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2026年3月31日 (火)

ホーム開幕戦で横浜に完勝

  RHE
横  浜000001000 1100
阪  神10001200x 460

【横】 デュプランティエ、坂本、マルセリーノ、橋本 - 山本
【神】 才木、桐敷、ドリス、岩崎 - 坂本

ホーム開幕戦で横浜に完勝でした。
初回に佐藤輝選手のタイムリーで先制しました。阪神の森下外野手なら楽勝で捕っている飛球でしたが、京セラドームの右中間に落ちましった。5回にはノーヒットで加点し、6回に横浜筒香選手のホームランで詰め寄られると、その裏には下位打線で突き放しています。リリーフ投手陣はちょこちょことヒットを打たれましたがゼロに抑え切りました。デュプランティエ投手は阪神だったから勝ち星を上げられた可能性が示唆されたと私は受け止めています。

明日も、
がんばれタイガース!

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本日公表の鉱工業生産指数(IIP)と商業販売統計と雇用統計はすべて過去の数字

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも2月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲2.1%の減産、3か月ぶりの減産となります。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額も、季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲0.2%減の12兆1550億円を示し、季節調整済み指数も前月から▲2.0%の低下となっています。雇用統計については、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.6%、有効求人倍率も前月から+0.01ポイント上昇して1.19倍と、それぞれ雇用は改善しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産2月は2.1%低下、3カ月ぶりマイナス 中東の影響不透明
経済産業省が31日公表した2月の鉱工業生産指数速報(2020年=100)は、前月比2.1%低下し3カ月ぶりのマイナスとなった。1月の自動車生産が、統計処理上の理由で上振れたのが主な要因。基調判断は「一進一退」で据え置いた。中東情勢の緊迫化による生産計画への影響は現時点で不透明という。
企業の生産計画に基づく予測指数は3月が前月比3.8%上昇、4月が同3.3%上昇だった。
調査時期は3月上旬のため、中東情勢がどの程度織り込まれているか「幅をもってみる必要があり」、ナフサ減産可能性の影響などは「予断をもって判断できない」と経産省はみている。
2月の生産を押し下げたのは自動車や金属製品、電子部品・デバイスなど。
自動車は1月実績が上振れた分、2月は前月比3.6%の減産で指数全体を0.49%ポイントを押し下げた。
その他、減産が目立ったのは産業用アルミニウム製品(同39.4%減)、大型液晶パネル(25.6%減)など。小型液晶パネルも18.7%の減産だが「理由は不明」(経産省)という。
一方、増産となった鉄鋼・非鉄は前月比2.3%増、化学工業は1.3%増だった。
小売販売2月は0.2%減、2カ月ぶりマイナス ガソリン値下げで
経済産業省が31日公表した2月の商業動態統計速報によると、小売販売額は前年比0.2%減少し、2カ月ぶりのマイナスとなった。食品などの値上げをガソリン価格の低下が相殺した格好だ。
業種別では、ガソリン暫定税率廃止の影響で燃料が前年比14.1%減となったほか、無店舗小売が4.2%減、織物・衣服も3.1%減少した。冬物衣料の不振が響いた。
一方、自動車は軽自動車販売の好調で前年比3.8%増だった。飲食料品は同0.8%増、ドラッグストアの食品販売を含む医薬品・化粧品も3.7%増だった。
業態別ではドラッグストアの販売額が前年比5.6%増。菓子類やコーヒーなど食品販売が好調だった。コンビニも同2.2%増。チキン新商品やコーヒー値上げなどが押し上げた。百貨店は同1.6%増。中国人客が減少する一方、他の国・地域からの旅行客販売は堅調という。
2月の完全失業率は2.6%に改善、自発的離職が減少 有効求人倍率1.19倍に上昇
政府が31日に発表した2月の雇用関連指標は、完全失業率が2.6%で、前月から0.1ポイント改善した。「自発的な離職(自己都合)」などが減少したことが主因。改善は7カ月ぶり。一方、有効求人倍率(季節調整値)は1.19倍で、前月に比べて0.01ポイント上昇した。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.7%、有効求人倍率は1.18倍が見込まれていた。
総務省によると、2月の就業者数は季節調整値で6827万人と、前月に比べて10万人増加。完全失業者数(同)は185万人で、前月から6万人減少した。総務省の担当者は「より良い条件を求めていったん離職した人たちが就職したとみられる。供給側からみると雇用情勢は悪くない」と述べた。
厚生労働省によると、2月の有効求人数(季節調整値)は前月に比べて0.2%減少した。産業別では「卸売業、小売業」や「宿泊業、飲食サービス業」、「医療、福祉」などの減少が大きい。
有効求職者数(同)は0.5%減少した。物価高を背景により良い条件への転職を希望する動きや、生活費を補う目的で求職活動を始める高齢者がみられるという。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たりに企業から何件の求人があるかを示す。厚労省の担当者は「引き続き求人が求職を上回っており、景気が悪化して求人が減ってきているとはみていない」と述べた。

複数の統計をまとめて取り上げましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲2.0%の減産が予想されていましたので、実績の▲2.1%の減産はほぼ予想通りといえます。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。一昨年2024年7月から1年半ほど連続の据置きです。先行きについては記事にもある通り、製造工業生産予測指数を見ると、足下の3月は+3.8%の増産で、翌4月も+3.3%の増産となっています。ただし、引用した記事の3パラめにあるように米国とイスラエルによるイラン攻撃に端を発する中東情勢の混乱から先行きはまったく不透明としかいいようがありません。引用した記事の4パラめにも、「2月の生産を押し下げたのは自動車や金属製品、電子部品・デバイスなど」とありますが、経済産業省の解説サイトによれば、2月統計における生産は、減産方向に寄与したのは小型トラックや自動車用エンジンなどの自動車工業が前月比▲3.6%減、寄与度▲0.49%、逆に、増産方向に寄与したのは、通信用ケーブル光ファイバ製品や電気銅などの鉄鋼・非鉄金属工業が前月比+2.3%増で+0.13%の寄与度、などとなっています。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、2023年年央あたりで前年同月比の伸び率が+5%から+6%台でピークを付けた後、前年同月比はプラスであるもののプラス幅が縮小し、2月統計では▲0.2%減を記録しています。季節調整済み指数の前月比も、2月には▲2.0%減を記録しています。ただし、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断して、本日公表の2月統計までの3か月後方移動平均の前月比が0.0%の横ばいであることから、先月までの「一進一退」で据え置いています。また、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、2月統計ではヘッドライン上昇率は+1.3%、生鮮食品を除く総合のコアCPI上昇率は+1.6%となっていますので、名目で計測した商業販売統計の2月統計は実質消費がプラスかマイナスかは微妙なところであると私は考えています。

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの統計であり影を付けた部分は景気後退期を示しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、失業率が2.7%有効求人倍率は1.18倍が予想されていました。本日公表された実績で、失業率2.6%、有効求人倍率1.19倍はともに、市場の事前コンセンサスより上振れしました。ですので、雇用情勢は引き続き悪くなく、雇用は底堅いと私は考えています。引用した記事にもあるように、よりよい就業条件を求めていったん離職した労働者が年度末を前に就職したと考えられます。実質所得を増加させるには不十分とはいえ、春闘から続く賃上げによって就業意欲が高まる、という形で、賃金上昇に伴って労働市場への参入が増加し、就業者や雇用者も増加していて、その相対的な増え方の差で失業率が低下あるいは上昇している、と考えるのが伝統的な経済学の見方であろうと思います。例えば、季節調整していない原系列の統計で見て、2月統計では就業者が+11万人増加している一方で、完全失業者も+15万人増加しています。

ただし、一応、例月の通りに統計をレビューしたとはいえ、これらの2月統計はあくまで「過去の数字」です。米国とイスラエルによるイラン攻撃から先行きはまったく不透明です。下のグラフは国際通貨基金による 昨日3月30日付けのIMF Blog "How the War in the Middle East Is Affecting Energy, Trade, and Finance" から引用しています。誰がどう見ても、ホルムズ海峡を通過するタンカーが激減していることは明らかです。繰返しになりますが、先行きはまったく不透明です。

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2026年3月30日 (月)

