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2026年1月31日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、萩野覚・西村清彦・清水千弘『日本の経済社会統計』(有斐閣)では、個別の公的統計をリストアップして取り上げているだけではなく、GDP統計を中心に最新の付加価値貿易とか、あるいは、GDPのサテライト勘定としてデジタル経済の指標やグリーン経済の把握などの最新分野にも目を配っています。上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎『実証ビジネス・エコノミクス』(日本評論社)は、商品の価格設定、新商品の導入、新規事業への参入など実践的なビジネス課題をミクロ経済学に基づいて評価するためのテキストであり、ミクロ経済学が専門外でもRのコードが理解できれば、順を追って実践的な学習が進められます。伊与原新『翠雨の人』(新潮社)は、50歳以下の女性科学者に贈られる猿橋賞にその名をとどめる猿橋勝子博士の伝記小説です。第5福竜丸が被爆したビキニ環礁での水爆実験に端を発して、いわゆる「死の灰」による大気汚染や海洋汚染の研究に三宅博士とともに取り組んだ研究成果が印象的です。宮島未奈『それいけ! 平安部』(小学館)では、県立菅原高校の入学式からストーリーが始まり、同じ1年5組になった平尾安衣加が牧原栞を誘って県立菅原高校に平安部を設立します。夏休みに京都で開催される平安蹴鞠選手権、そして、秋の菅原高校の文化祭がクライマックスとなります。ジェフリー・ディーヴァー & イザベラ・マルドナード『スパイダー・ゲーム』(文春文庫)では、米国の南カリフォルニアを舞台とし、連邦捜査官のカルメン・サンチェスと大学教授でセキュリティコンサルタントでカルメンの捜査に加わるジェイコブ・ヘロンが協力して、知能の高い秩序型の連続殺人犯を追い詰めます。石田祥『猫を処方いたします 5』(PHP文芸文庫)はシリーズ5巻目であり、保護猫センターのスタッフの梶原友弥が飼っているニケ、そして、芸妓のあび野が飼っていて行方不明になった千歳という2匹の猫がいますが、中京こころのびょういんのニケ先生と看護師の千歳さんの関係やいかに。いよいよ、クライマックスが近づきつつあるのでしょうか。福井健太[編]『横丁の名探偵』(創元推理文庫)は、「読者への挑戦」ものを中心に精選されたアンソロジーです。1960年代から70年代の短編ミステリで、現在のようなDNA鑑定などの科学的な操作方法は確立しておらず、それだけに論理的な謎解きが展開されます。時代背景とともに楽しむことが出来ます。
今年2026年の新刊書読書は先週までに17冊、今週の7冊を加えると合計で24冊となります。また、これらの新刊書読書のほかに、東野圭吾のガリレオのシリーズ『禁断の魔術』(文春文庫)も読んでいます。ただ、新刊書ではないので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、萩野覚・西村清彦・清水千弘『日本の経済社会統計』(有斐閣)を読みました。著者は順に、麗澤大学教授、東京大学名誉教授・政策研究大学院大学名誉教授、一橋大学教授となっています。少し前に、肥後雅博『経済統計への招待』(新世社)を取り上げてレビューしたのですが、それとはかなりカバレッジが異なっています。個別の公的統計をリストアップして取り上げているだけではなく、GDP統計を中心に最新の付加価値貿易とか、あるいは、GDPのサテライト勘定としてデジタル経済の指標やグリーン経済の把握などの最新分野にも目を配っています。詳細な目次は出版社のサイトにあります。ただし、かなり数多くの統計や統計把握上の考え方を網羅しようと試みているだけに、やや「広く浅く」という方向に流れているところは見られます。ですので、出版社から考え合わせると学術書であろうという気がするものの、決して小難しい内容になっているわけではなく、大学生レベルでも十分読みこなせると思います。歴史的、国際的な流れにも目が配られており、GDP統計であれば国連、国際収支(BOP)統計であれば国際通貨基金(IMF)、さらに、付加価値貿易指標であれば経済協力開発機構(OECD)などの国際機関との関係、さらに、統計が開始された歴史的経緯、それも国際的視野からの歴史も含めて、幅広い統計をカバーしている印象です。加えて、GDP=SNA統計との関係で、従来の産業連関表(IO表)だけでなく、最新の供給使用表(SUT)も視野に入れて解説しています。繰返しになりますが、GDP=SNA統計を中心に据えつつ、サテライト勘定も含めて、マクロ経済全体を把握できる統計を解説しています。最後に、本書に関連して、私のGDP統計に対する考えを示しておきたいと思います。すなわち、GDP統計のもっとも重要なポイントは雇用とかなり強くリンクしているところだと私は考えています。典型的には経済学のオークン法則があります。それを別にしても、例えば、よく批判されるのがアンペイドな家事労働がGDPには含まれていない点ですが、2つの家計の主婦ないし主夫がお互い別家計の家事労働をして賃金を受け取れば、やっている実態はほとんど変わりないのにGDPが増加する、という批判です。ただ、両家計の主婦ないし主夫が別家計の家事労働をして賃金を得る場合、確かに、両家計の所得はキャンセルアウトされて実質的な影響を及ぼさないように見えますが、雇用は違います。所得は相殺されるとしても、両家計の主婦ないし主夫は明らかに労働市場に参入して雇用者となっていますので、雇用者がGDPの増加に従って増えている点は見逃すべきではありません。大規模にそういった動きがあれば、おそらく、GDPが増加するだけではなく、失業率を計算する際に分子の失業者が変わらない一方で、分母の労働力人口だけ大きくなりますので、失業率は低下するのだろうと考えるべきです。従って、政府の税収に変化が生じますし、社会保障負担も増加することは当然です。主婦ないし主夫が家事を相互に交換するとしても、決して、所得や何やが実質的に変わりないわけではないと考えるべきです。その意味で、アンペイドの家事労働とそれを家計で交換するのは同じではありません。それを把握できるGDP統計という指標、今もって十分な有効性があると私は考えています。オマケで、本書第2章の参考文献に、私が役所に勤務していたころの論文「シェアリング・エコノミーのGDP統計における捕捉の現状」をリストアップしていただいております。

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次に、上武康亮・遠山祐太・若森直樹・渡辺安虎『日本評論社』(実証ビジネス・エコノミクス)を読みました。著者は順に、イェール大学経営大学院マーケティング学科教授、早稲田大学政治経済学部准教授、慶應義塾大学商学部教授、東京大学大学院経済学研究科および公共政策大学院教授、東京大学エコノミックコンサルティング取締役です。本書は、商品の価格設定、新商品の導入、新規事業への参入など実践的なビジネス課題をミクロ経済学に基づいて評価するためのテキストといえます。レベルとしては大学院修士課程くらいで、ミクロ経済学とゲーム理論のテキストを読了した上で、間接効用関数やベイジアン・ナッシュ均衡などの基礎的な概念理解できる水準、と明記しています。ただ、本書の主人公ともいうべき役回りをしているのは就職直後の若手であり、自動車会社などから発注を受けてコンサルティングを行っている、という設定です。ですので、少なくとも、私のようにミクロ経済学が専門外であってもRのコードが理解できるのであれば、順を追って実践的な学習は不可能ではないと思います。5部構成となっており、第Ⅰ部のイントロダクションでそもそもビジネス・エコノミクスとは何か、などについて解説した後、第Ⅱ部の需要の推定で価格付けについて議論しています。製品間の代替、さらには、旧来商品への需要減などのカニバライゼーションについても議論が展開されています。製品レベルだけではなく、企業合併のシミュレーションも示されています。第Ⅲ部の動学的なシングルエージェントの意思決定では、単に新車投入の際のマーケティングだけではなく、モデルチェンジなどに伴う動学的に新車への買替えなどを考慮するのですが、このあたりからマルコフ過程の考えやその確率的なシークエンスが導入されて、私の専門分野にやや近づきます。特に、確率的に状態空間表現したモデルを考えるのは、私のようなマクロエコノミストも馴染みあるところかもしれません。第Ⅳ部の静学ゲームの推定では市場参入について考えます。動学的な参入タイミングのお話ではなく静学的に参入するか、参入しないかです。企業ではなく病院のMRIの導入をトピックにしています。最後の第Ⅴ部では、ハンバーガーチェーンを例にして、ライバル企業の将来行動を考えた上での出店戦略の議論を展開しています。私の感想としては、繰返しになりますが、それほどミクロ経済学に強くなくても、というか、通り一遍の理解があってデータ分析やR言語のコードが判れば、それなりの理解に達することが出来ます。サポート材料もネットで提供されていて、それなりに親切ともいえます。最後の最後に、私のように参考文献をじっくりとひも解くエコノミストから見て、このビジネス・エコノミクスの分野の基礎は1980年代には十分出来上がっていたように見えます。その後、コンピュータのハードとソフトが十分な発展を遂げて実用化が進んだわけで、分析対象とするモデルの理論的な基礎は1980年代に出来上がっていたように見受けました。おそらく、実業の世界ではそうで、1990年代以降はむしろマクロの金融などの理論モデルの発展があったのだろうという気がします。もっとも、それをいえば、私の専門分野であるマクロ経済学についてはケインズ卿の貢献により1930年代には理論的基礎ができていた、ということもいえそうです。

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次に、伊与原新『翠雨の人』(新潮社)を読みました。著者は、理学博士の学位を持つ小説家であり、『宙わたる教室』がNHKドラマになって大きな注目を集めて、『藍を継ぐ海』で第172回直木賞を受賞しています。科学的な見識に裏打ちされた小説で人気を集めています。私も『宙わたる教室』や『藍を継ぐ海』などを読んでいます。本書は、50歳以下の女性科学者に贈られる猿橋賞にその名をとどめる猿橋勝子博士の伝記小説です。小説ですので、部分的にフィクションが混じっているかもしれませんが、重要な部分は事実に基づいているとされていますし、人名や学校名、機関名などは実名のようです。物語は猿橋博士の女学校のころから始まり、女学校を卒業してから一度生命保険会社に就職しながら、帝国女子理科専門学校に入学し、実習で当時の中央気象台の三宅泰雄博士と出会い、気象庁気象研究所の研究員として働き始めます。何といっても、第5福竜丸が被爆したビキニ環礁での水爆実験に端を発して、いわゆる「死の灰」による大気汚染や海洋汚染の研究に三宅博士とともに取り組んだ研究成果が有名です。当時副会長を務めていた平塚らいてうの勧めで女性国際民主連合の会合に出席したり、日本女性科学者の会の設立に加わったりといった核兵器に反対し民主的な科学の力を前面に押し出す活動にも焦点を当てられています。ただ、本書ではそのあたりはバランスに配慮し、ソ連の核実験からの放射能測定により左派から攻撃された点も言及されています。そして、続く本書のハイライトは、カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリップス海洋研究所のフォルサム博士と猿橋博士の放射能汚染の測定精度の相互検証です。そこで、猿橋博士の測定精度が上回って、核実験の汚染を小さく見せようとしていた米国の測定結果よりも10~50倍も高いセシウム濃度の測定結果を示していた三宅・猿橋の測定の信頼性を大いに高めた点を本書でも特筆大書しています。戦時中の暗い世相も、戦後の戦勝国である米国の傲慢さも、ともに科学の力で克服してきた猿橋博士の実像について判りやすい小説で示してくれています。なお、どうせもいいことながら、本書冒頭から最後の舞台回しに重要な役割を担っている奈良岡の生まれ故郷は関西の宇治だそうです。私と同じです。また、定年退職まで役所の研究機関で研究者をしていたのも私と同じです。同列に並べてしまうのは、きわめて心苦しいながら、いくつかの共通点を見出すことが出来たので、本書の読書に親しみを持てた気がします。

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次に、宮島未奈『それいけ! 平安部』(小学館)を読みました。著者は、成瀬あかりのシリーズで有名な小説家です。『成瀬は天下を取りにいく』では2024年に本屋大賞も受賞しています。ですので、出版社の期待も大きいようで、本書の特設サイトが開設されています。人物相関図などはそちらを参照するのが吉かと思います。小説の舞台は京都から190キロ離れた県立菅原高校です。主人公は平尾安衣加であり、姓と名から冒頭1字ずつを取れば「平安」となります。おじいさんが書道教室をしています。この平尾安衣加が成瀬あかりのように観察対象となり、観察する主体で視点を提供する島崎みゆきの役回りを牧原栞が務めます。平安時代にモテた色白でのっぺりした顔だそうです。この県立菅原高校の入学式からストーリーが始まり、同じ1年5組になった平尾安衣加が牧原栞を誘って、県立菅原高校に平安部を設立しようとくわだて、中学のころはサッカー部で蹴鞠にアツくなる大日向大貴が平安部に入ります。ここまでが1年生で、2年生も2人誘います。高身長かつメチャメチャなイケメンで物理部から移籍してきた光吉光太郎は、書道教室に通っていた縁で平尾安衣加の幼馴染みです。百人一首部の幽霊部員だった明石すみれも加わります。牧原栞だけが菅原市の隣町の森富町から鉄道で通っていますが、ほかの4人は菅原市民であり、自転車通学もいます。顧問は平尾安衣加と牧原栞の1年5組の担任で数学教師の藤原早紀子先生であり、平安時代にゆかりのある姓なのはいうまでもありません。まず、冒頭で部活動として成立する要件として5人を集め、平尾安衣加の家で書道体験をしたりした後、夏休みに京都で開催される平安蹴鞠選手権に遠征し、そして、秋の菅原高校の文化祭での活動がクライマックスとなります。高校生を主人公とするさわやかな青春小説であり、いくつかピンチはありますが、お約束でくぐり抜けます。悪い人物や意地悪な仕打ちはほぼほぼなく、適度に天然なキャラの登場人物もいますし、とても読みやすい良い小説です。

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次に、ジェフリー・ディーヴァー & イザベラ・マルドナード『スパイダー・ゲーム』(文春文庫)を読みました。著者は、ともに米国の小説家です。おそらく、ディーヴァーは世界中を見渡しても、もっとも売れているミステリ作家の1人だと思います。マルドナードは警察において20年超のキャリアを積んだ小説家だそうです。ただ、私はマルドナードの小説は読んだことがないと思います。本書の英語の原題は表紙画像にも見えるように Fatal Instruction であり、2024年の出版です。小説の舞台は米国の南カリフォルニアであり、主人公はFBIから国土安全保障捜査局の連邦捜査官に移籍したカルメン・サンチェスと大学教授でセキュリティコンサルタントでカルメンの捜査に協力するジェイコブ・ヘロンです。ヘロンは特にサイバー犯罪の専門家です。侵入専門家ということになっていて、この場合、どうも、侵入=intrusionなのですが、物理的に部屋に押し入るとかではなく、サイバー空間上でサーバーやほかのコンピュータに侵入する、という意味での「侵入」です。ジェフリー・ディーヴァーは今まで私が愛読していた中では、物的証拠を重視する四肢麻痺の捜査官リンカーン・ライム、供述の場で嘘を見抜く専門家キャサリン・ダンス、賞金稼ぎのコルター・ショウなど、いろんなシリーズで主人公を生み出してきました。本書では、たぶん、ヘロン教授が新たな主人公になってシリーズが始まるんだろうと受け止めています。サンチェス捜査官はリンカーン・ライムに対するアメリア・サックス刑事のような役回りではないかという気がします。本書では南カリフォルニアのアチコチで、一見無関係に見える事件が発生します。しかし、いわば倒叙ミステリの技法によりストーリーが進んで、犯人には手首にクモのタトゥーがあり、冒頭の登場人物一覧では氏名が明らかにされています。本書では、最初から知能の高い秩序型の連続殺人犯、ということになっています。もちろん、ディーヴァーが共著者として名を連ねているわけですから、スンナリと終わるはずもなく、最後に大きなどんでん返しを期待する読者も多いことと思います。事件解決後のラストで、国土安全保障省に新部門が創設されることになり、捜査官はカルメン、アシスタントというか、コンサルタントにヘロンの2人でチームを組む活動がこれからも続くようです。最後の最後に、私はこのレビューで意識的に本書にある「カーメン」ではなく、「カルメン」と表記しています。本書の中身からも明らかなように、カルメン・サンチェスは一家そろってのラテン人、たぶん、メキシコのルーツであり、スペイン語が母語に近くて、ヘロンに対してスペイン語の罵詈雑言を浴びせたりします。ですので、英語表記の「カーメン」よりは、「カルメン」の方がしっくりくるんではないでしょうか。でもたぶん、邦訳者さんと出版社ではこのまま押し通すんでしょうね。最後の最後に、600ページ超のボリュームながら、上下に分冊せずに1冊で出版したのは出版社の英断だと思います。

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次に、石田祥『猫を処方いたします 5』(PHP文芸文庫)を読みました。著者は、小説家であり、このシリーズ第1巻『猫を処方いたします』は第11回京都本大賞を受賞しています。本書はタイトルから明らかなように、シリーズ第5巻となります。京都市中京区麩屋町通上ル六角通西入ル富小路通下ル蛸薬師通東入ルという住所で、京都中心部の路地にある怪しげなクリニック「中京こころのびょういん」には、今日も飄々としてノリが軽いニケ先生とクールで強面のところもある看護師の千歳さんがいて、やって来る患者さんに猫を処方しています。本書も4話の短編からなる短編集であり、あらすじは順に、「第一話」では、平山世奈が急な海外出張の入ったバリキャリの姉である斎藤弥生に代わって、中京こころのびょういんへ猫を返しに来ますが、猫が1日分「飲み残って」いるからと、ニケ先生にもう一度同じ猫を預かるよう強引にいわれてしまいます。「第二話」では、一般形ケアハウス勤務で30歳過ぎの冨川真澄が、将来のためになることを何かしなければと、焦って不安になってしまい、中京こころのびょういんにやって来ますが、ニケ先生から「猫を聞く」ようにいわれます。「第三話」では、中京こころのびょういんの隣室をオフィスにする日本健康第一安全協会の社長にして唯一の社員である椎名彬が視点を提供します。彼の別れた元妻が保護猫センターのスタッフの寺田円花であることが明らかになり、小学生の娘の百寧の悩みを椎名彬が聞きます。「第四話」では、芸妓のあび野が視点を提供します。同僚の芸者の菊花や後輩のゆり葉と置屋のこま野でおしゃべりしたりしますが、冒頭で梶原友弥からのメールが紹介されます。梶原友弥とあび野は同じ出生の猫でつながっています。すなわち、梶原友弥がニケを飼っていて、あび野は千歳を飼っていましたが、今は行方不明です。衝撃のラストが待っています。取りあえず、ネタバレにならない範囲だと思いますが、この第5巻ではまだ物語は終わりません。ただ、「第三話」や「第四話」から、終盤が近づいてきたのではないか、ということは、感受性が鈍くて鈍感な私でも読み取ることができました。

