成瀬あかりのキャラが眼目だからです。でも、私自身が京大OBでもあり、京大や京都の地理にそれなりに詳しいいわけで、もしもそうであればもっと楽しむことのできる小説だという気がします。鳩居堂は銀座にもありますが、寺町にもあります。達磨研究会がもっとも典拠が豊富そうな気がします。森見登美彦の小説『夜は短し歩けよ乙女』は京大文学のひとつでしょうし、達磨研究会のこたつと鍋は、明らかに、2018年2月の「京大こたつ事件」を下敷きにしています。「京大こたつ事件」を知らない読者はネット検索することをオススメします。最後の最後に、最終話は明らかに本シリーズを終了させることを目的に書かれています。ライヘンバッハの滝に主人公を突き落とすのもとってもクールな終わり方なのですが、こういったハッピーエンドも考えたものだと感心しました。

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次に、幸村百理男『東大理三の悪魔』(宝島社)を読みました。著者は、東大理三から医学部を卒業した眼科医のようです。本書は今年2015年1月の出版で、私は単行本で読みましたが、早くも上下巻に分冊して文庫本となっているらしいです。というか、そもそも、本書はAmazon Kindle版として2024年4月に発表された『東大理三の悪魔』と同じ2024年8月に発表された続編『東大病院の天使』を合冊・加筆修正し、書籍化していますので、再度、分冊して文庫化される、ということのようです。出版業界は複雑です。本書では、その第1部が『東大理三の悪魔』に、第2部が『東大病院の天使』に相当します。全体を通じて、主人公はタムラノボルであり、第1部では東大生、すなわち学生ですが、第2部では研修医になっています。タムラノボルは中学の途中まではそれほど勉強ができずに、いじめられっ子でした。しかし、中学の数学の授業で、「論理は1次元、理解は2次元、実感は3次元」という言葉を聞いてから、脳内で革命的変化が起きたように物事の見え方が変わり、メキメキと成績を伸ばしてそのまま東大理三に合格してしまいます。同じ東大理三の学生で喫煙をする仲間を得ますが、同時に、駒場にある東大教養学部の図書館で、外見は明らかに女性であるのに男性名と考えられる間宮惣一を名乗る人物と出会います。間宮惣一とは、大学入学前の東大模試で異次元の点数を叩き出した人物であり、興味を引かれるのは当然です。主人公と間宮の間で極めて難解な会話が交わされます。世界は6次元であり、オモテ3次元とウラ3次元であるとか、世界を7次元まで展開するとか、あるいは、「旧約聖書」創世記の記述と現実世界の関係、などなどです。第2部に入ると、第1部で間宮惣一だった人物がシモーネ・ウィルスという名の女性、しかも、米国の大富豪の跡取りとして登場します。主人公は東大病院の研修医として肝臓外科で研修中であり、そこに富豪一族の当主のような人物が肝臓手術のために、1フロアにある病室をすべて押さえて入院してきます。シモーネと主人公の会話ほかから、聖書の創世記に基づく世界の始まり、宇宙の真理、生物の存在などを明らかにする試みが続けられます。最後に、私の感想でもないのですが、本書については、主人公の選択は私とは大きく異なります。ですので、何ともいえませんが、私のレビューに頼ることなく、実際に読んでみることをオススメします。本書は今世紀初頭の00年代で終わっています。ですから、続編があることは明らかであり、事実、出版社のサイトでも2026年1月早々の出版が告知されています。私がこのシリーズを読み続けるかどうかは未定です。

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次に、池本大輔『サッチャー』(中公新書)を読みました。著者は、明治学院大学法学部教授です。タイトルはいうまでもなく英国の首相を務めたマーガレット・サッチャーであり、本書はマーガレット・サッチャーの伝記といえます。もちろん、眼目は英国首相の地位にあった1979-90年ということになります。私自身はエコノミストですし、1980年代の英国のサッチャー首相、米国のレーガン大統領、あるいは、日本の中曽根総理なども含めて、いわゆる新自由主義的な経済政策を推進して格差や不平等を拡大させた政策の実行者とみなしていますが、もちろん、政治家ですので経済政策だけではなく政治や外交、ほかに重要な政策を実行しています。もちろん、経済政策をはじめとする政策とともに、政策決定や政策実行の政治的スタイルなども論じています。私の興味ある範囲でいくつかの論点をピックアップすると、まず、経済政策については、通常の理解ではサッチャー政権では国営化されていた企業の民営化と規制緩和や労働組合運動への敵対的な姿勢が強調されるのですが、本書ではまず、資本移動の自由化を進めたのが不平等を拡大させて、同時に労働分配率を低下させ、ブルジョワジーというか資本家、企業寄りの政策であった点が強調されています。う~ん、確かにそういう面もありますが、ジャーナルにも採択されなかったIMFのワーキングペーパーなんかを根拠にしていて、やや疑問が残ります。やっぱり、国営企業の民営化、規制緩和による民間ビジネスの活動分野の拡大、さらに、本書でも強調している炭鉱ストに対する対応なんかがサッチャー政権の特徴ではなかったかという気がします。特に、炭鉱ストへの対応は、米国のレーガン政権における航空管制官の解雇と同様に大きな影響あった気がします。経済政策以外では、核廃絶に対する考えが英国のサッチャー首相と米国のレーガン大統領で大きく異なっていた、とする指摘は、私は専門外でもあって、初めて知りました。すなわち、米国のレーガン大統領は、いわゆるスターウォーズ計画でもってして、当時のソ連の核兵器を無力化し、核兵器廃絶の目標を堅持していたのに対し、英国のサッチャー首相は当時の東西の通常兵力の差を埋めるためには核兵器が必要、との立場だったということです。なるほど、という気はします。最後の最後に、現在の米国のトランプ政権が反エリートであって新自由主義から決別した、という見方がある一方で、トランプ政権の政策は新自由主義的であることは否定できない、とする見方もあります。私は圧倒的に後者の見方をしていますが、そういった米国だけでなく、米国や、もちろん、日本の政策動向を考えるうえでも参考になる読書でした。

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次に、辻村美月『嘘つきジェンガ』(文春文庫)を読みました。著者は、とっても人気の小説家です。私は『かがみの孤城』などは読んでいますが、それほどたくさんの作品を読んでいるわけではありません。本書には、短編といってもいいのでしょうが、やや長い中編くらいの3話が収録されていて、タイトル通りに、嘘や詐欺といったテーマのもと、嘘をつく方とつかれる方の両方の視点から人間というものの不安定性を浮き彫りにしています。収録順に、あらすじを紹介すると、まず、「2020年のロマンス詐欺」では、地方から東京の大学に入学して下宿を始めた途端にコロナ禍で生活が一変し、入学式も取りやめ、バイトも見つからない男子学生が主人公であり、昨今でいう「匿・流」=匿名・流動型犯罪の闇バイトほどではありませんが、ネットを通じたロマンス詐欺でアルバイト代わりに収入を得ようとします。続いて、「五年目の受験詐欺」では専業主婦が主人公で、優秀な長男に比べて、やや伸び悩み気味の次男の中学受験に際して、教育コンサルタントの特別紹介の事前受験で夫にも内密に100万円を支払った過去があり、次男が高校生になった5年後にそれが詐欺であったことを知ります。「あの人のサロン詐欺」では、崇拝する漫画原作者のふりをして20代半ばから10年に渡ってオンラインサロンでファンと交流している「子ども部屋おばさん」が主人公です。漫画原作者が漏らした近くに見える東京スカイツリーの建設の進捗から、なりすましを思いついたのですが、何と、ご本人がハレンチ罪で逮捕されてしまいます。はい。どの短編も嘘や詐欺で長らく保たれていた均衡が崩壊する時点がやって来て、やっぱり、嘘や詐欺はそう長くは続けられない、という点が強く感じられます。ただ、そういった虚構の世界に入っていく人間の弱さといったものにも真剣に立ち向かって、何らかの解決を示している点が評価できる短編集です。本書は、オチのない純文学ではありませんから、何らかのオチはあります。基本はハッピーエンドと受け止める読者も多いのでしょうが、中には、いい終わり方ではない、と考える読者もいそうな気がします。最後の最後に、本書は2022年に単行本として出版されていて、私も最初の「2020年のロマンス詐欺」は何かのアンソロジーで読んだ記憶がありますが、今年になって文庫本化された最大のポイントは直木賞作家の一穂ミチの解説ではないだろうか、という気がします。その巻末の解説まで含めて、本書はいい作品だと感じました。

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次に、背筋ほか『令和最恐ホラーセレクション クラガリ』(文春文庫)を読みました。著者は、ホラー小説家たちであり、本書は6話の短編を収録したアンソロジーです。収録順にあらすじを概観します。まず、背筋「オシャレ大好き」では、高級アパレルブランドのショップに勤める女性、その昔には「ハウスマヌカン」といっていたような気がする販売員が、お客さんと話していて急に「えっ?」となる場面がとっても怖いです。高価なファッションと消費欲望の裏に存在するある種の呪いが透けて見えます。続いて、澤村伊智「鶏」では、主人公が以前に出版社の編集者をしていたころのお話で、頼まれて深夜のオフィスで来訪者を応接し、少しオドオドした態度の男性が話し始めたのは鶏を食べることについてでした。続いて、コウイチ「金曜日のミッドナイト」では、取材でやってきたテレビディレクターが主人公で、テレビのディレクターであると同時にYouTuberでもあり、インタビュー内容が並べられているだけなのですが、取材を進めるとともに、その街全体に漂う不可解で奇妙な雰囲気、何かのズレ、などが増幅されてゆきます。続いて、はやせやすひろ×クダマツヒロシ「警察が認めた<最恐心霊物件>」では、YouTubeチャンネルに届いた連絡から、同棲を始めた女性が借りた部屋に幽霊が出て、警察に相談すると心霊物件だといわれてしまいます。続いて、栗原ちひろ「余った家」では、結婚を控えた主人公の女性が、婚約者とともに家族がナイショで所有している田園調布にある空き家を訪れると、いろいろと不可解な謎に遭遇します。主人公家族の御蔵家そのものがとってもブラックです。最後に、梨「恐怖症店」では、黒衣と助手の少年が「恐怖症」を売る店があり、プールの授業に欠席するために巨大水槽恐怖症を買ったのを皮切りに、自分の情のひとつと引換えに多くの恐怖症を買って行く少女がいたりします。はい。とっても季節外れに怪談を読んでしまいました。ひとつにはNHKの朝ドラ「バケバケ」を熱心に見ているせいかもしれません。人知を超えて近代科学では解明できないような奇怪な現象や怪異な存在が登場するわけではありませんが、違和感と呼ぶにはあまりにも大きな歪みを感じるホラー短編集でした。

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2025年12月26日 (金)

3か月ぶりの減産となった鉱工業生産指数(IIP)と伸びが物価上昇に追いつかない商業販売統計と底堅い雇用統計

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、さらに、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも11月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲2.6%の減産でした。3か月ぶりの減産となります。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.0%増の13兆3460億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.6%の上昇となっています。雇用統計のヘッドラインは、失業率は前月から横ばいの2.6%、有効求人倍率も前月と変わらず1.18倍を、それぞれ記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産11月は2.6%低下、自動車・リチウム電池減産で3カ月ぶりマイナス
経済産業省が26日公表した11月の鉱工業生産指数(速報、2020年=100)は前月比2.6%低下し3カ月ぶりのマイナスとなった。ロイター集計民間予測は同2.0%低下でこれを下回った。自動車、リチウムイオン電池などの大幅減産が響いた。基調判断は「一進一退」で据え置いた。企業の生産計画に基づいた予測指数は12月が前月比1.3%上昇、2026年1月は同8.0%上昇を見込む。
<1月予測指数は統計理由で過大の可能性>
11月の生産を下押ししたのは、普通乗用車(前月比12.8%減)、リチウムイオン電池(同24.0%減)、ノートパソコン(43.8%減)、ばね(同8.2%減)など。自動車生産は海外、国内向けともに減産。ばねも自動車減産が響いた。ノートパソコンは小中学生に1人1台ずつ配る政府の「GIGAスクール構想」向け買い替え需要の反動減が響いた。
半導体製造装置(21.8%増)、航空機用発動機部品(同22.0%増)などは増えた。
予測指数は上振れしやすい傾向があるため、これを考慮した12月の補正値は前月比0.6%の低下にとどまった。1月は例年他の月と比べ生産日数が少なく、季節調整を行っているが、過去3年の1月生産実績がコロナや認証不正など特殊要因で大きく落ち込んでおり、統計処理上の理由で予測値が大きく出ている可能性があるという。
<化学業界に中国輸出増影響>
経産省では生産計画を上方修正している企業の割合から下方修正している企業の割合を差し引くことで企業のマインドを指数化しているが、12月調査では強気が24.3%、弱気が31.1%で、11月と比べ弱気の割合が増加した。
中国経済の影響に関しては「エチレン業界から、中国の生産増により輸出増が難しくなっている」(経産省幹部)との指摘があるという。
小売販売額11月は前年比1.0%増、休日増と食品値上げが押し上げ
経済産業省が26日公表した11月の商業動態統計速報によると、小売販売額は前年比1.0%増となり、3カ月連続で増加した。ロイターがまとめた民間調査機関の事前予測(0.9%増)を上回った。休日(土日祝日)が前年より2日多く、食品の値上げも押し上げた。
<自動車は生産停止の反動増、ドラッグストアで菓子販売好調>
業種別では医薬品・化粧品(5.6%増)、自動車(3.9%増)、家電など機械器具(7.1%増)などが主に伸びた。自動車は前年に生産停止の影響で減少していた反動で増えた。医薬品・化粧品はうち6割がドラッグストア販売額で、食品も含む。
業態別の前年比では、百貨店0.7%増、スーパー6.7%増、コンビニエンスストアー3.9%増、家電大型専門店7.6%増、ドラッグストア8.0%増、ホームセンター1.0%増。
ドラッグストアは「菓子、コーヒー、チョコレートなど価格上昇の大きい食品の販売が伸びた」(経産省)ほか、保湿関連製品や調剤医薬品も好調だったという。
家電大型専門店はゲーム機やスマートフォン、エアコンなどが好調だった。
経産省によると「消費者物価指数の内訳をみると飲食料品関連の上昇幅が大きく、飲食料品の値上げが販売増に影響している」という。
完全失業率11月は2.6%、有効求人倍率は1.18倍 いずれも横ばい
政府が26日に発表した11月の雇用関連指標は、完全失業率が季節調整値で2.6%だった。4カ月連続で同水準となったが、女性の就業者数は過去最多で、総務省は雇用情勢は引き続き悪くないとみている。有効求人倍率は1.18倍で、前月と同水準だった。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.6%、有効求人倍率は1.18倍が見込まれていた。
総務省によると、11月の就業者数は季節調整値で6851万人と、前月に比べて5万人増加。完全失業者数(同)は181万人で、前月から4万人減少した。
女性の就業者数(実数)は3162万人と、比較可能な1953年1月以降で過去最多となった。
総務省の担当者は「全体的にあまり動きがない状況だが、女性の就業者は高水準で、雇用情勢は引き続き悪くない」との見方を示した。
<求人、求職ともに減少 最低賃金引き上げの影響も>
厚生労働省によると、有効求人数(季節調整値)は前月に比べて0.4%減少。前月に引き続き、省人化の取り組みや最低賃金の引き上げの影響などで求人を見直す動きがみられた。
有効求職者数(同)は0.3%減少した。現場からは、最低賃金の引き上げに伴い、副業や掛け持ちできる職を探そうとする動きがやや弱まったとの声が聞かれているという。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たりに企業から何件の求人があるかを示す。前月に続き、2021年12月(1.17倍)以来の低い水準ではあるものの、1倍は上回っており、厚労省の担当者は「労働市場の状況はそれほど悪くなっていない」との見方を示している。

いくつかの統計をまとめて取り上げましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事でもロイター調査による市場の事前コンセンサスは▲2.0%の減産とありますし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも同じく▲1.8%の減産が予想されていました。いずれにせよ、実績である▲2.6%の増産は市場予想からやや下振れした印象です。ただし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのレンジ下限が▲3.1%でしたので、大きなプライズではありませんでした。だから、というわけでもないんでしょうが、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。昨年2024年7月から1年余り連続の据置きです。先行きについては記事にもある通り、製造工業生産予測指数を見ると、足下の12月は補正なしで+1.3%の増産翌2026年1月も+8.0%の増産となっています。しかしながら、統計の上方バイアスを除去した補正後では、足元の12月の生産は▲0.6%の減産と試算されています。
引用した記事にも、普通自動車やリチウムイオン電池、ノートパソコンなど生産を下押しした要因が取り上げられていますが、経済産業省の解説サイトによれば、11月統計における生産は、減産方向に寄与したのは、リチウムイオン蓄電池やノート型パソコンなどの電気・情報通信機械工業が前月比▲10.1%減で▲0.89%の寄与度、普通乗用車などの自動車工業が前月比▲6.6%減で▲0.87%の寄与度、ばねなどの金属製品工業が前月比▲6.4%減で▲0.26%の寄与度、などとなっています。他方、その逆の増産方向に寄与したのは、半導体製造装置などの生産用機械工業が前月比+5.1%増で+0.43%の寄与度、輸送機械工業(除、自動車工業)が前月比+4.6%増で+0.14%の寄与度、電子部品・デバイス工業が前月比0.5%増で+0.03%の寄与度、などとなっています。引用した鉱工業生産(IIP)に関する記事の最後のパラで、中国におけるエチレン増産が取り上げられており、中国経済の動向も気にかかるところです。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、8月統計こそ猛暑による外出手控えなどの影響で伸びがマイナスにを記録しましたが、9月統計では+0.2%増、10月統計でも+1.7%増、本日公表の11月統計でも+1.0%増に戻っています。引用した記事にある通り、実績の+1.7%増はロイターによる市場の事前コンセンサス+1.0%増をやや上回っています。季節調整済み指数の前月比も+0.6%を記録しています。統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断して、本日公表の11月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.7%の上昇となり、先月までの「弱含み傾向」から「一進一退」に明確に1ノッチ上方修正しています。ただし、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、11月統計ではヘッドライン上昇率は+2.9%、生鮮食品を除く総合のコアCPI上昇率も+3.0%となっています。本日公表の東京都区部12月中旬速報値でもヘッドライン上昇率が+2.0%ですので、前年同月比がプラスであるとはいえ、11月統計の実質消費はマイナスの可能性が高いと考えるべきです。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンド観光客により、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。このインバウンド消費を考え合わせると、国内消費の実態は本日の統計に示された小売業販売額より下振れしている可能性は考慮しておかねばなりません。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの統計であり影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事にもあるように、ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.6%、有効求人倍率は1.18倍が見込まれていましたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ロイターとまったく同様に、失業率が2.6%有効求人倍率は1.18倍でした。本日公表された実績で、失業率2.6%、有効求人倍率1.18倍はともに、ロイターや日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスにジャストミートしました。引用した記事に示されている総務省統計局や厚生労働省の見方にあるように、雇用情勢は引き続き悪くなく、雇用は底堅いとの記事に仕上がっています。というのは、失業率が上昇している背景を考えると、確かに失業者数が増加していて、季節調整していない原系列の統計で見て、失業者数は9月が前年同月から+11万人増、10月+13万人増、11月7万人増と増加している一方で、就業者数は9月+49万人増、10月+52万人増、11月も+55万人増と、ともに失業者数の増加を超えて増加しています。では何が起こっているのかというと、非労働力人口が減少しています。9月は前年同月から▲83万人減となった後、10月▲87万人減、11月も▲75万人減を記録しています。ですから、専業主婦や高齢者、だけとは限りませんが、労働市場に参入していなかった非労働力人口が労働市場に参入して、就業者と失業者ともに増加させている、というわけです。基本は、春闘における賃上げによる就業意欲が高まり、賃金上昇に伴って労働市場への参入が増加している、と考えるのが伝統的な経済学の見方であろうと思います。加えて、総務省統計局のプレスリリースによれば、「正規の職員・従業員」は前年同月から+81万人増加した一方で、「非正規の職員・従業員」は▲30万人減少しています。労働市場参入のチャンスかもしれません。