3月調査の日銀短観は横ばい圏内の予想ながら先行きは大きく悪化の可能性

明後日4月1日の公表を控えて、各シンクタンクから3月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業/非製造業の業況判断DIと全規模全産業の設備投資計画を取りまとめると下のテーブルの通りです。設備投資計画は今年度2025年度です。ただ、全規模全産業の設備投資計画の予想を出していないシンクタンクについては、適宜代替の予想を取っています。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、可能な範囲で、先行き経済動向に注目しました。短観では先行きの業況判断なども調査していますが、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
12月調査 (最近)+15
+34
<n.a.>
n.a.
日本総研+17
+35
<+1.5%>
先行きは、全規模・全産業で3月調査から▲4%ポイントの低下を予想。中東情勢の緊迫化が背景。原油価格の高騰は、製造業を中心とする幅広い業種に対するコスト高圧力に。回答期間中(例年2月末~3月末)に原油高の影響を業況判断に反映し切れないと考えられるが、事態の長期化懸念が先行きの業況見通しを悪化させると予想。
大和総研+18
+33
<+0.3%>
3月日銀短観では、大企業製造業の業況判断DI(先行き)は+15%pt(最近からの変化幅: ▲3%pt)、 同非製造業は+31%pt(同: ▲2%pt)を予想する。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+16
+34
<+1.2%>
先行きの業況判断DIは、製造業・非製造業ともに企業規模を問わず悪化が見込まれる。
ニッセイ基礎研+16
+34
<+0.4%>
先行きの景況感は総じて悪化が示されると予想。製造業では、関税の不透明感やイラン情勢緊迫化に対する警戒感が圧迫要因になる。非製造業では、人手不足への懸念のほか、原材料費増加やインバウンド需要減少への警戒が台頭し、景況感の悪化として現れる。
第一生命経済研+16
+34
<大企業製造業+6.2%>
日本への原油輸入が途絶すれば、企業業績には深刻な打撃が及ぶのだろうが、今のところ政府の対応がそうした最悪のイメージを想起させずに済んでいる。一方、企業の先行きDIには、強い警戒感が映し出されて、現状判断よりもDIが下がる見通しになると予想される。日銀も現状の業況判断DIだけではなく、先行きも重視するだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+17
+34
<大企業全産業+3.4%>
(大企業製造業) 先行きは、インバウンド需要の下押し継続や原油価格高騰によるインフレの再加速などへの警戒感から、業況判断DI(先行き)は5ポイント悪化の29と慎重な見通しになるだろう。
(大企業非製造業) 先行きは、インバウンド需要の下押し継続や原油価格高騰によるインフレの再加速などへの警戒感から、業況判断DI(先行き)は5ポイント悪化の29と慎重な見通しになるだろう。
明治安田総研+18
+34
<+1.1%>
先行きDI(6月予測)に関しては、大企業・製造業は6ポイント悪化の+12、中小企業・製造業も7ポイント悪化の▲2と予想する。2月20日の米連邦最高裁による相互関税に対する違憲判決を機に、米国の関税政策は先行きの不透明さを増している。加えて、緊迫化する中東情勢による原油価格上昇が続けば、より広範な業種において影響が顕在化すると見込まれ、業況判断に悪影響を与えるとみる。
先行きDIについては、大企業・非製造業は3月から4ポイント悪化の30、中小企業・非製造業は4ポイント悪化の12と予想する。中東情勢に起因する原油価格上昇が続けば消費者物価の上昇を招き、個人消費を落ち込ませることとなる。こうした先行きの不確実性が高まっていることもあり、業況判断としてはマイナスになるものと予想する。
農林中金総研+8
+28
<0.5%>
先行きについては、トランプ関税など米国の関税政策もさることながら、イラン情勢を巡る不確実性が懸念を高めていると思われる。足元では物価鈍化によって実質賃金が前年比プラスに転じたことで消費回復への期待が強まった面もあるが、ガソリン急騰やエネルギー不足への警戒などがそれを打ち消した可能性がある。また、人件費増が業績圧迫につながることへの警戒感、人手不足が深刻な業種では業務を順調にこなせないことへの不安も根強いとみられる。以上から、製造業では大企業が5、中小企業が▲3 と、今回予測からそれぞれ▲3ポイント、▲2ポイントと予想する。非製造業では大企業が25、中小企業が6と、今回予測からそれぞれ▲3ポイント、▲2ポイントと予想する。

はい、一応、従来からのスケジュールに沿って、シンクタンクによる3月調査の日銀短観予想を取りまとめてみましたが、ハッキリいって、過去の数字であり、先行きに関しては、何の示唆を得ることもできない、と私は諦めています。すなわち、日銀のサイトにある記入要領などによれば、「2026年3月短観の調査表発送日は2月26日、回収基準日は3月12日です。」とアナウンスされています。したがって、米国とイスラエルによるイラン攻撃開始の2月28日に先立って提出してしまった企業も少なくないものと私は想像しています。ですので、景況判断DIや設備投資計画などについては、少なくとも先行きについては参考にすべきではありません。この日銀短観をもって金融引締めに傾くのはもっての外だと私は考えています。

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2026年3月29日 (日)

終盤一気の大量点で開幕カード勝越し

  RHE
阪  神023000034 12130
読  売102020100 6120

【神】伊藤将、早川、湯浅、ドリス、モレッタ、岩崎 - 伏見、坂本
【読】山城、赤星、泉、ルシアーノ、北浦、船迫、中川、石川 - 岸田

終盤の大量得点で乱戦を制して、開幕カード勝越しを決めました。
途中まではシーソーゲームでしたが、8回と9回に合わせて7得点でジャイアンツを一気に突き放しました。ジャイアンツは大勢投手とマルチネス投手を欠くわけですので、新加入のモレッタ投手はやや不安定だったとはいえ、リリーフ投手の差があるのは当然といえます。

次の横浜戦も、
がんばれタイガース!

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インテージ調査によるお花見の市場規模は前年から大幅ダウン

そろそろサクラも満開に近づいていて、もうすでにお花見は終えた向きも少なくないものと思いますが、ネット調査大手のインテージから「2026年の花見 市場規模は前年2割減の2,341億円」と題する調査結果が明らかにされています。まず、インテージのサイトから[ポイント]を4点引用すると次の通りです。

[ポイント]
  • 2026年の花見予定率は38.0%で、昨年から2.1ポイント減少。前年比94.8%となった
  • 平均予算は6,383円で、前年比86.2%大幅減少。市場規模は2,341億円で前年比81.5%
  • 行き先は、昼・近場のスポットが71.1%、昼・近場の名所が42.7%など近場中心。日帰り旅行・ドライブは減少傾向
  • 「ソロ(ひとり)花見」定着・拡大傾向。昼の桜の名所訪問が前年比1.5倍など、自分のペースで楽しむ動きが広がる

続いて、インテージのサイトから 2026年の花見予定率 と 平均予算 のグラフを引用すると次の通りです。

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グラフから明らかな通り、そもそも、お花見を予定している人の割合が▲2%ポイントも低下し、加えて、花見のご予算も▲1,000円超のダウンですから、花見市場規模は2,341億円、前年比▲18.5%と大幅に縮小するとインテージでは見込んでいます。旅行や外食を控え、日常圏内で楽しむスタイルがお花見という消費行動にも表れた形である、との分析結果が示されています。加えて、その昔の会社や町内会を上げての大規模なお花見ではなく、「近場でひとり」のソロ(ひとり)花見も広がっているようです。中でも、夜の近場スポットでは12.0%(前年比1.3倍)と、3年間でもっとも高い値となっていることが報告されています。

私自身は、スギやヒノキに限らず、サクラにせよ、何にせよ、花が咲いて花粉を飛ばしているところには、それほど大きな魅力を感じないのですが、はてさて今年のお花見やいかに?

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2026年3月28日 (土)

今週の読書は小説中心に計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、岩崎正洋[編}『SGDsは実現できるのか』(勁草書房)は、日本大学法学部の共同研究の成果を取りまとめたものですが、前半第2章から第4章くらいまでのジェンダー平等に関する分析はいいとしても、第7章とかSDGsにはほぼほぼ無関係に近いものもあり、それほど意識が高くない印象を持ちました。小川哲『火星の女王』(早川書房)は、昨年2025年にNHKでドラマ化された火星を舞台とするSF小説です。地球外知的生命の探求活動から得られた鉱物の新たな性質が発見され、火星で地球からの独立運動に発展するという社会全体の大きな動きの中でさまざまなヒューマンドラマが展開されます。池井戸潤『BT'63』(ハーパーコリンズ・ジャパン)では、主人公の大間木琢磨が21世紀初頭から40年前、東京オリンピック前夜の1963年にタイムスリップするような形で、父親である大間木史郎の視点から現実の過去を見てしまいます。その中で、ボンネット・トラックの運転手が相次いで無惨な死を遂げます。久野愛『感覚史入門』(平凡社新書)では、冒頭で感覚史、近代的なモダンという新たな感覚の誕生、感覚を科学し、さらに、感覚をマーケティングに活かして、商品の売込みに使い始めた歴史、などを振り返り、資本主義の歴史を感覚により後づけようと試みています。藤崎翔『冥土レンタルサービス』(祥伝社文庫)は、死後の冥土で生前に積んだ徳に応じたポイントにより生物をレンタルし、死後ながら生前の世界に舞い戻って、場合によっては、死者がレンタルした生物から関係者の動向に影響を及ぼしたりします。実に緻密な構成です。
今年2026年の新刊書読書は、1~2月に合わせて49冊、3月に入ってから先週までの19冊に、今週の5冊を加えて合計73冊となります。なお、和泉桂『奈良監獄から脱獄せよ』(幻冬舎)も読んでいるのですが、新刊書ではないので本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のtwitter)、あるいは、mixi、mixi2などのSNSでシェアしたいと予定しています。