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次に、福井健太[編]『横丁の名探偵』(創元推理文庫)を読みました。著者は、書評家であり、ワセダミステリクラブのご出身です。本書は、昨年、創元推理文庫から出版されたアンソロジーの第2弾であり、「読者への挑戦」ものを中心に精選されています。同じ編者による『新・黄色い部屋』が第1弾となり、シリーズは全3巻を予定しているようで、次回は2月末に同じ編者により『以外な犯人』の出版が予定されています。本書は7話の短編を収録しています。以下、収録短編ごとにあらすじは、まず、仁木悦子「横丁の名探偵」では、落語のように八っつぁんとご隠居さんの会話から始まります。長屋の一角で掛軸の盗難事件が起こり、ご隠居さんが犯人の言動から真相を突き止めます。続いて、石沢英太郎「アリバイ不成立」では、マイホームブームの中で悪徳不動産詐欺師が殺害されます。何人かの被疑者には犯行時刻のアリバイが主張されますが、結局、成立しないアリバイばかりの中、意外な犯人が浮かび上がります。続いて、巽昌章「埋もれた悪意」では、恩人の息子を探すためにテレビ放送で呼びかけた依頼に2人が名乗りを上げますが、赤ん坊を取り上げて肉体的な特徴を把握するという産婆が殺されてしまいます。続いて、泡坂妻夫「ダイヤル7」では、元刑事の回想から始まり、暴力団の抗争から一方の組長が殺害され、その時に起こった地震から真相が解明されます。続いて、岡嶋二人「聖バレンタインデーの殺人」では、菓子教室のバレンタインイベントでチョコレートの交換会が開かれ、毒入りのチョコを受け取った被害者が死亡します。限られた時間と場所、関係者の証言から、巧妙なトリックが明らかになります。続いて、中西智明「ひとりじゃ死ねない」では、高校の料理クラブで自殺者が出た後、OBとOGたちの間に不審な出来事が続き、過去の確執や思い出が絡み合う中、事件の真相が明らかにされます。最後に、今邑彩「時鐘館の殺人」では、新人ミステリ作家である「私」が、自作の犯人当て短篇を本筋の物語に織り込む異色作です。登場人物の言動や館の構造などがヒントとなり、一度は解決編が示されるのですが、読者からも挑戦状が寄せられる多重解決ミステリとなっています。最後に、私はさかのぼって同じ編者による『新・黄色い部屋』を読みたいと思いますし、次に出る予定の『以外な犯人』も読みたいと思います。少なくとも本書は、1960年代から70年代のミステリで、現在のようなDNA鑑定などの科学的な操作方法は確立しておらず、それだけに論理的な謎解きが展開されます。しかも、その時代背景とともに楽しむことが出来ます。

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2026年1月30日 (金)

減産に転じた鉱工業生産指数(IIP)と停滞感を強める商業販売統計と底堅い雇用統計

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、さらに、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも昨年2025年12月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.1%の減産でした。2か月連続の減産となります。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲0.9%減の14兆8250億円を示し、季節調整済み指数も前月から▲2.0%の低下となっています。雇用統計のヘッドラインは、失業率は前月から横ばいの2.6%、有効求人倍率は前月から僅かに上昇して1.19倍を、それぞれ記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産12月は0.1%低下、半導体製造装置など下押し
経済産業省が30日公表した2025年12月の鉱工業生産指数(速報)は前月比0.1%低下し、2カ月連続のマイナスとなった。ロイター集計の民間予測は0.4%低下だった。基調判断は「一進一退」で据え置いた。
生産を下押ししたのは半導体製造装置や化粧品、機械プレスなど。化粧品はファンデーションやシャンプーなどの減産が響いた。機械プレスは前月にタイやフィリピン向けの生産が増えた反動という。一方、コンベヤーや半導体測定器などは押し上げ要因だった。
企業の生産計画に基づく予測指数は1月が前月比9.3%上昇、2月が同4.3%低下となっている。1月は、例年工場稼働日が他の月より少ない影響を統計的に補正する「季節調整の影響でかさ上げされている可能性がある」(経産省幹部)という。
物価高や金利上昇の影響について企業側から現時点でコメントはないが、経産省所管業界の中では「飲食料品関連産業が物価高の影響でおおむね弱い」(同)とした。
小売販売額12月は0.9%減、4カ月ぶりマイナス ガソリン値下げなどで
経済産業省が30日公表した2025年12月の商業動態統計速報によると小売販売額は前年比0.9%減少し4カ月ぶりに前年割れとなった。ロイター集計民間予測は0.7%増だった。物価高の影響はまちまちだが、暖冬による衣料不振、ガソリンの暫定税率廃止による価格低下などが響いた。
<ガソリン値下げ、食品値上げ、日中関係悪化など影響>
業種別の前年比では、織物・衣服が11.6%減、燃料が10.8%減、無店舗小売が5.8%減など。コートなどの販売が不振だった。ガソリンは、価格低下に加え数量もあまり増えていないもよう。
業態別の前年比では、ホームセンターが2.7%減、百貨店1.2%減と大きなマイナスだった。一方、スーパーは2.7%増で、コンビニが2.5%増、ドラッグストア2.3%増、家電大型専門店0.4%増だった。
百貨店では「中国の対日渡航自粛の影響が出ている」(経産省幹部)という。
ドラッグストアは調剤医薬品の販売が好調だったほか、「コメ、コーヒー、チョコレートなど消費者物価指数上昇の上位に挙がる品目の販売が好調だった」(同)。
スーパーは値上げで食品販売が増えているが、「購買点数は減少傾向」(同)という。
有効求人倍率12月は1.19倍に上昇、製造業などで求人増 失業率2.6%で横ばい
政府が30日に発表した12月の雇用関連指標は、有効求人倍率(季節調整値)が1.19倍で前月に比べて0.01ポイント上昇した。製造業などで求人が増加し、9カ月ぶりの上昇となった。完全失業率は2.6%で、5カ月連続の横ばいだった。
ロイターの事前予測調査で有効求人倍率は1.18倍、完全失業率は2.6%が見込まれていた。
厚生労働省によると、12月の有効求人数は前月に比べて0.3%増加した。一方、有効求職者数は0.8%減少した。 現場からは、食料品製造業や生産用機械製造業などの受注が好調な企業からの求人ニースが高いとの声が聞かれた。ただ、省人化の取り組みや最低賃金の引き上げの影響などで求人を見直す動きも引き続きみられるという。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たりに企業から何件の求人があるかを示す。昨年4月に1.26倍を付けた後、横ばいを挟みつつ徐々に低下してきたが、有効求人数の増加と有効求職者数の減少で今回9カ月ぶりに上昇した。厚労省の担当者は「雇用情勢は前月とそれほど変わらない。人手不足の状況のもとで1倍を上回っている」と述べた。
完全失業率は昨年8月に2.6%に上昇(7月は2.3%)して以降、5カ月連続で横ばい。
総務省によると、12月の就業者数は季節調整値で6846万人と、前月に比べて5万人減少。完全失業者数(同)は186万人で、前月から5万人増加した。

いくつかの統計をまとめて取り上げましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事でもロイター調査による市場の事前コンセンサスは▲0.4%の減産とありますし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも同じく𥬠.4%の減産が予想されていました。いずれにせよ、実績である▲0.1%の増産は市場予想からやや上振れした印象です。ただし、レンジ内でしたので、大きなプライズではありませんでした。だから、というわけでもないんでしょうが、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。昨年2024年7月から1年半ほど連続の据置きです。先行きについては記事にもある通り、製造工業生産予測指数を見ると、足下の1月は補正なしで+9.3%の増産で、翌2月は▲4.3%の減産となっています。しかしながら、統計の上方バイアスを除去した補正後では、足元の1月の生産は+7.2%の増産と試算されています。今年は中華圏の春節が2月17日からですので、1月増産、2月減産は、たぶん、そうなんだろうという気がします。
引用した記事にも、半導体製造装置や化粧品、機械プレスなど生産を下押しした要因が取り上げられていますが、経済産業省の解説サイトによれば、2025年12月統計における生産は、減産方向に寄与したのは、半導体製造装置や機械プレスなどの生産用機械工業が前月比▲1.9%減で▲0.18%の寄与度、仕上用化粧品や頭髪用化粧品などの化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)が前月比▲2.9%減で▲0.13%の寄与度、印刷用紙(非塗工類)や新聞巻取紙などのパルプ・紙・紙加工品工業が前月比▲4.1%減で▲0.09%の寄与度、などとなっています。他方、その逆の増産方向に寄与したのは、汎用・業務用機械工業が前月比+7.3%増で+0.52%の寄与度、電気・情報通信機械工業が前月比2.7%増で+0.22%の寄与度、自動車工業が前月比1.4%増で+0.17%の寄与度、などとなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、2023年年央あたりで前年同月比の伸び率が+5%から+6%台でピークを付けた後、前年同月比はプラスであるもののプラス幅が縮小し、2025年12月統計では、ガソリン価格の低下などもあって、本格的なマイナスの▲0.9%減を記録しています。引用した記事にある通り、実績の▲0.9%減に対して、「ロイター集計民間予測は0.7%増」でしたので、下振れしてしまった印象です。季節調整済み指数の前月比も、2025年中はまさに一進一退であり、2025年12月には▲+2.0%の大きなマイナスを記録しています。ただし、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断して、本日公表の2025年12月統計までの3か月後方移動平均の前月比が+0.1%の上昇とプラスを維持していることから、先月までの「一進一退」で据え置いています。ただし、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、2025年12月統計ではヘッドライン上昇率は+2.1%、生鮮食品を除く総合のコアCPI上昇率も+2.4%となっています。本日公表の東京都区部1月中旬速報値でもヘッドライン上昇率が+1.5%ですので、名目で計測した2025年12月統計の実質消費は確実にマイナスであると考えるべきです。加えて、海外からのインバウンド観光客についても、引用した記事で「中国の対日渡航自粛の影響が出ている」としており、先行きは不透明です。国内消費の実態は本日の統計に示された小売業販売額より下振れしている上に、先行きリスクは大きくなった可能性は考慮しておかねばなりません。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの統計であり影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事にもあるように、「ロイターの事前予測調査で有効求人倍率は1.18倍、完全失業率は2.6%」が見込まれていましたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ロイターとまったく同様に、失業率が2.6%有効求人倍率は1.18倍でした。本日公表された実績で、失業率2.6%は市場の事前コンセンサスにジャストミートし、有効求人倍率の1.19倍はやや上振れました。引用した記事に示されている厚生労働省の見方にあるように、雇用情勢は引き続き悪くなく、雇用は底堅いとの印象を私も持っています。というのは、失業率が上昇している背景を考えると、それほど大きな懸念は不要と私は感じています。確かに失業者数が増加しているのですが、特に2025年12月の失業者数は、季節調整していない原系列の統計で見て、12万人の増加となっていますが、「新たに求職」のか龍で労働市場に新規参入した失業者が+11万人の増加となっています。お給料などの改善しつつある労働条件にしたがって、労働市場に新規で参入する人が増えているという結果が読み取れます。ですので、前年同月から雇用者や就業者もともに失業者数の増加を超えて増加しています。では何が起こっているのかというと、非労働力人口が減少しています。ですから、専業主婦や高齢者、だけとは限りませんが、労働市場に参入していなかった非労働力人口が労働市場に参入して、雇用者・就業者と失業者ともに増加させている、というわけです。労働条件改善の基本は、春闘における賃上げであり、その分、就業意欲が高まり、賃金上昇に伴って労働市場への参入が増加している、と考えるのが伝統的な経済学の見方であろうと思います。加えて、総務省統計局のプレスリリースによれば、「正規の職員・従業員」は前年同月から+77万人増加した一方で、「非正規の職員・従業員」は▲44万人減少しています。労働市場参入のチャンスと受け止めている人が多いのだろうと考えられます。

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2026年1月29日 (木)

1月消費者態度指数の消費者マインドは持ち直すもインフレ予想は高止まり

本日、内閣府から1月の消費者態度指数が公表されています。1月統計では、前月から+0.7ポイント高い37.9を記録しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数1月は0.7ポイント上昇の37.9、物価高予想の割合小幅低下
内閣府が29日に発表した1月消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は前月から0.7ポイント上昇の37.9と、2か月ぶりに改善した。基調判断は「持ち直している」で据え置いた。
消費者態度指数を構成する4つの意識指標はいずれも改善し、特に「暮らし向き」と「雇用環境」がそれぞれ前月比0.9ポイントと大きく改善した。
1年後物価が上昇するとの回答比率は91.3%で、前月比0.5ポイント低下したが、2022年2月以降9割以上の高い水準が続いている。このうち物価が5%以上上昇するとの回答比率が低下する一方、2%未満の上昇を見込む比率は上昇した。
コメや生鮮野菜の価格が落ち着いていることが反映されていると内閣府ではみている。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「暮らし向き」が+0.9ポイント上昇し36.8、「雇用環境」も+0.9ポイント上昇して42.4、「収入の増え方」が+0.7ポイント上昇し42.0、「耐久消費財の買い時判断」が+0.2ポイント上昇して30.4と、消費者態度指数を構成するコンポーネントすべてが上昇しました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直している」で据え置いています。2025年10月統計で上方修正してから、4か月連続の「持ち直している」という判断です。私が従来から主張しているように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があります。総務省統計局による消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除くコアCPI上昇率は、昨年2025年10-11月に+3.0%を記録した後、12月には+2.4%に大きく減速し、依然として+2%の日銀物価目標を越えていますが、やや落ち着きを取り戻し始めています。インフレとデフレに関する消費行動は、1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、1990年代後半にデフレに陥る前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、バブル経済崩壊後の長い長い景気低迷機を経て、物価上昇により実質所得の減少が目立って実感されるようになったのか、消費者が買い控えをする行動が目につくように変化したのかもしれません。
また、引用した記事でも言及されているように、消費者態度指数以上に注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が2025年10月統計の50.5%から今年2026年1月統計では43.7%まで低下しています。昨年2025年4月には60%に達していたことを考えれば、徐々に割合が低下していることは事実です。他方で、2%未満の物価上昇との回答が2025年10月の9.2%から2026年1月統計では12.2%まで上昇しています。ただ、これらも含めた物価上昇を見込む割合は91.3%と高い水準が続いています。引用した記事の最後のパラにもあるように、コメや生鮮野菜の価格の落ち着きが背景にあっても、まだ、物価上昇への危惧は払拭されていません。

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2026年1月28日 (水)

今年の恵方巻の価格やいかに?

とても旧聞に属するトピックながら、来週の節分を前に1月21日に帝国データバンクから「2026年節分シーズン恵方巻価格調査」の結果が明らかにされています。pdfによるリポートもアップロードされています。まず、帝国データバンクのサイトからSUMMARYを引用すると次の通りです。

SUMMARY
2026年節分シーズンの恵方巻の平均価格は、一般的な五目・七目の恵方巻で1173円と、前年より11.7%値上がりした。他方で、海鮮恵方巻は平均1875円、前年比0.3%の値上がりにとどまり、過去4シーズンで最も値上げ幅が小さかった。原材料価格の高騰が続くなか、特に海鮮系では「節約志向」を強く意識した値付けが目立つ。

一昨年秋以来、コメをはじめとする食料品価格の値上がりが続いていますので、引用したSUMMARYの通り、今シーズン、一般的な五目・七目の恵方巻=田舎巻の平均価格は何と前年から2桁アップの+11.7%、1173円だそうです。ただし、豪華で高級志向な品が多い海鮮恵方巻では平均1875円となり、前シーズンから+5円、+0.3%の上昇とほぼ横ばいだそうです。下のグラフは帝国データバンクのサイトから 「恵方巻」平均価格推移 を引用しています。

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食品価格の高騰は一昨年秋からのコメより前に始まっており、夏場の土用の季節であってもウナギが私の口に入らなくなってから数年が経つような気がします。野菜や果物も大きく値上がりしていて、ミカン1個100円、リンゴ1個200円、キュウリ1本80円もめずらしくありません。ちょっと前までキャベツ1玉500円なんてのもありました。こういったインフレに対応して、政権選択選挙である総選挙で国民はどういう審判を下すのか、興味深いところです。

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2026年1月27日 (火)

上昇率が小幅に縮小した2025年12月の企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、日銀から昨年2025年12月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月11月から少し減速して+2.6%を記録しています。変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIの上昇率は前月と同じ+2.7%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、12月は前年比2.6%上昇 伸び率は小幅縮小
日銀が27日に公表した12月の企業向けサービス価格指数速報は前年比2.6%上昇となった。58カ月連続で上昇したが、伸び率は前月から0.1%ポイント縮小した。情報通信やリース・レンタル、諸サービスなどが押し下げ方向に影響した。前月比では横ばいだった。
「情報通信」は前年比2.7%上昇で、プラス幅は前月の2.9%から縮小した。前年同月に「移動電気通信」で一部銘柄のモデルの切り替えが行われたことが実質的な値上げとなり、その反動が出た。
「リース・レンタル」は1.6%上昇で、プラス幅は前月の2.0%から縮小した。このうち「レンタル」では、建機レンタルのプラス幅が縮小。年末年始に閑散期を迎える同品目の季節性が強く表れた。
「諸サービス」のうち、「宿泊サービス」は10.9%上昇と、伸び率が前月を下回った。日銀の担当者によると、中国政府による渡航自粛要請を受けた中国人観光客の減少などが影響し、インバウンド需要がやや鈍化したという。
調査対象146品目のうち、上昇は113品目、下落は14品目で、その差は99品目。日銀の担当者は、今月は全体として小動きだったと指摘。先行きについて、諸コストの上昇分を価格転嫁する動きの持続性や、インバウンド需要がサービス価格に与える影響などを引き続き注視していくとしている。
生産額に占める人件費投入比率の違いで分類した指数では「高人件費率サービス」が前年比3.0%上昇と、伸び率は前月から変わらず。「低人件費率サービス」は同2.3%上昇で、前月の同2.5%上昇から縮小した。
2025年暦年の企業向けサービス価格指数は前年比3.0%上昇。幅広い品目で人件費を転嫁する動きがみられた。伸び率は24年の3.2%上昇から鈍化した。