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2025年12月25日 (木)

帝国データバンク「全国メインバンク動向調査」やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、先週金曜日12月19日に、帝国データバンクから「全国メインバンク動向調査」の結果が明らかにされています。帝国データバンクが独自に調査・保有する企業概要データベースCOSMOS2を基に、企業が「メインバンク」と認識する金融機関を分析しています。COSMOS2には、特殊法人や個人事業主を含めた約150万社が収録されています。まず、帝国データバンクのサイトからSUMMARYを2点引用すると下の通りです。

SUMMARY
  • 2025年メインバンク調査では、三菱UFJ銀行が17年連続首位(9.3万社)となった。ただ、大手行ではシェア縮小傾向が続き、メガ3行合計では1193社減少した。
  • 業態別では、「地方銀行」のシェアが39.76%と7年ぶりに4割を下回り、信用金庫や第二地銀への移行が進行している。一方、法人取引を拡大した「ネット銀行」は10年で6倍に増加、GMOあおぞらなどが急伸した。「農協(JAバンク)」も農業分野で存在感を高めている。

高度成長期の日本では、まだ金融市場が未成熟であったため、証券=株式+社債の発行による直接金融よりも、銀行が集めた預金を貸出す間接金融が主流でした。この金融とともに、終身雇用とすら呼ばれた長期雇用や年功賃金-昇進も高度成長期の日本経済の大きな特徴であり、徐々にグローバル・スタンダードが広まったとはいえ、現在でも決してなくなったわけではありませんし、現時点でもメインバンク制も日本経済において一定の役割を果たしていることは事実です。ということで、グラフを引用しつつ概観しておきたいと思います。

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まず、上のテーブルは帝国データバンクのサイトから 全国メインバンクシェア上位10行 を引用しています。見ての通りで、メガバンク3行がトップスリーを占めています。あまりにも当然な結果だと思います。3行合わせて15%ほどのシェアも「こんなもん」という気がします。というのも、野村資本市場研究所のリポートによれば、広義ですら上場企業の株式持ち合い比率が10%を下回っているのですから、メインバンクのシェアで数パーセントのシェアがあるというのはかなり驚異的と私は考えます。

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続いて、上のテーブルは帝国データバンクのサイトから 業態別シェア 推移 を引用しています。2020年からここ数年に渡って、信用金庫こそシェアを維持しているものの、地方銀行やメガバンクはわずかながらシェアを落としてきています。その一方で、これまた、わずかなりとはいえ、シェアを伸ばしているのがネット銀行です。

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続いて、上のテーブルは帝国データバンクのサイトから ネット銀行「取引社数」推移 を引用しています。帝国データバンクのリポートによれば、前年調査から今年の調査までにメインバンクをネット銀行に変更したのは170社に上ります。私の従来からの直感的な理解では、ネット銀行は個人向けのリテール分野に強かったと記憶しているのですが、法人分野への進出も進めているようです。

ほかに、農協=JAバンクやほかの調査結果も含まれていますし、pdfの全文リポートもアップロードされています。

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Merry Christmas!

Merry Christmas!

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2025年12月24日 (水)

+2%台後半で高止まりする11月の企業向けサービス価格指数(SPPI)上昇率

本日、日銀から11月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月10月と同じ+2.7%を記録しています。変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIの上昇率も同じく+2.7%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、11月は前年比2.7%上昇 中国人観光客減少の影響も
日銀が24日に公表した11月の企業向けサービス価格指数速報は前年比で2.7%上昇した。外航貨物輸送が押し上げに寄与した一方、宿泊サービスなどが押し下げ方向に影響し、伸び率は前月から横ばいとなった。前月比では0.4%上昇した。
10月は前年比2.7%上昇、前月比0.6%上昇だった。
前年比の上昇は57カ月連続。内訳では「運輸・郵便」が前年比2.4%上昇し、前月の2.0%上昇を上回った。このうち、外航貨物輸送(除く外航タンカー)は鉄鉱石の荷動きが堅調に推移する中、燃料油価格が下落した前年同月の反動がみられた。外航タンカーは原油や液化天然ガス(LNG)などエネルギー関連の荷動きが活発だった。
一方、押し下げに影響したのが「諸サービス」。宿泊サービスが13.3%上昇と、伸び率が前月の18.1%を下回った。前月に見られた万博閉幕直前の駆け込み需要の反動のほか、中国政府による渡航自粛要請を受けた中国人観光客の減少を背景にインバウンド需要の増勢がやや鈍化した。
日銀の担当者は、中国政府の渡航自粛要請の影響が出てくるのは「11月というよりも12月以降になるのではないか」との見方を示している。
調査対象146品目のうち、上昇は115品目、下落は15品目で、その差は100品目。前月の92品目より多かった。
日銀の担当者は、企業向けサービス価格指数の観点から、コスト上昇を価格転嫁する動きの持続性、中国人観光客の減少が宿泊サービスなどに及ぼす影響、国際商品市況や海運市況の動向を注視していくと述べた。
生産額に占める人件費投入比率の違いで分類した指数では「高人件費率サービス」が前年比3.0%上昇と、前月の3.1%上昇を小幅に下回った。「低人件費率サービス」は同2.4%上昇で、伸び率は前月と変わらなかった。

注目の物価指標だけに、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、今年2025年6月統計で+2%台に減速し、6~11月の6か月連続で+2%台を記録しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてコンスタントに上昇を続けている一方で、今年2025年年央までは国内企業物価指数ほど上昇率が大きくなかったのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、PPI国内物価と同様に6~8月統計で3か月連続で+2%台後半となった後、9月統計で再び+3%に上昇率が加速した後、先月10月統計と本日公表の11月統計では+2.7%を記録しています。偶然でしょうが、11月統計では企業物価(PPI)のヘッドラインである国内物価指数上昇率と企業向けサービス価格指数(SPPI)上昇率が+2.7%と、同じ上昇率となっています。いずれも、日銀物価目標の+2%を大きく上回って高止まりしています。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、企業物価指数や(PPI)本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なるものの、+3%近い上昇率はデフレに慣れきった国民や企業の意識からすれば、かなり高い物価上昇と映っている可能性が大きいと考えるべきです。人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率のサービス価格であっても+2%超の上昇率を示しており、高人件費率のサービスでは+3%台の上昇率が続いています。すなわち、人件費をはじめとして幅広くコストアップが価格に転嫁されている印象です。その意味では、政府や日銀のいう物価と賃金の好循環が実現しているともいえますが、実態としては、物価上昇が賃金上昇を上回っており、企業サイドから見れば人件費以上の過剰な価格転嫁が行われている一方で、家計サイドから見れば国民生活が実質ベースで苦しくなっているのは事実と考えざるをえません。ですので、私の従来からの主張ですが、企業サイドの利潤を減少させることにより、物価上昇を引き起こすことなく、賃上げを実現し労働分配率を上昇させることが可能です。法人企業統計を見ても、ここまで利益剰余金が積み上がっているんですから、3~5年くらいは物価上昇なしに賃上げが可能ではないか、と私は直感的に試算しています。エコノミストが誰もこの点を主張しないのは私にはとても不思議です。何か、マズいことがあって忖度が働いているのかもしれません。
最後に、もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて本日公表された11月統計のヘッドラインSPPI上昇率+2.7%への寄与度で見ると、宿泊サービスや土木建築サービスや建物サービスといった諸サービスが+1.28%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分近くを占めています。加えて、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスなどといった情報通信が+0.61%、さらに、道路貨物輸や国内航空旅客輸送や旅行サービスなどの運輸・郵便が+0.40%、ほかに、不動産+0.22%、リース・レンタルが+0.11%、金融・保険が+0.03%などとなっています。引用した記事の5パラ目にあるように、中国からの渡航自粛の影響が出るのは12月統計以降となりそうです。

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2025年12月23日 (火)

ニッセイ基礎研究所「図表でみる世界のGDP (2025年更新版)」で見る日本の経済的地位

やや旧聞に属する話題ながら、先週金曜日の12月19日にニッセイ基礎研究所から「図表でみる世界のGDP (2025年更新版)」と題するリポートが明らかにされています。まず、リポートから 世界のGDPの推移 各国別(2025年、米ドル) を引用すると下の通りです。

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様々な批判は承知の上で、それでも、GDPが世界各国の経済的規模や1人当たりGDPで国民の豊かさを図る指標として、もっとも重要な経済指標のひとつといえます。上のグラフはG7諸国とBRICsプラスの各国をプロットしています。縦軸はGDPの規模、横軸は1人当たりのGDPです。上のグラフを見れば判りますが、先進国であるG7諸国の中で、米国の経済的地位は抜きん出ており、BRICsプラスの中では経済規模こそ中国やインドは米国と肩を並べますが、1人当たりのGDPではまだまだ先進国には及びません。日本は、GDPの額で見た経済規模としては米国を除くG7諸国と比べても遜色ありませんが、1人当たりGDPはかなり遅れを取っている、ということになります。

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2025年12月22日 (月)

総務省統計局による「科学技術研究調査」の結果やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、12月12日に総務省統計局から2024年の「科学技術研究調査」が公表されています。2024年度の科学技術研究費の総額は、23兆7925億円と前年度から+7.9%増加し、4年連続の増加を記録しています。GDP比も3.70%と前年度に比べ+0.14%ポイント上昇しています。プレスリリースから 研究費及び対GDP比率の推移 のグラフを引用すると下の通りです。

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グラフの見方にもよりますが、2020-21年度くらいまでやや停滞していた研究費なのですが、その後はやや伸び率が高まっている気がします。今年は、ノーベル生理学・医学賞が大阪大学の坂口志文先生に、化学賞が京都大学の北川進先生に、それぞれ授賞されました。ともに、基礎研究の重要性を強調していたのではないかと記憶しています。今後とも、研究費が着実に増加することを私は願っています。

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2025年12月21日 (日)

インテージによるクリスマス調査では「予定なし」が増加

やや旧聞に属するトピックですが、12月12日にインテージからクリスマスに関する調査結果が明らかにされています。まず、インテージのサイトから調査結果のポイントを4点引用すると下の通りです。

[ポイント]
  • 予算は平均16,418円。昨年大幅減となった水準で今年も横ばい。市場規模は7,274億円で前年比94.2%、2年前比で約3分の2
  • 「予定なし」は54.1%で過去最高水準。予定あり層でも「プレゼントを購入」「自宅でパーティー」微減
  • 予定がない理由は「興味・習慣がない」(31.1%)がトップ、次いで「お金をかけたくない・節約したい」(16.2%)
  • 食関連消費は平日の12月24日、25日に集中。ケーキは中価格帯中心で、3,000円台が最多

いろいろと論点はあるのでしょうが、パーティー、外出などのイベント予定がない割合が増加しており、50%を超えています。下のグラフはインテージのサイトから クリスマス 贈り物、パーティー、外出などイベント予定 を引用しています。

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コロナの影響も部分的には残っているのでしょうが、やっぱり、バブルのころとは大きく国民の行動様式が大きく変化していることを実感します。

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2025年12月20日 (土)

今週の読書は文庫本を多く読んで計8冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、亀田啓悟・井深陽子[編]『「不安」の解析』(慶應義塾大学出版会)では、慶應義塾大学経済学部の嘉治佐保子研究会の門下生が、経済学の方法論に基づいて国民の閉塞感や不安について解明を試みています。3部構成となっており、企業の不安、家計の不安、政策の不安を各部で論じています。塩田武士『踊りつかれて』(文藝春秋)では、音楽プロデューサーが自分のブログで宣戦布告し、不倫報道で自殺に追い込まれたお笑い芸人の天童ショージ、週刊誌の記事としつこい取材に誘発された暴言で姿を消した歌手の奥田美月、この2人に誹謗中傷した者など93人の氏名を明らかにします。川口元気『8番出口』(水鈴社)は、世界的大ヒットゲーム「8番出口」を基にノベライズした小説であり、小説についてはホラーそのものでした。地下道を歩き回って、それでも出られない、という無限ループは、イーグルスが歌った「ホテル・カリフォルニア」と似ています。三宅香帆『考察する若者たち』(PHP新書)では、平成から令和への時代の流れの中で、ひとつの大きな変化として批評から考察、というのを捉えて、何らかの謎を解き明かし正解を得ようとする行為を令和の特徴としています。しかし、前著の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』に比べて物足りない印象です。佐高信・前川喜平『だまされない力』(平凡社新書)では、評論家と元文部科学事務次官の対談集であり、タイトル通りに、だまされない力について議論しています。日本人はその昔はガバナイリティが高く、お上に従順、といわれ続けてきましたが、政府や権力に対する批判的な受け止めが必要だと感じます。高野和明『踏切の幽霊』(文春文庫)は、小田急線の下北沢3号踏切の幽霊について、新聞記者だった女性週刊誌のジャーナリストがカメラマンとともに殺された女性の正体を突き止め、その背景も明らかにします。超常現象のホラー小説と政界も巻き込んだスキャンダルという社会派ミステリが合体した小説です。ジェーン・スー『ひとまず上出来』(文春文庫)では、我々のような一般ピープルが接することの出来ない世界の情報を持ちつつも、我々一般ピープルの感覚も同時に持ち合わせている著者が、セレブの世界の覗き見趣味よりも、フツーの人々のあるある感を満足させてくれます。トピックも日常的な話題が多い印象です。柊サナカ『喫茶ガクブチ 思い出買い取ります』(文春文庫)では、美咲兄妹のうち、額装を担当する兄の伸也が2階の額縁店を切り盛りし、妹の真日留は1階のカフェにいます。高円寺にあるお店で、さまざまな絵画や写真ほかを額装して売る中で、心温まる連作短編が6話収録されています。
今年2025年の新刊書読書は~11月に293冊を読んでレビューし、12月に入って先週までに304冊、今週の8冊を加えると合計で312冊となります。昨年に続いて、今年も年間で300冊に達しています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、亀田啓悟・井深陽子[編]『「不安」の解析』(慶應義塾大学出版会)を読みました。編者2人は、それぞれ、関西学院大学総合政策学部教授と慶応義塾大学経済学部教授です。本書の編者はもちろん、執筆陣は慶應義塾大学経済学部教授を2025年3月末で退任した嘉治佐保子研究会の門下生だそうです。タイトル通り、1990年代初頭にバブル経済が崩壊してから、日本経済は長く停滞を続け、その中でいわゆる閉塞感や本書のタイトルにも取られている「不安」を多くの国民が感じている中、経済学の方法論に基づいてこういった閉塞感や不安について解明を試みています。本書は3部構成であり、企業の不安、家計の不安、政策の不安を各部で論じています。企業の不安については、カルテル・談合の課徴金減免制度とマクロ経済の不確実性を取り上げ、家計の不安では中央銀行デジタル通貨(CBDC)と富裕税と景気変動の健康への影響を論じています。しかし、やっぱり、最大の不安は政策の不安、特に、財政赤字や公的債務残高、あるいは、政府や民間における債務残高の累増ではなかろうかと思います。私は一昨年の紀要論文で "An Essay on Public Debt Sustainability: Why Japanese Government Does Not Go Bankrupt?" とのタイトルで公的債務のサステイナビリティを概観したこともありますので、政府の財政赤字=毎年のフローと公的債務残高=ストック、に焦点を絞ってレビューしておきたいと思います。まず、私自身の考えでは、日本政府の公的債務残高は着実に安定化に向かっているし、少なくとも、日本政府が国債のデフォルトに陥ることはとても可能性が低いと考えています。本書でも言及されている現代貨幣理論(MMT)的な無条件でのサステイナビリティは認めませんが、実務的にそんなことはほぼほぼあり得ないと考えているわけです。世代間で後に生まれる世代に借金がつけ送りされるとも考えていません。ただし、第1に、民間投資をクラウディングアウトする可能性は否定できません。第2に、国民のマインドや金融市場に影響する可能性です。いわゆる「野獣を飢えさせろ」Starve the Beast 的な政策運営の原因となる可能性がありますし、英国のトラス・ショックも、まだ記憶に新しいところです。第3に、可能性としては極めて小さいといえますが、財政がいわゆる「雪だるま式」に赤字を増大させて発散する可能性もなくはないといえます。ですので、私は緊縮的な財政で債務残高を縮小させるのは得策ではないと考える一方で、いくらでも赤字を垂れ流してもいいとまでは思いません。その時々の国民の判断にもよりますが、適切な範囲で財政赤字をとどめて、金融市場や国民のマインドを悪化させることのない財政運営は必要だと考えています。