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まず、岩崎正洋[編}『SGDsは実現できるのか』(勁草書房)を読みました。編者は、日本大学法学部教授であり、各チャプターの著者も日本大学法学部の教員が多くなっています。なぜかというと、日本大学法学部に付属されている5研究所の共同研究としてSDGsをテーマとすることになリ、その成果を取りまとめたからだそうです。ですので、それほど統一感はあありませんし、中にはSDGsとはそれほど関係のありそうもないチャプターも含まれていたりします。第1章のタイトルでは法律学からSDGを捉える、としていたり、あとがきでは政治学はSDGsに学問的貢献をしていない、といった記述があったりします。また、第7章なんて、ほとんどSDGsとは関係が見受けられず、編者からチャプター著者に執筆要求の無茶振りがあったのか、チャプター著者が編者に無理に自分の論文をねじ込んだのか、不明ながら、統一感のない構成となっています。取りあえず、本書前半第2章から第4章で焦点を当てているようなジェンダー格差の問題が法律学や政治学からの学問的貢献が大いに期待できる分野だと、私も考えます。ただ、繰返しになりますが、本書第7章の文学的な視点からのものも含めて、SDGsはきわめて幅広い経済社会生活分野に関連していますので、「何でもあり」なのかもしれません。経済学や経営学に引きつけて考えると、本書第5章では企業のCSR活動やESG投資を取り上げ、ISO26000とも関係づけた分析が展開されているチャプターが注目です。私自身はきわめて素朴に、ESG投資とは企業と投資家の関係を律しており、CSR活動は企業とステークホルダーの関係を考え、SDGsは最大限幅広く企業と社会全体との関係について、あるいは、地球のサステイナビリティへの企業の貢献を考えるもので、ESGとCSRは必ずしも交わりませんが、SDGsはESGとCSRの両方を包含する、と考えています。こういった企業活動とSDGsの学問的関係はどうもこのチャプターでは抜けているように感じました。また、冒頭第1章で、SDGsの前の国連目標であるMDGsについて、国連ミレニアム・サミットが2009年(p.19)としていて、明らかに、2000年9月の誤植なのですが、いかにもSDGsやMDGsに関する研究の不足、というか、本書は決してSDGsウォッシュではないものの、どうも意識が高くない印象を持ちました。ものすごく我田引水ながら、工学的な分野は別にして、やっぱり、SDGsについては経済学や経営学の分析がオススメのような気がします。

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次に、小川哲『火星の女王』(早川書房)を読みました。著者は、ミステリ作家、エンタメ小説作家なのですが、広く知られたように『地図と拳』により第168回直木賞を受賞しています。私は『地図と拳』やアンソロジーに収録された短編やショートショートのほかに、『君のクイズ』も読みました。本書はタイトルから直感的に理解できるように、火星を舞台にしたSF小説です。加えて、というか、何というか、昨年2025年にNHKでドラマ化されています。原作小説をベストセラーにしてしまう映像化の威力は、吉田修一『国宝』でまざまざと見せつけられたところです。タイトルに関して2点だけ、まず、女王とはいってもエドガー・ライス・バロウズの大昔の『火星のプリンセス』のように、火星に君主国家があるわけではありません。次に、英語のタイトルの Mars に定冠詞をつけるべきではないか、と私は思ったのですが、『火星のプリンセス』にも定冠詞なしの Mars が使われていて、何となく納得してしまいました。さて、本書に戻ると、舞台は火星で地球からの植民が始まって40年が経過し、レアメタルなどの採算性がよくなくて、そろそろ火星から撤退の話も出ています。物語の主人公、というか、何人かが視点を提供しますが、主要には2人で、地球外知的生命の探求のため火星にやってきた生物学者のリキ・カワナベと地球に観光に行く希望を持っている火星生まれの学生リリ-E1102です。ほかに、惑星間宇宙開発機関(ISDA)、火星の自治警察、ホエール社などの組織があって、それに所属している人物も視点を提供します。ISDA種子島支部の職員である白石アオトと火星自治警察の女性捜査員であるマル-G4131です。まず、カワナベは生命体ではないハズレの鉱物であるスピラミンという物質の結晶構造がシンクロして変化することを発見します。これが、いろんなことに応用できて、武器にもなるらしいのですが、そのあたりの科学的な解説は私には十分には理解できませんでした。リリは光を失って盲目なのですが、地球に観光に行く希望を持っており、それに必要な地球重力適応証(CEGA)を得るために遠心型人工重力施設に通っています。スピラミンを使って火星の地球からの独立を目指す運動が始まったり、その余波を受けてリリが誘拐されたり、いろいろと事件が起こります。火星の女王に擬されるのはリリなのですが、そのあたりの詳細は、結末とともに読んでみてのお楽しみです。SFであることは間違いないのですが、技術的な観点ではなくヒューマンドラマの要素が強い小説です。だからこそ、NHKがドラマにしたんだろうと、視聴していない私も感じました。ついでながら、原作小説を読み始める前にNHKのサイトにある人物相関図を見ておけば、ひょっとしたら、理解が早い可能性があります。

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次に、池井戸潤『BT'63』(ハーパーコリンズ・ジャパン)を読みました。著者は、もちろん、小説家であり、日本でも有数の売れている小説家といえます。『下町ロケット』で第145回直木賞を受賞しています。この作品は、2003年に朝日新聞社から単行本として出版された後、2006年に講談社文庫として上下分冊で刊行され、昨年2025年3月に文庫本を底本としてハーパーコリンズ・ジャパンから最び単行本化されています。ですので、主人公の大間木琢磨が21世紀初頭から40年前、東京オリンピック前夜の1963年にタイムスリップするような形で、父親である大間木史郎の視点から現実の過去を見てしまいます。表紙画像からも判る通り、当時のトラックはノーズの突き出たボンネット型であり「BT」とはボンネット・トラックの頭文字です。大間木琢磨は30代半ばで、神経だか、脳だかの病気で入院していましたが、退院しています。ただ、入院に前後して妻とは離婚し、会社は辞職しています。そして、なぜか、5年前に亡くなった父親の大間木史郎が40年前の1963年の東京で経験したことが夢として見えるようになります。繰返しになりますが、タイムスリップに近い印象を私は持ちました。小説の大部分は大間木史郎が東京の大田区の運送会社の経理や人事担当の総務課長として実際に経験したことです。オリンピック景気が終了し不況期に入り、大間木史郎が勤務する相馬運送も業績が悪化します。トラック運転手の従業員4人、それもみんなBT21、すなわち、ボンネット・トラック21号と呼称されるトラックの運転手が相次いで無惨な死を遂げます。父親の大間木史郎が残したイグニッションキーがそのBT21のものでした。それを現在21世紀初頭の大間木琢磨がそれらの死の謎を解明しようと試みます。この作者らしく、そのうちの重要な関係者の1人が銀行員です。当時の相馬運送に融資していた三つ葉銀行羽田支店の融資担当の桜庭厚がキーマンの1人となって、40年前の彼の記憶から主人公の大間木琢磨が事実関係の解明に挑みます。父親の大間木史郎が結婚前に相馬運送の経理補助として雇った薄幸の女性、トラック運転手が関わった闇の仕事、傾き始めた相馬運送の新規事業への大間木史郎の奮闘と挫折、などなど、単行本で650ページを超える力作であり、この作者のかなり初期の作品です。私自身はこの作者のデビュー作である『果つる底なき』は読んでいませんが、私がこれまでに読んだ中でもっとも古い、というか、初期の作品は、たぶん、『空飛ぶタイヤ』でしたが、そのさらに2-3年前の作品です。当然に、『鉄の骨』や半沢直樹シリーズ、『下町ロケット』などでブレークする前の作品です。かなりファンタジックな要素があるものの、その後の作品を彷彿とさせる硬派な面も見えます。この作家のファンであれば、読んでおいて損はないと思います。

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次に、久野愛『感覚史入門』(平凡社新書)を読みました。著者は、東京大学大学院情報学環准教授であり、ご専門は感覚史、技術史、経営史だそうです。要するに、感覚機能の方がご専門ではなく、基本は、歴史学者=ヒストリアンのようです。私はプラスチックごみの問題などにも関連して、表紙画像の副題に見られる「なぜプラスチックを「清潔」に感じるのか」に引かれて読んでみましたが、それほどプラスチックの話題は取り上げられておらず空振りに終った印象です。本書では、冒頭で感覚史、近代的なモダンという新たな感覚の誕生、感覚を科学し、さらに、その感覚をマーケティングに活かして、商品の売込みに使い始めた歴史、などを振り返ります。そして、それらに連続して、感覚をデザインして商品として提供する動き、すなわち、副題に少し関係する部分で、ガラス、セロハン、プラスチックといった素材により衛生感が変化し、科学的な知識や技術の進歩とともに、資本主義の下でいかにマーケティングに活用されたか、などについて解説しています。さらに、歴史を振り返るだけではなく、現在の動向から将来の方向について、素材などのモノだけではなく、コト、という用語は本書では用いていませんが、体験の感覚、ニューヨークのコニーアイランドなどから始まった遊園地、今でいうテーマパークにも着目し、さらに将来の方向も含めてヴァーチャルな体験が新たな感覚を作り出すのか、あるいは、どう変化させるのか、について考えています。最終章では感覚の政治的な面を取り上げ、典型的には差別の問題、ジェンダーや人種や宗教などといった感覚的な印象が差別につながりかねない点を強調しています。もちろん、詳細は読んでみてのお楽しみです。最後に、本書は、繰返しになりますが、清潔感や衛生感ではなく、ほぼほぼ資本主義の歴史を感覚により後づけています。それはそれで、副題とは独立に、とても興味深い観点であろうと私は受け止めました。ただ、そもそもの私の興味であった副題の問いに対する回答はそれほど明確ではありませんでした。