注目の物価指標だけに、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、昨年2025年6月統計で+2%台に減速し、6~12月の間は7か月連続で+2%台を記録しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)もほぼ歩調を合わせる形で、昨年2025年6月+2%台に上昇率を縮小させ、12月まで9月は例外ながら+2%台が続いています。いずれも、日銀物価目標の+2%を大きく上回って高止まりしています。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、企業物価指数(PPI)や本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なるものの、+2%台半ばから後半の上昇率はデフレに慣れきった国民や企業の意識からすれば、かなり高い物価上昇と映っている可能性が大きいと考えるべきです。人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率のサービス価格であっても+2%超の上昇率を示しており、高人件費率のサービスでは+3%台の上昇率が続いています。すなわち、人件費をはじめとして幅広くコストアップが価格に転嫁されている印象です。その意味では、政府や日銀のいう物価と賃金の好循環が実現しているともいえますが、実態としては、物価上昇が賃金上昇を上回っているという意味は、企業サイドから見れば人件費以上の過剰な価格転嫁が行われている一方で、家計サイドから見れば国民生活が実質ベースで苦しくなっているのは事実と考えざるをえません。ですので、私の従来からの主張ですが、企業サイドの利潤を減少させることにより労働分配率を上昇させ、物価上昇を引き起こすことなく賃上げを実現することが可能です。法人企業統計を見ても、ここまで利益剰余金が積み上がっているんですから、3~5年くらいは物価上昇なしに賃上げが可能ではないか、と私は直感的に試算しています。名だたるエコノミストが誰もこの点を主張しないのは私にはとても不思議です。何か、マズいことがあって忖度が働いているのかもしれません。
最後に、もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて本日公表された昨年2025年12月統計のヘッドラインSPPI上昇率+2.6%への寄与度で見ると、土木建築サービスや宿泊サービスや労働者派遣サービスといった諸サービスが+1.28%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分ほどを占めています。加えて、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスなどといった情報通信が+0.59%、さらに、道路貨物輸送や外航貨物輸送や国内航空旅客輸送などの運輸・郵便が+0.40%、ほかに、不動産+0.18%、リース・レンタルが+0.10%、広告が+0.09%、金融・保険が+0.02%などとなっています。引用した記事の4パラ目にあるように、中国からの渡航自粛の影響はあるようで、宿泊サービスの上昇率は2025年11月の13.3%から12月には+10.9%に少し縮小したものの、まだまだ高い伸びが続いています。

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2026年1月26日 (月)

大和総研リポート「『飲食料品の消費税ゼロ』『消費税一律5%』の費用対効果と必要性」

やや旧聞に属するトピックながら、1月21日に大和総研から「『飲食料品の消費税ゼロ』『消費税一律5%』の費用対効果と必要性」と題するリポートが明らかにされています。物価高対策として消費減税の必要性を疑問視し、むしろ、、給付付き税額控除の導入に重点を置くべきという結論となっておます。まず、リポートから要約を2点引用すると次の通りです。

[要約]
  • 自民党などが掲げる飲食料品の消費税ゼロと、一部の野党が主張する消費税率5%への一律引き下げによる家計負担への影響を試算すると、前者は世帯あたり年8.8万円、後者は同28.1万円軽減される。個人消費の喚起効果は前者で0.5兆円(GDP押し上げ効果は0.3兆円)程度、後者では1.5~4.6兆円(同1.1~3.2兆円)程度だ。いずれの施策も、生活を下支えする必要性の低い家計により多くの財政支出が充てられ、年間5~15兆円程度の財源が必要な割に経済効果は小さいとみられる。
  • 高市早苗政権が閣議了解した政府見通しによると、2026年度の消費者物価指数は前年比+1.9%へと減速する。基礎控除の引き上げなどの実施も踏まえると、追加の物価高対策として消費減税を実施する必要はない。今後、飲食料品の消費税ゼロを2年間の時限措置として実施する場合でも、延長せずに予定通り終了し、給付付き税額控除の導入に向けた制度設計を国民会議で積極的に進めるべきだ。

まず、財務省による減税額として、「軽減税率対象の飲食料品の消費税ゼロは年間4.8兆円、消費税率5%への一律引き下げは同15.3兆円、消費税の廃止は同31.4兆円の減税となる」とした上で、世帯年収分位別に見た家計の負担軽減額を試算しています。世帯年収ごとに見た消費減税の負担軽減額 のグラフをリポートから引用すると次の通りです。

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見れば明らかですが、。飲食料品の消費税ゼロでは、年収上位20%の第Ⅴ分位世帯の負担軽減額は年収下位20%の第Ⅰ分位世帯の2倍ほどに上り、消費税一律5%では、それが3倍ほどに拡大します。常に消費財などの間接税負担で繰り返される議論ながら、消費税率を引き下げる場合、額としては高所得家計に恩恵が大きく、率としては低所得家計に恩恵が大きくなるわけです。マクロの集計量としての「恩恵」ということでしたらそういう考えもできるかもしれません。しかし、食料やこの厳冬の季節の燃料については、ここまで格差が拡大し貧困が広がった日本社会においては、単なる金額ベースの議論では尽くせない可能性も直視すべきです。国民の健康管理やひょっとしたら生命の維持のためにも、私は食料の価格低下に直結する消費税率の引下げや撤廃は政策の選択肢として大いに検討を進めるべきと考えています。

ですから、インフレに対応する政策としては、マイクロな価格政策については消費税率を操作し、マクロの需要抑制については金融政策で対応する、というのがもっともあり得べき政策ではないか、と私は考えています。

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2026年1月25日 (日)

コーヒーショップのランキング

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上の画像は「コーヒーショップの選び方」ということで、どこかにアップされていて出典は不明なのですが、よく見かけるテーブルなのではないかという気がします。
私は、基本的に、着るものと飲み食いするものにはこだわりがありません。ファッションはユニクロで十分、でも、最近は鮮やかな色使いのものが少なくなった気はします。飲み食いする分には、野菜さえ十分取れていればOKと考えています。ですので、コーヒーショップについても、特に何のこだわりもなく、スターバックスに入って Coffee of the Day のグランデサイズを注文することにしています。
ただ、その昔、青山に住んでいたころは20分くらいまでを徒歩圏と考えると、家の周りに5-6店、数店のスタバがあったのですが、東京を引き払って関西に引越した今の住まいは、京阪神ではなく、県庁所在市ですらない田舎町ですので、スタバも限られてきます。でも、スタバ以外のコーヒーショップも、やっぱり、それほどなかったりします。チラリと検索すると、ドトールとプロントとベローチェは我が県内には店舗を持っていないようです。

Triste campagne!

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2026年1月24日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、萩原伸次郎[監修]「米国経済白書 2025」(蒼天社)は、米国バイデン政権最末期に公表されており、4年間の施政を総括する分析も第1章に続いて、第2章リモートワーク、第3章国際租税システム、第4章医療保険、第5章カーボンニュートラル、第6章国際資本移動、第7章K-12の初等中等教育、について分析しています。小川洋子『サイレントシンガー』(文藝春秋)では、内気で言葉を発しない人々の「アカシアの野辺」の門番小屋の雑用係をおばあさんから引き継いだリリカが、役場から依頼されて夕方に流す放送向けに「家路」を録音したりしながら成長し、羊の毛を刈る際には「羊のための毛刈り歌」を歌ったりします。柳広司『コーリャと少年探偵団』(理論社)は、ドストエフスキーの名作『カラマーゾフの兄弟』のうち、三兄弟の父親であるフョードルが殺された部分について、コーリャくんの視点からリライトして、とてもすぐれたミステリのジュブナイル小説に仕上げています。特に、原作から大きな違いはありません。坂本貴志・松雄茂『再雇用という働き方』(PHP新書)では、「ミドルシニアのキャリア戦略」という副題に見られるように、大雑把に50-70歳くらいを対象にした雇用について、転職・独立するかどうか、仕事のペースを落とすかどうか、などの観点から分析しています。小林哲夫『関関同立』(ちくま新書)では、関西私大の雄である関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学について、学部構成やロケーション、ジェンダー平等、学生や教員の活躍、グローバル化、卒業後の進路、OBやOGの活躍、などなどの観点からそれぞれの特色を浮かび上がらせています。フリーダ・マクファデン『ハウスメイド 2』(ハヤカワ・ミステリ文庫)では、主人公のハウスメイドであるミリーは、ニューヨークに超高級ペントハウスを持つIT長者のダグラス・ギャリックの家で働くことになりますが、当然のように通常と違う奇妙な点があり、何があってもゲストルームには入らないように言い渡されます。加藤鉄児『実家暮らしのホームズ』(宝島社文庫)では、天才的な推理の力を持つ主人公が、巨大IT企業の創始者による財団主催の「眠れる探偵プロジェクト」の予選で最高得点を記録し3万ドルの賞金の返還を求められて、未解決事件などの謎解きによって弁済するコミカルな連作短編ミステリ集です。
今年2026年の新刊書読書は先週までに10冊、今週の7冊を加えると合計で17冊となります。また、これらの新刊書読書のほかに、大山誠一郎の短編集『アルファベット・パズラーズ』(創元推理文庫)も読んでいます。ただ、新刊書ではないので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、萩原伸次郎[監修]「米国経済白書 2025」(蒼天社)を読みました。著者は、米国大統領経済諮問委員会であり、萩原教授が組織する翻訳研究会が邦訳をしています。その研究会の一員が我が立命館大学経済学部の教授であり、昨年版の「米国経済白書 2024」の研究会が立命館大学であり、私も出席していたりします。国立情報学研究所のCiNiiで見る限り、「米国経済白書」が現在の形で邦訳され、蒼天社から出版されるようになったのは2014年からのようです。私の記憶が正しければ、私が役所に入った1980年代前半くらいは経済企画庁で邦訳を担当していたと思います。ただし、私がその担当課であった経済企画庁の調査局海外調査課に異動した1990年ころにはもう邦訳はしていませんでした。ということで、英語の原題は Economic Report of the President 2025であり、米国政府刊行物ですので、日本の政府白書などと同じように、全文がpdfでダウンロードできます。ただ、この2025年版は出版が昨年2025年1月9日、すなわち、トランプ大統領就任直前のバイデン前大統領の政権末期となります。ですので、バイデン大統領の4年間の施政を総括する分析も第1章に始まって、第2章ではリモートワーク、第3章では国際租税システム、第4章では医療保険、第5章ではカーボンニュートラル、第6章では国際資本移動、最後の第7章ではK-12の初等中等教育、についてそれぞれ経済分析を試みています。政権交代直前の出版ですから、当然ながら、4年間の前半はコロナのパンデミック期と重なります。第2章のリモートワークや第4章の医療保険などはコロナ期の分析も含まれています。ですので、リモートワークは地域的な労働需給のミスマッチの程度を軽減する一方で、リモートワーク可能な労働者は元々が高所得を得ており、リモートワークがそれ自体として格差の拡大の縮小につながるものではない、という指摘はもっともです。第3章のグローバル化とともにデジタル化も大きく進んだ国際社会の課税を考える必要性も、現在のトランプ政権のような米国の利益一辺倒ではない考えが示されています。第4章の医療システムや第5章のカーボンニュートラルなんかは、現在のトランプ政権はバイデン-ハリス政権とは方向性が大きく違うのだろう、ということは広く報じられている通りだと思います。第6章の国際公共財の提供についても、米国ファーストではない視点が示されています。最終章でも、高等教育だけではなく初等中等教育を重視する視点が示されています。最後に、2点だけ指摘しておくと、元が英文ですので、いわゆるabbreviationが頻出します。Inflation Reduction Act=IRAなんて、一般にはそれほど広く認識されていませんし、American Rescue Plan Act=ARPもご同様です。3人の邦訳者は何年かご担当になって慣れ親しんでいるのかもしれませんが、邦訳版にはabbreviation一覧のようなものをオマケで付けていただくわけには行かないものでしょうか。世銀などの国際機関のリポートなんかではよく見かけるので、そう難しくはないと思います。第2に、通常このリポートは毎年1月中には公表されますが、今年2026年はまだです。トランプ政権になってから大きく経済政策が転換されたのは広く認識されている通りです。どのような分析が登場するか、怖いようでもありますが、エコノミストとして興味はあります。

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次に、小川洋子『サイレントシンガー』(文藝春秋)を読みました。著者は、芥川賞作家であり、本書は著者の6年ぶりの長編小説だそうです。ですので、私も大きな期待を持って読んだ次第です。主人公は両親を亡くしておばあさんと暮らすリリカです。農業を主体として自給自足に近い生活を目指す「アカシアの野辺」がE-5地区に移り住んで開墾して畑を耕し、動物を飼い始めます。内気な人々であり、言葉で話すことをせずに指言葉で会話したりします。気象管と呼ばれる涙形のガラスのペンダントをしています。日本的にいえばヤマギシ会を思わせるところがあり、海外ではアーミッシュを連想する人がいるかもしれません。その門番小屋の雑用係としてリリカのおばあさんが雇われ、「アカシアの野辺」の内気な人々と外部との接点となります。リリカは役場から依頼されて夕方に流す放送向けに「家路」を歌ったりしながら成長し、高校卒業直前におばあさんが亡くなってからは門番小屋の雑用係の仕事を引き継ぎ、同じように、「アカシアの野辺」の人々と外部との接点となります。「アカシアの野辺」で出来た農産物の販売をしたり、自給自足しきれないものを外部の商店などで買ってきたりします。それだけではなく、ボイスレッスンに通って、先生から歌のアルバイトを紹介されたり、「アカシアの野辺」で羊の毛を刈る際には「羊のための毛刈り歌」を歌ったりします。リリカは自動車免許を取得し行動範囲を大きく広げ、有料道路の料金所の男性と淡い恋をしたりもします。はい、純文学ですので、ボイスレッスンを始めた経緯や料金所の男性との恋の行方など、個別のストーリーの流れも興味深いところなのですが、文章表現や文体を楽しむべき読書ではないか、という気がします。ただ、沈黙を言葉にして表現するとどうなるか、あるいは、沈黙=サイレントな状態で歌はどう聞こえるのか、といった疑問に対しては、作者は見事なまでに答えを用意しています。久しぶりに心が澄み渡るような小説を読んだ気がします。

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次に、柳広司『コーリャと少年探偵団』(理論社)を読みました。著者は、ミステリ作家だと私は思っており、『ジョーカー・ゲーム』をはじめとするD機関のシリーズを私は愛読しています。数年前に『アンブレイカブル』(角川書店)を読んだ後、少しご無沙汰していると思ったら、最新刊の本書はジュブナイルのミステリです。タイトルからピンとくる人はかなりの文学通であり、本書はドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』のうちの父親フョードルが殺された部分をコーリャくんの視点からリライトしてミステリに仕上げています。ですので、主人公は新制中学校に通う13歳、本人の言い分ではもうすぐ14歳になるコーリャ・クラソートキンです。忠実な副官=子分はスムーロフであり、少年探偵団の中核を成します。ベレズウォンという雑種の犬を飼い、母親には頭が上がらず、人格家でもある教師のダルダネロフにしばしばピンチを救われます。もちろん、カラマーゾフ家の父親フョードルや三兄弟も登場します。ただ、本書はジュブナイル向けということを意識してか、スメルジャコフがフョードルの私生児ではないか、という点には言及がありません。三兄弟の末のアリョーシャ(アレクセイ)は、ゾシマが亡くなって修道院を離れますが、まだ還俗していません。『カラマーゾフの兄弟』を読んだ人は決して多くないと思いますが、読んだ人であれば、視点を提供する主人公がコーリャになったところで、殺されたのが三兄弟の父親のフョードルである点はご存じのことと思います。この点も変わりありませんし、フョードルが持っていた3000ルーブルという大金が紛失している点も同じです。誰が裁判にかけられて、どういう判決が出たかも原典通りです。ただし、繰返しになりますが、日本人の中で『カラマーゾフの兄弟』を読んだ人は決して多くないでしょうし、本書が対象読者に想定している小学校学年や中学生くらいまでであれば、ほぼほぼ通読した人はいないと思います。その意味で、その年代の少年少女にはなかなか痛快なミステリとして楽しめる気がします。私が小学生高学年だったころは、こういったミステリ仕立てのジュブナイル小説といえば、江戸川乱歩の明智小五郎シリーズや海外モノでいえばホームズよりはルパンだったような気がします。本書も、そういった大昔のジュブナイル向けミステリと同じで、やや大時代的、というか、現代向けではありませんが、それなりに楽しめるし、スメルジャコフの設定のように若い世代の読者にも配慮されている気がしました。ただ、「オッカムの剃刀」はとても重要な見方ながら、少し難しいかもしれません。