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次に、塩田武士『踊りつかれて』(文藝春秋)を読みました。著者は、ミステリも含めたエンタメ小説家であり、私は前作の『存在のすべてを』を含めて、ある程度はこの作者の作品を読んでいると自負しています。簡単にストーリを振り返っておくと、後に裁判の被告となる瀬尾政夫が「枯葉」というハンドルネームで管理しているブログ「踊りつかれて」に、宣戦布告と題して、記事が投稿されます。すなわち、不倫報道がきっかっけでネットメディアやSNSで誹謗中傷を含めて批判され、自殺に追い込まれた令和のお笑い芸人の天童ショージ、さらに、週刊誌全盛の時代に、でっち上げの記事としつこい取材に誘発された暴言が原因で芸能界から姿を消した伝説の歌姫である歌手の奥田美月、この2人に対して、匿名性を隠れ蓑にネット上でバッシングした者やいいかげんな記事を書いた記者など93人の氏名はもちろん、年齢、住所、会社や学校、その他の個人情報がその罵詈雑言とともに、リストアップされた投稿です。瀬尾政夫はリストアップされたうちの1人から名誉毀損で告発されて裁判となり、京都在住の30代の弁護士である久代奏が弁護を依頼されます。その久代奏が大雑把に主人公となって視点を提供しますが、別の視点が提供される部分もいっぱいあります。要するに、久代奏が弁護士として事件の全容を調査し、その中身が小説になっているわけです。瀬尾政夫は音楽プロデューサーであり、一時は奥田美月の担当もしていたことは当初から明らかでしたが、不明だった天童ショージとの関係を解明します。そして、壮絶だったのが後半の奥田美月のデビュー前の幼少期の生活です。このあたりは読んでいただくしかありません。私が読んだ前作の『存在のすべてを』が、隠された人生のポジな要素満載であったのに対し、本作品は逆に隠されたネガな要素が満載です。最後に、今月2025年12月10日からオーストラリアで16歳未満にSNSが禁止されたこともあって、私が学生諸君にSNSや動画配信についてお話していることを書いておしまいにします。すなわち、私は30-50年先にはSNSは現在の酒・タバコのようにみなされる可能性がある、と学生諸君にお話しています。私自身の人生は残り10年くらいで、これから先20年生きる自信がないので見届けることが出来ませんが、20歳前後の学生諸君であれば、50年先のSNSの末路も経験できると思います。日本でも50年前には酒はもちろん、タバコもまったく抵抗なく喫煙していたような気がしますが、現時点でのタバコの扱いについては広く感じられている通りです。たぶん、タバコだけではなくお酒も含めて、現在のSNSはそういった見方がなされるようになる可能性が十分ある、というのが私の見立てです。まあ、何と申しましょうかで、雰囲気でご理解ください。

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次に、川村元気『8番出口』(水鈴社)を読みました。著者は、映画の制作や小説の執筆などの活動をしています。私は『世界から猫が消えたなら』を読んだ記憶があります。本書は、ゲームクリエイターであるKOTAKE CREATE氏によって2023年に制作され、累計180万ダウンロードを記録した世界的大ヒットゲーム「8番出口」を基にノベライズした小説であり、別途、実写映画化もされています。無限ループですので、あらすじはほとんどないに等しいのですが、地下鉄を降りた若いサラリーマン男性が地上に出ようと地下道を歩き回るが、8番出口が見つからず、ホームレス男性や小学生と歩き回り続ける、というものです。本書冒頭には、【ご案内 Information】として、5点、すなわち、(1) 異変を見逃さないこと Do not overlook any anomalies. (2) 映画を先に楽しみたければ、引き返すこと If you would like to experience the film first, turn back immediately. (3) 小説を先に楽しみたければ、引き返さないこと If you would like to experience the novel first, do not turn back. (4) 小説で明かされる秘密を、決して他人には言わないこと Do not reveal the secret unveiled in the novel. (5) 8番出口から外に出ること Go out from Exit 8. が上げられています。そして、ゲームそのままに歩き回っても、8番出口から外には出られないわけで、私はゲームの方も、映画の方も知りませんが、少なくとも小説については無限ループのホラーそのものでした。入ったけど出られない、というのは、イーグルスが歌った「ホテル・カリフォルニア」と同じであり、"You can checkout any time you like, but you can never leave!" なわけだと思います。

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次に、三宅香帆『考察する若者たち』(PHP新書)を読みました。著者は、私も読んだ前著の『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)で話題になった評論家です。ただ、本書は、結論からして、少し物足りない読書でした。2020年から始まったコロナ禍あたりで切り替わった平成から令和への時代の流れの中で、ひとつの大きな変化として批評から考察、というのを捉えて、何らかの謎を解き明かし正解を得ようとする行為を令和の特徴としています。とても怪しいと感じるのは私だけではないと思います。本書では、例えば、映画化もされたウェブライター雨穴による小説『変な家』について、何らかの正解がある「考察小説」、あるいは、読者が考察して正解を得ることを著者が期待している、と捉えています。単独でそう考えることにムリはありませんが、平成から令和への時代の流れの中で社会の多くがそうなっていると考えるのはムリがあります。この第1章の批評から考察へ、で始まって、第2章では萌えから推しへ、第3章と第4章は飛ばして、第5章でやりがいから成長へ、となると、さらに怪しくなります。何らかのブランドや組織や行動に対するエンゲージメントから、自分の満足への目標の変化、という意味なのだろうと思いますが、そこまで日本社会は成熟していない気がします。いくつかのSNSやYouTubeなどでの動画配信がますます多様化し、本書でいうようなwebプラットフォーム上での「正解」という最大公約数を浮かび上がらせるような現象というものはまだ現れておらず、将来はともかく、現時点では社会的な分断が進んでいるだけであり、将来的なコンバージェンスに至る成熟化は、まだ見られない。と私は考えています。そして、アチコチで何度か繰り返していますが、20-30年から50年くらい先では、私はSNSや動画の配信などは現時点での酒・タバコと同じような見方をされる、と考えていて、反社会的とまではいわないものの、「決して賢い人のすることではない」あるいは、「やり過ぎず、ほどほどに」と受け止める人が少なくないような社会が到来する可能性があると考えています。ただ、それまでの長い長い期間、最大公約数的な「正解」ではなく、自分や自分が属するグループの考える「正解」を追い求める分断の方が表立って観察されるのではないか、と私は考えています。ですので、考察というよりも正解を求めるというのは、令和ではなく、令和のさらに先の時代のことかもしれません。

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次に、佐高信・前川喜平『だまされない力』(平凡社新書)を読みました。著者、というか、対談者2人は、評論家と元職ながら文部科学事務次官だった人物です。本書冒頭では、「開運! なんでも鑑定団」に出演している古美術鑑定家のお話として、ニセモノに引っかかる時というのは、欲が目をくらませる、使えるカネがある、不勉強、という3要素を上げています。そういった観点から、教育と学び、宗教と道徳、SNSなどを対談で論じています。はい、高校までの初等中等教育ではなく、大学という高等教育機関まで進学した大学生に対して、批判的な学習を勧める教員は私だけではなく、決して少なくないことと思っています。すなわち、教科書に書いてあることや教師が言ったことを鵜呑みにせずに、自らリサーチして学習する必要です。ただ、最近では、その「学習」がネット検索やAIならまだしもいい方で、YouTubeの動画の方を見るのがリサーチとなってしまって、YouTuberを大学教授よりも信頼されてはたまったものではありません。そういった「学習」っぽいメディアが溢れていて、それらの多くが無料で提供されている点を私はむしろ危惧しています。お金を出して買う本よりも、ネットに無料でアップロードされているpdfファイルに書いてあることの方に信頼を置くという学生も少なくないのではないか、と心配しています。ただ、だまされないために勉強、学習するというのはそれなりに重要なポイントであり、英国のエコノミストであったジョーン・ロビンソン女史は、"The purpose of studying economics is not to acquire a set of ready-made answers to economic questions, but to learn how to avoid being deceived by economists." すなわち、「経済学を学ぶ目的は、経済問題に対する一連のありきたりな解答を得ることではなく、いかにして経済学者にだまされないようにするかを知ることである。」というよく引用される名言があります。私も授業中に難解とも思えない経済の真理、例えば、国債価格と金利は逆方向に動く、とか、為替の変動とはオーバーオールの国際収支尻をゼロにする方向に動く、とか、経済というよりもやや金融に近い分野の動向を説明すると、どう見ても理解しておらず、闇雲に暗記しようとする学生がいることに気づいていますが、たぶん、教員である私に騙されたような気分になっている可能性があると受け止めています。学問的な考えだけでなく、日本人はその昔はガバナイリティが高い、すなわち、お上に従順、といわれ続けてきましたが、政府見解などについても批判的な受け止めができるような成熟した態度が必要になのだろうと思います。

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次に、高野和明『踏切の幽霊』(文春文庫)を読みました。著者は、小説家であり、本書は第169回直木賞の候補作としてノミネートされています。私はこの作者の最高傑作の一つである『ジェノサイド』が大好きだったりします。あらすじは、小田急線下北沢3号踏切における深夜の都市伝説のような幽霊をめぐる物語です。舞台は1990年代なかばの東京、下北沢の踏切を中心とする地域であり、主人公は50過ぎで中年に差しかかりながら、新聞記者から女性週刊誌に転じたジャーナリストの松田です。この中年記者が若いカメラマンとともに踏切に現れる幽霊について調査を行います。怪談、というか、ホラーとしては、近代物理学では考えられないような物体が写真に写り込んだり、そもそも、死んでいるはずの若い女性が自力で殺害現場から踏切まで移動したりします。しかし、その女性が死んだ、というか、殺害されたのは心中事件であったと警察では考えていた一方で、記者とカメラマンが真実解明に立ち向かい、ついには、名前すら警察では判明できなかった死亡した女性の正体を突き止め、さらに、政界も巻き込んだスキャンダルの可能性が示唆される、という結末を迎えます。すなわち、決して近代物理学を超えた超常現象ではなく、合理的な説明がつけられる事件と、近代物理学では説明ができない超常現象とが混在します。前者の方は、社会派のミステリのような要素を強く含んでいます。単純な超常現象だけで構成されたホラーや怪談と社会派ミステリが合体している印象です。

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次に、ジェーン・スー『ひとまず上出来』(文春文庫)を読みました。著者は、ラジオパーソナリティ、コラムニストであり、本書は『CREA』ほかに連載されていたエッセイを2021年に単行本として出版され、さらに、今年2025年9月に単行本化されています。エッセイとして収録されていた雑誌の性格からして、それほど若い世代ではない女性を読者に想定しているのだと思います。したがって、著者と同じような年代性別の読者が想定されているようで、私が入らないカテゴリーかもしれない、という気はします。たぶん、あくまで、たぶん、ながら、発表順は出版順くらいでソートされていて、特にテーマ別のカテゴリーも設けられていません。ただ、著者は、もちろん、有名人だし、特別感ある人物なのでしょうが、とびっきりのセレブとかではなく、我々のような一般ピープルが接することの出来ない世界の情報を持ちつつも、我々一般ピープルの感覚も同時に持ち合わせていて、セレブの世界の覗き見趣味よりも、フツーの人々のあるある感を満足させてくれるような気がします。取り上げられているトピックも日常的な出来事が少なくなく、タイトルから示唆されているように、中身のコラムやエッセイからも肯定的な世界の捉え方を感じることが出来ます。肩肘張らず、決してセレブ的な一般ピープルにはマネの出来ない世界ではなく、地に足ついたエッセイに仕上がっている気がします。ただ、逆に、一般ピープルには接することが出来ない世界の覗き見趣味、というか、特別感が希薄なので、そのあたりに不満を感じる読者がいるかもしれません。そういった特別な情報に接したいのであれば、別のエッセイを探すことになるのかもしれません。

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次に、柊サナカ『喫茶ガクブチ 思い出買い取ります』(文春文庫)を読みました。著者は、作家なのですが、10年以上も前に「このミス!」大賞・隠し玉として、『婚活島戦記』でデビューしているらしいです。私には初読の作家さんでした。舞台、というか、喫茶ガクブチがあるのは東京は高円寺であり、父親の跡を継いだ美咲兄妹が主人公です。額装を担当する兄の伸也が2階の額縁店を切り盛りし、妹の真日留は1階のカフェにいます。さまざまな絵画や写真ほかを額装して売るわけです。もちろん、持ち込んだご本人が買う場合もあります。6話の短編が収録されています。順にあらすじは、まず、第1話の「旅の空と今日の空」では、大学卒業後に就職もせずに海外旅行を楽しみながらも、今は親の介護に明け暮れている50台女性が旅の写真を持ち込みます。続いて、第2話の「最初で最後の写真展」では、夫をなくした妻が残された写真20枚を額装して写真展を開催することになります。写真展に集まった人から、亡き夫の意外な面を知らされます。さらに、第3話の「ポイ捨ての果てに」では、使い終わったカップが喫茶ガクブチの前にポイ捨てされるようになり、妹の真日留が犯人を突き止めようとします。続いて、第4話の「婚活UFO」では、婚活成功のために相手女性の意図に従って処分しようと、男性が古いブリキのおもちゃのUFOを持ち込みます。続いて、第5話の「夜歩く息子」では、兄妹の叔父の離婚後に高校生の従兄弟が引きこもりになって、一般家屋への覗きで補導された後、真黒く塗られた15センチ角くらいの紙を叔父が発見します。最後の第6話の「おじいちゃんの絵」では、中学生の男子生徒が祖父の絵を額装して欲しいと持ち込んできます。第5話には、少しだけミステリのような謎解きの要素がありますが、それ以外はミステリの要素はほとんど感じられません。さまざま思い出を基に額装し、心温まる連作短編集に仕上がっています。

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2025年12月19日 (金)

+3%の高い伸びが続く11月の消費者物価指数(CPI)と日銀利上げ

本日、総務省統計局から11月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月と同じ+3.0%を記録しています。日銀物価目標の+2%に比べてかなり大きなインフレが続いています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から43か月、すなわち、3年半ほど続いています。ヘッドライン上昇率も2.9%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+3.0%となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価指数、11月も3.0%上昇 生鮮除く食料は7%上がる
総務省が19日発表した11月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が112.5となり、前年同月と比べて3.0%上昇した。2カ月連続で3%だった。食料の物価上昇は鈍化しているが、依然として全体を押し上げている。
上昇率が3%台になる月は25年で9回目。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は3.0%の上昇だった。生鮮食品を除く総合指数の上昇は51カ月連続となった。
生鮮食品を除く食料は7.0%上昇した。伸び率は4カ月連続で縮小した。2024年夏ごろから価格が上がっていたコメ類の上昇率は縮小傾向で、37.1%だった。
コーヒー豆は主要輸出国のブラジルの天候不良により51.6%上昇、チョコレートは26.7%上がった。24年秋からの鳥インフルエンザの影響で鶏卵は12.8%上昇した。
エネルギー価格は2.5%上昇し、3カ月連続のプラスだった。電気代は4.9%、都市ガス代は0.9%上昇した。政府が実施した電気・ガス料金の補助が終了した影響があった。今年は補助が10月請求分までで、24年は11月請求分までだった。
インバウンド(訪日外国人)の増加などによる需要増加で宿泊料は9.2%上がった。

何といっても、消費者物価指数(CPI)は現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やや長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+3.0%ということでした。実績の+3.0%とジャストミートしたということのようです。また、エネルギー関連の価格については、引用した記事にもある通り、「電気・ガス料金負担軽減支援事業」による補助は9月いっぱいで終了しました。加えて、「燃料油価格定額引下げ措置」によるガソリンなどの価格の引下げについては、11月中旬から実施ですので、本日公表の11月統計には部分的にしか反映されていないようです。ということで、品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率である+3.0%に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、繰り返しになりますが、政府補助金などによりエネルギーの寄与度は9月統計からプラスに転じています。ヘッドラインCPI上昇率に対するエネルギーの寄与度は前月の10月統計の+0.16%に対して、11月は+0.19%となっています。したがって、いわゆる寄与度差は+0.03%しかありません。ヘッドライン上昇率で見て、11月統計の上昇率は前月と同じだったわけですが、エネルギーの寄与は小さいといえます。CPI総合の前年同月比上昇率の+3.0%へのエネルギーの寄与も+0.19%にとどまっています。逆にいえば、エネルギーを除く物価が上昇している、と考えるべきです。例えば、生鮮食品を除く食料価格の上昇は引き続き大きく、前年同月比で+7.0%、寄与度で+1.69%に上ります。CPI総合の上昇率である+3.0%の半分以上が食料というわけです。特に、食料の中で上昇率が大きいのはコメであり、生鮮食品を除く食料の寄与度+1.74%のうち、コシヒカリを除くうるち米だけで寄与度は+0.22%に達しています。引用した記事とは少し分類が異なりますが、上昇率は前年同月比で+37.1%ですから、一時のピークは超えた可能性がありますが、まだまだきわめて高い上昇率と考えるべきです。コメが値上げされれば、当然に、おにぎりやすしの価格も上がります。ただ、消費者物価の全体、というか平均として上昇率としてはまだ日銀の物価目標である+2%を超えているものの、物価上昇がピークアウトしつつある可能性もあります。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+7.0%、寄与度+1.69%に上ります。その食料の中で、これも繰り返しになりますが、コシヒカリを除くうるち米が大きく値上がりしていて、寄与度も+0.22%あります。消費者物価指数(CPI)は継続性を重視して、品目指定で価格を調べているので、安価な備蓄米などはCPIには組み入れられていません。うるち米を含む穀類全体の上昇率は+15.8%、寄与度は+0.41%に上ります。東京都区部のコメ価格のグラフは農水省のサイトで見ることが出来ます。主食のコメに加えて、カカオショックとも呼ばれたチョコレートなどの菓子類も上昇率+8.8%、寄与度+0.24%に上っています。特に、その中でも、チョコレートは上昇率+26.7%、寄与度0.11%に達しています。コメ値上がりの余波を受けたおにぎりなどの調理食品が上昇率+6.3%、寄与度+0.24%、調理食品の中でもおにぎりが上昇率+13.8%、寄与度0.02%に上っています。同様に、すしなどの外食も上昇率+4.2%、寄与度+0.20%を示しています。ほかの食料でも、ブラジルの天候不良による需給逼迫のため、コーヒー豆などの飲料も上昇率+8.4%、寄与度0.15%、鶏肉などの肉類が上昇率+4.3%、寄与度+0.12%、乳卵類も上昇率+7.7%、寄与度+0.11%、などなどと書き出せばキリがないほどです。食料はエネルギーとともに国民生活に欠かせない基礎的な財であり、実効ある物価対策とともに、価格上昇を上回る賃上げや最低賃金の大幅な引上げを期待しています。

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こういった物価上昇を受けて、日本銀行は、本日、政策委員会・金融政策決定会合において、政策金利である無担保コールレート(オーバーナイト物)を+25ベーシス利上げし、0.75%程度で推移するよう促す、との金融市場調節方針を決定しています。上の画像は日銀のプレスリリース資料を引用しています。

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2025年12月18日 (木)

日銀追加利上げの影響やいかに?