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次に、藤崎翔『冥土レンタルサービス』(祥伝社文庫)を読みました。著者は、もう芸人さんではなく、著名な、というか、何というか、エンタメ小説家といえます。そのうちに直木賞を受賞する可能性が十分あると私は想像しています。本書も、コミカルかつシリアスなエンタメ小説であり、長編ではないとしても、緩やかに関連した連作短編集といえます。9章から成り、人間8人と猫1匹の死後の世界について冥土レンタルサービス利用の視点から構成しています。タイトルの冥土レンタルサービストとは、初めの方のいくつかの短編に詳しく説明があるのですが、一応、人間と仮定して、死亡した直後、正確には49日間の間に、死後の世界、すなわち冥土でレンタル生物を借りて生前の世界のゆかりのある人の近くに一時的に生まれ変わり、死後の世界を見て来たりすることができる、というサービスです。通常は80代や90代の高齢者が死ぬというケースが多いのでしょうが、まあ、それでは小説として深みに欠けますので、50代や60代の場合もありますし、もっと若い死者もあります。ただ、生前に積んだ徳に従ったポイントが死後に付与されており、そのポイントを使って生物をレンタルする、というシステムであり、虫、特にゴキブリや蝿や蚊といった害虫はそれほど必要なポイントが多くない一方で、虫の中でも蝶などはより多くのポイントを必要とし、さらに、爬虫類や鳥類になるともっと多く、哺乳類、哺乳類の中でも人間にペットとして飼われているような犬や猫はさらに多くのポイントを必要とします。そして、生前の世界を見た後は天国に行く、ということになるらしいですが、もちろん、死者全員が天国に行けるわけではなく、冥土に来ることなく地獄に落ちる人もいるようです。ということで、特殊かつあり得ないファンタジックなサービスですので説明が長くなりましたが、このサービスを使って、あの世から自分の死後のこの世に舞い戻ってくるお話です。警官として世間から一定の尊敬を集めていた人物の実像を明らかにする、といったこの著者の初期の作品である『神様の裏の顔』的なコミカルな短編もあれば、涙を誘わずにはいられない実にシリアスで感動的なお話まで、この作者らしい綿密な構成です。その綿密さは、死者がQRコードになるか、バーコードになるかで死んだ時点を暗示的に示す、という細かな芸当まであったりします。繰返しになりますが、私は、高市総理大臣のように某国の某大統領をノーベル平和賞に推薦するよりは、この作者を直木賞に推薦する方が、よっぽど世のため人のためになると考えます。この作者の作品は、私の場合、『オリエンド鈍行殺人事件』と『お梅は魔法少女ごと呪いたい』を図書館の予約で順番を待っているところです。実に楽しみです。

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2026年3月27日 (金)

ルーキーに抑え込まれて開幕戦を落とす

  RHE
阪  神000100000 140
読  売20010000x 360

【神】村上、桐敷、湯浅 - 坂本
【読】竹丸、船迫、北浦、田中瑛 - 岸田

ルーキー投手に抑え込まれて開幕戦を落としました。
まあ、初物にはどのチームも弱いものですから仕方ない面もあります。わずかに4安打、それも森下選手だけが3安打ですから、ほかの選手はほぼほぼ手も足も出なかったわけです。開幕投手を務めた村上投手も、初回から被弾して6回3失点ですから、本来の出来ではありませんでした。

明日は、
がんばれタイガース!

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公平な炭素排出の国別残余量=Carbon Budgetはどれくらいか?

温暖化を+1.5℃で抑え、気候変動を緩和するため、残された炭素排出可能量を公平に国別に割り振るとどうなるか、について全米経済研究所(NBER)から "Climate Fairness and Growth: Allocating the Remaining Carbon Budget" と題するワーキングペーパーが明らかにされています。まず、論文の引用情報は次の通りです。

続いて、NBERのサイトから論文のABSTRACTを引用すると次の通りです。

ABSTRACT
Limiting global warming to 1.5 degrees requires that cumulative carbon dioxide emissions remain within a finite remaining carbon budget. How this budget is allocated across countries raises questions of fairness and development. This paper evaluates whether equity-based carbon allocations are compatible with sustained economic growth in emerging and developing economies. We compute country-level fair shares of the remaining carbon budget under the equal-cumulative-per-capita (ECPC) principle. Using data for 162 countries between 1950 and 2023, we then estimate the historical relationship between income and per-capita CO2 emissions across income groups and use these elasticities to simulate cumulative emissions until 2050. Our results show that ECPC implies strongly negative remaining carbon budgets for most advanced economies, while lower-income countries retain positive but constrained allocations. Under historically observed income-emissions elasticities, many developing countries would exceed their fair shares when converging toward advanced-economy income levels. At the aggregate level, unused allocations offset only 17% of the combined carbon budget shortfall implied by countries exceeding their allocation and the negative fair shares arising from historical responsibilities. In a scenario in which we assume that the technology of advanced economies is transferred to all countries, the carbon budget coverage increases to 38%.

Carbon Budget=炭素予算とは、この場合、地球温暖化を一定の目標レベルである1.5℃以内に抑えるために、人類が今後排出できる温室効果ガスの「累積排出量の上限」のことです。この論文では、"equal-cumulative-per-capita (ECPC)" に基づいて推計しています。その結果が、論文 p.21 Figure 1. Fair Shares of the Remaining Carbon Budget であり、次の通りです。

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画像下のNoteにある通り、繰返しになりますが、2023-50年の基幹に残された炭素予算をECPCに基づいて推計しています。西欧、北米、オーストラリアに日本と、先進国はほぼほぼ炭素予算を使い果たしています。先進国ではないのですが、サウジアラビアも先進国並みに炭素予算はありません。これも明記されているように、1850-2022年までの歴史的な炭素排出は年率2%で現在価値に割り引かれていても、この結果が得られています。他方、新興国や途上国ではインドをはじめ、中国やブラジルなどでもまだ炭素輩出の余地があることが明らかにされています。経済学ではもう終わったことは埋没原価=サンクコストとして先行きの目標にはカウントしない、という原則があるのですが、新興国や途上国が現在までの歴史的な炭素排出も考慮すべき、という主張をする一定の根拠もありそうな気がします。

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2026年3月26日 (木)

まだ石油価格の影響が織り込まれていない2月の企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、日銀から2月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月1月からわずかに加速して+2.7%を記録しています。変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIの上昇率も同じくやや加速して+2.7%の上昇となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、2月は前年比2.7%上昇 宿泊・外航貨物輸送など寄与
日銀が26日に公表した2月の企業向けサービス価格指数速報は、前年比2.7%上昇した。「宿泊サービス」や「外航航貨物輸送」などが押し上げに寄与し、伸び率が前月から0.1%ポイント拡大した。前月比は0.2%上昇だった。
「宿泊サービス」は前年比8.5%上昇し、伸びが前月の4.5%から加速した。中国人観光客の減少傾向は続いているものの、旧正月にともなうアジア各国の長期休暇シーズンが2月にずれ込んだことを受けてインバウンド需要が強まった。
「外航貨物物輸送」は前年比9.7%上昇し、伸び率が前月の1.4%から拡大した。このうち「外航タンカー」では、中東における地政学リスクの高まりで船舶確保を前倒す動きがみられた。
米国とイスラエルがイラン攻撃を開始したのは2月28日で、その後の事象は2月の数字には織り込まれていない。原油をはじめとする各種市況が上昇した影響は3月以降に反映される。
調査対象146品目のうち、上昇は116品目、下落は13品目。日銀の担当者は、中東情勢悪化の影響を含めた海運市況や国際商品市況の動向、各種コストの上昇分を価格転嫁する動きの持続性などを注視していくとしている。
生産額に占める人件費投入比率の違いで分類した指数では「高人件費率サービス」が前年比2.9%上昇と、伸び率は前月から0.2%ポイント下落した。約2年ぶりに3%を割り込んだが、小幅の減速にとどまっており、日銀は「基調の変化を示すものではない」と判断している。
一方、「低人件費率サービス」は同2.4%上昇で、​前月の同2.0%上昇から加速した。「宿泊サービス」や「外航貨物輸送」、「テ​レビ・ラジオ広告」などがそれぞれ押し上げに寄与した。