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次に、坂本貴志・松雄茂『再雇用という働き方』(PHP新書)を読みました。著者は、リクルートワークス研究所の研究員とリクルートご出身でポストオフ後にシニア活躍支援などをしている方のようです。本書では、「ミドルシニアのキャリア戦略」という副題に見られるように、大雑把に50-70歳くらいを対象にした雇用について、雇用者のサイドと企業のサイドの両方から分析しています。公的年金支給開始年齢が65歳、しかし、定年退職年齢は多くが60歳という雇用と年金支給のミスマッチにあって、どのようなキャリア戦略でもって働くか、また、雇うか、というテーマだろうと思います。私自身はエコノミストとして、働くなくてもいいような社会保障体制が整えられるのが一番と考えていますが、所得確保だけでなく社会との接点の維持や人生目標などから考えて、働き続けたいと考えているミドルシニアは少なくないことも事実です。私自身は60歳で当時の役所の定年を迎えた後、現在の立命館大学に再就職して現役生活を継続し、さらに大学でも65歳の定年の後に大学の特任教授として、まあ、本書でいうところの定年後再雇用に入っています。でも、それほど業務負担=授業コマ数が減ったわけではありません。65歳の定年前は標準で週5コマだったのが、標準週4コマになっただけなのですが、お給料は半減しています。同年齢の大学の同級生の中には、まだ職探しをしている者もいますが、警備や清掃といった高齢者向けの仕事しかないとぼやいています。本書では、タイトル通りに、雇用者のサイドからキャリア形成を考えるとともに、企業サイドから高齢者の雇用確保やスキル活用をどう考えるか、といった視点も大いに取り入れています。すなわち、定年を延長した上で役職定年=ポストオフの後のミドルシニアの活用については、企業にとっては不連続な処遇変更は生じないものの、報酬が高止まりしたまま処遇が硬直化する、というリスクを指摘し、逆に、定年で一度退職金も支払った後の再雇用では、定年延長とはまったくシンメトリーに逆のメリットとデメリットがあると結論しています。それに、どちらにしても、東洋的というか、儒教的な「長幼の序」がある世界で、年上の部下を年下の上司が指揮監督するという組織運営上の難しさもついて回ります。私個人のケースでは、役所の公務員だったころは、そもそも能力不足によって出生が遅くて、60歳の定年前の段階で年下の上司から仕事の命令を受けることがありました。大学に来れば、組織や人事はほぼほぼフラットですから、組織上の難しさは関係なくなりました。また、本書では、企業サイドではなく雇用者のサイドからのキャリア戦略としては、仕事の働き方のペースを落とすか維持するかを縦軸に、同じ組織で働き続けるか転職・独立するかを横軸に取って、4象限で考えています。はい、私の場合は転職して仕事のペースを落とす、という選択をしたわけで、私にとっては悪くない選択だったと思っています。ただ、最後に、私の同級生の見方も理解できる部分が少なくありません。すなわち、私は日本の企業が評価をミスっているコーホートが2つあり、高齢者と法経系の大学院卒だと考えています。繰返しになりますが、高齢者には警備や清掃といった仕事しか割り当てられず、法経系の大学院卒はまったく採用しようとはしません。特に、後者は日本のオフィスの生産性が低い一因である可能性を私は感じています。最後の点は本書のスコープ外の私の感想です。

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次に、小林哲夫『関関同立』(ちくま新書)を読みました。著者は、教育ジャーナリストと紹介されています。はい、関関同立とは本書にもある通り、関西大学、関西学院大学、同志社大学、立命館大学の関西の名門私大をひとまとめにして表現する言葉です。本書ではこの順番で個別項目に取り上げています。ただ、私の実感では、この4校の中でも、本書では言及ありませんが、最近では明らかに序列化が出来上がりつつあり、同志社大学、関西学院大学、関西大学、立命館大学の順で固定化されつつある気がします。要するに、ミッション系のオシャレな大学の評価が高くなっている、ということのようです。そういったオシャレなイメージある大学の方が、いわゆる「バンカラ」なイメージの大学、関西であれば関西大学や立命館大学、といったあたりよりも高校生から評価されている、といった気がします。その昔に「国民的美少女」と称された後藤久美子が制服で進学先の高校を選んだ、と一部で報じられたこともありますし、今になって急に始まった傾向ではないと思います。それはさて置き、その関関同立の関西の雄である4私大に関して、学部構成やロケーション、ジェンダー平等、学生や教員の活躍、グローバル化、卒業後の進路、OBやOGの活躍、などなどの観点からそれぞれの特色を浮かび上がらせています。もちろん、私の勤務する立命館大学を中心に読んでみたわけで、特に、私の勤務しているのは京都ではないのですが、もともとが京都にあったわけですし、2校だけの「同立」という表現もありますので、ついつい、関関同立ではなく同志社大学との比較で読んでしまいました。いろいろな観点がありえますが、もっとも立命館大学の特色を表しているのは、卒業生の中でも国会議員の政党別構成ではないでしょうか。関関同には自民党や維新の会といった連立与党の国会議員を輩出しているのですが、立命館だけは与党議員はいません。逆に、共産党議員が入っていたりします。本書でもキツい言葉で「日本共産党の影響を受けた学生、教員が少なくなかった(p.279)」とされています。これを褒め言葉と受け取る人は決して多くはないでしょうが、少なくもないと思います。

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次に、フリーダ・マクファデン『ハウスメイド 2』(ハヤカワ・ミステリ文庫)を読みました。著者は、脳外科医で作家だそうです。英語の原題は The Housemaid's Secret であり、2023年の出版です。なお、本書が「2」とナンバリングされている以上、当然「1」があるのですが、まあ、何と申しましょうかで、田舎町の隣町の図書館に行くと、無造作に本書が新刊書コーナーにおいてあり、話題の本であることは確かに知っていたので、取りあえず借りてみました。その後、「1」と「2」を順番に読む必要性は高くないと判断し、本書から読み始めています。ただ、知り合いからのアドバイスによれば、順番は逆でも、さかのぼって「1」は完成度高く必読であり、主人公のミリーがエンツォと出会うシーンがあるので、特にその点は重要である、と聞き及びました。「1」ではエンツォは庭師だそうで、本書「2」では職業不明です。本書「2」のストーリーは、ハウスメイドのミリーが冒頭で失職します。なぜかといえば、赤ちゃんが母親ではなくミリーのことを「ママ」と呼ぶからです。前科があって難しいながらも職を探して、ニューヨークのアッパー・ウェストサイドに超高級ペントハウスを持つIT長者の雇い主ダグラス・ギャリックを見つけます。ただし、当然のように通常と違う奇妙な点があり、何があってもゲストルームには入らないように言い渡されます。そこには、病身の妻ウェンディが静養していて人と会いたがらない、と説明されます。なお、ミリーには、私の目からとても不自然なのですが、ハイスペックな恋人ブロックがいます。イケメンで富裕な弁護士をしていて、ミリーが前科を隠していることもあるのですが、ミリーとの結婚に前向き、というか、むしろ両親に紹介した上で結婚したがっています。ただ、ミリーの方は前科持ちで服役していたことを打ち明けられず、やや消極的な態度を取り続けます。そして、クライマックスにはエンツォが登場するわけです。ミステリですので、このあたりまでとします。とっても凝ったプロットで、ラストのどんでん返しもびっくりしましたし、これだけ登場人物が少ないにもかかわらず、すごい構成力だと感心しました。しかも、原文がいいのか、邦訳がすぐれているのか、海外ミステリの翻訳としては、とても読みやすく仕上がっています。ぜひとも前作も読みたいと思います。

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次に、加藤鉄児『実家暮らしのホームズ』(宝島社文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家なのですが、第13回「このミステリーがすごい!」大賞・隠し玉として、『殺し屋たちの町長選』により2015年にデビューしています。本書の主人公は判治リヒトという千葉県柏市郊外の実家暮らしで引きこもりの24歳男性ながら、天才的な謎解きの能力を持っています。この主人公が、ストーリー冒頭で、巨大IT企業ビットクルーの創始者が設立したオリバー・オコンネル財団が主催する「眠れる探偵プロジェクト」の予選で最高得点を記録し、3万ドルの予選通過褒賞金を手にしながら、ニューヨークの本選には出向かずに行方をくらます、というか、引きこもりなのですから、どこかに逃亡ないし逃走するわけではなく、要するに、連絡を絶ったのですが、オリバー・オコンネル財団に居どころを発見され、日本支部のホルツマン・ユキがリヒトの実家を訪ねます。ホルツマンは3万ドルの予選通過褒賞金の返還を求めますが、リヒトはすでにネットカジノのルーレットで3万ドル全額を溶かしてしまっており、未解決事件などの謎解きをすることによって弁済させられる、ということになります。そういった謎解きを集めた連作短編集といえます。でも、当初は、リヒトが引きこもりなのですから、外出しないでいいという条件だったような気がしますが、パトカー乗りたさにアチコチ外出することになります。なお、謎解きをする主人公の判治リヒトがホームズ役であることは間違いないのですが、ワトソン役はオリバー・オコンネル財団日本支部のホルツマン・ユキとともに、柏みなみ署捜査1課の矢野も同様な役回りをします。でないと、リヒトはパトカーには乗れないというわけなのだろうと思います。各短編のあらすじは、まず、「Case 1 8ビットの遺言」では、オリバー・オコンネルの友人である極東ソフトコマース社長の城ノ戸淳が殺された事件の謎を解きます。続いて、「Case 2 自殺予告配信」では、インターネットで自殺を予告したナチュラルボーン・コレクターの居場所を特定します。続いて、「Case 3 撲殺モラトリアム」では、資産家老人の猟奇的な撲殺事件の真相を解明します。続いて、「Case 4 零下二十五度の石棺」では、正月明けの漁協の冷凍倉庫で発見された漁師の事件の謎を解きます。続いて、「Case 5 ダイムの遺言」では、Case 1で殺害された極東ソフトコマース社長の城ノ戸淳からオリバー・オコンネルに送られてきた暗号解読に挑みます。やや、コミカルなミステリであり、オリバー・オコンネル財団日本支部のホルツマン・ユキが判治リヒトの実家を訪ねてくるたびに用意する手土産がなかなか凝っていたり、また、ホルツマン・ユキの来訪を主人公の母親の和美が露骨に喜んでいたりと、謎解き以外の設定も楽しく仕上がっています。

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2026年1月23日 (金)

2025年12月の消費者物価指数(CPI)上昇率は+3%を下回る

本日、総務省統計局から昨年2025年12月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月から減速して+2.4%を記録しています。日銀物価目標の+2%に比べてかなり大きなインフレが続いています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から45か月、すなわち、4年近く続いています。ヘッドライン上昇率も2.1%に減速している一方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+2.9%となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価指数、12月2.4%上昇 3カ月ぶり3%下回る
総務省が23日発表した2025年12月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が112.2となり、前年同月と比べて2.4%上昇した。上昇率は3カ月ぶりに3%を下回った。ガソリンの価格が下がり、上昇率が縮小した。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.4%の上昇となっていた。11月の上昇率は3%だった。日銀が物価安定の目標とする前年比2%以上となるのは22年4月以降、45カ月連続となった。
12月の生鮮食品を除く食料は6.7%上昇した。伸び率は5カ月連続で縮小した。2024年夏ごろから価格が上がっていたコメ類は34.4%だった。依然として高いが、上昇幅は縮小している。
原材料のカカオが高騰しているチョコレート(25.8%)、主要輸出国のブラジルの天候不良がおきたコーヒー豆(47.8%)は高い上昇率だった。
エネルギーは3.1%下がった。4カ月ぶりに下落に転じた。年末のガソリン旧暫定税率廃止に向けた移行措置での補助金の拡充などで、ガソリン価格が7.1%下がったことが影響した。
同日には25年平均も発表された。生鮮食品を除く総合は111.2で、前年比3.1%上昇した。24年平均(2.5%)を上回った。上昇は4年連続だった。生鮮食品を除く食料が7.0%上昇し、全体を押し上げた。

何といっても、消費者物価指数(CPI)は現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やや長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+3.0%ということでした。実績の+2.4%とジャストミートしたということのようです。また、エネルギー関連の価格については、引用した記事にもある通り、、「燃料油価格定額引下げ措置」による補助金が11月中旬から開始されており、ガソリンについては12月30日で終了しましたが、逆に、その時点で旧暫定税率が廃止されています。ということで、品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率である+2.4%に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、繰り返しになりますが、エネルギーの寄与度は2025年12月統計ではマイナスに転じていて、ヘッドラインCPI上昇率に対するエネルギーの寄与度は前月の11月統計の+0.19%に対して、12月は▲0.25%となっています。したがって、いわゆる寄与度差は▲0.44%に達していて、コアCPI上昇率が11月の+3.0%から12月の+2.4%に▲0.6%ポイント減速したうちの3/4を占めています。逆にいえば、エネルギーを除く物価が上昇している、と考えるべきです。例えば、生鮮食品を除く食料価格の上昇は引き続き大きく、前年同月比で+6.7%、寄与度で+1.62%に上ります。CPI総合の上昇率である+2.4%の2/3が食料価格の上昇に起因するというわけです。特に、食料の中で上昇率が大きいのはコメであり、生鮮食品を除く食料の寄与度+1.62%のうち、コシヒカリを除くうるち米だけで寄与度は+0.20%に達しています。引用した記事とは少し分類が異なりますが、上昇率は前年同月比で+34.3%ですから、一時のピークは超えた可能性がありますが、まだまだきわめて高い上昇率と考えるべきです。コメが値上げされれば、当然に、おにぎりやすしの価格も上がります。ただ、消費者物価の全体、というか平均として上昇率としてはまだ日銀の物価目標である+2%を超えているものの、物価上昇がピークアウトしつつある可能性もあります。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+6.7%、寄与度+1.62%に上ります。その食料の中で、これも繰り返しになりますが、コシヒカリを除くうるち米が大きく値上がりしていて、寄与度も+0.20%あります。うるち米を含む穀類全体の上昇率は+14.7%、寄与度は+0.38%に上ります。東京都区部のコメ価格のグラフは農水省のサイトで見ることが出来ます。下のグラフの通りです。コメに加えて、カカオショックとも呼ばれたチョコレートなどの菓子類も上昇率+8.6%、寄与度+0.23%に上っています。特に、その中でも、チョコレートは上昇率+25.8%、寄与度0.11%に達しています。コメ値上がりの余波を受けたおにぎりなどの調理食品が上昇率+5.7%、寄与度+0.22%、調理食品の中でもおにぎりが上昇率+13.1%、寄与度0.02%に上っています。同様に、すしなどの外食も上昇率+4.0%、寄与度+0.19%を示しています。ほかの食料でも、ブラジルの天候不良による需給逼迫のため、コーヒー豆などの飲料も上昇率+7.7%、寄与度0.14%、鶏肉などの肉類が上昇率+4.7%、寄与度+0.12%、乳卵類も上昇率+7.8%、寄与度+0.11%、また、コアCPIの外数ながら、生鮮魚介も上昇率+8.3%、寄与度+0.11%、などなどと書き出せばキリがないほどです。食料はエネルギーとともに国民生活に欠かせない基礎的な財であり、実効ある物価対策とともに、価格上昇を上回る賃上げや最低賃金の大幅な引上げを期待しています。

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最後に、物価に大きく関連して、本日、日本銀行の金融政策決定会合にて、政策金利を0.75%で据え置く旨の「当面の金融政策運営について」が決定されています。「展望リポート」の経済見通しでは、来年度2026年度の成長率および物価上昇率の見通しが上方修正されています。大きな変更ではないと私は受け止めています。

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2026年1月22日 (木)

1000億円の黒字を計上した2025年12月の貿易統計

本日、財務省から昨年2025年12月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+5.1%増の10兆4115億円に対して、輸入額も+5.3%増の10兆3058億円、差引き貿易収支は+1057億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

貿易収支、12月は1057億円の黒字 対米輸出2カ月ぶり減少
財務省が22日発表した貿易統計速報によると、2025年12月の貿易収支は1057億円の黒字となった。ロイターが事前にまとめた調査機関の予測中央値は3566億円の黒字で、黒字幅は予想を下回った。25年暦年の赤字額は2兆6507億円だった。
貿易収支のうち、輸出は前年同月比5.1%増の10兆4115億円だった。半導体電子部品や非鉄金属などの輸出が増えた。
対米輸出は2カ月ぶりのマイナスに転じた。12月は前年同月比11.1%減の1兆8113億円となった。欧州連合(EU)やアジア向けはプラスを維持した。対中輸出は2カ月ぶりにプラスに転じた。
輸入は5.3%増の10兆3058億円だった。対前年比のプラスは4カ月連続。通信機や医薬品、半導体電子部品が押し上げ要因となった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。ただ、第一報ですので、1時以降に差し替えられる可能性はあります。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事には1パラ目で「ロイターが事前にまとめた調査機関の予測中央値は3566億円の黒字」とありますが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも+3500億円余りの貿易黒字と、ともに、+3500億円を超える黒字が見込まれていたところ、実績の+1057億円の黒字はやや下振れした印象です。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの予測レンジの下限が+2000億円弱でしたので、そのレンジを越えています。トランプ関税の影響かどうかは微妙なところです。また、季節調整済みの系列でも、昨年2025年10月+740億円、11月+629億円と、2か月連続の黒字を記録していましたが、12月は▲2000億円超の赤字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた1950-60年代の高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。日経新聞では引用した記事のほかに「貿易赤字5割減の2.6兆円 25年、トランプ関税で対米黒字は1割減」と題した記事では、2025年を通した貿易統計を概観して「米国向けの自動車輸出は11.4%減の5兆3409億円だった。輸出額を台数で割った平均単価は10.4%減の392万円で6年ぶりに減少した。」と報じています。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。すなわち、引用した記事のタイトルのように、トランプ関税で日本の輸出が減少して貿易収支が赤字の方向に振れることではなく、貿易を含めた資源配分の最適化ができなくなってしまう点が問題と考えるべきです。加えて、経済外の影響かもしれませんが、国際間で自由で民主的な協調体制が崩壊する可能性を私は危惧しています。第2次世界大戦の原因のひとつは関税に基づくブロック経済化にあった、とする有力な見方は否定しようがありません。
本日公表された2025年12月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで▲1.5%減ながら、金額ベースはこれを上回って▲8.6%減となっています。石油価格が低迷している商品市況を反映しています。さらに、エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+8.8%増となっています。特に、食料品のうちの穀物類は数量ベースで+14.7%増、金額ベースでも+16.5%増となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで▲35.6%減、金額ベースでも▲22.7%減を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が数量ベースで▲2.2%減、金額ベースでも▲3.1%減となっています。自動車輸出における数量ベースと金額ベースの増減が全世界向けではほぼほぼ整合的になっています。ただし、米国向けの自動車輸出について、さらに詳しく見ると、数量ベースでは▲15.5%減を記録した一方で、金額ベースでは▲19.2%減となっており、引き続き、日本のメーカーあるいは輸出商社の方で部分的なりともトランプ関税を相殺するような価格設定により、販売台数の維持を図っていると考えられます。どこまでこういった関税負担がサステイナブルであるかは私には不明です。自動車を別にすれば、電気機器は金額ベースで+11.3%増とプラスを記録した一方で、一般機械は▲0.1%減となっています。輸出だけは国別の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で+5.6%増となり、中国も含めたアジア向けの地域全体では+10.2%増となっています。日中間のビミョーな外交的関係が中国向け輸出に影響している可能性は否定できません。他方で、米国向けは▲11.2%減と停滞を見せています。西欧向けは+5.2%増となっています。もっとも、米国経済にはまだ停滞色が残っており、先行き順調に我が国からの輸出が拡大するかどうかは不明、と考えるべきです。

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2026年1月21日 (水)

帝国データバンク「2026年の注目キーワードに関するアンケート」

やや旧聞に属するトピックながら、1がつ16にちん、帝国データバンクから「2026年の注目キーワードに関するアンケート」の結果が明らかにされています。

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今年2026年のキーワードのトップはチャイナリスクで2位以下は上のテーブルの通りです。帝国データバクのサイトによれば、調査回答期間は、2026年1月9~14日だそうですが、数日後まで調べれば、トップと2位が入れ替わっていた可能性があるのではないか、と私は受け止めています。詳細については、pdfの全文リポートもアップロードされています。

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2026年1月20日 (火)

底堅い経済を予想する国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し 改定」World Economic Outlook Update

日本時間の昨日1月19日、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し 改定」World Economic Outlook Update が公表されています。基本的に、世界経済は底堅く推移すると見込まれています。もちろん、pdfによる全文リポートもアップロードされています。まず、IMFのサイトからサマリーを引用すると次の通りです。

Resilient growth as technology and adaptability offset trade policy headwinds
Global growth is projected at 3.3 percent for 2026 and 3.2 percent for 2027, revised slightly up since the October 2025 World Economic Outlook. Technology investment, fiscal and monetary support, accommodative financial conditions, and private sector adaptability offset trade policy shifts.
Global inflation is expected to fall, but US inflation will return to target more gradually. Key downside risks are reevaluation of technology expectations and escalation of geopolitical tensions.
Policymakers should restore fiscal buffers, preserve price and financial stability, reduce uncertainty, and implement structural reforms.