私がさまざまな報道に接する限り、本日から記載されている日銀金融政策決定会合で、25ベーシスの追加利上げが確実視されていますが、今週月曜日の12月15日にみずほリサーチ&テクノロジーズから「日銀追加利上げによる家計・企業への影響」と題するリポートが明らかにされています。無担保オーバーナイトコールのいわゆる政策金利を25ベーシス利上げし、0.75%とすると、10年もの国債の長期金利が49ベーシス上昇して平均2.01%に、また、預金金利も4ベーシス上昇する、また、企業セクターでは、有利子負債利子率が40ベーシス上昇して平均2.27%、有利子資産利子率も19ベーシス上昇して平均2.7%、などといった仮定を置いた家計や企業への影響を試算しています。

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まず、上のグラフはみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから 追加利上げによる家計全体への影響 を引用しています。見れば判ると思いますが、普通預金の利子収入増で+0.3兆円、定期預金の利子収入増で+0.7兆円、保有国債の利子収入増で+0.2兆円、そして、住宅ローン利払い増で▲0.5兆円となり、締めて+0.8兆円の収入増となる、という試算結果です。

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続いて、上のグラフはみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから 追加利上げによる世帯当たりの影響 を引用しています。世帯主の年齢階級別になっているところが注目です。上のパネルは2人以上家計すべて、下のパネルは2人以上家計のうち負債のある家計だけに焦点を当てています。これまた、見れば明らかなのですが、平均的に見て、現役世代の30歳代や40歳代くらいは金融資産による恩恵よりも住宅ローンの負担が重くて収支がマイナスとなっている一方で、60歳代や70歳代の高齢引退世代では住宅ローン負担ではなく金融資産からの収入増が上回る、という結果が見て取れます。そうです。利上げは世代別に見た不平等や格差を拡大する可能性が大きいと考えるべきです

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続いて、上のグラフはみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから 追加利上げによる企業の経常利益への影響 のグラフを引用しています。リポートには産業別もあるのですが、やや煩雑になりますので割愛しました。これも見れば判る通り、まず第1に、企業部門は規模がどうであれ平均的に経常利益にはマイナスの影響が出る、ということが重要です。第2に、金利引上げに対して規模の小さな企業ほど財務構造が脆弱であり、経常利益へのマイナスの影響が大きい、ということです。金利引上げは企業セクターに対しておしなべてマイナスの影響を及ぼしますが、従来からある我が国の規模別の企業間格差を拡大する方向の影響を持つ、と考えるべきです。

まあ、明らかな金利引上げの帰結なのですが、日銀はこういった影響を十分に考慮しつつも、それでもやっぱり金利引上げが必要、という結論なのだと私は受け止めています。

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2025年12月17日 (水)

いずれも市場予想より上振れした11月の貿易統計と10月の機械受注

本日、財務省から11月の貿易統計が、また、内閣府から10月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+6.1%増の9兆7146億円に対して、輸入額は+1.3%増の9兆3924億円、差引き貿易収支は+3222億円の黒字を計上しています。また、機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から+7.0%増の9929億円と、2か月連続の増加を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

11月の対米輸出8.8%増、8カ月ぶり増加 関税影響和らぎ自動車が回復
財務省が17日発表した11月の貿易統計速報によると、米国向けの輸出額は1兆8168億円と、前年同月に比べ8.8%増えた。増加は8カ月ぶり。トランプ政権の関税政策の影響が和らぎ、落ち込んでいた自動車の輸出が回復した。
米国向けの自動車の輸出額は1.5%増の4996億円で、8カ月ぶりに前年同月を上回った。台数ベースでも12万2503台と、7.7%増えた。トランプ米政権は4月、自動車に25%の追加関税を発動した。既存の関税とあわせて乗用車は27.5%となっていたが、9月に計15%に引き下げた。下押し影響が薄れ、輸出はトランプ関税発動前の水準に戻りつつある。
米国からの輸入額は7.1%増の1兆771億円だった。原粗油やトウモロコシなどの輸入が増えた。対米貿易黒字は11.3%増の7397億円と、7カ月ぶりに増加した。
全世界に対しての輸出額は前年同月比6.1%増の9兆7146億円だった。輸入額は1.3%増の9兆3924億円だった。輸出から輸入を差し引いた貿易収支は3222億円の黒字だった。黒字は5カ月ぶり。
中国からの輸入は2.3%増の2兆4001億円だった。11月の大型セール「ブラックフライデー」によってパソコンの輸入が増えた。米アップルの最新機種「iPhone17」シリーズの購入が一服し、スマートフォンの輸入は減少した。
中国向けの輸出は2.4%減の1兆6222億円だった。半導体などの製造装置や、非鉄金属の輸出が減った。
欧州連合(EU)向けの輸出は19.6%増の9013億円だった。自動車や航空機のエンジン部品などが増加した。輸入は6.8%増の1兆318億円で、発電所用の原動機や医薬品が増えた。
10月の機械受注7.0%増、2カ月連続の増加 基調判断を上方修正
内閣府が17日発表した10月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で7.0%増の9929億円だった。2カ月連続の増加となった。非製造業がけん引した。
基調判断は前月の「持ち直しの動きに足踏みがみられる」から「持ち直しの動きがみられる」に引き上げた。2024年11月以来の上方修正となった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.4%減だった。月ごとのぶれをならした3カ月移動平均は3.5%増と5か月ぶりにプラスに転じた。
製造業は13.3%減の4465億円だった。化学工業が67.8%減、汎用・生産用機械が14.2%減と全体を押し下げた。いずれも前月からの反動減という。自動車・同付属品は9.1%増となった。
非製造業は28.8%増の5517億円だった。運輸・郵便業が47.9%増で全体を押し上げた。鉄道車両で大型案件の受注がありプラスに寄与した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2000億円近いの貿易黒字が見込まれていたところ、実績の+3222億円の黒字は上振れした印象です。予測レンジの下限が+1800億円ほどでしたので、そのレンジを越えています。季節調整済みの系列でも、10月+740億円、11月+629億円と、2か月連続の黒字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた1950-60年代の高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。日経新聞では引用した記事のほかに「米国向け自動車輸出が持ち直し 11月1.5%増、8か月ぶりプラス」と題して米国向け自動車輸出額が前年同月を上回ったことを報じていますが、それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。すなわち、引用した記事のタイトルのように、トランプ関税で日本の輸出が減少して貿易収支が赤字の方向に振れることではなく、貿易を含めた資源配分の最適化ができなくなってしまう点が問題と考えるべきです。
本日公表された11月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+7.0%増ながら、金額ベースで▲2.4%減となっています。石油価格が下落している商品市況を反映しています。さらに、エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで▲1.8%減となっています。特に、食料品のうちの穀物類は数量ベースで▲3.4%減、金額ベースでも▲2.2%減となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで▲0.3%減、金額ベースでも▲13.2%減を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が、米国向けは伸びている一方で、全世界向けには減少を示しており、数量ベースで▲5.1%減、金額ベースでも▲4.1%減となっています。自動車輸出における数量ベースと金額ベースの増減が全世界向けでは整合的になっています。ただし、米国向けの自動車輸出について、さらに詳しく見ると、数量ベースでは+7.7%増を記録した一方で、金額ベースでは+1.5%増にとどまっており、引き続き、日本のメーカーあるいは輸出商社の方で部分的なリトも関税を相殺するような価格設定により、販売台数の維持・拡大を図っていることを表していると考えるべきです。どこまでこういった関税負担がサステイナブルであるかは私には不明です。電気機器も金額ベースで+7.4%増、一般機械も+5.1%増とプラスの伸びを示しています。輸出だけは国別の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で▲2.4%減となったにもかかわらず、中国も含めたアジア向けの地域全体では+4.5%増となっています。日中間のビミョーな外交的関係が何らかの影響を及ぼしている可能性は否定できません。他方で、米国向けは+8.8%増と回復を見せています。西欧向けも+23.6%増となっています。もっとも、米国経済にはまだ停滞色が残っており、先行き順調に我が国からの輸出が拡大するかどうかは不明、というべきです。

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続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比▲2.4%減、レンジの上限でも+0.8%増でしたので、実績の+7.0%増は予想レンジ上限を超える大きな上振れでした。ですので、だと思うのですが、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」と明確に1ノッチ上方修正しています。業種別に季節調整済みの前月比で見て、製造業が▲13.3%減の一方で、船舶・電力除く非製造業は+28.8%増となっています。引用した記事の最後にあるように、鉄道車両で大型案件の受注があり、運輸・郵便業が前月比+47.9%増を記録しています。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を見込んでいる一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は見込み得る範囲の近い将来にはまだ続くことが歩く予想されますし、DXやGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、日銀が金利の追加引上げにご熱心で、明日から開催される金融政策決定会合で追加利上げがなされるのは確実と見られており、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、為替への影響を別にしても、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかです。トランプ関税は一段落したとしても、どう考えても、先行きについてリスクは下方に厚いと考えるべきです。

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2025年12月16日 (火)

帝国データバンク「カレーライス物価指数」2025年10月

先週水曜日の12月10日、帝国データバンクから2025年10月の「カレーライス物価指数」が明らかにされています。pdfの全文リポートもアップロードされています。まず、帝国データバンクのサイトからSUMMARYを3点引用すると下の通りです。

SUMMARY
  • 2025年10月のカレーライス物価は1食451円(前年同月371円)となった。
  • コメ、野菜類の価格上昇を背景に前月からは+13円と2カ月連続で上昇(値上がり)した。
  • 今後のカレーライス物価は、今秋まで続いた430円台の推移から一転し、今冬にかけて過去最高値の水準で推移することが予想される。

続いて、帝国データバンクのサイトから 「カレーライス物価」推移 のグラフを引用すると下の通りです。

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帝国データバンクによると、繰返しになりますが、「カレーライス物価」は、2025年10月時点で1食あたり451円となっています。1年前の2024年10月の371円からは+80円、21.6%の価格上昇であり、16カ月連続で前年同月比2ケタを超える大幅な上昇が続いています。総務省統計局による消費者物価指数(CPI)の2025年10月における前年同月比で見たヘッドライン上昇率が+3.0%であり、+3%の物価上昇でも高いと感じているわけですから、+20%超の上昇率がいかに大きな上昇率であるかが実感できます。ここでも、価格上昇の主因はコメであり、帝国データバンクによると、「ごはん(ライス)」価格は前年同月(142円)から+61円、43.0%増の203円と、大幅に上昇しています。加えて、全国の物価の先行指標となる東京都区部の物価動向を基に予想した2025年11月のカレーライス物価は、最高で1食460円台に到達するとみられるとしており、さらに価格上昇が続くようです。

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2025年12月15日 (月)

12月調査の日銀短観は大企業製造業の景況感が改善し追加利上げへ

本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査から+1ポイント改善して+15、他方、大企業非製造業は横ばい+34となりました。また、本年度2025年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+8.9%増と、9月調査の+8.4%増から上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、3四半期連続で改善 日銀12月短観
日銀が15日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回の9月調査から1ポイント改善しプラス15だった。3四半期連続で改善した。DIは4年ぶりの高水準となった。
大企業非製造業の景況感は9月から横ばいのプラス34だった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。12月調査の回答期間は11月11日~12月12日で回答率は99%だった。11月26日までにおおむね7割の回答があったという。
民間エコノミストの予想では、大企業製造業、大企業非製造業ともに小幅改善を見込んでいた。
大企業製造業は関税政策をめぐる不確実性の低下や、半導体関連の需要増加が景況感の改善につながった。業種別にみると、石油・石炭製品が33ポイント改善のプラス33、化学が7ポイント改善のプラス22だった。関税によるコスト増が重荷となっている自動車は1ポイント悪化のプラス9となった。
大企業非製造業では、人件費などを販売価格に転嫁する動きがみられた。運輸・郵便は1ポイント改善のプラス27となった。
一方、物品賃貸は4ポイント悪化しプラス32、電気・ガスは4ポイント悪化のプラス12、宿泊・飲食サービスが1ポイント悪化のプラス25だった。仕入れコストの上昇や人手不足、物価高による節約意識の高まりが重荷となった。
先行きは、大企業非製造業が6ポイント悪化のプラス28を見込む。日中関係の悪化による中国からの訪日客の減少を懸念する声がある。大企業製造業は横ばいのプラス15で、関税による需要の落ち込みが引き続き懸念材料となっている。
企業の事業計画の前提となる2025年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=147円6銭だった。前回調査は145円68銭で、円安方向に修正された。
日銀は18~19日に開く金融政策決定会合で政策金利を現在の0.5%から0.75%に引き上げることを検討している。今回の短観はおおむね市場の事前予想通りの結果になり、利上げ判断を後押しする材料になりそうだ。

いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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先週、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内ながら、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは小幅に改善、との予想が緩やかなコンセンサスであったと私は考えています。例えば、私が見た範囲で、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回9月調査から+1ポイント改善の+15と予想されていました。本日公表された大企業製造業の景況判断DIの+15という実績は、市場の事前コンセンサスに一致しましたし、横ばい圏内の動きという意味でも、動きの幅のマグニチュードでも大きなサプライズはありませんでした。ただ、大企業製造業の業況判断指数DIの改善幅が+2ではなく+1だった点、さらに、悪化すると見込まれていた大企業非製造業の業況判断指数DIが横ばいであった点を総合的に考える必要があります。何度か同じことを繰り返しましたが、米国との関税交渉が決着したので先行き不透明感が払拭されて、足元の業況判断指数DIは上向いた一方で、それにしても、米国の関税率が以前からは引き上げられているので、先行きの景況感は下向き、ということです。
業種別に少し詳しく足元12月調査の景況判断DIを見ると、基本的に引用した記事の通りながら、大企業製造業では、素材業種が+15と、前期から+3ポイント改善し、先行きも横ばいの+15を見込んでいる一方で、加工業種は+15から+16に改善幅が小さく、しかも、先行きは+14と悪化を見込んでいます。中でも、トランプ関税との関係で注目され、我が国リーディングインダストリーのひとつである自動車は前回調査から▲1ポイント悪化の+9、先行きは+1ポイント改善、と見込まれています。はん用機械が前期から+2ポイント改善して+27、電気機械も+1ポイント改善の+17、造船・重機等も+5ポイント改善して+41、といったところが加工業種で見られます。他方、素材業種では、鉄鋼が+3ポイント改善したとはいえ▲11、非鉄金属も▲12ポイント悪化の+4などとなっています。ただ、石油・石炭製品は+33ポイント改善の+33となってい、あす。景況感に関しては 鉱工業生産指数(IIP)や商業販売統計などを見る限り、概ねハードデータとソフトデータの整合性は十分あるような気がします。ただ、トランプ関税は決着したものの、国内景気や海外の地政学的要因などに起因して先行き不透明感は大きく、景況感についても、大企業製造業の横ばいを例外して、製造業・非製造業おしなべて大企業・中堅企業・中小企業ともに先行きは悪化すると予想されています。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学における生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感がほぼ払拭されました。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。グラフを見ても理解できる通り、大企業・中堅企業・中小企業ともコロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが高水準だった背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が安定的に上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人手不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性がある、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないために、そう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、繰り返しになりますが、低賃金労働者が不足しているだけであって、外国人を含めて低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性が十分あるのではないかと感じます。

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続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。規模別に見ると、大企業が9月調査の+12.5%増からわずかに上方修正されて+12.6%増、そして、中堅企業では前期と変わらず+5.6%増、中小企業では▲2.3%減からプラスに転じて+0.1%増と、人手不足を設備投資による資本ストック増で要素間代替を試みるような動きが観察されます。大企業に比べて規模の小さい企業での雇用増を図ることが厳しく、設備投資で代替させようとの動きと私は受け止めており、中小規模の企業が12月調査では前年から増加する計画に転じています。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の12月調査では全規模全産業で+8.9%増の高い伸びが計画されています。調査月を追って3月調査よりも上積みされています。デジタルトランスフォーメーション(DX)だけでなく、カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)、さらに、グローバリゼーション=国際化などに対応した投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。ただ、GDPベースの設備投資やその先行指標である機械受注などのハードデータと日銀短観に示されたソフトデータの間でまだ不整合が残っているような気がします。計画倒れにならないことを願っています。

最後に、引用した記事の最後のパラにあるように、本日公表の日銀短観では業況判断DIだけでなく、雇用人員判断DIや生産・営業用設備判断DI、さらに、設備投資計画などから判断して、今週後半の日銀金融政策決定会合で25ベーシスの追加利上げがあるものと市場での観測が高まっています。たぶん、追加利上げが行われるんだろうと私も考えています。