注目の物価指標だけに、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、1年ほど前の2025年2-3月には前年同月比で+4.3%の上昇を示していましたが、2025年6月に+3%を下回って+2.8%となった後、もっとも最近のデータが利用可能な今年2026年2月統計で+2.0%となるまで、緩やかに減速を続けています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)も、昨年2025年9月に+3.1%と直近のピークをつけた後、昨年2025年12月、今年2026年1月ともに+2.6%まで上昇率が縮小してきており、直近でデータが利用可能な2月統計でも+2.7%となっています。企業物価指数のうちの国内物価は、日銀物価目標の+2%まで減速しましたが、企業向けサービス価格指数(SPPI)はまだ+2%を大きく上回って高止まりしています。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、企業物価指数(PPI)や本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なるものの、減速しつつあるとはいえ+2%台半ばから後半の上昇率を見ると、デフレに慣れきった国民や企業の意識からすれば、かなり高い物価上昇と映っている可能性が大きいと考えるべきです。人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率・高人件費比率のサービス価格いずれも+2%台の上昇率を示しています。すなわち、人件費をはじめとして幅広くコストアップが価格に転嫁されている印象です。その意味では、政府や日銀のいう物価と賃金の好循環が実現しているともいえますが、実態としては、物価上昇が賃金上昇を上回っているという意味は、企業サイドから見れば人件費以上の過剰な価格転嫁が行われている一方で、家計サイドから見れば国民生活が実質ベースで苦しくなっているのは事実と考えざるをえません。ですので、私の従来からの主張ですが、企業サイドの利潤を減少させることにより労働分配率を上昇させ、物価上昇を引き起こすことなく賃上げを実現することが可能です。法人企業統計を見ても、ここまで利益剰余金が積み上がっているんですから、3~5年くらいは物価上昇なしに賃上げが可能ではないか、と私は直感的に試算しています。名だたるエコノミストが誰もこの点を主張しないのは私にはとても不思議です。何か、マズいことがあって忖度が働いているのかもしれません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて本日公表された2月統計のヘッドラインSPPI上昇率+2.7%への寄与度で見ると、土木建築サービスや建物サービスや宿泊サービスといった諸サービスが+1.22%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分近くを占めています。諸サービス以外では、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスなどといった情報通信が+0.50%、さらに、道路貨物輸送や鉄道旅客輸送や外航貨物輸送などの運輸・郵便が+0.44%、ほかに、不動産+0.21%、広告が+0.18%、リース・レンタルが+0.13%、金融・保険が+0.04%などとなっています。

最後に、引用した記事の4パラ目にあるように、この2月統計には2月28日からの米国とイスラエルによるイラン攻撃の影響、特に、石油価格上昇の影響は織り込まれていません。さて、来月3月の物価統計はどうなりますことやら。

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2026年3月25日 (水)

春闘の回答状況やいかに?

一昨日3月23日に、連合から「2026春闘 第1回回答集計結果」が明らかにされています。1,100組合の加重平均で+17,687円、+5.26%と、昨年から額で▲141円減、伸び率で▲0.20%ポイント減となっています。まず、【概要】を連合のプレスリリースから引用すると次の通りです。

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最初のポイントにあるように、300人未満の中小組合552組合では、+14,300円、+5.05%と、やや渋い回答となっています。また、当然に、今後第2回回答、第3回回答と進につれて額や伸び率が低下していくのは例年の通りだと私は受け止めています。軽く想像される通り、満額や高額の企業が先行して回答し、後の回答ほど渋い結果になるのは人間心理として当たり前だと考えるべきです。次のグラフは同じく連合のプレスリリースから 2013以降の第1回回答集計結果の推移 と 有期・短時間・契約等労働者の賃上げ を引用しています。

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昨日、総務省統計局から公表されたばかりの2026年2月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比で+1%台の上昇率に落ち着き始めていますが、何せ、3月に入ってからの米国とイスラエルによるイラン攻撃から石油価格の上昇が始まっているのも事実であり、物価がどのような影響を受けるのか、きわめて不透明であり、今年の2026春闘の方向性も未確定です。果たして、労働者の実質賃金が上がり、消費が増加する方向に向かうのでしょうか?

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2026年3月24日 (火)

ほぼ4年ぶりに日銀物価目標を下回った2月の消費者物価指数(CPI)

本日、総務省統計局から2月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月からさらに減速して+1.6%を記録しています。日銀物価目標の+2%を下回ったのは3年11か月ぶりだそうです。生鮮食品を含むヘッドライン上昇率は+1.3%まで減速している一方で、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+2.5%となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

2月の消費者物価指数1.6%上昇 伸び率3年11カ月ぶりに2%下回る
総務省が24日発表した2月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動が大きい生鮮食品を除く総合指数が111.4となり、前年同月比で1.6%上昇した。伸び率は3年11カ月ぶりに2%を下回った。昨年末のガソリン旧暫定税率の廃止や政府の電気・ガス代補助などでエネルギー価格が下がった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は1.7%の上昇だった。2月末に始まった米国・イスラエルによるイラン攻撃の影響で原油価格は高騰しており、3月以降は再び2%を超える可能性がある。
エネルギー価格は9.1%下がった。ガソリン旧暫定税率の廃止や政府が1月から実施する電気・ガス代補助の影響が重なった。電気代は8.0%、都市ガス代は8.2%、ガソリンは14.9%それぞれ低下した。
生鮮食品を除く食料は5.7%上昇した。7カ月連続で上昇率が縮小した。24年夏ごろから価格が上がっていたコメ類は17.1%の上昇だった。
菓子類は8.1%上昇した。原材料のカカオ豆の高騰などでチョコレートが26.9%上がり、全体を押し上げた。主産地のブラジルの天候不良でコーヒー豆が51.4%上がった。
インバウンド(訪日客)の需要増加などで宿泊料が6.0%上がった。
生活実感に近い生鮮食品を含めた総合指数は1.3%上昇した。生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は2.5%上がった。

何といっても、消費者物価指数(CPI)は現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やや長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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引用した記事の2パラめにもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+1.7%ということでした。実績にジャストミートしたようです。総務省統計局のプレスリリースによれば、ガソリンの暫定税率廃止及び政策による効果の寄与度が試算されており、ガソリンについては当月分で▲0.94%、ただし、前年剥落分が+0.61%あり、合わせて▲0.32%の寄与、同様に、電気代についても当月分で▲0.49%、ただし、前年剥落分が+0.27%あり、合わせて▲0.22%の寄与などの結果が示されています。品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率である+1.3%に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、エネルギーの寄与度は2月統計ではマイナスであり、前月の1月統計の▲0.42%に対して、2026年1月は▲0.71%となっています。したがって、いわゆる寄与度差は▲0.29%に達していて、コアCPI上昇率が1月の+2.0%から2月の+1.6%に▲0.4%ポイント減速したうちのほとんどを占めています。逆にいえば、エネルギーを除く物価には大きな変化はない、と考えるべきです。例えば、生鮮食品を除く食料価格の上昇は引き続き大きく、前年同月比で+5.7%、寄与度で+1.39%に上ります。ヘッドラインCPIの上昇率である+1.3%のほぼすべてが食料価格の上昇に起因するというわけです。引き続き、コメの価格上昇が大きい結果となっており、生鮮食品を除く食料の寄与度+1.39%のうち、コシヒカリを除くうるち米の寄与度は+0.11%を占めています。引用した記事の「コメ類は17.1%の上昇」とは少し分類が異なりますが、コシヒカリを除くうるち米の上昇率は前年同月比で+16.6%ですから、一時のピークは超えた可能性が大きいものの、まだまだ高い上昇率と考えるべきです。コメが値上げされれば、当然に、おにぎりやすしの価格も上がります。ただ、こういった食料価格の上昇がピークアウトしつつある可能性も十分あります。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+5.7%、寄与度+1.39%に上ります。その食料の中で、これも繰り返しになりますが、コシヒカリを除くうるち米が寄与度+0.11%あります。コメに加えて、カカオショックとも呼ばれたチョコレートなどの菓子類も上昇率+8.1%、寄与度+0.22%に上っています。特に、その中でも、チョコレートは上昇率+26.9%、寄与度0.11%に達しています。コメ値上がりの余波を受けた調理カレーなどの調理食品が上昇率+4.9%、寄与度+0.19%に上っています。同様に、すしなどの外食も上昇率+3.7%、寄与度+0.18%を示しています。ほかの食料でもコーヒー豆などの飲料も上昇率+9.1%、寄与度0.16%となっており、コアCPIの外数ながら、ぶりなどの生鮮魚介が上昇率+9.5%、寄与度+0.12%、などなどと書き出せばキリがないほどです。食料はエネルギーとともに国民生活に欠かせない基礎的な財であり、実効ある物価対策とともに、価格上昇を上回る賃上げや最低賃金の大幅な引上げを期待しています。

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2026年3月23日 (月)

日本でAIを活用した成長はどこまで可能か?