続いて、世界経済の成長率見通しの総括表は次の通りです。

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要するに、AIなどへの技術投資、財政や金融による支援、緩和的な金融環境といった要因で民間部門が適応力を発揮し、明示してはいませんが、米国トランプ政権の通商政策=関税政策の悪影響を相殺している、という評価です。結果的に、世界経済の成長率は2025年の+3.3%という実績見込みに対して、2026年+3.3%、2027年+3.2%と、引き続き堅調に推移すると予測されています。ただ、日本については、2025年の+1.1%から2026年+0.7%、2027年+0.6%tp減速すると見込まれています。世界経済の成長率見通しは、昨年2025年10月時点での「世界経済見通し」と比較して、2026年が小幅な上昇修正、2027年は見通しの修正無しとなっています。また、世界のインフレ率はヘッドラインで、2025年の実績見込みの+4.1%から2026年+3.8%、2027年+3.4%に徐々に落ち着きを取り戻すと予想されています。なお、インフレ予測も2025年10月時点での予想とほぼ変わりありません。まあ、何と申しましょうかで、変わりばえしない経済見通しですので、トピック的に2点ほどリポートからグラフを引用しておきます。

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トランプ関税を相殺している民間部門の象徴的な株価の動向について、Figure 2. Tech Companies Diverge Further from the Rest を引用しています。現在の株高はテック企業が牽引している、という見立てです。Note にありますが、一応、Magnificent 7 とは "Apple, Microsoft, Amazon, Alphabet, Tesla, Nvidia, and Meta" を指しています。これら Magnificent 7 の株価が S&P 500 をはるかにアウトパフォームしているという分析です。

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民間部門から政府部門に目を転じると、先進国の中には財政拡張政策が期待されている国が見られるということで、Figure 4. Fiscal Stimulus Is Expected in Several Advanced Economies を引用しています。高市内閣は「責任ある積極財政」を看板のひとつに掲げていますが、確かに、フロートして見れば日本のプライマリー・バランス赤字は米独と比較して、まだ小さいといえるようです。であれば、2年間に限定することなく、食料品への消費財課税はゼロでもいいような気がします。ただし、ストックの公的債務残高が日本は他の先進国に比べて大きく積み上がっている点は忘れるべきではありません。

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2026年1月19日 (月)

大きな前月比マイナスとなった2025年11月の機械受注

本日、内閣府から昨年2025年11月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲11.0%減の8839億円と、3か月連続の減少を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

25年11月の機械受注11.0%減、3カ月ぶり減少 基調判断は据え置き
内閣府が19日発表した2025年11月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で11.0%減の8839億円だった。3カ月ぶりの減少となった。基調判断は「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。製造業・非製造業ともに減少した。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は5.2%減だった。
製造業は3982億円で10.8%減った。製造業17業種のうち15業種が前月比で減少した。非鉄金属が66.6%減と全体を押し下げた。自動車・付属品は6.5%減少し、2カ月ぶりにマイナスに転じた。
非製造業は4929億円で10.7%減った。運輸・郵便業が24.7%減少した。鉄道車両で大型案件の発注があった前月の反動減があった。建設業は掘削機械などの発注が増え、3.0%のプラスとなった。
全体の月ごとのぶれをならした3カ月移動平均は0.2%の減少だった。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事には「市場予測の中央値は5.2%減」とありますが、私が確認した範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比▲5.1%減、レンジの下限でも▲9.9%減でした。実績の▲11.0%減は予想レンジ下限を超える大きな下振れでした。ただし、昨年2025年9月の前月比+4.2%増、10月+7.0%増の後でしたので、11月までの3か月後方移動平均ではまだ▲0.2%減ですので、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」と先月からの上方修正で据え置いています。微妙なところかという気はしますが、上のグラフは内閣府のように3か月ではなく6か月の後方移動平均を取っていて、ユニバリエイトな判断ながら、このグラフを見ても、まだ明確な転換ではない可能性が読み取れると思います。業種別に季節調整済みの前月比で見て、製造業が▲10.8%減の一方で、船舶・電力除く非製造業は+10.7%増となっています。まあ、どっちもどっちなわけです。ただ、コア機械受注の外数ながら、また、どこの誰も報じていないながら、官公需が前月比で+67.8%増となっており、高市内閣の「責任ある積極財政」が統計で示されている可能性があります。あるいは、この時期からすでに解散が予定されていたのかもしれません。そのあたりは私には情報がありません。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を見込んでいる一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は見込み得る範囲の近い将来にはまだ続くことが歩く予想されますし、DXやGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、日銀が金利の追加引上げにご熱心で、市場における積極財政の評価もあって、長期金利は今世紀最大の水準にまで上昇しています。為替への影響を別にしても、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかです。トランプ関税も日本向けは一段落したとしても、欧州向けの動向が不透明ですし、どう考えても、先行きについてリスクは下方に厚いと考えるべきです。

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2026年1月18日 (日)

今年の花粉はどうなの?

いよいよ花粉シーズンが近づき、1月15日に日本気象協会から「2026年 春の花粉飛散予測 (第3報)」が明らかにされています。日本気象協会のサイトからポイントを3点引用すると次の通りです。

2026年 春の花粉飛散予測 (第3報)
  • 2月上旬に、九州や、中国・東海・関東の一部でスギ花粉飛散開始
  • 飛散のピークは、早い所では2月下旬から
  • 飛散量は、西日本では例年並み、東日本と北日本では例年より多い

続いて、同じく日本気象協会のサイトから 2026年 飛び始め予想 を引用すると次の通りです。関西方面は、2月中下旬といったところでしょうか。この先、2月にかけての気温は平年並みか高く、暖かい日には花粉がわずかに飛び始める見込みだそうです。

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続いて、同じく日本気象協会のサイトから 2026春 花粉の飛散傾向 を引用すると次の通りです。関西方面は、平年並みかやや多いといったところでしょうか。でも、甲信越から北の方では平年よりい多い予想が目立っています。これは、2025年夏が全国的に高温・多照で雄花が形成されやすい気象条件だった、ということに起因しているようです。

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私の鼻や目はまだ花粉を感じていませんが、それでも、昨日あたりから気温がかなり上がって、花粉は感じないものの、くしゃみが出始めています。まあ、いずれにせよ、嫌なシーズンを迎えることになります。

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この週末は大学入学共通テスト

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昨日から大学入学共通テストが始まっています。私の居住地では、昨日こそ暖かだったのですが、今日はかなり冷え込んでいます。少子化に伴い、大学は徐々に広き門となることが予想されますが、入学後の学費負担は決して軽くはありませんし、現時点ではまだ大学全入制にはほど遠いです。ですので、合格を祈念することはせず、受験生諸君が自分の持てる力をすべて発揮できるよう期待します。

がんばれ大学受験生!

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2026年1月17日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、郡司大志『金融政策の効果測定』(慶應義塾大学出版会)では、1999年2月のゼロ金利から始まって、2024年3月の量的・質的金融緩和の解除と金融政策の「正常化」までの期間の金融政策の効果の測定を試みています。因果推論を活用した計測なのですが、計測対象が適切かどうかは疑問です。マルチェロ・ムスト[編著]『マルクス・リバイバル』(地平社)では、資本主義や共産主義、さらに、民主主義から始まって22のチャプターで専門家たちが最近時点でのマルクス研究の成果を紹介しています。ただ、日本人研究者は参加しておらず、マルクス研究で遅れを取っているのだろうか、と思ってしまいました。岩井圭也『真珠配列』(早川書房)では、近未来の中国を舞台に、異常な速さで進行する癌による死者が出始め、その中に有力政治家の子息が含まれていて、北京市公安局刑事偵査総隊の捜査官アーロンが、ウイグル人の遺伝子エンジニアであるマリクの協力を得て操作を進めます。麻根重次『千年のフーダニット』(講談社)では、コールドスリープした7人が1000年後に目覚めると、そのうちの1人が死んでいた、という事件について、ハウダニットとフーダニットの謎を解き明かそうと試みます。SF的な色彩豊かなミステリです。和仁かや『江戸の刑事司法』(ちくま新書)では、バーチャルお白州ということで、タイトル通りに、徳川幕府の「公事方御定書」を基に、さらに、実際の裁判記録である「御仕置類例集」などをひも解いて、徳川時代の刑事司法を紹介しています。碧野圭『凜として弓を引く 覚醒篇』(講談社文庫)は、中学を終えて名古屋から東京に引越して来て、武蔵西高校に入学する矢口楓を主人公とする弓道青春小説であり、そのシリーズ第5巻に当たる本書では、西武蔵高校弓道部は関東大会に出場し、同級生の真田善美はインターハイの個人戦で優勝します。
今年2026年の新刊書読書は先週に4冊、今週の6冊を加えると合計で10冊となります。また、これらの新刊書読書のほかに、瀬尾まいこ『幸福な食卓』(講談社文庫)、『千年のフーダニット』の前作である麻根重次『赤の女王の殺人』(講談社)、大山誠一郎の短編集『密室蒐集家』と『赤い博物館』と『記憶の中の誘拐』(文春文庫)も読んでいます。ただ、新刊書ではないので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、郡司大志『金融政策の効果測定』(慶應義塾大学出版会)を読みました。著者は、大東文化大学経済学部現代経済学科教授だそうです。本書は、タイトル通りに、金融政策の効果を測定していますが、当然ながら主眼は四半世紀に渡った非伝統的な金融緩和政策にあります。すなわち、1999年2月のゼロ金利から始まって、2024年3月の量的・質的金融緩和の解除と金融政策の「正常化」までの期間の金融政策の効果の測定にあります。そして、もともとの著者の姿勢がどうなのかは私は存じませんが、軽く想像されるように、否定的な側面が全面に押し出されている印象があります。ただ、手法としてははやりの因果推論を用いています。というのは、しばしば金融政策分析に用いられるニュー・ケイジアン・モデルには明示的な銀行部門がないから、という理由です。ただ、冒頭第1章で、金融政策や金融政策の効果に関する定義では「はっきりしない」と結論していて、金融論は専門外の私なりにも、本書で金融政策の効果として測定している代理変数に疑問あるものもないわけではありません。例えば、第7章でETF買入れ政策で株価が押し上げられていたという結論ですが、第8章でROA/ROEを企業のパフォーマンス指標として用いると逆の結果が得られます。要するに、株価はROA/ROEを反映していない、という矛盾を不問にした分析がどこまで整合性ある結果を引き出せているかは疑問です。また、第5章のインフレーションターゲティング政策も、効果を測定する指標として企業パフォーマンスを取るのが適当かどうかも疑問です。日銀法は冒頭で、日銀は物価安定を通じて国民経済の健全な発展に貢献するという役割を負うと規定していますが、ほとんどの分析で企業が金融政策効果測定の対象になっている印象があり、国民生活への影響は無視されている、ないし、いわゆるトリックルダウン効果が前提されていると考えられます。せいぜいが、第6章の個人の借入れ意欲に対する効果くらいで、消費への効果分析をもっと前面に打ち出してもいいように思うエコノミストは私くらいで、多くのエコノミストは企業への効果に目が行くのは悲しいことかもしれません。最終第10章のテーマである金融政策に何を求めるのかの視点が、少し私とはズレている気がしました。最後に、私は黒田総裁当時の日銀の異次元緩和は失敗だったと考えています。大きな理由は物価目標を達成できなかったからです。

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次に、マルチェロ・ムスト[編著]『マルクス・リバイバル』(地平社)を読みました。著者は、カナダのトロントにあるヨーク大学社会学教授であり、マルクス研究の復権に近年多大な貢献をしてきた論者として世界的に知られる存在だそうです。実は、この編著者を招いて、今週、私の勤務する立命館大学で講演会がありました。私も出席しようかと考えなくもなかったのですが、先週に私が参加した経済学部教員の飲み会で講演会が話題になり、reprpductive/reproduction とは、私は something 不妊治療だと思っていて、普通は不妊治療も含めた生殖医療を指すのですが、マルクス研究では「再生産」という特殊な意味を持つ、と聞いて少し驚いてしまいました。少なくとも本書冒頭の資本主義を邦訳している我が同僚教員の宇野派のプリンスは、私の理解が通常の英語の理解だろうと認めてくれましたが、どうも、マルクス研究の界隈では違うようです。私は官庁エコノミストとして60歳の定年まで公務員をしていて、まさに、政府公認の経済学を持ってお仕事をしてきたわけで、マルクス研究ははるか彼方の大昔の大学生だったころで終了しています。ですので、日本語でも理解がおぼつかないマルクス研究なのに、英語の講演会では出席しても意味はなかろう、と考えて出席は取り止めました。本書も読んでみましたが、それほど理解がはかどったとも思えません。序章に続いて、冒頭の資本主義や共産主義、さらに、民主主義から始まって22のチャプターで専門家たちが最近時点でのマルクス研究の成果を紹介しています。最後の22章は、マルクス主義と題してウォーラーステイン教授が執筆しています。繰返しになりますが、冒頭章は資本主義と共産主義から始まる一方で、私がマルクス研究のもっとも興味ある経済学と歴史研究については章立てされていない点は少し不思議に感じました。まあ、好意的に考えれば、経済学や歴史研究についてはすべてのチャプターでそれぞれ言及されている、ということなのかもしれません。いくつかの章で史的唯物論というのはお目にかかった気がしますが、それでも、歴史発展の方向性や法則は私にとってはマルクス研究のもっとも重要なポイントのひとつですので、章立てしてほしかった気がします。最後に、ノーベル経済学賞に日本人がまったくウワサにもならないように、主流派経済学では日本の学界や研究者は決してトップレベルに達していません。ほど遠いといえます。本書を読むと、これまた、マルクス研究でも日本人研究者がまったく執筆に参加していません。グローバル化をテーマとする第16章執筆のチョン・ソンジン教授が慶尚北道国立大学の所属となっていて、韓国のご出身のように見えます。日本人研究者は主流派経済学だけでなく、マルクス研究でも遅れを取っているのだろうか、と少し気になってしまいました。極めて限定的な私の経験からして、日本のマルクス研究は脱成長と環境問題に重点を置いているように見えますが、AIをはじめとする技術進歩の問題にもマルクス研究の観点からの発言を期待しています。はい、大いに期待しています。

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次に、岩井圭也『真珠配列』(早川書房)を読みました。著者は、小説家なのですが、最近ではドラマの原作となった『最後の鑑定人』が人気のようです。本書の舞台は近未来の中国であり、その理由はゲノム操作の規制がもっとも緩やかな国のひとつだからであり、本書はそのゲノム操作をテーマとしています。タイトルの真珠配列とは理想的なゲノム配列を意味します。癌をはじめとする病気に罹患しにくかったり、肥満しにくい体質だったり、というような感じで、いわゆるデザーナベビーのヒトゲノム配列のようなものです。それをこれから生まれてくる生殖段階で実施するデザイナーベビーではなく、すでに生まれた後の成人などでゲノム操作をする、というものです。あらすじは、異常な速さで進行する癌による死者が出始め、特に、その死者の中に有力政治家の子息が含まれていて、北京市公安局刑事偵査総隊=犯罪捜査課の捜査官である郝一宇=アーロン・ハオが本書の主人公で、操作を担当する警察官の1人です。捜査協力者として、新疆ウイグル自治区出身のウイグル人の遺伝子エンジニアであるマリク・ヌアイマーンと協力しているのですが、ウイグル人は漢人から強く差別されており、ほとんどテロリストとみなす警察官もいたりします。例えば、アーロンが付き合っている恋人がいて、彼女の父親が警察幹部であることから、アーロンはそのコネを持って出世を期待しているのですが、その恋人の父親がウイグル人を捜査から外すように圧力をかけたりします。ということで、ゲノム操作と異常に早く進行する癌の関係をめぐって捜査が進み、真相が明らかにされます。最後に、ゲノム操作とか遺伝子関係の私の知識は極めて限定的なのですが、そういったこの界隈の情報をそれほど持ち合わせていなくても、ミステリとして十分楽しむことが出来ます。ただ、ウイグル人に対する漢人の感情については、少し日本人の想像を超えています。