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2025年12月14日 (日)

今年の漢字は「熊」

一昨日の12月12日、日本漢字能力検定協会から今年の漢字は熊と明らかにされました。189,122票中、23,346票を集めたそうです。2番目は米であり、23,166票を集めて僅差でした。3番目が高で18,300票と、2番目と3番目は経済に由来する漢字だったようです。
下の画像は、清水寺における揮毫です。日本漢字能力検定協会のサイトから引用しています。

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2025年12月13日 (土)

今週の読書は来年度の1-2年生向け授業を意識し計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。来年度に1-2年生向け授業を担当しますので、それを意識した計5冊となります。
まず、一橋大学経済学部[編]『新・教養としての経済学』(有斐閣)では、一橋大学経済学部の教授・准教授陣が、大学経済学部の初学者、あるいは、相当にアドバンスな意識の高い高校生を対象に、経済学とはどういう学問かをやさしく解説しています。宮田庸一・阿部俊弘『実践のための統計学』(アイ・ケイ コーポレーション)では、章別に、1変数=ユニバリエイト、2変数=バイバリエイト、単回帰、重回帰、と順を追って解説が加えられた後、本格的に確率や統計の方に展開し、確率分布、標本分布、統計的推計、仮説検定などと統計学の学習を進めます。川本真哉・齋藤隆志・水落正明『データ分析を使ったレポート・論文ハンドブック』(中央経済社)は、データ分析を用いた論文やリポートの内のデータ分析部分だけではなく、そもそものテーマの探し方などから始めて、最後の論文の内容や体裁などまで、詳細なガイドブックとなっています。青柳碧人『乱歩と千畝』(新潮社)では、タイトルから容易に想像されるように主人公は江戸川乱歩と杉原千畝です。その主人公2人のパーソナル・ヒストリーを追い、2人の人生に邂逅する横溝正史や松岡洋右、あるいは、ほかにも名の知られた数多くの小説家や政治家・外交官が登場します。似鳥鶏『みんなで決めた真実』(講談社)では、近未来の日本を舞台に、刑事事件、特に殺人事件については情報公開が進んで、いわばエンタメ化してテレビ放送として裁判が実況中継され、その裁判では名探偵が登場してテレビ局のシナリオに沿ってトリックを暴いて謎解きを披露する、というCase Documentar=CDが一般化しています。
今年2025年の新刊書読書は1~11月に293冊を読んでレビューし、12月に入って先週の6冊も含めて299さつ、今週の5冊を加えると合計で304冊となります。昨年に続いて、今年も年間で300冊に達しています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、一橋大学経済学部[編]『新・教養としての経済学』(有斐閣)を読みました。編者については、今さら私ごときが言及する必要はないと思います。本書は2013年に出版された『教養としての経済学』の改訂版であり、大学経済学部の初学者、あるいは、相当にアドバンスな意識の高い高校生を対象に、経済学とはどういう学問かをやさしく解説しています。私も、一応、経済学部生ではなく他学部生のしかも1年生を相手にする授業がいくつかあり、そもそも経済学とはなにか、についても必要に応じて教えています。最適化や均衡といったいくつかのキーワードを基に、新たな価値が付加されたり、あるいは、保存されたりし、最後に、使い尽くされる財やサービスを労働や資本を用いて生産し、分配し、輸送したりする経済活動をシステムとして理解し、あるいは、解明しようと試みる学問である、と教えています。まあ、判ったような、判らないような定義です。本書では、第Ⅰ部で日本・世界経済の現状を概観した後、環境問題、データ分析、理論モデル、マクロ経済と金融、歴史、数学と統計学を各部で詳述しています。私自身はマクロ経済学が専門なのですが、本書では、マクロ経済についてはほとんど言及なく、マクロ経済とは景気循環や財政ではなく金融が大きな部分を占める、といわんばかりの扱いになっているのは少し残念です。GDP統計や成長とか、失業とか、もう少しマクロ経済のトピックが欲しかった気もします。極めて多数の教員や研究者が執筆に当たっていますので、精粗まちまちで、難易度もまちまち、参考文献も大量にあったりなかったり、というのは仕方ないものと考えるべきですが、いずれにせよ、こういった試みはそれほど多くないので、大いに参考になります。

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次に、宮田庸一・阿部俊弘『実践のための統計学』(アイ・ケイ コーポレーション)を読みました。著者は、高崎経済大学経済学部の准教授と法政大学経済学部の教授です。どちらも経済系の研究者と考えてよさそうです。章別に、1変数=ユニバリエイト、2変数=バイバリエイト、単回帰、重回帰、と順を追って解説が加えられた後、本格的に確率や統計の方に展開し、確率分布、標本分布、統計的推計、仮説検定などと統計学の学習を進めます。基本的には、経済系のデータを分析するのに必要かつ十分な内容であり、ほかにも心理学、社会学、医学薬学なんかにも役立ちそうです。ただ、あくまで統計学であって、計量経済学とは違います。ですから、私なんかが決定的に不足していると考えるのは時系列データの分析です。すなわち、おそらく、マクロ経済学だけだという気はしますが、経済データは多くの場合、時系列で並んでいます。GDPは四半期で分析したり、年データとして扱ったり、失業率や物価指数は毎月発表される、といった具合です。年々や月々の変動を問題にするわけで、その変動は、GDPだと成長率、物価指数だとインフレ率、などと呼ばれるわけです。失業率が上昇するか、低下するかで、内閣支持率も上がったり下がったりする可能性があるわけです。そのあたりの、マクロ経済データを時系列として扱う分には少し不満が残ります。でも、統計学のテキストとしては、繰り返しになりますが、必要にして十分な内容となっていると感じました。ただし、私大文系の学生にはややもすれば欠ける要素として、高校レベルの数学的な素養が必要です。すなわち、数式は詳細に展開されており、実際の数値例も豊富に収録しています。微積分や三角関数、ましてや、虚数なんてのは出てきませんが、繰返しになりますが、高校レベルの数学力は必要です。しかも、これも繰返しになりますが、私の経験では、この「高校レベルの数学力」を十分身につけている経済学部生は決して多くありません。

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次に、川本真哉・齋藤隆志・水落正明『データ分析を使ったレポート・論文ハンドブック』(中央経済社)を読みました。著者は、立教大学経済学部教授、明治学院大学経済学部教授、関西大学経済学部教授です。すなわち、すべて経済学部の教員であり、本書も経済系の内容と考えてよさそうです。データ分析を用いた論文やリポートの内のデータ分析部分だけではなく、そもそものテーマの探し方などから始めて、最後の論文の内容や体裁などまで、詳細なガイドブックとなっています。ただ、私の勝手な感想ながら、私自身が探しているのが1-2年生向けのデータ分析の解説書でしたので、やや難易度が高い気がします。私の勤務校である立命館大学のように、卒業論文を提出する必要のある4年生向け、ないし、大学院修士課程初年度性向けとしての用途なのではないか、という気もします。ただ、義務教育段階とは違って、大学まで至ればレベルは千差万別であって、本書のレベルは1-2年生向けと考える大学もあるのかもしれません。

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次に、青柳碧人『乱歩と千畝』(新潮社)を読みました。著者は、エンタメ小説家であり、『むかしむかしあるところに、死体がありました。』で第17回本屋大賞にノミネートされ、『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』などのヒット作があります。本書は、大正期から昭和の戦争を挟んだ時期というかなり長いタイムスパンを持つ小説であり、タイトルから容易に想像されるように主人公は江戸川乱歩と杉原千畝です。小説ですので、あくまでフィクションであり、どこまで歴史的な事実に基づいているのかは別にして、主人公2人は5歳違いで同じ愛知5中と早稲田の同窓であり、著者も早大ご出身ではなかったかと思います。早稲田近くの食堂でカツ丼を食べる際に主人公2人がいっしょになったあたりから小説が始まります。後は、極めて有名な2人ですので、江戸川乱歩は「二銭銅貨」でデビューしてミステリ作家になり、杉原千畝は外交官となります。その主人公2人のパーソナル・ヒストリーを追い、2人の人生に邂逅するミステリの編集者・作家である横溝正史や戦前期に外務大臣を務めた松岡洋右、あるいは、ほかにも名の知られた数多くの小説家や政治家・外交官が登場します。終戦後に江戸川乱歩は明智小五郎シリーズ、特に、少年探偵団のラジオドラマなどで有名になりましたし、世界大戦中に杉原千畝は本省の意向に沿わない形で、ヒトラーのドイツを逃れたユダヤ人に日本の通過ビザを出して、多くのユダヤ人を救っています。互いの人生が交差してラストに進みます。

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次に、似鳥鶏『みんなで決めた真実』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、2006年に『理由あって冬に出る』で第16回鮎川哲也賞に佳作入選してデビューしています。アンソロジーに収録されている短編を別にすれば、単行本や文庫本としては初読の作家さんかもしれません。本書はミステリであり、最後は謎解きや事件真相の解明となりますが、舞台は近未来の日本であり、刑事事件、特に殺人事件については情報公開が進んで、いわばエンタメ化してテレビ放送として裁判が実況中継され、その裁判では名探偵が登場してテレビ局のシナリオに沿ってトリックを暴いて謎解きを披露する、というCase Documentar=CDが一般化しています。ですので、犯人は適当にしつらえられて役割が割り振られ、無実であるにもかかわらず有罪を宣告されたりしてしまいます。しかし、そこはエンタメ化しているため、執行猶予のついた判決を得て、逆に、犯人としての立場からCDの放送でコメンテータを務めたり、本を出版したりするようになっています。そして、本書の主人公は法学部に通う大学生の貞末悠人であり、主人公がたびたび訪れる介護施設に入居している芳川昭は、すでに引退していますが、血縁でもない主人公から「じっちゃん」と呼ばれて慕われており、かつての名探偵で現在のCDで名探偵が披露する謎解きの間違いを指摘します。そして、同じ施設の老女の孫がJAXAの宇宙飛行士を目指して2次選考まで通過していながら、CDで犯人にされてしまいます。この裁判でじっちゃんの芳川昭が真実を解明して、しかも、徹底的にCDエンタメを根底から成り立たないような活躍をします。

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2025年12月12日 (金)

12月調査の日銀短観はほぼ横ばい圏内の動きか?

来週12月15日の公表を控えて、各シンクタンクから12月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は今年度2025年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
9月調査 (最近)+14
+34
<+8.4>
n.a.
日本総研+15
+35
<+9.2%>
先行きは、全規模・全産業で12月調査から▲4%ポイントの低下を予想。非製造業では、日中関係の悪化に伴う訪日中国人旅行者の落ち込みに対する懸念が業況を下押し。もっとも、① エネルギー安によるコスト削減圧力、② 物価の鈍化を受けた消費回復への期待、が業況を押し上げ。12月調査からの下振れ幅は、従来の傾向と比較して小幅となる見通し。
大和総研+13
+36
<+8.0%>
12月日銀短観では、大企業製造業の業況判断DI(先行き)は+14%pt(最近からの変化幅: +1%pt)、 同非製造業は+35%pt(同: ▲1%pt)を予想する。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+15
+34
<+9.5%>
景況感の改善は緩やかなペースにとどまるとみている。自動車の輸出数量が回復に転じている要因のひとつとして、輸出価格の引き下げが挙げられる。米国側の輸入企業が支払う追加関税コストを、事実上、日本の自動車メーカーが一部負担している格好だ。こうした企業行動は限界利益率の低下を通じて経常利益を大幅に下押ししている。そうしたもとで、2025年度の業績については自動車産業など、米国の輸入関税率が大きく引き上げられた業種を中心に悪化が見込まれる。米国市場で過度に価格を引き上げれば売上数量に下押し圧力がかかるため、安易な価格転嫁は難しい。こうした事情を踏まえると、自動車産業では当面関税コスト負担が継続する可能性が高い。その他の製造業においても15%の追加関税が適用されているが、関税上昇分のフル転嫁は当面難しいだろう。
ニッセイ基礎研+16
+34
<+8.5%>
先行きの景況感は総じて悪化が示されると予想。製造業では、高関税が続くことや関税が再び引き上げられるリスクへの警戒感が燻るだろう。非製造業では、長引く物価高による消費の腰折れや人手不足への懸念のほか、円安による原材料費増加や日中関係悪化に伴うインバウンド需要減少への警戒が台頭し、先行きの景況感の悪化として現れると見ている。
第一生命経済研+15
+33
<大企業製造業14.3%>
設備投資の勢いは、たとえ日銀が+0.25%程度の利上げをしたとしても揺るぎはしないであろう。そうした腰の強さも、日銀が円安是正を主眼にして追加利上げをするときの自信につながるだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+16
+34
<大企業全産業+11.0%>
(大企業製造業) 先行きは、海外経済の下振れ警戒感などから、業況判断DI(先行き)は2ポイント悪化の14と慎重な見通しとなるであろう。
(大企業非製造業) 人手不足の深刻化、日中関係の悪化への警戒感などから、業況判断DI(先行き)は4ポイント悪化の30と慎重な見通しになるだろう。
農林中金総研+15
+33
<8.0%>
先行きに関して、製造業ではトランプ関税による悪影響は今後も浸み出すと予想され、懸念は払拭できないだろう。非製造業については足元でみられる消費マインド改善は業績や景況を下支えするものの、日中関係の悪化に伴うインバウンド需要減少への懸念が反映されるとみられる。また、人件費増が業績圧迫につながることへの警戒感、人手不足が深刻な業種では業務を順調にこなせないことへの不安も根強いとみられる。以上から、製造業では大企業が12、中小企業が▲1と、今回予測からそれぞれ▲3ポイント、▲2ポイントと予想する。非製造業では大企業が27、中小企業が6と、今回予測からいずれも▲6ポイントと予想する。

見ての通りで、大企業製造業・非製造業ともに景況感についてはほぼ横ばい圏内の動きと私は考えています。製造業に関しては米国の関税政策がマイナス要因である一方で、プラス要因としては、特に、高市内閣になってからの円安の進行が輸出に追い風となり、AI関連需要も盛上がりを見せています。非製造業に関しては、製造業よりもややネガな印象で、何といってもインフレ高進による消費者マインドの悪化に加えて、日中関係の悪化に伴うインバウンド消費にも警戒が必要な段階に達していると私は考えています。ただ、いずれも、決定的に大きな動きをもたらすものではなく、総じて見れば製造業・非製造業ともに横ばい圏内、ということなのだろうと思います。設備投資についても同様で、上のテーブルを見ても、9月調査からの上方改定を見込むシンクタンクもあれば、下方修正を予測するケースもあります。私自身は小幅な下方修正と考えています。
最後に、下のグラフは三菱UFJリサーチ&コンサルティングのリポートから引用しています。

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2025年12月11日 (木)

景況感の回復続く10-12月期の法人企業景気予測調査(BSI)

本日、財務省から10~12月期の法人企業景気予測調査が公表されています。ヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は足元の10~12月期は+4.9、先行き2026年1~3月期には+3.7、4~6月期には+1.6と、景況感は改善が続くと見込まれています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

大企業の10-12月景況感、2四半期連続のプラス 米関税懸念和らぐ
内閣府と財務省が11日発表した10~12月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラス4.9だった。製造業、非製造業のいずれも改善し、2四半期連続のプラスとなった。
指数は自社の景況が前の四半期より「上昇」と答えた企業の割合から「下降」の割合を引く。前回の7~9月期はプラス4.7だった。調査時点は11月15日。
トランプ米政権による関税措置の発動を受け、製造業を中心に業績悪化の懸念があった4~6月期にマイナスとなって以降は改善が続いた。製造業はプラス4.7で2四半期連続のプラスだった。
特に米関税の影響が大きかった自動車・同付属品製造業はプラス6.5と2四半期連続のプラスとなった。化学工業で自動車向け製品や医薬品の需要増加があったほか、食料品製造業は価格転嫁が進んだ効果があった。
非製造業もプラス5.1と2四半期連続のプラスだった。金融業・保険業で貸出金利の上昇や株価の上昇による収益の改善があった。サービス業は宿泊や飲食で客数や客単価の上昇がプラスに寄与した。
大企業の先行きは全産業ベースで2026年1~3月期はプラス3.7、4~6月はプラス1.6だった。製造業、非製造業ともにプラスで米国の関税政策による不透明感が和らぎ、改善が続く見通しだ。
中堅企業の全産業はプラス4.7で2四半期連続のプラスとなった一方、中小企業の全産業はマイナス3.7と悪化が続いている。

かなり長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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繰返しになりますが、統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラスを継続していて、したがって、景況感は順調に改善を続けると考えるべきです。ただ、大企業においては、製造業・非製造業とも似通った動きで、ついでながら、中堅企業も同じなのですが、中小企業については足元の10~12月期がそもそも▲3.7とマイナスであり、先行き2026年1~3月期は▲6.6とマイナス幅が拡大し、4~6月期も▲3.4とマイナスが続く、という結果が示されています。自動車工業が典型なのですが、米国の関税引上げに対して価格がそれほど柔軟に対応せず、いわば、自動車メーカーや仲介商社が価格転嫁をせずに輸出数量=自動車台数を維持している部分がありますので、まさか、とは思いますが、トランプ関税のしわ寄せを規模の小さな下請けが背負わされている可能性はゼロではありません。また、引用した記事にはありませんが、雇用人員は引き続き大きな「不足気味」超を示しており、大企業全産業で見て12月末時点で+28.0の不足超、中堅企業では+37.4の不足超、中小企業でも+31.4の不足超と大きな人手不足が続く見通しです。設備投資計画は今年度2025年度に全規模全産業で+6.6%増が見込まれています。期待していいのではないかと思いますが、まだ、機械受注の統計やGDPに明確に反映されるまで至っていませんので、私自身は計画倒れになる可能性も否定できないと認識しています。

果たして、来週12月15日公表予定の12月調査の日銀短観やいかに?