先週木曜日の3月19日、日本経済研究センター(JCER)から明らかにされた第52回中期経済予測「AIによる成長加速 給付付き税額控除・防衛費増額は歳出入バランス重視で」の説明会が開催されています。まず、JCERのサイトから概要を引用すると次の通りです。

AI導入と政策面での改革を同時に考慮した改革シナリオを検討する。
生成AI及び次世代AI(Artificial General Intelligence, AGI、汎用AI)の導入は進むものの、諸外国に比べた対応の遅れや中国等との競争が日本の強みを奪い、その生産性上昇効果は理論値以下になると見込む。
政策面では、給付付き税額控除を早期に実施するが、追加財源として高所得者層への追加所得課税等の家計による負担増を想定する。消費減税は見送る。また、防衛費を2035年度に名目GDP比3.5%まで増額する(26年度当初予算比約15兆円増)。その財源としては主に防衛特別法人税を増額し、歳出入均衡を想定する(最終的には、国防への国民及び法人の責任の在り方という観点から課税の対象等の検討を)。
この結果、潜在・実質成長率ともに上昇するが1%程度に止まる。基礎的財政収支(PB)は35年度には黒字化し、債務残高名目GDP比は30年度代末頃には低下の兆しを示す。これを更に引き下げるためには、財源を確保した上で、特にAIへの投資拡大・起業支援、働き方の見直し、賃上げ、公的教育支出の増加による成長率の引上げが必要である。

そもそも、大部に渡るリポートですし、私は説明会に出席したわけではありませんので、パワーポイントスライドの説明資料から、AIに関する部分だけごく大雑把に見ておきたいと思います。

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まず、上のグラフは説明資料から 図表9: 生成AIの利用で日本は大幅に遅れ を引用しています。個人レベルでは、生成AIサービスを「使っている(過去使ったことがある)」との回答を、企業レベルでは、生成AIを「一つでも業務で使用中」との回答割合ですから、生成AI使用の密度には関係なく、ともかくなんでもいいから「使った」ことがあるという程度の回答ですので、何とも、測りがたいところはありますが、日本が生成AI先進国から大きく遅れていることは明らかだろうと思います。

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続いて、上のグラフは説明資料から 図表11: AI技術の普及は米国から3-6年遅れ を引用しています。日本が生成AIの使用で遅れていることは明らかであるとして、どれくらい遅れているかについての結果です。米国から3~6年遅れというのをどう考えるか、ということなのですが、犬の年齢=フォッグイヤーで進む業界ですので、追いつけないとまではいわないとしても、例え話として、大人と子どもの差がありそうだと私は受け止めています。

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続いて、上のグラフは説明資料から 図表12: 理論上はAIはTFP上昇率を大幅に加速 を引用しています。生成AI利用に差があるとしても、今後利用が進めば大きな経済的なベネフィットがあるのは当然です。ガーシェンクロン的な後発国の有利性をどこまで発揮できるかがカギかもしれません。

ほかはともかく、生成AI利用に関しては、日本は明らかに後発国です。そして、このまま後発国のレベルに甘んじていると、産業分野だけではなく雇用や何やといった経済すべてが後発国の段階に後退する可能性が十分ある、と私は危惧しています。

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2026年3月22日 (日)

卒業記念パーティー

卒業記念パーティーです。
私のゼミ生はたったの3人だけでしたが、パーティーには卒業生750人のうちの半分近くの300人プラス教員が出席しました。私のゼミ生は伝統的に男性ばかりなのですが、女性の卒業生ももちろん少なくないわけで、パーティーは華やかな雰囲気でした。知り合いの大学教員が卒業記念パーティーにアルコールが出ないと嘆いていましたが、はい、立命館大学経済学部でお酒が出るのは当然です。

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印象派風の絵画化を試みましたが、写真とそれほど変わらないような気がして失敗かもしれません。

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卒業証書・学位記の授与

今日はめでたい卒業式です。
たったの3人だけながら、ゼミ生諸君に卒業証書・学位記を渡した記念写真です。生成AIに頼んで絵画化しましたが、ユトリロ風、セザンヌ風、ピカソ風、といろいろと試して、結局、ゴッホ風に落ち着きました。

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今日は卒業式

今日はめでたい卒業式です。
午後からゼミ生諸君に卒業証書・学位記を渡し、夜は卒業記念パーティーです。大学教員にとっては、1日がかりのビッグイベントです。

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2026年3月21日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、クィン・スロボディアン『破壊系資本主義』(みすず書房)では、民主主義を否定して無政府状態の資本主義に基づく無秩序な金儲けの実体を歴史的に嫌悪感を持って後づけています。労働者や消費者、あるいは、一般国民の方が企業経営者に劣位している状態をよく描き出しています。矢作弘『社会主義都市ニューヨークの誕生』(学芸出版社)では、ニューヨーク市長選で勝利したゾーラン・マブダニ市長について人となりを明らかにするとともに、ニューヨーク市の行政により住宅や交通をはじめとして、住みやすいまちづくりを進める政策についても解説しています。櫻田智也『失われた貌』(新潮社)では、J県警媛上警察署管内の山奥で身元不明の男性死体が発見されましたが、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされ、髪の毛も切られていました。警察に小学生の少年が来て、死体は10年前に行方不明で、失踪宣告の父親ではないかといい出します。井上真偽『白雪姫と五枚の絵』(小学館)では、ぎんなみ総合病院に入院中の八百谷雪子が、白雪姫のようにこびとたちに昔送った5枚の見立て絵、「白雪姫」、「3匹の子豚」、「赤い靴」、「ヘンゼルとグレーテル」、「雪女」の謎を内山3姉妹と木暮4兄弟が解き明かそうと奮闘します。松谷満『「右派市民」と日本政治』(朝日新書)では、保守とは微妙に異なる右派市民について、4タイプ、すなわち、愛国主義者、伝統主義者、排外主義者、反左主義者の想定し、1万人超を対象としたアンケート調査結果を基に、右派市民の実像を数量的に読み解こうと試みています。五十嵐律人『魔女の原罪』(文春文庫)では、小説の舞台となる鏡沢高校は校則が一切なく、もちろん、服装や髪型も自由な高校です。主人公である2年1組の生徒の和泉宏哉は、窃盗事件の犯人がいじめにあい事件の背後関係などを調べるうちに、クラスメートの水瀬杏梨が血を抜かれて殺されます。
今年2026年の新刊書読書は、1~2月に合わせて49冊、3月に入ってから先々週と先週で13冊、今週の6冊を加えて合計68冊となります。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のtwitter)、あるいは、mixi、mixi2などのSNSでシェアしたいと予定しています。

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まず、クィン・スロボディアン『破壊系資本主義』(みすず書房)を読みました。著者は、カナダ生れで、現在は米国ボストン大学パーディー・スクール教授の歴史学者ヒストリアンです。本書の原題は CRACK-UP CAPITALISM であり、2023年の出版です。私は話題になった前著の『グローバリスト』も読んでいます。本書では、副題になっている「民主主義から脱出するリバタリアンたち」Market Radicals and the Dream of a World Without Democracy に象徴されているように、民主主義と資本主義の矛盾を歴史的に解明しようと試みています。民主主義を否定した無政府主義的な体制を求めつつ、資本主義による金儲けに邁進する人々の歴史を追っています。そのひとつのキーワードとして「ゾーン」があります。例えば、「xx特区」のようなものがあるわけですが、この点は私にはそれほど理解がはかどりませんでした。私の歴史観からしても、アダム・スミスやマルクスくらいまで、せいぜいが19世紀的な資本主義は生産者=供給サイドがまだ大規模化されておらず、個人営業のような町の靴屋や鍛冶屋が生産を担当していました。現在でも、少なくないサービス業、例えば、床屋や個人経営の小売店などはそうだと思います。そういった小規模な供給者による生産に対して、現在では工場制の大規模メーカー、あるいは、チェーン店展開している小売業スーパーマーケットなど、大規模化した供給サイドに対して、消費者の需要サイド、さらには、雇用されている労働者のバランスが決定的に供給サイドに偏っています。トヨタに個人ドライバーは対抗しようがありませんし、スーパーで働くパート労働者の立場はかなり弱いわけです。このバランスの決定的な偏りにより、歴史的に非常に相性がよく親和的だと考えられていた民主主義と資本主義が、クラックを起こしている、というのが私の理解です。本書はそこまで議論を展開しておらず、繰り返すと、私の歴史的な理解です。では、雇用されている労働者や財・サービスの需要者である消費者、あるいは、一般国民の方が供給サイドの企業や経営者よりも圧倒的に多数であるにもかかわらず、民主主義の観点からは十分な決定権を持っていない、という実情があります。マルクス的にはこの格差の拡大によって革命が起こって労働者がプロレタリア独裁を行う、という予想だったのですが、そんなふうに歴史が進んでいると考える人は圧倒的に少数、ほぼほぼ皆無です。逆に、本書では資本主義が民主主義を圧倒して、コモンを食い尽くし、あらゆる財やサービスの商品化が進んでいる現状を分析しています。特に、世界的な経済政策の流れとして、1980年前後からの新自由主義的な政策の採用により、規制緩和や民営化が進められ、ホントに価格をつけて市場で供給するのが適当かどうか疑わしい財やサービスまで市場で供給される商品となっています。日本では、まだ教育と医療が何とか完全な商品化を免れていますが、商品化されて市場で供給されるようになれば、購買力という名の貨幣を持った人が市場における価格付けをリードし、優先的にそういった商品が配分されるわけで、ホントにそれが望ましいかどうか、必要とする人にはどう配分すればいいのか、などを考えるべき段階に達しています。典型的には、ニューヨークにマブダニ市長が誕生する契機のひとつとなった住宅の家賃です。本書では、逆に、資本主義で大いに稼いだ人々が民主主義から脱出する現状をよく描写しています。カネで政府を「買った」例なんかもあるんだろうと思います。