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次に、麻根重次『千年のフーダニット』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家なのですが、2023年に『赤の女王の殺人』で島田荘司選 第16回ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞して、作家としてデビューしています。この前作は私はすでに読んでレビューしています。本書と前作とはまったく何の関連もなく、それぞれ独立した作品として楽しむことが出来ます。本書、基本的にはミステリと考えるべきなのですが、舞台はほぼほぼ1000年後の世界です。冷凍睡眠=コールドスリープした7人が1000年後に目覚めると、そのうちの1人が死んでいた、という事件について、ハウダニットとフーダニットの謎を解き明かそうと試みます。主人公はコールドスリープした7人のうちのクランです。若くして妻を喪い失意に沈んで人類初のコールドスリープに参加します。ほかにも、イリヤ、シーナ、カイ、シモン、クロエ、マルコのさまざまな事情を抱えた男女7名は「テグミネ」という繭のような装置で長い渡る眠りにつき、1000年後に目覚めると、テグミネのなかでミイラと化したシモンの他殺体を発見することになるわけです。そして、残された6人は、結局、コールドスリープの施設の外に出て活動を始めます。最後はどんでん返しもあって、当然ながら、驚くべき真相が待っています。SF仕立てのミステリで、単行本で400ページ近くと、それなりのボリュームありますが、とてもスラスラと読めます。当然、コールドスリープや何やの基礎知識は必要とされません。ただ、コールドスリープに入るには、本人以外が装置のオペレーションをする必要がある、というのがポイントです。また、私のベタな感想では森博嗣『すべてがFになる』を思い出してしまいました。はい、この2点はギリギリながらネタバレではないと思います。最後に、私個人としては、ハウダニットとフーダニットの謎解きはいいとしても、動機にややムリを感じました。

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次に、和仁かや『江戸の刑事司法』(ちくま新書)を読みました。著者は、早稲田大学法学学術院教授であり、ご専門は近世日本法制史だそうです。本書では、バーチャルお白州ということで、タイトル通りに、徳川幕府の「公事方御定書」を基に、さらに、実際の裁判記録である「御仕置類例集」などをひも解いて、徳川時代の刑事司法を紹介しています。本書冒頭でも指摘しているように、近代以降の日本や西洋の刑事司法と違って、徳川期は理不尽な拷問をしたり、残酷な刑罰を乱発したり、といったイメージがある一方で、人情味溢れるいわゆる「大岡裁き」だって存在した、というTVドラマの影響も見逃せないところです。本書では章別に、盗みと火附といった犯罪から始まって、不倫、というか、いわゆる姦通、さらに、現時点でも決して議論がつきない処罰なのか更生なのかの議論、また、現代的な心神耗弱の前近代の表れのひとつである「物の怪」などに起因した乱心による犯罪、最後に、女の罪、のそれぞれを取り上げて歴史的にひも解いています。裁きを下す裁判官役の役人も、重罪である資材や遠島を申し渡す際には前もって幕閣の老中に確認するなど、手続き面も大いに言及されています。もちろん、近代的な三権分立の概念が成立する以前のことであり、立法権と行政権と司法権すべてを幕府が一手に握って、さまざまな配慮をしつつも、近代的な行政や司法制度と違って強権的な裁きを行っていた例があることは明らかです。その意味で、国際法を無視して独裁者的に振る舞って、勝手な利益を追求する米国トランプ政権のやり方を少し思い起こさせるものがありました。

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次に、碧野圭『凜として弓を引く 覚醒篇』(講談社文庫)を読みました。著者は、ラノベ作家であり、私が聞いたのことがあるのは「書店ガール」のシリーズです。読んだことはありませんし、渡辺麻友が主演し、稲森いずみも出演しているTVドラマ化されていたのは知っていましたが、それほど熱心には見ていません。この「凜として弓を引く」シリーズは、初巻から始まって、「星雲篇」、「初陣篇」、「奮迅篇」ときて、本書「覚醒篇」で5巻目となります。当たり前ですが、私は第1巻から第4巻まで順に読んでいます。中学を終えて名古屋から東京に引越して来て、武蔵西高校に入学する矢口楓を主人公とする弓道青春小説です。同級生の真田善美やその兄の真田乙矢に誘われて、近くの神社の弓道教室に通うようになり、かつて名門弓道部のあった武蔵西高校2年に進級して、弓道同好会として復活させて各種大会予選に出場する、というのが第4巻奮闘篇までです。この第5巻覚醒篇では、3年生に進級して同好会を弓道部に昇格させて、主人公の矢口楓は引き続き部長を務めます。西武蔵高校弓道部は関東大会に出場し、同級生の弓友である真田善美はインターハイの個人戦で優勝したりします。関東大会やインターハイの場面もあるわけですので、都内や関東に限らず弓道部のある全国の高校のライバルも何人か登場します。そして、この第5巻の最後で、主人公の矢口楓は武蔵西高校を卒業して西北大学に推薦入学により進学します。西北大学というのは「都の西北」なんですから、早稲田大学がモデルなんではないかと想像しています。当然、弓道部がありますし名門だという設定です。主人公の矢口楓や同級生の真田善美が大学生になって、まだまだ、第6巻以降に続きます。なお、私は弓道についてはまったく知識も経験もなく、本書で頻出する弓道の技術的な用語はすべてすっ飛ばして読んでいます。たぶん、そのあたりの知識や情報があった方が読書を楽しめそうですが、そこはラノベですので、窮屈なことはいわない方がいいと思います。

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2026年1月16日 (金)

世界経済フォーラム Global Risks Report 2026 に見る経済リスクの後退

来週1月19日から始まるダボス会議を前に、世界経済フォーラム(WEF)から、一昨日の1月14日、「グローバルリスク報告書 2026」Global Risks Report 2026 が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。まず、世界経済フォーラムのサイトからリポートの要旨を引用すると以下のとおりです。

Global Risks Report 2026
The Global Risks Report 2026, the 21st edition of this annual report, marks the second half of a turbulent decade. The report analyses global risks through three timeframes to support decision-makers in balancing current crises and longer-term priorities. Chapter 1 presents the findings of this year's Global Risks Perception Survey (GRPS), which captures insights from over 1,300 experts worldwide. It explores risks in the current or immediate term (in 2026), the short-to-medium term (to 2028) and in the long term (to 2036). Chapter 2 explores the range of implications of these risks and their interconnections, through six in-depth analyses of selected themes. Below are the key findings of the report, in which we compare the risk outlooks across the three-time horizons.

たぶん、リポートの Key findings p.12 の FIGURE 7 Relative severity of global risks, short term (2 years) and long term (10 years) と第1章 Global Risks 2026-2036: The Age of Competition p.20 に現れる FIGURE 17 Relative severity of global risks, short term (2 years) and long term (10 years) は同じものだと思うのですが、後者の方を引用すると次の通りです。

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見れば判りますが、横軸が Short-term severity (2 years)、縦軸が Long-term severity (10 years) となる散布図です。基本的に、このグラフの右上に行くほど短期でも長期でも深刻度が高い、ということなのですが、大雑把に短期の深刻度は長期と正の相関にあるように見えます。これまた大雑把に、Debt にせよ、Economic downturn にせよ、青いドットの経済的なリスクは、経済以外のほかの環境や地政学のリスクに比較して、深刻度はそれほど高くない、とみなされているようです。ですので、リポート p.19 では、"Economic risks are absent from the top 10 rankings when it comes to the outlook for the next decade, featuring primarily at the lower end of the risk ranking." と評価されていたりします。

私はダボス会議はそれほど注目していませんので、これくらいでお茶を濁しておきますが、何かあれば、また、取り上げたいと思います。

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2026年1月15日 (木)

上昇率が縮小した12月の企業物価指数(PPI)

本日、日銀から昨年2025年12月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+2.4%の上昇となり、58か月連続の上昇です。先月11月統計からやや伸びは縮小したとはいえ、日銀物価目標の+2%を上回って高い上昇率が続いています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。


国内企業物価12月は前年比2.4%上昇、24年4月以来の低い伸び
日銀が15日に発表した12月の企業物価指数(CGPI)速報によると、国内企業物価指数は前年比2.4%上昇した。農林水産物や非鉄金属などが上昇に寄与した。58カ月連続プラスとなったが、伸び率は縮小して2024年4月(1.2%上昇)以来の低さとなった。前月比では0.1%上昇だった。
指数は2020年水準を100として128.1。指数は比較可能な1980年以降で最高水準となっている。
前年比の上昇で最も指数の押し上げに寄与したのは農林水産物で、前年比26.8%上昇した。集荷業者が農家に支払う概算金が引き上げられたことがコメの値上がりにつながったほか、鳥インフルエンザ発生の影響で鶏卵も上昇した。
非鉄金属は銅、金などの市況上昇の影響で、飲食料品は原材料や包装資材などの諸コスト上昇を転嫁する動きなどでそれぞれ値上がりした。
全515品目中、前年比で上昇したのは364品目、下落は127品目。差し引きは237品目。
日銀の担当者は「今月は銅をはじめとする非鉄金属市況の上昇と、原油市況の下落がおおむね相殺し、全体として小動きとなった」と説明した。
前年比の伸び率は縮小傾向にあるものの、専門家は「高市政権の拡張的な財政政策への懸念などから円安が進行しており、輸入物価の上振れがラグを伴って国内企業物価の上昇圧力となる」(大和証券のエコノミスト、鈴木雄大郎氏)と指摘する。先行きについては「政策効果の影響を除けば、伸び率は徐々に下げ渋っていく公算が大きい」(同)という。
合わせて公表された2025年(暦年)の企業物価指数は前年比3.2%上昇で、伸び率は前年の2.4%から加速した。農林水産物、飲食料品、非鉄金属などが上昇に寄与した。

インフレ動向が注目される中で、長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下のパネルは国内物価指数そのものを、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、企業物価のうちヘッドラインとなる国内物価上昇率は、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.4%でした。実績の+2.4%はジャストミートしましたが、引き続き、日銀物価目標の+2%を大きく上回っていることは事実です。国内物価が上昇率が高止まりしている要因は、引用した記事の3パラ目にもあるように、農林水産物とそれに連動した飲食料品の価格上昇です。引き続き、コメなどが高い上昇率を示しています。また、対ドル為替相場は、高市内閣の成立により円安が進んでおり、2025年10月+2.2%、11月+2.6%の円安の後、12月も+0.5%の円安となり、平均で対ドルレートは150円台半ばを記録しています。さらに、私はエネルギー動向に詳しくないので、日本総研「原油市場展望」(2026年1月)を参考として見ておくと、1月のWTI原油先物価格は、米国によるベネズエラ攻撃やイランにおける反政府デモの激化などから、地政学的リスクの増大を通じた供給懸念により一時60ドル台に乗せたものの、先行き見通しについては「原油価格は、年央にかけて50ドル台前半に下落する見通し。」とされています。加えて、「ベネズエラにおける急速な原油増産は困難」と指摘しています。ただ、円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年2025年2月から11か月に渡ってマイナスを続けてきましたが、12月統計では前年同月から横ばいを示しています。いずれにせよ、国内物価の上昇は原油価格ではなく国内要因による物価上昇であることは明らかです。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず、引用した記事にもある通り、農林水産物は2025年11月の+29.8%からやや減速したとはいえ、12月も+26.8%と高止まりしています。これに伴って、飲食料品の上昇率も12月は+5.0%と、前月11月の+5.1%とほぼ同じ上昇率となっています。電力・都市ガス・水道は11月の▲1.0%から、12月は▲4.5%と政府の電気・ガス料金負担軽減支援事業により下落幅を拡大しています。ただ、この政策は3月使用分までですので、4月からはどうなるのか不透明です。引用した記事の4パラ目にもある非鉄金属は11月の+14.9%から12月には+22.1%と上昇幅が大きく拡大しています。

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2026年1月14日 (水)

第一生命経済研究所のリポート「どうなる? 2026年の物価と家計負担!」

やや旧聞に属するトピックながら、1月5日に第一生命経済研究所から「どうなる? 2026年の物価と家計負担!」と題するリポートが明らかにされています。結論を先取りすると、昨年2025年から4人家族で約+8.9万円の家計負担増の可能性がある一方で、政府による物価高対策により▲2.5万円の負担軽減策が取られる、と見込んでいます。物価上昇を中心に簡単にグラフを引用しつつ取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 輸入物価と消費者物価 のグラフを引用すると上の通りです。オレンジの折れ線グラフの消費者物価上昇率は、少しラグを伴いつつもブルーの輸入物価上昇率と連動していたのですが、ここ1-2年の最近時点では、コメ価格の上昇がインフレの大きな要因となっている点に現れているように、輸入インフレではなく国内要因に基づく物価上昇であると結論しています。はい、私も従来から日本のインフレは金融政策取りも石油価格の方に敏感に反応すると考えていましたが、最近ではコメをはじめとする食料価格の影響が大きいのは、その通りです。ですので、円安が進んでも為替が大きく物価に影響するという状態ではない可能性があります。少なくとも、金利引上げによって為替を円高に誘導してインフレ抑制を図るという政策割当は疑問が大きいといわざるを得ません。

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次に、リポートから 消費者物価インフレ率と春闘賃上げ率 のグラフを引用すると上の通りです。このグラフだけを見ると、消費者物価指数で計測したインフレは春闘賃上げ率を下回っており、実質賃金が上昇しているように見えますが、先週1月8日に厚生労働省から公表された毎月勤労統計でも明らかなように、昨年2025年11月の統計まで11か月連続で実質賃金は前年同月を下回ってマイナスを記録しています。ですので、上のグラフも一定の幅を持って見ておく必要はありますが、日本経済研究センター(JCER)によるESPフォーキャスト通りに今後も消費者物価が推移するとすれば、2025年のインフレ率+3.1%に対して2026年のインフレ率は+1.8%に鈍化する、と指摘しています。私も、おそらく、インフレ率は近く日銀物価目標の+2%を下回る可能性が高いと考えています。
このインフレ予想にしたがって、リポートでは、「家計の1人あたり負担増加額は2025年に前年から+3.8万円(4人家族で+15.3万円)増加した後に、2026年はそこから+2.2万円(4人家族で+8.9万円)の増加にとどまると試算される」と結論しています。加えて、ガソリン軽油の暫定税率排しなどの「政府の物価高対策でインフレに伴う今年の家計負担額は▲22%程度軽減される」とも試算しています。

60歳の定年までの公務員のころは管理職でしたが、私も再就職でヒラ教員となって労働組合員に復帰しました。まずは、春闘でしっかりと賃上げを勝ち取ることが必要です。それがなければ、多くの前提が崩れることになりかねません。

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2026年1月13日 (火)

2か月連続で悪化した12月の景気ウォッチャーと貿易黒字が拡大した11月の経常収支

本日、内閣府から昨年2025年12月の景気ウォッチャーが、また、財務省から昨年2025年11月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から▲0.1ポイント低下の48.6、先行き判断DIは+0.2ポイント上昇の50.5を記録しています。経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆6741億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

街角景気12月は0.1ポイント低下、2カ月連続悪化 物価高など重荷
内閣府が13日に発表した12月の景気ウオッチャー調査で現状判断DIは48.6となり、前月から0.1ポイント低下した。2カ月連続のマイナスで、回答者からは物価高や中国からの渡航自粛の影響について言及があった。
現状判断DIのトレンドを見極める上で重視している3カ月移動平均は48.8で、前月から0.5ポイント上昇した。内閣府の担当者は「全体として前月から大きく変化はなかった」とし、ウオッチャーの見方も「景気は、持ち直している」で据え置いた。
指数を構成する3部門では、雇用関連が前月から1.4ポイント上昇し49.5となった。一方、家計動向関連が48.2、企業動向関連が49.2と、それぞれ0.3ポイント低下した。家計関連では「物価高の影響により、忘年会シーズンの飲食店への納品が増加せず、お歳暮商品の売り上げも伸びなかった」(四国=一般小売店[酒])、企業関連では「物価高に伴うコストの拡大に対して、価格転嫁が進んでいない」(中国=通信業)といったコメントがみられた。
中国の渡航自粛の影響については「中国からのインバウンドの減少は回復のめどが立たず、長引くことが懸念される」(近畿=旅行代理店)といった指摘があった。
日銀の利上げ実施に関しては「金利上昇で企業の資金繰りや個人ローン返済に与える影響が懸念され、景気回復が勢いづくことは見込めない」(九州=金融業)など、相対的にネガティブな影響を指摘する声が多かった。
2-3カ月先の景気の先行きに対する判断DIは、前月から0.2ポイント上昇の50.5。2カ月ぶりに前月を上回った。内閣府は先行きについて「価格上昇の影響などを懸念しつつも、持ち直しが続くとみられる」とまとめた。
調査期間は12月25日から31日。日銀は18-19日に開いた金融政策決定会合で、政策金利を0.75%に引き上げることを全員一致で決めた。
経常黒字、11月は前年比10%増 貿易黒字拡大で
財務省が13日発表した国際収支状況速報によると、11月の経常収支は前年同月比10%増の3兆6741億円の黒字と、ロイターがまとめた民間調査機関の事前予測とほぼ同水準だった。黒字は10カ月連続。貿易収支の黒字幅が拡大したことが主因。
海外子会社からの配当収入などを示す第一次所得収支の黒字幅は前年から65億円拡大し、3兆3809億円となった。第二次所得収支は2880億円の赤字と、赤字幅が縮小した。
貿易収支は6253億円の黒字と、黒字幅が前年から5062億円拡大。半導体・電子部品、医薬品、非鉄金属などの輸出がアジア向けを中心に伸びた一方、輸入は3カ月ぶりに減少に転じた。
ドル/円相場は155.12円と前年比0.9%の円安(インターバンク直物相場・東京市場中心値の月中平均レート)だった。
一方、訪日外国人客(インバウンド)は前年比10.4%増の351万人と11月としては過去最高となった。ただ、出国日本人の増加やインバウンドの消費単価の減少などから、旅行収支は黒字が前年比1055億円減り、4524億円となった。旅行収支を含むサービス収支は441億円の赤字に転じた。
農林中金総合研究所の理事研究員、南武志氏は、かつての国際収支のけん引役だった貿易黒字の拡大は、4月以降のトランプ関税による輸出減少の反動増の可能性があると指摘、今後の展開には引き続き注視が必要とした。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは、最近では昨年2025年10月統計の49.1まで6か月連続で上昇を記録した後、11月48.7、そして、本日公表の12月48.6と2か月連続で低下しています。先行き判断DIも同様に上昇を見せており、10月統計は前月から+4.6ポイント上昇の53.1となっています。他方、先行き判断DIはやや荒っぽい動きを見せており、昨年2025年10月統計で前月から+2.8ポイントの大きなジャンプを見せて53.1を記録した後、11月50.3、12月50.5と推移しています。本日公表の昨年2025年12月統計の季節調整済みの現状判断DIをより詳しく前月差で見ると、家計動向関連のうちでは、小売関連が▲1.8ポイントの低下のほかは、飲食関連が+6.5ポイント、住宅関連が+3.3ポイント、サービス関連も+0.5ポイント、それぞれ上昇しています。住宅関連については、11月統計で前月から▲3.3ポイント低下した反動が戻っただけであり、ならしてみれば、前々月の10月統計から横ばいにしか過ぎません。したがって、それほど改善したという印象ではありません。企業関連では、製造業が+1.6ポイント上昇したものの、非製造業は逆に▲2.0ポイント低下しています。製造業でも、米国の通商政策の影響が一巡した可能性が十分あります。また、家計関連と企業関連とは別の雇用関連は前月から+1.4ポイント上昇しています。人手不足の影響かもしれません。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を昨年2025年10月統計から「景気は、持ち直している」と上方修正し、12月統計でもこれを据え置いています。ただし、国際面での米国の通商政策とともに、国内では価格上昇の懸念は大いに残っていて、今後の動向が懸念されるところです。景気判断理由の概要について、引用した記事にもいくつかありますが、内閣府の調査結果の中から、近畿地方の家計動向関連に着目すると、「様々な値上げが影響しており、特に米については新米の価格も高く、販売量が伸びない。クリスマスケーキやおせちの予約も、前年を下回っている(スーパー[企画担当])。」といった物価上昇の悪影響を上げた意見を見かけました。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。引用した記事の通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスは実績とほぼ同水準の黒字ということでしたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、+3.6兆円余りの黒字の見込みでしたので、実績の+3.6兆円兆の黒字はほぼ市場のコンセンサスに一致しています。季節調整していない原系列の統計では、引用した記事にもあるように、貿易収支が+6000億円を上回る大きな黒字を記録したのに加え、第1次所得収支が3兆円を上回る黒字を計上しています。何といっても、日本の経常収支は第1次所得収支が巨大な黒字を計上していますので、貿易・サービス収支が赤字であっても経常収支が赤字となることはほぼほぼ考えられません。はい。トランプ関税によって貿易収支や貿易・サービス収支の赤字が拡大したとしても、第1次所得収支で十分カバーできると考えるべきです。ですので、経常収支にせよ、貿易・サービス収支にせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はありません。エネルギーや資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常収支や貿易収支が赤字であっても何の問題もない、逆に、経常黒字が大きくても特段めでたいわけでもない、と私は考えています。ただ、米国の関税政策の影響でやたらと変動幅が大きくなるのは避けた方がいいのは事実です。