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2025年12月10日 (水)

依然として高い上昇率が続く11月の企業物価指数(PPI)

本日、日銀から11月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+2.7%の上昇となり、先月10月統計と変わらず横ばいです。依然として高い伸びが続いています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、11月2.7%上昇 伸び率は横ばい
日銀が10日発表した11月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は128.0と前年同月と比べて2.7%上昇した。伸び率は10月(2.7%上昇)から横ばいだった。民間予測の中央値(2.7%上昇)と同じだった。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
農林水産物は30.1%上昇した。伸び率は10月(31.1%上昇)から鈍化したものの、コメ価格の高止まりを背景に高水準が続いている。
非鉄金属は14.9%上昇し、伸び率は10月(11.9%上昇)から3.0ポイント拡大した。銅などの価格高騰が影響した。
鉄鋼は6.8%下落した。中国による過剰生産で鉄鋼価格が下落したことが響いた。電力・都市ガス・水道は1.0%下落した。
日銀が公表している515品目のうち、価格が上昇したのは366品目、下落したのは121品目だった。28品目では価格が変わらなかった。

インフレ動向が注目される中で、長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下のパネルは国内物価指数そのものを、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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ヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率について、引用した記事には民間予測の中央値が+2.5%とありますが、私の見た範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.7%でした。実績の+2.7%はジャストミートしましたが、引き続き、日銀物価目標の+2%を大きく上回っていることは事実です。国内物価が上昇率が高止まりしている要因は、引用した記事の3パラ目にもあるように、農林水産物とそれに連動した飲食料品の価格上昇です。引き続き、コメなどが高い上昇率を示しています。また、対ドル為替相場は、高市内閣の成立により円安が進んでおり、10月+2.2%の円安に続いて11月も+2.6&の円安となり、平均で対ドルレートは150円台半ばを記録しています。さらに、私はエネルギー価格動向に詳しくないので、日本総研「原油市場展望」(2025年11月)を参考として見ておくと、10月のWTI原油先物価格は、上旬に50ドル台後半に下落、中旬には50ドル台後半で一進一退の後、10月下旬から11月にかけては60ドル前後に反発しています。そして、「原油価格は、来年にかけて50ドル台後半に下落する見通し」とされています。ただ、円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年2025年5~7月には2ケタの下落を続けていましたが、11月には△1.8%と下落幅を縮小させています。いずれにせよ、国内物価の上昇は原油価格ではなく国内要因による物価上昇であることは明らかです。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず、引用した記事にもある通り、農林水産物は10月の+31.1%からやや減速したとはいえ、11月も+30.1%と高止まりしています。これに伴って、飲食料品の上昇率も11月は+4.9%と、前月10月と同じ上昇率となっています。電力・都市ガス・水道は10月の▲0.6%から、11月は▲1.0%と下落幅を少し拡大しています。引用した記事にもある非鉄金属は10月の+11.9%から11月には+14.9%と上昇幅が拡大しています。

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2025年12月 9日 (火)

やっぱり関税は物価を上昇させるのか?

米国サンフランシスコ連銀のワーキングペーパー "What Is a Tariff Shock? Insights from 150 years of Tariff Policy" では150年の歴史的回顧で関税率の引上げが物価の下落につながったと指摘していましたが、全米経済調査会(NBER)のワーキングペーパー "Tracking the Short-Run Price Impact of U.S. Tariffs" は短期には関税が物価を引き上げたとの分析結果を示しています。まず、論文の引用情報は下の通りです。

つづいて、NBERのサイトからABSTRACTを引用すると下の通りです。

ABSTRACT
We use high-frequency retail microdata to measure the short-run impact of the 2025 U.S. tariffs on consumer prices. By matching daily prices from major U.S. retailers to product-level tariff rates and countries of origin, we construct price indices that isolate the direct effects of tariff changes across goods and trading partners. Prices began rising immediately after the broader tariff measures announced in early March and continued to increase gradually over subsequent months, with imported goods rising roughly twice as much as domestic ones. Our estimated retail tariff pass-through is 20 percent, with a cumulative contribution of about 0.7 percentage points to the all-items Consumer Price Index by September 2025. Our results show that tariff costs were gradually but steadily transmitted to U.S. consumers, with additional spillovers to domestic goods.

要するに、トランプ関税の適用された2025年3月から消費者物価が上昇を始め、輸入品は国産品の2倍の上昇を示し、関税転嫁率は20%、2025年9月までの消費者物価指数への累積寄与度は0.7%と推計しています。当然、輸入品の直接的な影響だけでなく、国産品にも波及効果があったと分析しています。かなり頻度の高いデータを用いているようです。論文から Figure 3: U.S. Retail Price Indices in Affected and Unaffected Categories を引用すると下の通りです。

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グラフは3本の折れ線であり、輸入品、影響を受ける国産品、影響を受けない国産品となっています。2025年3月初旬に輸入品と影響を受ける国産品の価格指数が上昇を始めた一方で、輸入品価格指数が5月に影響を受ける国産品価格指数を上回るようになり、他方で、影響を受けない国産品価格指数も7月下旬から価格上昇が波及し、最新時点では影響を受ける国産品価格指数と肩を並べるくらいまでになっています。やっぱり、少なくとも短期的には、関税率の引上げは物価上昇をもたらす、といえそうです。

最後に、それにしても短期的とはいえ価格転嫁率が20%にとどまっているのは、日本からの自動車輸出と同じで、中国の製造業者ないし仲介商社が、需要への影響を考慮して価格転嫁を抑えている、と見るべきなのかもしれません。

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2025年12月 8日 (月)

下方修正されマイナス幅が大きくなった7-9月期GDP統計速報2次QE

本日、内閣府から7~9月期GDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比▲0.6%減、年率換算で▲2.3%減のマイナス成長を記録しています。1次QEから下方改定されており、マイナス成長は6四半期連続ぶりです。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.4%、国内需要デフレータも+2.8%に達しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP2.3%減に下方修正 7-9月改定値、設備投資マイナスに
内閣府が8日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.6%減、年率換算で2.3%減だった。11月発表の速報値(前期比0.4%減、年率1.8%減)から下方修正した。最新の経済指標を反映した結果、設備投資などが下振れした。
1次速報時と同様に、実質ベースでは6四半期ぶりにマイナスに転じた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値(前期比0.5%減、年率2.0%減)を下回った。民間予測の幅は年率1.6%減~2.4%減だった。
設備投資が速報値の前期比1.0%増から0.2%減とマイナスに転じた。減少となるのは3四半期ぶり。12月発表の法人企業統計など各種統計を反映した。ソフトウエア投資の伸びは速報時の想定より低くなった。
GDPの過半を占める個人消費は0.2%増と速報値から0.1ポイント伸びが高まった。外食など飲食サービスがプラスに寄与し、小幅ながら3四半期連続でのプラスを維持した。
1次速報と同様に住宅投資と輸出が全体を下押しした。
住宅投資は8.2%減だった。4月から住宅の省エネルギー基準が厳しくなり、3月に生じた駆け込み需要の反動減があった。速報値の9.4%減からは上方修正となった。
輸出は速報値と変わらず1.2%減となった。米国による一連の関税引き上げの影響が自動車産業などに表れ、2四半期ぶりのマイナスとなった。
民間在庫は成長率に対して0.1ポイントのマイナス寄与だった。速報値からは0.1ポイント上向きに修正した。
政府消費は0.5%増から0.2%増に見直した。公共投資は速報値の0.1%増から1.1%減とマイナスに転じた。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比3.4%上昇した。1次速報時の2.8%上昇から上振れした。
5年に1度実施する基準改定の影響でGDPの実額は上方修正となった。7~9月期は年換算で名目値が665兆97億円となった。1次速報の635兆8225億円から上振れした。ソフトウエア開発などについて調査対象となる会社が広がったことなどが影響した。
実質は年換算で590兆1411億円だった。1次速報では561兆7653億円だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、雇用者報酬については2種類のデフレータで実質化されていてる計数が公表されていますが、このテーブルでは「家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃及びFISIM)デフレーターで実質化」されている方を取っています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2024/7-92024/10-122025/1-32025/4-62025/7-9
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.7+0.3+0.4+0.5▲0.4▲0.6
民間消費+0.5▲0.0+0.7+0.3+0.1+0.2
民間住宅+0.8+0.4▲0.0+0.4▲9.4▲8.2
民間設備+0.6▲0.2+0.2+1.3+1.0▲0.2
民間在庫 *(+0.4)(▲0.4)(+0.6)(▲0.0)(▲0.2)(▲0.1)
公的需要+0.2▲0.2▲0.2+0.2+1.0▲0.2
内需寄与度 *(+0.9)(▲0.5)(+0.9)(+0.4)(▲0.2)(▲0.4)
外需寄与度 *(▲0.2)(+0.8)(▲0.6)(+0.1)(▲0.2)(▲0.2)
輸出+2.2+1.7▲0.1+1.9▲0.3▲0.3
輸入+3.0▲1.9+2.4+1.4▲0.1▲0.4
国内総所得 (GDI)+0.7+0.4+0.1+1.1▲0.3▲0.5
国民総所得 (GNI)+0.6+0.0+0.5+0.7+0.5+0.3
名目GDP+1.1+1.1+0.9+2.1+0.1▲0.1
雇用者報酬+0.3+0.2▲0.7+0.7+0.5+0.2
GDPデフレータ+2.7+3.0+3.6+3.3+2.8+3.4
内需デフレータ+2.4+2.5+3.1+2.6+2.2+2.8

上のテーブルに加えて、需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期のGDP統計速報2次QEの最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、赤の民間消費のみがわずかにプラス寄与していますが、緑色の民間住宅や黒の純輸出が大きなマイナスの寄与度を示しているのが見て取れます。なお、今回から最近時点での見やすさを重視したスケールに変更しています。コロナ期の大きな振幅を無視していて、カットされる部分もあります。

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先月11月15日に公表された1次QEでは季節調整済みの系列で前期比▲0.4%減、前期比年率で▲1.8%減のマイナスの成長であったところ、繰り返しになりますが、本日の2次QEではそれぞれ▲0.6%減、▲2.3%減に下方修正されています。内需のうち、民間消費と民間住宅が上方修正された一方で、民間設備が大きく下方修正されています。加えて、昨年公表された産業連関表に従って、基準年次が2020年に変更されており、これに従って過去にさかのぼって、かなり大きな改定がなされています。いずれにせよ、内需・外需(純輸出)ともマイナス寄与であり、輸出とそれに起因する民間設備の停滞がマイナス成長の大きな要因となっています。ですから、やっぱり、トランプ関税の影響は大きかった、と私は考えています。加えて、先行きに関しても、米国の自動車関税が15%に設定されますので、その影響はジワジワと出てくると考えるべきです。今年上半期においては、メーカーや商社が関税によるコストアップを価格引下げで応じた結果であり、この対応はいかにも日本的といえますが、決してサステイナブルではありません。ですので、この先には自動車輸出の数量が停滞する局面が待っている可能性は否定できません。ただし、米国がこのままソフトランディングに成功して、景気後退にならなければ、日本も早々景気後退に陥ることはない、と私は楽観しています。いずれにせよ、景気後退ともなれば雇用をはじめとして急激な景気の悪化が見られるのが通常であり、それ故に景気後退については回避できれるのであれば回避すべきという考えがエコノミストの間では強いのですが、直前のリーマン証券破綻後の金融危機とか、コロナのパンデミックとか、きわめて厳しい景気の悪化に比べれば、今回の景気後退局面はそれほどではない可能性もあるのではないか、と私は考えています。要するに、景気後退に陥る可能性は低く、加えて、従来タイプの深刻な景気後退ではない可能性もある、といったところです。

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また、本日、内閣府から11月の景気ウォッチャーが公表されています。統計のヘッドラインを見ると、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.4ポイント低下の48.7で7か月ぶりの低下となり、先行き判断DIも▲2.8ポイント低下の50.3を記録しています。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直している」で据え置いています。

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さらに、本日、財務省から10月の経常収支が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、季節調整していない原系列の統計で+2兆8335億円の黒字の黒字を計上しています。7か月連続の黒字です。

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今日は上の倅の誕生日

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今日は、上の倅の誕生日です。
そろそろ、30歳も近くなりましたが、いっこうに結婚する様子がありません。もっとも、親の方も両親とも30を超えて、私は30も半ばに達しての結婚でしたので、大きなことは言えません。静かに見守るだけです。

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2025年12月 7日 (日)

上原ひろみによる Blue Giant のサウンドトラックを聞く

上原ひろみによる映画 Blue Giant のサウンドトラックです。映画は2023年に封切られています。出だしはコルトレーンの Impressions から始まって、最後の2度目のテーマまで。とても短い曲が29曲収録されています。私は不調法者で、『ビッグコミック』のマンガも、映画も見てはいません。でも、上原ひろみですので、音楽だけは聞いておきたいと思います。

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2025年12月 6日 (土)

今週の読書は経済書2冊のほか計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ケネス・ロゴフ『ドル覇権が終わる時』(日経BP)では、国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストも務めた著者が、ドル覇権の歴史を振り返りつつ、将来の米ドルの地位に対するチャレンジとして、対抗する国の通貨ではなく、米国自身のインフレや政府債務の積み上がりを指摘しています。井手英策『令和ファシズム論』(筑摩書房)では、昭和初期の高橋財政を評価しつつ、ファシズムを防止するため、国民生活を圧迫する緊縮財政も、債務を積み上げる放漫財政も排して、中庸な財政運営を提唱していますが、逆に、本書のような中道がファシズムへの道となりかねない点が危惧されます。伏尾美紀『最悪の相棒』(講談社)では、犯罪被害者家族心理分析班なる新組織が警視庁の捜査一課に新設され、子どものころからの因縁ある広中承子と潮田格の2人の刑事が相棒となって、交番の警官とともに花園団地の事件の解明と解決に当たります。江原慶『資本主義はなぜ限界なのか』(ちくま新書)は、マルクス経済学の視点をもって、蓄積をストップする脱成長市場経済から蓄積も利潤もストップさせる脱成長コミュニズムを展望しています。マルクス経済学に何ら見識ない私には、経済学というよりも歴史発展の観点で疑問が残りました。稲村悠『謀略の技術』(中公新書ラクレ)では、諜報のひとつの形態である人的情報源からの情報収集、すなわち、ヒュミントのさまざまな手法や実例などを収録し、まさに、米国のCIAや英国のMI6、あるいは、旧ソ連のKGBといったスパイ組織の活動について映画を見ているようでした。藤井敏嗣『富士山噴火』(岩波新書)では、富士山はいつ噴火してもおかしくないとの認識のもと、火山噴火の基礎知識から富士山の歴史に残る噴火の事実など、さまざまな観点から富士山の噴火、さらに、噴火に備えた火山政策などについて幅広く解説を加えています。
今年2025年の新刊書読書は1~11月に293冊を読んでレビューし、12月に入って今週の6冊を加えると合計で299冊となります。今年も年間で300冊に達するのはほぼほぼ確実と受け止めています。また、これらの新刊書読書のほかに、桃野雑派『星くずの殺人』と続編の『蝋燭は燃えているか』(講談社)も読んでいます。ただ、新刊書ではないので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、ケネス・ロゴフ『ドル覇権が終わる時』(日経BP)を読みました。著者は、米国ハーバード大学教授であり、ご専門はマクロ経済学、金融経済学です。今世紀初頭の2001-03年に国際通貨基金(IMF)のチーフエコノミストも務めています。私の予想ではノーベル経済学賞にもっとも近いトップテンに入るエコノミストの1人だと思います。本書の英語の原題は Our Dollar, Your Problem であり、今年2025年の出版です。英語の原題も日本語タイトルも、いずれも定義がややあいまいな「基軸通貨」という用語を用いていない点は少し注意して読み進んだ方がいいと思います。本書の中でも必要に応じて「基軸通貨」と表現していますが、本書の趣旨はあくまで日本語タイトルに正確に表されている「ドル覇権」なのだろうと私は思います。思い起こすべきは、フランスのジスカール・デスタン大統領に由来する「とてつもない特権」="exorbitant privilege" ではないかと思います。本書では軽く、調達金利が低い点だけが印象的ですが、米ドルにはほかにも特権がいっぱいあります。そういった国際金融の歴史を冷戦期から振り返っています。しかも、英語タイトルにも日本語タイトルにもあるように、著者は国際金融史のインサイダーであり、著名なエコノミストとして、そして、もちろん、IMFのチーフエコノミストとして、私のような並のエコノミストでは接することが出来ない情報にもアクセスしてきています。米ドルの覇権については本書第1章序論にあるように、現時点で世界のGDPの25%を占める米国の通貨である米ドルは、外貨準備の60%、原油取引の80%、商品貿易の40%が、それぞれドル建てとなっていることに現れています。広く知られているように、米ドルの前の覇権は英国のポンドだったったわけですが、20世紀初頭の第1次世界大戦を経て通貨覇権は米ドルに移行しています。ですから、本書でも米ドルの覇権は永遠ではないと指摘し、その背景となる条件ほかについて分析しています。主要には私は2点読み取りました。軍事力と金融市場の発達です。いずれも、前の通貨覇権国である英国も裏付けとして十分な軍事力と発達した金融市場を持っていたことはいうまでもありません。そして、これまた、ドル覇権に対するチャレンジは、決して中国の人民元や欧州のユーロ、もちろん、絶対に日本円ではなく、そういった海外からのチャレンジではなく、むしろ、米国自身のインフレによる低金利の終焉、政府債務、そして、その政府債務に対するアカデミズムの軽視、があると強調しています。すなわち、サマーズ教授なんかが主張し始めた "secular stagnation"=長期停滞は永遠に続くわけではなく、AIの活用などにより成長率が上昇する可能性があって、成長率が上昇して低金利の時代が終わる可能性を指摘しています。そして、現代貨幣理論(MMT)などをはじめとしたアカデミズムの「政府債務はフリーランチ」という志向や政治面でのバイアスからインフレが高進する可能性も指摘しています。はい、そうかもしれません。最後に、私は40年前のバブル経済期であれば、米国に取って替わる勢いのあった日本経済を背景に、ドル覇権の終了は日本経済にはひょっとしたらチャンスになるかもしれない、と考えた可能性がありますが、現時点ではドル覇権が終了に至らないまでも、もしも弱体化したりすれば、日本経済は米国とともに沈んでいく可能性の方を憂慮すべきか、と考えています。最後の最後に、さすがにロゴフ教授も70歳を超えて自分のパーソナル・ヒストリーを振り返ると、かなり自慢話が多くなっている印象を受けました。意識的に避ける努力をしなければ、私もたぶん自慢話が多くなるんだろうと思います。