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次に、矢作弘『社会主義都市ニューヨークの誕生』(学芸出版社)を読みました。著者は、龍谷大学名誉教授であり、著書・翻訳書を見る限り、都市関係のご専門のような気がします。芥川賞作家である平野啓一郎のご推薦が表紙画像の帯に見えます。その表紙画像は米国の自由の女神であり、当然ながら舞台はニューヨークです。昨年当選したゾーラン・マブダニ市長にスポットを当てています。そして、これも表紙画像に見えるように、ニューヨークを暮らしやすい都市 A City We Can Afford にするというのが選挙公約となっていました。本書ではまず、マブダニ市長のプロファイルから始めています。広く報じられている通り、イスラム教徒であり、インドからの移民、そして、何よりも社会主義者、として紹介されています。その個人的な生い立ちとしては、米国アイビーリーグの一角を占めるトップ校のひとつであるコロンビア大学教授を父に、アカデミー賞にもノミネートされた映像作家・監督を母にしており、ウルトラセレブでヒューマニストの両親だったそうです。決して、労働者階級の出身ではありません。選挙戦はすっ飛ばして、本書第4章の政策を見ると、家賃管理とフリーバスをはじめとして、子ども保育の無償化、市営のグローサリーストア、最低賃金の引上げ、それらの財源として富裕層や大企業への増税が上げられています。すっ飛ばした選挙キャンペーンや政策の詳細についてはお読みいただくしかありませんが、私の感想を2点付け加えたいと思います。まず、言及してある政策は、まさに、社会主義に向かうものだと考えるべきです。ピケティ教授が脱商品化と呼び、斎藤幸平准教授がコモンの拡大という場合、商品として市場で価格をつけて購買力としての貨幣を持っている人、自然人であれ法人であれ、に配分されるのではなく、必要とされる人に配分するのが社会主義的な第1歩です。日本では、部分的に対価を支払っているとはいえ、教育と医療が商品として市場で配分されているわけではありません。少なくとも、株式会社などの営利企業が供給することは禁じられています。こういった社会的な供給を教育と医療に続いて、家賃管理により住宅に対して、また、フリーバスにより交通に対して、それぞれ拡大する方向性が明らかに見えます。第2に、日本でも1960-70年代くらいに国政選挙ではなく、地方選挙において、いわゆる革新自治体というものが拡大した歴史があります。私の故郷である京都府では蜷川知事ががんばっていましたし、京都府に続いて、美濃部東京都知事や黒田大阪府知事などが誕生し、横浜には飛鳥田市長がいました。ニューヨークのマブダニ市長から米国でもこういった動きが始まる可能性があるのだろうと私は受け止めています。本書第5章で展開されている20世紀前半の米国における下水道社会主義なんかも参考になりそうです。他方で、日本では1980年代に新自由主義的な政策が採用され、革新自治体はすっかり影を潜めましたが、米国でも、日本でも、地方から社会主義的な動きがこれから見られる可能性が十分ある、と私は期待しています。その観点から、4月5日投票の京都府知事選挙について、北陸新幹線の延伸にも関係して、私は大いに注目しています。最後の最後に、どうでもいいことながら、本書ではマブダニ市長の経済政策を「マブダニノミクス」と表現していますが、私はニューヨーク・タイムズ紙か何かで、ファーストネームを取ってゾーラノミクス=ZORANOMICS としているのを見かけたことがあります。

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次に、櫻田智也『失われた貌』(新潮社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、私は昆虫オタクで一種とぼけた雰囲気を持つ探偵役の魞沢泉を主人公とする短編集を3冊、すなわち、『サーチライトと誘蛾灯』、『蝉かえる』、『六色の蛹』をすべて読んでいます。今まで読んだのは短編ばかりでしたが、本書は著者初の長編だと思います。まず、あらすじを簡単に取りまとめます。主人公はJ県警媛上警察署の刑事である日野幸彦です。アラフォーの係長であり、部下の入江文乃とペアを組んでいます。ストーリーは、山奥で身元不明の男性死体が発見されたところから始まります。身元を簡単には特定されないように、だと思うのですが、死体は顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされ、髪の毛も切られていました。このあたりが本書のタイトルの背景です。その後、隣のB県のアパートから管理人の変死体が見つかったことが知らされます。その死体が発見された部屋の住人である八木が行方不明となっており、発見された死体と身体的特徴が一致していることが判明します。他方で、媛上警察署に小学生の少年がやって来て、死体は10年前に行方不明となり、失踪宣告を受けた父親ではないかといい出します。はい、何分ミステリですし出し惜しみをして、あらすじはこのくらいで止めておきます。出版社による本書の宣伝文句として「伏線回収」と「どんでん返し」がキーワードになっています。ただ、ミステリとしては年間トップ5くらいならともかく、ミステリとしてのプロットがピカピカの1番というわけでもなさそうな気がします。2県の警察による捜査の主導権争いも取り立ててめずらしいというわけでもありませんし、そもそも、DNA鑑定も十分に発達した現在では身元の特定に加えて、血縁関係まで明らかになる可能性が高いわけですから、顔を潰す意味もそれほど有効ではない気もします。ですので、というわけではありませんが、むしろ、ミステリのプロットに加えて、ミステリを離れた単なる小説としても十分に力作であってクオリティ高く、家庭や警察署での主人公のややくたびれた動作や会話、小学生の意気込み、空に見えるお月さんの描写、失礼ながら田舎にしては小洒落たバーでの会話やシーン、などなど、細かなディテールを私は評価したい気もします。その意味で、総合的な完成度は高い気がしますし、ミステリとしても十分にオススメです。最後に、ご参考まで、本書のスピンオフとして「断指 J県警媛上署捜査係」が出版社のサイトで3月末日までの期間限定で一般公開されています。タイトル通り、指を切断された死体の発見から始まるミステリです。スピンオフ作品ですので、主人公は媛上署捜査係の日野と入江です。そのうちに、どこかのアンソロジーに収録されるかもしれません。

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次に、井上真偽『白雪姫と五枚の絵』(小学館)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、本書は前作の『ぎんなみ商店街の事件簿』Sister編とBrother編の続編となっています。ちなみに、私はどちらも読んでいます。本作品では、認知症を発症してぎんなみ総合病院に入院中の八百谷雪子が、病室にある絵の魔女を指さして、「盗んだの。私から、大事なお金を」、「一億円」といい出すところから始まります。八百谷雪子は八百谷青果店の娘だったその昔には、「ぎんなみ商店街の白雪姫」と呼ばれ、商店街関係者の「こびと」から恋心とともに慕われていました。本書は5章から構成され、「白雪姫」、「3匹の子豚」、「赤い靴」、「ヘンゼルとグレーテル」、「雪女」が見立て絵として、各章のモチーフとなっています。見立て絵となる絵は、絵本作家で木暮4兄弟の亡くなった母親である木暮怜が描いて、八百谷雪子を経由して八百谷雪子を慕う商店街の経営者などの男性=「こびと」に送られたものであることが判明し、串真佐の内山3姉妹が木暮4兄弟ともに真相解明に当たります。なお、その見立て絵5枚は本書の冒頭にカラーで収録されています。あらすじ、というほどではありませんが、簡単に各章と見立て絵の送り先の「こびと」を振り返ります。まず、第1章のカギとなる「白雪姫」の絵を送られたのは萬田商店社長の萬田富男、第2章のカギである「3匹の子豚」の絵を送られたのはハシオスポーツの走尾馳雄ですが、本書の中で亡くなります。第3章のモチーフの「赤い靴」を送られていたのは阿久津靴店の阿久津踏治、第4章の青い鳥の「ヘンゼルとグレーテル」の絵を送られていたのは花梨堂菓子店の花梨橿夫、そして最後の第5章でカギとなる「雪女」の絵を送られたのはぎんなみクリニック/ぎんなみ総合病院の石田仁太郎、となります。何せ、内山3姉妹と木暮4兄弟の計7人がいますから、それぞれ絵を送られた商店街の関係者の孫や何やに同級生がいる確率は高いわけです。そういった人的なつながりも含めていろんな事実が解明されていきます。さらに、5枚の絵はそれぞれに見立て絵なのですが、その5枚がすべてそろうと、別の構図も見えてくるというメタな構造もなかなかいい出来だったと思います。ただ、舞台が横浜という都会であるにもかかわらず世代的に2代3代に渡って人的関係が濃厚で、その点に少し違和感を感じないでもありません。前作から商店街の人々の小説ですので、それもアリなのかという気はします。しかも、この作品は前作と違って時代的にかなりさかのぼりますから、いろいろと複雑な要因がからみあっていたりもします。その意味で、読解力を必要とします。