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2026年1月12日 (月)

みずほリサーチ&テクノロジーズによる今年2026年春闘の予想やいかに?

ものすごく旧聞に属するトピックながら、昨年2025年12月29日、みずほリサーチ&テクノロジーズから今年2026年春闘における賃上げ予想を取りまとめたリポート「26年春闘は25年並みの高い賃上げ率で妥結へ」が明らかにされています。タイトル通りに、今年2026年春闘における高い賃上げ率を予想しています。まず、リポートから最初のパラを引用すると次の通りです。

2026年春闘では3年連続となる5%台の賃上げ率実現へ
労働組合は2026年春の賃上げ交渉に向け、2025年に続き高い賃上げ要求の方針を公表した。インフレによる実質賃金の目減りを取り戻すための強気の要求である。一方、企業側も人手不足が早期に解決する目途が立っておらず、経営環境さえ問題なければ、組合の要求に応じる可能性が高いとみられる。企業にとっては、賃上げが単なる「コスト」ではなく「人への投資」として位置づけられており、こうした企業の「賃上げノルム」の変化も賃上げ継続の大きな要因になっていると考えられる。

リポートでは、まず、経営環境として、企業の景況感や業績見通しは良好であり、高水準の賃上げを継続し得る経営環境は整っていると評価できる、と指摘し、加えて、労働組合が総じて強気の賃上げ要求を掲げていること、さらに、日銀短観などに見られる人手不足感が極めて強いことなどを上げて、今年2026年春闘でも3年連続で+5%の賃上げ実現される、と結論しています。リポートから 春闘賃上げ率 のグラフを引用すると次の通りです。

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そして、焦点はむしろ、賃上げの有無から、賃金上昇率がインフレを上回るか、つまり実質賃金が上昇するような賃上げ幅になるかに移ってきており、食料・エネルギーなど生活必需品の価格上昇が一服することが見込まれることから、2025年同様の高い賃上げで妥結できれば、実質賃金が持ち直す可能性が高い、と見込んでいます。そうであって欲しいと、私も強く期待しています。

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2026年1月11日 (日)

Eurasia Group による Top Risks for 2026 やいかに?

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先週、Eurasia Group による Top Risks for 2026 がリリースされています。上のリポート表紙にもありますが、以下の通りです。

Risk 1
US political revolution
Risk 2
Overpowered
Risk 3
The Donroe Doctrine
Risk 4
Europe under siege
Risk 5
Russia's second front
Risk 6
State capitalism with American characteristics
Risk 7
China's deflation trap
Risk 8
AI eats its users
Risk 9
Zombie USMCA
Risk 10
The water weapon

私ははなはだ専門外で、日本語版pdfファイルもアップロードされていますので、詳細はそちらに譲りますが、2点だけ、Risk 1 は明らかですが、簡単にリポートを引用しておくと、「ドナルド・トランプ大統領は、自らの権力に対する抑制を組織的に解体し、政府機構を掌握し、それを敵に対して武器化しようとしている。」= "President Donald Trump's attempt to systematically dismantle the checks on his power, capture the machinery of government, and weaponize it against his enemies." と指摘しています。加えて、Risk 2 は誤解を招かきかねないので注意が必要です。すなわち、スラッと見ると、Risk 1 と同じように、米国のトランプ大統領が過剰な権力を手にしたようにも読めますが違います。21世紀で最も重要な技術は電気で動いており、電気自動車(EV)、ドローン、そして何よりもAIを例に上げていて、それらがバッテリー、モーター、パワーエレクトロニクス、組み込み計算機などの電気スタック=electric stack という共通の基盤を持っており、しかも、「中国はこれを掌握した。米国はこれを譲り渡しつつある。」= "China has mastered it. The United States is ceding it." と指摘しています。
世界経済フォーラム(WEF)によるダボス会議は1月19日から始まり、その直前には World Risks Report 2026 も出ることと思います。米国のトランプ政権が何を始めるか極めて不透明な地政学的リスクがある中で、コチラも注目です。

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2026年1月10日 (土)

今週の読書は新刊書読書少なく計4冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、ヘンリー・サンダーソン『電気自動車は本当にエコなのか』(原書房)では、電気自動車(EV)などに広く用いられているバッテリー生産のために、リチウムやコバルトといった鉱物資源が自然環境や労働条件を考えることなく乱掘されており、環境破壊や労働者の健康被害を起こしている実態に着目しています。町田章『AI時代になぜ英語を学ぶのか』(文春新書)では、言葉が持つ機能は決してコミュニケーションだけではなく、そのバックグラウンドとなる文化や体験も含めて、人間らしい思考力を身につけるために外国語学習が必要であり、自分の生まれ育った環境以外の経験も重要と指摘しています。レオ・マレ『探偵はパリへ還る』(新潮文庫)は、フランスのハードボイルド・ミステリ小説であり、第2次世界大戦下のドイツで捕虜として収容所の病院で働く探偵ビュルマは、瀕死の男から「エレーヌに伝えてくれ、駅前通り120番地」と謎の言葉を残され、釈放後フランスへ戻ると探偵助手が死の間際に同じ住所を告げます。大山誠一郎『死の絆』(文春文庫)では、赤い博物館と通称される警視庁付属犯罪資料館の館長である緋色冴子が助手の寺田聡とともに30年以上も前の事件も含めて、資料館に送られてくる事件の真相解明のために再捜査に挑みます。
今年2026年の最初の新刊書読書はこの4冊となります。これらの新刊書読書のほかに、新刊書ではないので取り上げていない年末年始の読書もかなりあります。麻根重次『赤の女王の殺人』(講談社)は同じ作者の最新作である『千年のフーダニット』への準備を兼ねて読みましたし、碧野圭『凜として弓を引く』(講談社文庫)のシリーズ計5冊も読んで、すでに、SNSでシェアしていたりします。また、本日レビューしている大山誠一郎『死の絆』(文春文庫)のシリーズ前2作『赤い博物館』と『記憶の中の誘拐』も読んでいます。加えて、シリーズ外ながら、大山誠一郎『蜜室蒐集家』(文春文庫)も読みました。ただ、新刊書ではないので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などのSNSでシェアしたいと予定しています。

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まず、ヘンリー・サンダーソン『電気自動車は本当にエコなのか』(原書房)を読みました。著者は、ファイナンシャル・タイムズ紙のジャーナリストです。英語の原題は Volt Rush であり、2022年の出版です。私がタイトルから期待した内容と少し違って、電気自動車に限定せずにスマートフォンなどでも広く使われている蓄電池のためにリチウムやコバルトをはじめとする各種鉱物が環境負荷を考えずに乱掘されている実態を告発しています。最初に取り上げられている金属はリチウムであり、私くらいの専門外のエコノミストでもリチウム電池は聞いたことがあります。次がコバルトであり、こういった金属あるいは鉱物資源について、周囲の自然環境や労働条件を考えることなく乱掘されており、環境を破壊するとともに、労働者の健康被害なども着目しています。その上で、典型的な環境破壊・健康被害をもたらしているのが中国企業である点が強調されている気がします。たぶん、その通りなのだろうと思いますが、何分、米国でトランプ政権が成立する前の出版ですので、今後、環境問題を無視する政権下で米国企業も名を連ねる可能性がある点は忘れるべきではありません。最後に、私が期待した内容と違っている点を書きとめておきたいと思います。すなわち、私はトヨタなんぞと同じように、現在の日本では、電気自動車(EV)が輸送部門のカーボン・ニュートラルの決め手になるとは考えていません。なぜなら、EVが走行中に二酸化炭素を排出しないのは明らかであり、製造や廃棄まで含めたライフサイクル・アセスメントでもEVの二酸化炭素排出が小さい点は確認されているのですが、そもそも、EVに充電する電力が化石燃料で発電されていれば、結局、カーボンニュートラルへの貢献が限定的になるからです。資源エネルギー庁のパンフレット「日本のエネルギー」などを見る限り、水力発電を含む再エネ比率がドイツ、英国、スペインなどで40%を超えている一方で、日本の場合、まだその半分の20%そこそこにしか過ぎません。二酸化炭素を発生させない再エネで発電された電力をEVに充電するのでないと、カーボンニュートラルは進みません。発電段階で化石燃料を使って二酸化炭素を排出していたのでは何にもなりません。その意味で、本書の内容は私の期待通りではありませんでした。

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次に、町田章『AI時代になぜ英語を学ぶのか』(文春新書)を読みました。著者は、日本大学法学部教授であり、ご専門は認知言語学だそうです。AIを持ち出す前にも、とっても有能な機械翻訳サービスが始まっており、私自身はそれほど英語については苦労していません。ですので、本書でも指摘しているように、言葉が持つ機能は決してコミュニケーションだけではなく、そのバックグラウンドとなる文化や体験も含めて、人間らしい思考力を身につけるために外国語学習が必要、という結論なのだと思います。その点は同意します。ただし、そういった異文化体験というか、自分の生まれ育った環境以外の経験のために視野を広げるのは、本書では何ら言及ありませんが、読書やズバリ海外生活なんかも大いに役立つわけで、外国語の学習以外にも手段や方法はいっぱいあります。そのうちのひとつ、という理解で私はいいと思います。本種の著者はもっとも有効な手段のひとつ、と考えているかもしれません。加えて、機械翻訳がここまで発達すればOKなのかもしれませんが、母語をしっかり理解するという役目も、私は外国語学習に期待していて、その観点も本書では抜けています。機械翻訳が今ほど発達していなかったころ、英語に翻訳しやすい日本語で考えて表現する、という作業が重要であったのを記憶している人も少なくないものと思います。そういった外国語の表現を頭に入れて母語の表現を考える、というのも有効かと私は考えています。最後に、本書はタイトル通りに「英語」の学習に特化した観点で議論を進めていますが、お示しした観点も含めて、たぶん、英語よりもスペイン語の方が論理的で本書の視点には合致しそうな気がします。例えば、ということでいえば、スペイン語には過去形が2種類あり、一定の継続性を伴う行為を示す線過去と一時的な過去の表現をする点過去です。本書では、英語の現在完了形で have gone to と have been to で苦しい言い訳めいた違いの説明をしていますが、スペイン語であればこういった説明が不要になる可能性がある、と私は考えています。ただ、pax Britanica や pax Americana の時代が長らく続いて、英語が事実上の世界標準言語の地位をしっかり占めている現在では、やっぱり、英語学習が外国語教育の中でももっとも重要になるんだろうということは理解しています。

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次に、レオ・マレ『探偵はパリへ還る』(新潮文庫)を読みました。著者は、フランスの小説家なのですが、第2次世界大戦中に国家反逆罪で収監されドイツの収容所に送られ、フランスに帰還した後、ハードボイルド小説を書き始めています。本書のフランス語の原題は 120, rue de la Gare であり、1943年の出版です。本書は本邦初訳だそうです。主人公はフィアット・リュクス探偵事務所の所長であるネストール・ビュルマであり、私立探偵と考えるべきです。ハードボイルドなミステリなのですが、ホームズに対するワトソン役は見当たりません。ストーリーは場所により2部構成となっていて、リヨン編とパリ編に分かれます。ストーリの冒頭は第2次世界大戦下のドイツで、主人公のビュルマは捕虜として収容所の病院で働いています。その病院で、記憶を喪失し瀕死の状態の男から謎の言葉を告げられます。「エレーヌに伝えてくれ、駅前通り120番地」です。その「駅前通り120番地」がフランス語の原題となっているわけです。ビュルマは収容所から釈放されて、リヨンに着いたところで、探偵事務所の助手のロベール・コロメルが射殺されます。その際に、何と、同じように「所長、駅前通り120番地」という言葉を残して死んで行きます。なお、どうでもいいことながら、文庫本の後ろカバーや出版社の紹介文で、なぜか、この助手が射殺されるのがパリであるかのような言及がなされていますが、ドイツで釈放されてスイスを横断してリヨンに到着した矢先の出来事ですので、パリではあり得ないと思います。さらに、コトを複雑にしているのが、ビュルマの秘書がエレーヌ・シャトランという名で、メッセージを伝えるべき相手と同じファーストネームなものですから、警察は彼女を尾行したりします。そして、ビュルマはパリに帰還し、いろいろと、いかにもハードボイルドな調査を実行して謎を解明し、助手の射殺犯を突き止めます。なにぶん、1943年というドイツに占領されていた当時のパリですので、科学捜査などの時代的な制約とともに、交通の不便さもありますし、まったくドイツや占領軍批判は現れません。底意地の悪いドイツ軍将校に調査の邪魔をされる、といった場面もありません。繰返しになりますが、捜査の進め方はハードボイルドですし、謎解きはとても明快です。今まで邦訳されていなかったのが不思議なくらいです。

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次に、大山誠一郎『死の絆』(文春文庫)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、京都大学ミステリ研究会のご出身です。今まで私はまとまった本としては、この著者の作品を読んだことがありませんでしたので、初読の作家さんといえます。ただ、短編ミステリの名手ですので、どこかのアンソロジーで短編作品を読んでいるのではないかという気がします。本書は、三鷹にある警視庁付属犯罪資料館「赤い博物館」の館長である緋色冴子警視と助手の寺田聡の2人が、すでに時効となった事件などの古い犯罪について、ほぼほぼ勝手に再捜査して真実を突き止める、というシリーズ第3作です。本書以前の『赤い博物館』と『記憶の中の誘拐』についても、本書に先立って読んでいて、シリーズを順番で読書しています。館長の緋色冴子はキャリアの警察官ながら、コミュニケーション能力に問題があって無愛想で、閑職に追いやられています。表情にも乏しいので、本書では時折「雪女」と表現されていたりします。助手の寺田聡は警視庁捜査1課の敏腕刑事だったのですが、捜査資料を現場に置き忘れるという大失態があって、これまた、閑職に追いやられています。シリーズはすべて短編ミステリであり、第1作の『赤い博物館』では、緋色冴子はまったく館外には出かけず、寺田聡に捜査を任せっきりにして安楽椅子探偵の役割を務めています。逆に、第2作の『記憶の中の誘拐』では、緋色冴子は必ず資料館の外部に出かけていって、寺田聡とともに捜査活動をしています。そして、このあたりが作者のシリーズの進め方の上手なところなのですが、この第3作では、とうとう公式・非公式に警視庁捜査1課から再捜査の依頼を受ける事件も出始めています。ただ、30年くらい前の事件もあ含まれていて、関係者の記憶については作者の都合で鮮やかに蘇らせることは可能としても、いわゆる科学捜査の技術的な限界があったりするのは当然です。本書に収録sれているのは6話の短編であり、まず、「30年目の自首」では、時効が成立した殺人事件の真犯人だと男が名乗り出てきます。続いて、「名前のない脅迫者」では、飲酒運転の取締りから逃走した自動車が炎上します。続いて、「3匹の子ヤギ」では、深夜のコンビニに押し入った強盗犯がウォークイン冷蔵庫で自殺してしまいます。続いて、「掘り出された罪」では、社員寮の解体の際にコンクリートからナイフが発見され、昔の殺人事件の再捜査が始まります。続いて、表題作の「死の絆」では、衆議院議員とホームレスが、多摩川沿いの小屋で野球のバットで殴り殺された未解決事件の真相に挑みます。最後に、「春は紺色」は、前日譚であり、警視庁の兵頭英介警視と寺田聡が偶然出会って、兵頭英介と同期の緋色冴子が入庁当初に警察学校に通っていたころの謎解きの思い出を語ります。私は、このシリーズ3作だけでなく、同じ作者の短編集『蜜室蒐集家』も年末年始休みに読みましたが、いずれもとてもレベルの高い短編ミステリです。ただ、なりすまし、というか、入替りがトリックに多用されているように感じました。その点で、好みが分かれるかもしれません。