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次に、井手英策『令和ファシズム論』(筑摩書房)を読みました。著者は、慶應義塾大学経済学部の教授であり、ご専門は財政社会学です。本書は、かなり過激なタイトルですが、タモリの「新しい戦前」におそらく触発されて、現在の日本の経済社会をおおっている薄らぼんやりとした不安の背景を解明すべく、そして、ファシズムに行き着くことなく日本の自由と民主主義を守るという目的で書かれているようです。ただ、その目的は明らかに失敗しています。その失敗は最後に振り返るとして、取りあえず、本書の構成を見ておくと、冒頭4章までで日本とドイツの第1次世界大戦後の財政史を後づけて、財政史の観点からいかに両国がファシズムと戦争に行き着いてしまったかを概観しています。それらは8点に取りまとめられて、終章のpp.300-304にリストアップされています。私が重要と考えるポイントについては、要するに、(1) 生活不安がありながらも、(2) 社会保障が不十分で、(3) 中央銀行に国債を引き受けさせ政府債務を発行することに経済政策運営が頼り、ひとつ飛ばして、(5) 雇用創出から軍備拡張に政策が変化し、(6) 予算が議会による民主的な統制から外れ、以下2点省略、ということになります。日本では、井上蔵相による旧平価での金解禁に高橋財政が対比されつつ、でも、高橋財政では財政赤字は放置されることなく、好況期には増税により赤字削減が図られた点が、本書では強調されています。そして、5章で現在のトピックに重点が置かれるようになり、財政規律が緩んで政府債務に依存した経済運営になっている点が批判的に取り上げられています。その矛先は政府与党だけでなく、「日本財政の大きな不幸は、共産党や社会党が徹底して『反消費税』路線をとってきたことである。」(p.274)と、野党左派にも及んでいます。そして、最後には終章のタイトルは「エクストリーミズムをのりこえる」となっていて、エクストリーミズム=極端主義ではなく中道の財政、すなわち、財政収支の均衡を目指した緊縮財政ではなく、かといって、政府債務に依存した経済運営のような放漫財政でもなく、分断を回避するような中庸の政策の必要性を主張しています。まず、本書では用語としては現れませんが、おそらく、ハーベイロードの前提=Harvey Road presumption が強く認識されているように感じました。ただ、議会による民主的な財政/予算の策定も強く主張されています。でも、国民の要求に沿った財政運営は、ともすれば、ポピュリズムとラベリングして批判的な見方を示していますし、どちらかといえば、ハーベイロードの前提の方が背景としては強力に意識されている印象です。まあ、やや誇張すれば、ポピュリズムを排して賢人が予算を策定して運営すれば、財政が大きな赤字を出すことはない、という見方なんだろうと思います。賛否は分かれるでしょう。次に、極端を避け、ファシズムに行き着くことなく日本の自由と民主主義を守るという本書の目的は明らかに失敗しています。本書は、分断を乗り越える「中道」と自称しつつも、また、エクストリーミズムを排するといいつつも、実は、先日読んだ酒井隆史・山下雄大[編著]『エキストリーム・センター』(以文社)の格好の例となっています。すなわち、「左右両極のポピュリズムを排するといった志向から、実は、エキストリーム・センターは極右に甘く、場合によっては共謀すらしかねない存在」とは、まさに、本書のような主張であると考えるべきです。

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次に、伏尾美紀『最悪の相棒』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家なのですが、2021年に第67回江戸川乱歩賞を受賞した『北緯43度のコールドケース』でデビューしています。博士号を持つ異色の警察官の沢村依理子を主人公とするデビュー作のシリーズには続編として『数学の女王』があり、私はどちらも読んでいます。加えて、最新刊の『百年の時効』が話題になって読んでみて、改めて、さかのぼって本書を読んでみた次第です。博士号を持つ沢村依理子のシリーズ2作は札幌が舞台でしたが、本書と次作の『百年の時効』は東京の警視庁が舞台となっています。本書では、警察官を父に持つ警視庁刑事の広中承子が主人公です。相棒となるのは潮崎格となりますが、2人には深い因縁があります。すなわち、2人が知り合ったのは子どものころであり、潮崎の姉がストーカーに殺害されたときに、犯罪被害者支援室に勤務していた広中の父がケアしていました。しかし、弘中の父は潮崎に対する異常な心遣いから、燃え尽き症候群のように体調を崩し、病気になって死に至ります。少なくとも、広中の記憶ではそうなっていて、したがって、潮崎は父の死に責任ある恨みの対象ということです。潮崎の方は仕事仲間から「犯罪被害者家族心理分析官」とまで呼ばれていて、犯罪被害者に強く寄り添う姿勢を持っています。ですので、犯罪被害者家族心理分析班なる新組織が警視庁の捜査一課に新設され、そこで2人がコンビを組むことになります。こういった過去の振返りは別として、ストーリー上では、現在の事件は都内の花園団地で起こります。私の知る限りでは、「限界団地」という表現もあったように記憶していますし、足立区の花畑がイメージされます。本庁の相棒2人に加えて、所轄署の交番勤務の警察官も事件解明に加わります。自宅で子ども2人をビニールプールで遊ばせていたところ、当時3歳の弟の方が溺死した事案で、5歳の兄の目撃証言を基にした再捜査など、いくつか事件が起こるのですが、最大のハイライトは団地に住む母子家庭の母娘殺害事件です。捜査当初は、DVで離婚した母娘の元夫・父親である競技自転車の選手が容疑者として浮かびますが、広中と潮田のコンビが、というよりも、潮田が交番勤務の警察官の協力も得つつ、事件の全容解明を行います。相変わらず、デビュー作の『北緯43度のコールドケース』と同じで、いろんな物を詰込み過ぎの印象です。『百年の時効』では、その詰込み過ぎが好評だったのだろうと思いますが、この作品ではそれほど評価できるとは思えません。この作家には、『百年の時効』のように、時間的に超長期か、地理的にだだっ広い範囲を取り込むようなミステリが適している気がします。

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次に、江原慶『資本主義はなぜ限界なのか』(ちくま新書)を読みました。著者は、立命館大学経済学部の准教授であり、ご専門は社会経済学、マルクス経済学です。はい。ですから、私の同僚ということになります。今年4月の採用ではないかと思います。「宇野派のホープ」とか、「宇野派のプリンス」と呼ばれるやに聞き及んだことがありますが、私には詳細は不明です。私は長い人生で「ホープ」とか、ましてや「プリンス」なんて呼ばれたことがありません。面識はありませんでしたが、キャンパスにある研究棟で、本書の最後にある著者近影と同じ人相風体の人と出くわしたので、「ちくま新書を読みました」とご挨拶しておきました。自分でもミーハーだと思います。それはさておき、本書では、表紙画像の副題にも見られる通り、脱成長の経済学をマルクス経済学の観点から展開しています。ですので、斎藤幸平『人新世の「資本論」』(集英社新書)と同じ主張なのだろうと思います。本書冒頭では、ごく簡単に経済学説史をひも解いた後、近代経済になって資本蓄積が始まって成長が当然視されるようになった歴史を振り返ります。地球環境や気候変動について概観し、私も授業で取り上げている Planetary Boundaries の議論にも言及しつつ、脱成長の基本構造について解説を加えています。その上で、現在の資本主義が継続される脱成長市場経済は蓄積を止めるだけである一方で、脱成長コミュニズムは利潤と蓄積の両方をストップするということらしく、二段階の脱成長を論じています。私はマルクス経済学については、大学時代にしか接したことがありませんので、50年近い時間を経過して大きな発展を遂げていることとは思います。でも、私の知る限り、宇野派はかつての労農派の一段階革命論ではなかったか、と記憶している一方で、講座派的な二段階脱成長論が本書では論じられています。マルクス主義の深さを実感します。それはさておき、私自身は経済学は別としても、マルクス主義的な歴史観、唯物史観については相当の信頼を置いています。ですので、資本主義の次には社会主義ないし前期共産主義が来て、さらにその次には共産主義ないし後期共産主義が来る、可能性は十分あると思います。要するに、現在の資本主義が永遠に続くわけではないというのは明らかです。ただ、その歴史を動かす主要な要因は生産力と生産関係の矛盾であり、資本主義的な生産関係のままでは生産力の限界があるので資本主義が終わる、すなわち、私の雑な理解では成長を続けるために資本主義を終えて社会主義になり、ゆくゆくは共産主義では生産力が超絶すごいことになって希少性が失われて、希少性に応じた価格付けを基礎とする市場が成り立たなくなる、というのが私の歴史感です。その私の雑な歴史観に大きく反して、マルクス主義こそが脱成長、という結論には少し違和感を覚えます。それから、共産主義というのはソ連や中国で悪いイメージを持つ人が多いので、コミュニズムと表現する方がファッショナブルなのかもしれませんが、逆の印象を持つ読者もいるような気がするのは私だけでしょうか。

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次に、稲村悠『謀略の技術』(中公新書ラクレ)を読みました。著者は、警視庁にて公安部捜査官として諜報活動の捜査に従事した経験を持ち、現在は日本カウンターインテリジェンス協会代表理事です。諜報活動やサイバー攻撃に関する警鐘活動に従事している、とのことです。本書では、いわゆる諜報活動を5種類に分類していて、p.28にある通りです。どうしても、オープンソースから情報を得るオシントが、ベリング・ザ・キャット=Belling the Catの活動などから注目されやすいのですが、本書でも指摘しているように、ヒュミント、あるいは、ヒューミントと呼ばれる対人接触を基に人的情報源から得る情報というのが、たぶん、もっとも価値あるんだろうという気がします。一般に、情報収集は専門家しかやっていないわけではなく、多くの人が何らかの情報収集活動を行っていると思います。ただ、本格的な諜報活動となれば、人には知られたくない情報を取得しようと試みるわけですので、私なんかが経済統計をウォッチしているのとは違います。もちろん、私も長らく公務員でしたし大使館勤務の経験がありますから、まずは公開情報から初めて、場合によっては先方政府の情報源に当たって情報を入手する、というヒュミントの活動をする場合もあります。本書では、私がやっていた経済情報などの収集というチャチい情報収集活動ではなく、米国のCIA、英国のMI6、あるいは、旧ソ連のKGBのスパイ、いかにも映画に出てきそうなスパイがやっている諜報活動について、多くの事例を上げて警鐘を鳴らしています。ただ、一般的な出版物などからのヒュミントの例ですので、政策的なセキュリティ・クリアランスといった生臭いお話は、それほど多いわけでは決してなく、むしろ、読み物的に実例を豊富に収録している印象です。ただ、そうとはいっても、私なんぞの一般ピープルには知り得ない内容が多く含まれていることは確かですから、警鐘活動には十分です。最後に3点、私の感想です。繰り返しになりますが、第1に、ホントのインテリジェンス活動、諜報活動というのは、こういった一般向けの出版物には収録できないのだろうと考えるべきです。その意味で、諜報活動には、特に本書で着目しているようなヒュミントには、もっと奥深いものがいっぱいなんだろうと思います。第2に、本書で着目しているのは情報を入手する諜報活動なのですが、それと同等にその背後で情報を分析する活動というのも重要だと私は考えています。決して秘匿されていない、どころか、新聞にデカデカと掲載される「長期金利1.9%」の数字から何を読み取るのかがエコノミストの能力だと考えるのと同じです。第3に、最後に、私自身深く自覚しているところですが、本書で取り上げられているヒュミントの手法のうち、私はたぶんハニートラップに弱いと思います。まあ、そんな誘惑を受けたことはありませんが、たぶん、イチコロだと思って用心しています。

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次に、藤井敏嗣『富士山噴火』(岩波新書)を読みました。著者は、東京大学の名誉教授であり、東京大学地震研究所の所長もご経験されています。ご専門はマグマ学、火山学、火山防災政策だそうです。タイトル通りの本であり、冒頭で、富士山は最近の休止期間が異常に長く、いつ噴火してもおかしくない、という警告から始まります。もちろん、富士山に限らず、火山一般についての解説も豊富に収録されています。噴火の規模の表し方にVEIというのがあり、たぶん、Volcanic Explosion Index あたりではないかと思うのですが、これは噴火の際に噴出する軽石や火山灰などの噴出物=テフラの量に基づいて決定されるので、テフラが少なくて溶岩流ばっかりの噴火の場合には過小評価される可能性を指摘しています。そういった火山に関する一般的な基礎知識を基に富士山噴火を考え、特に、歴史的には3大噴火があるそうで、800-802年の延暦噴火、864-866年の貞観噴火、1707年の宝永噴火を概観しています。貞観噴火は2018年ハワイのキラウエア火山の噴火と酷似しているらしいです。もちろん、古い時代の史料には限界があり、科学的とはとても思えないような記述も紹介されています。火山がどうして噴火するかといえば、私のようなシロートでも理解しているように、地下に溜まったマグマが何らかの原因で地上に爆発的に噴出するわけです。火山学の専門家でなくても、「マグマが溜まる」というのは、マグマ=フラストレーションの意味で比喩的に使うことはあると思います。ただ、富士山の場合はマグマ溜まりが地下20キロ以上と深く、現在の観測技術ではマグマ溜まりの膨張などに基づく噴火予知は出来ない、という結論だそうです。私の専門分野である経済学では、経済見通しや予測が当たらないという世間一般の評価なのですが、たぶん、気象や地震予知、あるいは、火山の噴火予知なんかも経済の先行き見通しと、正確性の点に関して大きな差はないのではないか、と思っていしまいました。いずれにせよ、富士山が噴火したりすれば、テフラは東の方に飛ぶ、というか、流れるわけで、噴火の規模によっては首都圏が被災する可能性が十分あります。首都圏直下型地震とともに、東京を首都のままにして大丈夫かという疑問は残ります。さりとて、維新が与党に加わって注目されている大阪か、というのも、さまざまなな意見がありそうです。最後に本筋を離れますが、私の感想を2点上げておくと、富士山は日本でもっとも高いという標高だけでなく、その姿かたちの美しさからも評価されているわけで、美術的に宝永噴火で生じた宝永火口や宝永山を無視した富士山を描くことがあるそうです。例えば、横山大観先生は宝永山は絵に描く必要はないとの説だったと紹介されています。第2に、富士山火山のハザードマップの作成が風評被害を懸念する周辺市町村や観光協会の反対意見で中断された経緯を取り上げています。まあ、そういった意見も出るかもしれません。

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2025年12月 5日 (金)

2か月連続で上昇した10月の景気動向指数CI一致指数

本日、内閣府から10月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+1.8ポイント上昇の110.0を示した一方で、CI一致指数も+0.5ポイント上昇の115.4を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気一致指数10月は0.5ポイント上昇、生産寄与し2カ月連続改善=内閣府
内閣府が5日公表した景気動向指数速報(2020年=100)は、足元の景気を示す一致指数が前月比0.5ポイント上昇の115.4と2カ月連続で改善した。基調判断は「下げ止まりを示している」で据え置いた。
一致指数を構成する各指標のうち、耐久消費財出荷指数や鉱工業生産指数、小売販売額などのプラス寄与が大きかった。乗用車の輸出向け出荷増や国内乗用車の販売増のほか、リチウムイオン電池や自動車部品の出荷増などが要因。一方、有効求人倍率などは指数を押し下げた。
先行指数も前月比1.8ポイント上昇の110.0と6カ月連続で改善した。鉱工業用生産財在庫率指数や新設住宅着工床面積、日経商品指数などが押し上げた。電子部品の在庫減が寄与したほか、4月の省エネ基準厳格化で駆け込み需要の反動減が続いていた新設住宅着工の回復もプラス要因だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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10月統計のCI一致指数は、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、前月から+0.4ポイントの改善が見込まれていましたので、実績の+0.5ポイントの上昇はやや上振れた印象です。また、内閣府の記者発表によれば、3か月後方移動平均は4か月ぶり上昇で前月から+0.37ポイント上昇した一方で、7か月後方移動平均は前月から▲0.05ポイント下降し、こちらは4か月連続の下降となっています。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、5月統計から「下げ止まり」に下方修正されましたが、今月10月統計でも「下げ止まり」に据え置かれています。私はいろいろと紆余曲折を経つつも、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはない、と考えています。ただし、米国経済でも日本経済でもまだまだインフレが高止まりしており、特に、日本ではすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありません。加えて、長期金利が2%に近づいている中で、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めは景気を下押しすることが明らかであり、引き続き、注視する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、耐久消費財出荷指数が+0.36ポイントがもっとも大きく、次いで、生産指数(鉱工業)の+0.23ポイント、商業販売額(小売業)(前年同月比)が+0.19ポイント、などが上昇の方向で寄与しています。マイナス寄与は、と有効求人倍率(除学卒)が▲0.38ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)が▲0.17ポイント、などとなっています。ついでに、前月差+1.8ポイントと上昇したCI先行指数の上昇要因も数字を上げておくと、鉱工業用生産財在庫率指数が+0.69ポイント、新設住宅着工床面積が+0.62ポイント、日経商品指数(42種総合)が+0.23ポイントなどとなっています。

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2025年12月 4日 (木)