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2026年1月 9日 (金)

減速を示す2025年12月の米国雇用統計

日本時間の今夜、米国労働省から昨年2025年12月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、11月統計の+56千人増から12月統計では+50千人増と市場予想を下回り、失業率は11月の4.5%から▲0.1%ポイント低下して4.4%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事をやや長めに8パラ引用すると以下の通りです。

Economy added 50,000 jobs in December while unemployment fell slightly
American employers added 50,000 jobs in December, nearly in line with some analysts' expectations and capping off a volatile year for the U.S. job market.
Last year was marked by relatively strong and steady job growth in the first few months of 2025, followed by noticeable cooling starting in May, with multiple months showing net job losses after revisions.
In December, the unemployment rate declined to 4.4%, down from 4.6% in November. November's rate was the highest rate since September 2021.
Payroll gains for October were revised down by 68,000, from -105,000 to -173,000. Payroll gains for November were also revised down by 8,000, indicating the labor market was weaker at the end of 2025 than initially estimated.
Payroll employment rose by 584,000 in 2025, down from an increase of 2 million in 2024.
Which industries are hiring?
Employment in food and drinking places drove payroll gains in December, adding 27,000 jobs. Healthcare continued to grow, adding 21,000, and the social assistance sector added 17,000.
On the other hand, retail trade shed 25,000 jobs in December. Capping a year characterized by mass layoffs, the federal government added 2,000 jobs. Since January, federal government employment is down by 277,000.
Employment was little changed in other major industries in December, including manufacturing, construction, and transportation.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。その上、米国連邦政府のシャットダウンにより、2025年10月の失業率は公表されていません。よ~く見ると、下のパネルの失業率がその部分が欠損値になっているのが見て取れます。

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米国の雇用は非農業部門雇用者の増加については、最新の利用可能な2025年12月データもさることながら、10月の非農業部門雇用者の前月差が前回公表値の▲105千人減から▲173千人減へ▲68千人の下方修正、また、11月統計のデータも+64千人増から+56千人増へ▲8千人下方修正されています。失業率は4%台半ばにあるとはいえ、米国雇用は減速が鮮明になっています。これを総括して、引用した記事の5パラでは、"Payroll employment rose by 584,000 in 2025, down from an increase of 2 million in 2024." と、トランプ大統領が就任してからの雇用の減速を示しています。
米国連邦準備制度理事会は2025年中に175ベーシスの利下げを実行しており、次回1月27-28日の連邦公開市場委員会(FOMC)では追加利下げが決定されるかどうか、私はビミョーだと受け止めています。2025年中の利下げの効果を見極める時間が必要かもしれません。

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CI一致指数が下降した11月の景気動向指数

本日、内閣府から昨年2025年11月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+0.7ポイント上昇の110.5を示した一方で、CI一致指数は▲0.7ポイント下降の115.2を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気一致指数11月は3カ月ぶり悪化、先行は7カ月連続で改善=内閣府
内閣府が9日公表した2025年11月の景気動向指数速報(2020年=100)によると、足元の景気を示す一致指数は前月比0.7ポイント低下の115.2となり、3カ月ぶりに悪化した。一致指数から一定のルールで決まる基調判断は「下げ止まりを示している」で据え置いた。一方、先行指数は同0.7ポイント上昇の110.5と7カ月連続で改善した。
一致指数を大きく下押ししたのは鉱工業生産、卸売販売額、鉱工業生産財出荷など。自動車部品や半導体メモリの減産、ノートパソコン出荷減などが響いた。輸出数量指数や投資財出荷は改善した。輸出は欧米、アジア向けいずれも好調。半導体製造装置の出荷増も寄与した。
先行指数の改善に寄与したのは消費者態度指数や新規求人数、マネーストックなど。新設住宅着工面積は3カ月ぶりに悪化した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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繰返しになりますが、11月統計のCI一致指数は、前月から▲0.7ポイント下降しました。加えて、内閣府のプレスリリースによれば、3か月後方移動平均は2か月連続の上昇で前月から+0.66ポイント上昇した一方で、7か月後方移動平均は前月から▲0.07ポイント下降し、こちらは2か月ぶりの下降となっています。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、5月統計から「下げ止まり」に下方修正されましたが、今月11月統計でも「下げ止まり」に据え置かれています。私はいろいろと紆余曲折を経つつも、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはない、と考えています。ただし、米国経済でも日本経済でもまだまだインフレが高止まりしており、特に、日本ではすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありません。加えて、長期金利が2%近傍となっている中で、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めは景気を下押しすることが明らかであり、引き続き、注視する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、生産指数(鉱工業)の+▲0.46ポイント、次いで、商業販売額(卸売業)(前年同月比)が▲0.42ポイント、鉱工業用生産財出荷指数が▲0.35ポイント、耐久消費財出荷指数が▲0.18ポイント、などが下降の方向でいます。逆に、輸出数量指数が+0.39ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.33ポイント、営業利益(全産業)は+0.11ポイント、などが上昇の方向で寄与しています。ついでに、前月差+0.7ポイントと上昇したCI先行指数の上昇要因も数字を上げておくと、消費者態度指数が+0.71ポイント、新規求人数(除学卒)が+0.40ポイント、マネーストック(M2)(前年同月比)が+0.28ポイントなどとなっています。

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2026年1月 8日 (木)

11か月連続で実質賃金が減少した2025年11月の毎月勤労統計

本日、厚生労働省から昨年2025年11月の毎月勤労統計が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、賃金指数について季節調整していない原系列で見て、名目の現金給与総額は31万202円と前年同月比+0.5%増となったものの、消費者物価上昇率を下回ったため実質賃金は前年同月比で△2.8%減と、11か月連続のマイナスを記録していますまず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから報道を引用すると以下の通りです。

11月実質賃金2.8%減、11カ月連続マイナス 物価に賃上げ追いつかず
厚生労働省が8日発表した2025年11月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で2.8%減った。賃金は伸びているものの物価上昇には届かず、25年1月以来11カ月連続のマイナスとなった。
名目賃金を示す1人あたりの現金給与総額は31万202円と0.5%増えた。基本給にあたる所定内給与は27万41円で2.0%伸びた。25年の春季労使交渉は2年連続で高水準の賃上げにつながった。賃上げの広がりが所定内給与を押し上げたとみられる。
冬季賞与などの「特別に支払われた給与」は1万9293円と17.0%減った。24年11月は24.9%と高い伸びだった。11月は企業による支給時期によって例年ぶれが大きい。
総実労働時間は135.2時間と3.6%減った。就業形態別では一般労働者が3.5%減の161.2時間、パートタイム労働者が2.9%減の78.1時間だった。
実質賃金の計算に使う25年11月の消費者物価指数(持ち家の家賃換算分を除く総合)の上昇率は3.3%だった。10月の3.4%から伸び率は縮んだ。
コメ類の上昇率は37.1%で、10月の40.2%より伸び率が縮まった。24年秋から25年にかけて流行した鳥インフルエンザの影響などにより鶏卵は12.8%上昇した。原材料価格などの上昇によりコーヒー豆は51.6%、チョコレートは26.7%上がった。
厚労省は25年3月分から実質賃金の算出に消費者物価の総合指数を使う新方式を導入した。新方式による11月の実質賃金は2.4%減と、従来方式よりも0.4ポイント高くなっている。

いつもの通り、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、毎月勤労統計のグラフは下の通りです。上のパネルは名目及び実質の賃金上昇率の前年同月比であり、下は景気に敏感な製造業における所定外労働時間指数の推移です。いずれも影をつけた期間は景気後退期です。

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まず、賃金については、11か月連続の前年同月比マイナスというのは、そもそも、現金給与総額が前年同月比でわずかに+0.5%増にとどまったことに起因します。さらに、よりくわしく、変動の大きな部分を除いた「きまって支給する給与」と「所定内給与」を見ると、名目の現金給与指数で見て、ともに+2.0%増だったのですが、「特別に支払われた給与」が▲17.0%減と大きく落ちていることが判ります。ただ、「きまって支給する給与」と「所定内給与」にしても、最近時点での消費者物価指数(CPI)の前年同月比で見たインフレ率が+3%前後ですので、賃金上昇がインフレに追いつかない状況が続いていることになります。すなわち、よくも悪くもボーナス制度が広く普及した日本の賃金システムの中で、現金給与総額の実質の伸びがプラスになったのは直近では昨年2024年12月です。要するに、業績見合いのボーナスが伸びて昨年末に前年比プラスになったわけで、「きまって支給する給与」や「所定内給与」はずっと長く実質マイナスが続いている状況に変わりありません。しかも、直近で統計が利用可能な2025年11月統計はともに名目の伸びで+2.0%ですので、日銀物価目標ギリギリです。すなわち、現在のインフレが一応の収束を見て、日銀物価目標の+2%まで落ち着いたとしても、今くらいの賃上げが続いたとすれば、勤労者の「きまって支給する給与」については実質的に伸びゼロが続くことになりかねません。ですので、足元の物価上昇に見合う賃上げというのは労働者からすれば当然の要求としても、もしも、もしもそれが達成できないとしても、少なくとも+2%程度の賃上げは中小企業も含めて、おしなべて必要である点は理解されなければなりません。日本的な雇用慣行である年功賃金のもとで、ベースアップがなくても定期昇給によって、個別の労働者の昇給は確保されているように見えなくもないのですが、物価上昇に応じて労働者の生活を守るだけでなく、マクロの消費を喚起するために、ベースアップが必要と考えるべきです。ただ、夏季賞与の支給が企業によって6月と7月に分かれるのに対して、年末賞与は12月に集中しており、来月の統計を見る必要があるのはいうまでもありません。なお、製造業の所定害労働時間、いわゆる残業時間についても景気回復局面の後半に入ってジワジワと減少傾向ないし伸び悩んでて、給与総額の伸び悩みに拍車をかけています。

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2026年1月 7日 (水)

トランプ関税はどの国の輸入に重課されているか?

やや旧聞に属するトピックですが、昨年12月15日付けのピーターソン国際経済研究所(PIIE)による Trump's tariff revenue tracker =トランプ関税の追跡 で、どの国に重課されているか、がPIIE CHARTSで取り上げられています。いくつかグラフがあるのですが、そのうち、Figure 2 How much tariff revenue is the US collecting on different countries' goods? は次の通りです。

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グラフ上部の判例の色がキャプチャ出来ていませんでしたので、ダークレッドの中国とパープルの日本だけ矢印を示して補ってあります。ちなみに、重課されておらず、グラフの下をはっている折れ線の2国、明るい緑がメキシコで、ダークグリーンはカナダです。
何だかんだといって、中国がもっとも関税を重課されているのは一目瞭然ですが、実は、日本は2025年8月まで中国に次いでトランプ関税を重課されているわけです。オレンジのEUよりもかなり重課されていると見るべきです。他方で、一時、日本に対するトランプ関税が軽減されたような雰囲気があり、マインド的に上向いた時期がありましたが、最新データが利用可能な昨年2025年9月の時点では、中国とインドネシアに次いで、日本は3番目のトランプ関税重課国となっています。ハードデータに基づく実体経済はトランプ関税で大きなダメージを受けており、今年2026年にはそういった経済指標が明らかになる可能性が高いと私は受け止めています。

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2026年1月 6日 (火)

グローバル化は都市と地方の格差を拡大する

1月3日に、経済政策研究センター(CEPR)の政策ポータルサイトVoxEUに Big cities and globalisation と題するコラムを見かけました。まず、CEPR/VoxEUのサイトからSUMMARYを引用すると次の通りです。

Big cities and globalisation
Globalisation has deepened economic inequalities between large cities and the rest. This column examines foreign trade integration in larger cities versus other regions across Brazil, China, France, and the US. Larger cities have higher 'export intensity' - they export more because they host more exporters, especially superstar firms, and are less sensitive to trade cost changes. Large cities 'win' from international trade, and growing urbanisation fuels globalisation.

今さらながらに、グローバル化はいくつかの分野の格差を拡大するわけです。どうしてかといえば、基本的に規模が大きく生産性が高い、すなわち競争力ある企業や個人がグローバル化の恩恵を受けるわけですから当然です。例えば、メリッツ教授らによる新々貿易理論によれば、すべての企業が輸出をするというわけではなく、産業内で生産性の高い企業が輸出を行い、グローバル化の恩恵をより大きく受けるのは、もともと生産性が高くて、競争優位な企業であって、当然に、グローバル化は格差が拡大する方向に作用します。イノベーションについては諸説ありますが、かつてまだGAFAが創業魔もなかったころには、スタートアップがイノベーションを担うと考えられていたのですが、今ではシュンペーター的に独占度が高くて規模が大きく、いわば「余裕ある」企業がイノベーションを担うと考えるエコノミストが多いのも事実です。このコラムでも、大都市は輸出集約度が高く、スーパースター企業を有しているので、グローバル化の一部である国際貿易から利益を得ている、と結論しています。当然です。
最後に、下のグラフはCEPR/VoxEUのサイトから Figure 1 Export intensity and city size in Brazil, China, France, and the US を引用しています。中国、フランス、米国、ブラジルの例ですが、横軸の都市の規模と縦軸の輸出集約度が正の相関にあることが示されています。日本でも同様なんだろうと考えるべきです。

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2026年1月 5日 (月)

今年2026年の食品値上げやいかに?

昨年2025年12月26日に、帝国データバンクから「食品主要195社価格改定動向調査」の結果が明らかにされています。昨年2025年の食品値上げについて、品目数としては一昨年2024年を大きく上回ったものの、今年2026年については1~4月期で品目数としては前年を下回るものの、値上げが状態化すると見込んでいます。まず、帝国データバンクのサイトからSUMMARYを2点引用すると次のとおりです。

SUMMARY
  • 2025年の飲食料品値上げは、合計2万609品目となった。前年の実績(1万2520品目)を約6割上回り、2023年(3万2396品目)以来、2年ぶりに2万品目を超えた。
  • 2026年の値上げ予定品目数は、4月までの判明分で3593品目を数えた。前年同時期に公表した2025年の値上げ品目見通し(6121品目)を大幅に下回るほか、2022年以降で最も少なかった2024年と同水準で推移することが見込まれる。

まず、帝国データバンクのリポートでは昨年2025年の食品価格の値上げについて、以下のように回顧しています。すなわち、2025年の値上げを月別にみると、4月まで1千品目を超える月が続き、1月(1419品目)は、食パンや菓子パンで約2年ぶりの一斉値上げとなっています。こうした中、3月(2529品目)は2千品目を超え、冷凍食品のほかラーメンなどのチルド麺、バターやチーズなど乳製品で値上げが目立ち、さらに、4月には、2023年10月以来1年半ぶりとなる月間4千品目を超える大規模な値上げラッシュとなり、ドレッシングや味噌などの調味料、ビールや酎ハイなど酒類、コメの価格高騰を受けたパックご飯など、値上げ対象は広範囲に及んでいます。それ以降も断続的に値上げの動きが続き、7月(2105品目)にはカレールーなどの香辛料、10月(3161品目)は半年ぶりの3千品目超えとなり、焼酎や日本酒などアルコール飲料を中心に一斉値上げとなっている、としています。加えて、2025年の値上げ要因は9割超が「原材料高」で占められており、引き続き原材料高の継続的な値上げによって製品価格を引き上げたケースが多く見られ、中でも、チョコレート製品やコーヒー・果汁飲料、パックご飯や米菓などの分野では、いずれも天候不順などを要因とした不作による原材料不足・価格高騰に直面し、短期間で価格が改定された製品もありました。また、「物流費」(78.6%)、「人件費」(50.3%)の割合は集計可能な2023年以降で最高となり、なかでも「人件費」は前年からほぼ倍増と大幅に上昇した、と指摘しています。
さらに、2026年の食品値上げについて帝国データバンクのリポートでは以下のように展望しています。すなわち、2026年1月から4月までに値上げが決定している飲食料品は、冷凍食品のほかコメ製品、マヨネーズなど鶏卵製品、焼酎をはじめとする酒類など幅広い食品分野を対象に3593品目が判明しており、2024年12月時点で判明した翌年(2025年)の値上げ予定品目数が6121品目だったのに対し、2026年の値上げ品目数は約4割減少したことになり、単月あたり4千品目を超える局所的で大規模な値上げラッシュは2026年春にかけて発生しないと見込まれるものの、1千品目前後の値上げは2026年も常態化するとみられる、と指摘しています。
最後に、下のグラフは帝国データバンクのリポートから 2024年以降の飲食料品値上げ推移 と 食品分野別の値上げ品目数 を引用しています。

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2026年1月 4日 (日)

2026年チームスローガン

今年2026年チームスローガンです。

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昨年2025年12月14日の公表のようですから、ずいぶんと長い間見逃していました。

今年もリーグ優勝と日本一奪回を目指して、
がんばれタイガース!

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2026年1月 3日 (土)

正月休み

ゆったり休むお正月

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2026年1月 2日 (金)

かなり古い動画

一昨、阪神タイガースがリーグ優勝、日本一になった年の2023年9月の試合のダイジェスト動画です。ダイジェストといいながら、1時間あまりの長い動画なのですが、優勝を決めたシーンは50分経過時点くらいです。
昨年2025年のリーグ優勝もとてもよかったのですが、間が空いていただけに、また、日本一にもなったことでもあり、2023年の阪神タイガースはとても印象的でした。

今年2026年も連覇と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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2026年1月 1日 (木)

謹賀新年

改めまして
あけましておめでとうございます

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あけて2025年がみなさまにいい年であり、エコノミストの端くれとして、日本経済がさらに上向くことを願っております。

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あけましておめでとうございます

あけましておめでとうございます

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午年のポケモンといえば、ひのうまポケモンのポニータギャロップではないでしょうか。
それでは、おやすみなさい。

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