2次QE予想は下方修正だが先行き景気腰折れには至らず

今週12月1日の法人企業統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、来週12月8日に、7~9月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である7~9月期ではなく、足元の10~12月期から来年にかけて先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。先行き経済について言及しているシンクタンクはみずほリサーチ&テクノロジーズや第一生命経済研や明治安田総研などであり、特にみずほR&Tは詳細に分析していますので長々と引用してあります。いずれにせよ、1次情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。ただし、2次QEは法人企業統計のオマケのように扱われている場合も少なくありません。なお、"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE▲0.4%
(▲1.8%)
n.a.
日本総研▲0.6%
(▲2.4%)
2025年7~9月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資と公共投資が大幅に下方改定される見込み。この結果、成長率は前期比年率▲2.4%(前期比▲0.6%)と、1次QE(前期比年率▲1.8%、前期比▲0.4%)から下振れると予想。
大和総研▲0.5%
(▲1.9%)
2025年7-9月期のGDP2次速報(QE)(12月8日公表予定)では実質 GDP 成長率が前期比年率▲1.9%と、1次速報(同▲1.8%)から小幅に下方修正されると予想する。主因は7-9月期の法人企業統計の結果を受けた設備投資の下方修正だ。
みずほリサーチ&テクノロジーズ▲0.5%
(▲2.2%)
先行きについてみると、米国関税政策が引き続き輸出・生産の重石になり、製造業の業績下押しが設備投資に対し一定の抑制要因になることが見込まれる。他方で、上記の一時的なマイナス要因が剥落することに加え、インフレ率が徐々に減速して個人消費が回復し、10~12月期は実質GDPが再びプラス成長に戻るだろう。
今後、企業による関税コストの価格転嫁は時間をかけて段階的に実施されるとみられる。米国関税政策が輸出のさらなる減少を通じて日本経済を下押しする影響は、長引くものの、各期のインパクトは浅いものにとどまる見込みだ。9月の米国の消費者物価指数は前月比+0.3%と、8月(同+0.4%)から減速した。これまで関税コストの価格転嫁が進んでいなかった衣料品や新車等で物価上昇の動きがみられる一方、既に価格転嫁が進んでいた家具や玩具などは価格上昇が一服している。関税によって米国で急激なインフレが生じるリスクが低下していることに加え、堅調なAI関連投資や株価の上昇による下支えを受けて、米国景気の減速ペースは緩やかなものにとどまる可能性が高い。
また、企業業績への影響という点では、円安が関税の悪影響を緩和する要因になろう。輸出企業の採算円レート(輸出企業全体で130.1円/ドル、輸送用機器で124.7円/ドル)に比べ、本稿執筆時点のドル円相場(1ドル=156円程度)は輸出企業全体で約20%、輸送用機器で約25%の円安水準にある。もちろん、円安は内需に依存する非製造業や中小企業などで原材料コストの上昇を通じ業績の下押し要因になる面もあるが、原油安による交易条件の改善も相まって、全体としてみれば企業業績は持ちこたえる可能性が高い。その結果、設備投資は増加基調を維持し、2026年にかけて賃上げ気運も継続するだろう。2026年の春闘賃上げ率は2025年対比でやや鈍化するものの、5%前後の高い水準で着地すると予想する(厚生労働省・主要企業ベース)。
個人消費については、実質賃金の改善が回復をけん引する要因になるとみている。人手不足感の強まりに加えて、米国関税政策の悪影響の中でも企業業績が持ちこたえている状況を受けて、冬のボーナスは増勢を維持する見込みだ。みずほリサーチ&テクノロジーズでは、冬の民間企業の一人当たりボーナス支給額が前年比+2.2%と、昨冬から伸びが鈍化するものの冬としては5年連続で前年比プラスになると予想している。また、物価面では食料インフレが徐々に鈍化することが見込まれ、実質賃金の改善に寄与するだろう。
その他の消費関連指標をみても、10月の消費者態度指数や景気ウォッチャー調査における現状判断DIが改善傾向で推移している。インフレ率の減速に加え、株高による消費者マインドの改善も押し上げ要因になり、個人消費は緩やかながらも回復傾向が継続するだろう。
以上を踏まえ、日本経済は前述したとおり関税影響が重石になるものの、現時点では景気後退入りを回避できる公算が大きいとみている。
ニッセイ基礎研▲0.6%
(▲2.2%)
12/8公表予定の25年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.6%(前期比年率▲2.2%)となり、1次速報の前期比▲0.4%(前期比年率▲ 1.8%)から下方修正されると予想する。
第一生命経済研▲0.5%
(▲2.2%)
住宅投資の落ち込みに歯止めがかかることや設備投資の増加によって10-12月期のGDP成長率はプラスに転じるとみられるが、輸出の下押しが影響することで、7-9月期の落ち込みと比べると小幅な持ち直しにとどまると予想している。牽引役に欠けるなか、年度下期の日本経済は緩やかな持ち直しにとどまる可能性が高い。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.5%
(▲1.9%)
2025年7~9月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比-0.5%と1次速報値の同-0.4%からやや下方修正される見込みである(前期比年率換算値では-1.8%から-1.9%に下方修正)。修正幅は小さく、「下振れ懸念が強まる中にあっても景気の持ち直しの動きは維持されている」との景気判断を修正する必要はないであろう。
明治安田総研▲0.5%
(▲2.1%)
先行きに関して、個人消費は、12月に実質賃金のプラス転換が予想されるものの、伸び幅は限定的で力強さを欠く可能性が高い。また、米国の関税政策は引き続き自動車を中心に輸出の下押し圧力になるとみられる。一方、7-9月期の住宅投資の落ち込みは、建築基準法改正を前にした3月の着工件数急増の反動がタイムラグをもって顕在化したことが主因であり、一時的である可能性が高い。加えて、継続的な省力化投資が後押しするかたちで設備投資が堅調に推移すると見込まれることから、年度後半の日本景気は緩慢ながらも回復基調を維持すると予想する。
東京財団+0.05%
(+0.20%)
2025年10-12月期のGDP(実質、季節調整系列前期比)を、0.05%と予測。※年率換算: 0.20%

一応、ご注意まで、私のテーブルの作成が判りにくくて申し訳ありませんが、最後の東京財団のナウキャスティングは2次QEの対象期間である7~9月期ではなく、足元の10~12月期の予想です。
月曜日の12月1日に法人企業統計を取り上げた際にも指摘しましたが、設備投資をはじめとして小幅に下方修正の可能性が高いと私は考えています。大雑把に、各シンクタンクとも私と同じ趣旨の予想だという気がします。ということで、先行きの日本経済について考えると、私は景気拡大が後半に入ったことを認識しつつも、繰り返し、米国経済が景気後退に陥らずにソフトランディングするとすれば、日本経済もそう簡単には景気後退に入らない、との見方を示してきました。しかし、今春あたりから、前半の米国経済に関する前提が崩れつつあるように感じて、もしも、米国経済が今年後半ないし来年早々に景気後退に入るとすれば、日本もご同様であろう、と考えるように改めましたが、ふたたび、やっぱり、米国経済が景気後退に陥らずにソフトランディングするとすれば、日本経済もそう簡単には景気後退に入らない、との見方に戻りつつあります。少なくとも、日本経済については足元の10~12月期はプラス成長に戻る可能性が十分あり、来年2026年からさ来年2027年にかけてならせば、潜在成長率見合いの+0.5~1.0%のレンジの緩やかな成長が続く、と国際通貨基金(IMF)や経済開発協力機構(OECD)は見込んでいるようです。いつも通り、ケインズ卿の言回しで "When the facts change, I change my mind. What do you do, sir?" というのを上げておきます。
最後に、下のグラフはみずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから引用しています。消費をはじめとして内需が軒並みマイナス成長で、しかも、純輸出=外需もマイナス成長である中で、公的需要だけがプラス寄与しています。マクロ経済安定化政策のあるべき姿であろうと思います。

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2025年12月 3日 (水)

OECD「経済見通し」では世界経済の成長率見通しは据置き

日本時間の昨日12月2日、先進国が加盟しパリに本部のある国際機関である経済協力開発機構(OECD)からOECDの「経済見通し」OECD Economic Outlookが公表されています。ヘッドラインとなる世界経済の成長率は今年2025年+3.1%、来年2026年+2.9%と、9月時点の見通しから変化なく、新たに公表されたさ来年2027年は+3.1%を見込んでいます。今どきのことですから、pdfの全文リポートもアップロードされています。まず、OECDのサイトからリポートの Introduction を引用すると下の通りです。

Introduction
The global economy has proved more resilient than expected this year, supported by improved financial conditions, rising AI-related investment and trade, and macroeconomic policies. However, underlying fragilities are increasing. Labour markets are showing first signs of weakening despite the OECD unemployment rate steady at 4.9%, with job vacancies falling below their 2019 average in many countries and confidence softening. Risks around the outlook remain significant, including the prospect of further trade barriers, a potential sharp repricing of risk in financial markets, potentially amplified by stresses in leveraged non-bank financial institutions and volatile crypto-asset markets. Lingering fiscal concerns could lead to further increases in long-term bond yields, which may tighten financial conditions and elevate debt-service burdens, potentially weighing on economic growth.

続いて、OECDのツイッタのサイトから Real GDP growth projections を引用すると下の通りです。

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見ての通りなのですが、我が日本の成長率は今年2025年+1.3%の後、来年2026年、さ来年2027年ともに+0.9%と潜在成長率見合いの着実な成長が見込まれています。何分、マクロ経済見通しという広い範囲のトピックですので、的を絞って、AIをはじめとするテック関係やICT投資に関連するグラフをリポートから、いくつか取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから Figure 1.3. Strong tech-related demand is supporting trade, particularly in Asia を引用しています。Introduction でも言及されているように、世界経済の好調さの背景には金融環境の改善、AI関連投資と貿易の増加、そしてマクロ経済政策があります。上のグラフはそのうちの貿易の増加がAI関連により、特にアジアで伸びていることを示しています。

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続いて、上のグラフはリポートから Figure 1.4. Strong ICT investment has supported economic growth を引用しています。国別では米国でICT投資が進んでおり、時期的には最近の今年2025年上半期に伸びていることが示されています。

最後に、物価上昇率の見通しについて、消費者物価のヘッドライン上昇率は、OECD加盟国では今年2025年+4.2%、来年2026年+3.5%、さ来年2027年+2.8%と見込まれていますが、日本についてはこれよりかなり低く、今年2025年+3.2%、来年2026年2.2%、さ来年2027年+2.1%と緩やかに日銀物価目標の+2%に低下していくパスを想定しているようです。

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2025年12月 2日 (火)

さらに上昇して持ち直しが続く11月の消費者態度指数

本日、内閣府から11月の消費者態度指数が公表されています。11月統計では、前月から+1.7ポイント高い37.5を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

11月消費者心理、4カ月連続改善 基調判断「持ち直している」維持
内閣府が2日発表した11月の消費動向調査で、消費者態度指数(2人以上世帯、季節調整値)は前月より1.7ポイント高い37.5だった。4カ月連続で改善した。基調判断は「持ち直している」で据え置いた。
11月6~20日に調査した。指数を構成する4項目すべてが4カ月連続で前月から上昇した。「耐久消費財の買い時判断」は2.0ポイント、「暮らし向き」は1.9ポイント上がった。
株式や土地などの値動きを聞いた「資産価値」についても0.3ポイント上がり、7カ月連続で上昇した。
1年後の物価が「上昇する」とする回答は依然として9割を超えた。このうち「5%以上」を見込む割合は前月から5.8ポイント低下し、44.7%となった。2024年8月以来の低い水準で、内閣府の担当者は「コメや野菜の価格高騰が一時期より落ち着いたことが背景にあるのではないか」と指摘した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「耐久消費財の買い時判断」が+2.0ポイント上昇して30.9、「暮らし向き」が+1.9ポイント上昇し36.2、「雇用環境」が+1.6ポイント上昇して41.7、「収入の増え方」が+1.0ポイント上昇し41.0と、消費者態度指数を構成する4項目すべてが上昇しました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直している」で据え置いています。先月10月統計で上方修正してから、2か月連続の「持ち直している」という判断です。私が従来から主張しているように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があります。総務省統計局による消費者物価指数(CPI)のヘッドライン上昇率は、今年2025年に入ってから1月+4.0%をピークに徐々に低下を続けており、8月+2.7%まで減速したのに続いて、9月+2.9%、10がつ+3.0%と小幅に加速し、依然として+2%の日銀物価目標を越えていますが、この半年ほどでやや落ち着きを取り戻し始めています。インフレとデフレに関する消費行動は、1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、1990年代後半にデフレに陥る前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、バブル経済崩壊後の長い長い景気低迷機を経て、物価上昇により実質所得の減少が目立って実感されるようになったのか、消費者が買い控えをする行動が目につくように変化したのかもしれません。
また、引用したキジでも言及されているように、物価上昇に伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が10月統計の50.5%から、11月統計では44.7%に低下しています。今年2025年4月には60%に達していたことを考えれば、徐々に割合が低下してきたことは事実です。他方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答が34.6%を占めており、これらも含めた物価上昇を見込む割合は90.6%と高い水準が続いています。引用した記事の最後のパラにもあるように、コメ価格の落ち着きが背景にあっても、まだ、物価上昇への危惧は払拭されていません。

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2025年12月 1日 (月)

7-9月期法人企業統計で米国関税の影響は大きくはないがゼロではない

本日、財務省から7~9月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で見て、売上高は前年同期比+0.5%増の379兆431億円、経常利益は+19.7%増の27兆5385億円に上っています。さらに、設備投資も+2.9%増の13兆8063億円を記録しています。ただし、この設備投資を季節調整済みで見ると、GDP統計の基礎となる系列については前期比▲1.4%減となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

全産業の経常利益19.7%増、7-9月法人企業統計 AI関連需要がけん引
財務省が1日発表した7#xFF5E;9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比19.7%増の27兆5385億円だった。4四半期連続のプラスとなった。人工知能(AI)関連の需要がけん引した。自動車などは米国による関税引き上げの影響が残る。
法人企業統計は上場企業に限らず日本企業全体の動向を調べている。全産業の経常利益は7#xFF5E;9月期としては過去最高となった。
業種別に経常利益を見ると、製造業は23.4%増と3四半期ぶりにプラスに転じた。電気機械が87.5%増と押し上げた。AI関連の高性能半導体の試験装置や、データセンター向けの電源装置などが好調だった。生産用機械も65.9%増と増益を支え、半導体製造装置の需要増があった。
一方で自動車など輸送用機械は14.0%減だった。内視鏡など業務用機械も15.2%減となり、財務省はいずれもトランプ米政権による関税政策の影響を受けたと説明する。
非製造業は17.6%の増益だった。サービス業は31.8%増で飲食・サービス業や宿泊業での客数の増加や客単価の上昇が主因となった。48.6%増となった建設業では大型工事の受注などがけん引した。
設備投資は全産業で2.9%増と3四半期連続のプラスとなった。脱炭素への対応や生産能力の増強が進んだ鉄鋼が36.9%増だったほか、情報通信業は26.8%増でAIやデータセンター向けが伸びた。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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法人企業統計の結果について、基本的に、企業業績は好調を維持していると考えるべきです。まさに、それが昨年来の株価に反映されているわけで、東証平均株価については、トランプ関税で揺れた4月初旬は33,000円台まで落ちましたが、その後は回復して7月下旬からは4万円台、さらに最近では5万円を超えるような水準を続けています。ただし、個人消費などと違って、企業業績は基本的に好調を維持しているものの、引用した記事にもあるように、米国の関税政策の影響は微妙であり、もちろん、ゼロではありません。特に、輸出に依存する割合の高い製造業では停滞感が大きくなっているのも事実です。加えて、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。先行きの景気への影響という点に関しては製造業、中でもトランプ関税の影響の大きい自動車産業の動向が今後一段と悪化する可能性が高いと考えられますから、こういった輸出産業に注目すべきであろうと考えます。前期の4~6月期から今期の7~9月期に関しては、自動車などの製造業の停滞を非製造業がカバーする形になりましたが、先行きの景気のサステイナビリティはそれほど高くないと覚悟しておくべきです。さらに、売上や利益といった景気動向から設備投資に着目すると、同様に、米国関税政策の影響が現れ始めている印象があります。季節調整していない原系列の統計の前年同期比で見ても、設備投資は4~6月期の+7.6%増から7~9月期には+2.9%増に伸びが鈍化していますし、季節調整済みの系列では7~9月期は▲1.4%減となっています。景気動向に関しては自動車をはじめとする製造業に注目しつつ、設備投資動向に関しては人手不足による影響が大きい非製造業、中でも、比較的労働集約的な業種の動向が注目されます。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。そして、現在でも労働分配率の低下は続いています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半の75%近い水準と比べて、最近時点では▲20%ポイント近く労働分配率が低下している、あるいは、コロナ禍の期間の65%ほどと比べても▲10%ポイントほど低下している、と考えるべきです。名目GDPが約600兆円として50-100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。加えて、昨年2024年や今年2025年の春闘では人口減少下の人手不足により賃上げ圧力が高まった結果として、労働分配率が下げ止まった可能性が示唆されていしたが、統計を見る限り決してそうはなっていません。昨年今年と春闘ではあれだけの賃上げがありながら、まだ労働分配率は低下し続けている可能性が高いと考えるべきです。しかも高インフレが続いており、これでは消費は伸びません。日本経済の成長には大きなマイナス要因だと私は考えています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。DXやGXに対応した設備投資の本格的な増加が始まったことが期待される一方で、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金はまだまだ伸びが続いています。また、4枚めのパネルにあるように、直近統計で2020年くらいからは、人件費の伸びが高まっている可能性が見て取れますが、人件費以上に経常利益が伸びているのがグラフの傾きから明らかです。労働分配率の低下と整合的なデータであると考えるべきです。加えて、米国の関税などを考慮すると、現時点では人件費の伸びが続くかどうかは不明です。アベノミクスではトリクルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇する経済が終焉して、資本分配率が低下して労働分配率が上昇することにより、諸外国と比べても高いインフレにならずに日本経済が成長するパスが実現できる可能性が生じており、それは中期的に望ましい、という私の考えは代わりありません。

本日の法人企業統計を受けて、来週12月8日に7~9月期のGDP統計速報2次QEが内閣府から公表される運びとなっています。私は1次QEから設備投資をはじめとして下方修正され、成長率のマイナス幅が拡大する可能性が高いと考えていますが、日を改めて取り上げたいと思います。

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