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次に、松谷満『「右派市民」と日本政治』(朝日新書)を読みました。著者は、中京大学現代社会学部教授です。本書p.206では、ご自身を「左派市民」と自任しています。はい、私もそうです。それはともかく、本書では、1万人超を対象としたアンケート調査結果を基に、右派市民の実像を数量的に読み解こうと試みています。ただ、右派市民とは保守派一般ではなく、p.7の図解にあるように、幅広い地付き保守層と部分的に重なり合う形で存在しているものと捉えており、逆に、穏健保守層とは交わらない存在と考えているようです。ざっくりいって、右派と保守は重なる部分もありながら、ビミョーに異なっている、という理解かと思います。その上で、p.63において4タイプの右派市民を想定しています。愛国主義者、伝統主義者、排外主義者、反左主義者です。複数のタイプを兼ね備えている場合もあれば、そうでない場合もある、ということです。また、左派市民も同様に分類されており、非-愛国主義者、非-伝統主議者、反-排外主義者、親左主義者、となります。非と反がビミョーに使い分けられています。また、最近の右派の勢力増進については、理性的に正義を追求する左派よりも、なりふり構わない右派の方の熱量が大きい結果である可能性を示唆しています。加えて、宗教右派のバックラッシュについても軽視すべきではないと指摘しています。そして、本書の中心的な結果である属性に応じた右派市民の数量的分析結果については、詳細はお読みいただくしかありませんが、もっとも右派から遠いのが若年大卒女子、という結果になるようです。ほかに、私の実感と合致する特徴のひとつは左派はテレビや新聞といった伝統的でリアルなメディアから情報を得ているのに対して、右派市民はネット情報によく接している、というのもありました。また、右派市民は政治の現状に相対的に満足度は高いものの、右派市民の中でも排外主義者は不満が大きい、というのもメディアの報道などから理解できるところです。逆に、排外主義者は「安倍嫌い」という結果はやや意外でした。ただ、安倍政権を支えたのは右派市民というよりは岩盤保守層ならざる中間層であり、右派市民の望んだ政治は中間層の意図せざるサポートによって実現された、という結果も示されています。最後に、私の感想です。少し前までの戦後20世紀の日本政治から考えると、市民というのは、特に市民運動に現れる政治的志向は左派市民にほぼ限定されていました。右派市民を考える余地はそれほどありませんでした。例えば、私は国家公務員として60歳の定年まで長らく総理大臣官邸や国会議事堂周辺で仕事をする機会がありましたが、20世紀中は何らかの示威行為やビラ配布などは左派がすることであり、右派は市民運動というよりは銀座の数寄屋橋周辺で街宣車に乗った赤尾敏のような人物だった、というイメージです。ところが、本書でも指摘されている通り、伝統的なメディアであるテレビや新聞ではなく、ネットから得た情報を基にしていると考えられる右派市民が21世紀には出現しています。これは市民として新たなグループが出来たような気すらします。1995年の社会党村山内閣発足時に、山口二郎教授などが主導して安保や自衛隊に関して「現実路線」に大きく転換したあたりから日本政治は右傾化が激しくなり、21世紀のネットのSNSの興隆に従って右派市民が拡大した、という印象を私は持っています。本書では、「では、どうすればいいのか?」を最後に問うています。そのあたりは読んでみてのお楽しみながら、果たして、日本政治も分断が進むのでしょうか。

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次に、五十嵐律人『魔女の原罪』(文春文庫)を読みました。著者は、弁護士の資格を持ち、『法廷遊戯』で第62回メフィスト賞を受賞しデビューしています。リーガル・ミステリを得意とするミステリ作家です。ただし、私には初読の作家さんでした。本書は2部構成であり、第1部の主人公は和泉宏哉、鏡沢高校の2年1組で、文芸部に所属し、週3回の人工透析を受けています。両親は腎臓内科医の父と医療技師の母です。水瀬杏梨はクラスも部活も同じクラスメートで、しかも、同じように週3回の人工透析を受けています。第2部では鏡沢高校の2年1組担任で元弁護士の佐瀬友則が主人公となってストーリーが進みます。まず、鏡沢高校は校則が一切なく、もちろん、服装や髪型も自由で、法律に触れない限り何でも許される自由な高校です。逆に、高校だけではなく、地域としても法律が絶対視されています。鏡沢ニュータウンは約40年前に開発され、早くから住んでいる住民は「カツテ」と呼ばれて、新転入者と少し断層があったりします。その鏡沢高校で窃盗事件があり、犯人の柴田達哉がいじめにあいますが、ギリギリで法律には抵触しないという判断で見過ごされます。和泉宏哉は強い違和感を持ち、窃盗事件の背後関係などを調べますが、柴田達哉は自主的に退学してしまいます。そして、第1章の最後に、水瀬杏梨が血を抜かれた死体となって鏡沢高校の裏手にあるセキレイ峠で発見されます。この殺人事件の謎を鏡沢高校教員の佐瀬友則が真相解明に挑むわけです。あらすじはここまでとします。犯人はかなり早い段階で警察に逮捕されて、whodunnitは解明すべき大きな課題とならず、whydunnitの動機の解明が中心となります。何と申しましょうかで、この動機は私の感覚にはそれほどあいませんでした。謎解きや何やは決してオカルトではないのですが、犯罪の動機や実行などがかなりオカルト的です。21世紀の先進国日本で、いまだにこのような考えをしている人が、高校やニュータウンに一定数かたまって存在しているとは、私にはにわかには信じられませんでした。これをもって、人類共通、あるいは、日本社会の原罪といわれると、やや疑問に感じる読者もいそうな気がします。はい、この小説の中だけにあるきわめて特殊な例だと私も思います。

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2026年3月20日 (金)

成瀬あかりのデザインマンホール

本日は、お天気もよく大量の花粉が飛散する中、お隣大津の京阪膳所駅前までロードバイクを走らせて、1月に設置された成瀬あかりのデザインマンホールを見に行きました。まさに、『成瀬は天下を取りにいく』の表紙と同じデザインのマンホールで、滋賀県民の私はとても感激しました。詳細は大津市役所のプレスリリースの通りです。京阪膳所駅の改札を出たところ、あるいは、JR膳所駅から京阪線方面に下りたところ、に設置されています。我が家から片道で10キロ、1時間足らずの距離でした。当時まだ中学生だった成瀬あかりが夏休みをかけた西武百貨店は、この膳所駅からときめき坂を下ったところにありました。

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どうでもいいことながら、下の写真は、ギャラドスのポケモンマンホールです。もう3度目くらいではないかと思いますが、帰り道のついでに撮りました。私のロードバイクにはスタンドがないので、横倒しの格好になってしまいました。悪しからず。

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2026年3月19日 (木)

2か月ぶりの前月比マイナスながら基調判断が据え置かれた1月の機械受注

本日、内閣府から1月の機械受注が公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲5.5%減の9824億円と、2か月ぶりのマイナスを記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

1月の機械受注5.5%減、2カ月ぶり減少 基調判断「持ち直し」維持
内閣府が19日発表した1月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で5.5%減の9824億円だった。2カ月ぶりの減少となった。基調判断は「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は10.0%減だった。毎月ごとのぶれをならした3カ月移動平均は0.1%減だった。
製造業が12.5%減の4358億円だった。2カ月ぶりの減少となった。大型受注があった前月の反動減で石油製品・石炭製品が75.9%減少し、全体を押し下げた。非鉄金属も前月からの反動減で落ち込んだ。
自動車・同付属品は5.3%減で2カ月ぶりに減少した。米国による一連の関税政策の影響について、内閣府の担当者は「関税が始まる前の水準には戻っていない」と述べた。
非製造業は6.8%増の5632億円だった。2カ月連続の増加となった。商業用のトレーラーなどの道路車両の受注が伸び、運輸業・郵便業が13.9%増でプラスに寄与した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比▲10.0%減が見込まれていましたので、実績の▲5.5%減は予想レンジ上限は下回るものの、やや上振れした印象です。ただし、前月の昨年2025年12月の前月比が+19.8%に達していましたし、引用した記事にもあるように、「毎月ごとのぶれをならした3カ月移動平均は0.1%減」でしたので、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」と据え置いています。足元の1~3月期の見通しは前期比▲4.5%減ですから、この先も引き続き増加が続くという見通しではない、とはいうものの、それほど弱い印象でもない、ということなのだと思います。業種別に前月比で見て、前月2026年12月に大きく延びた石油製品・石炭製品が▲75.9%減、同じく非鉄金属も▲57.1%減のほか、自動車・同付属品の前月比▲5.3%減をはじめ、製造業が▲12.5%減、非製造業では卸売業・小売業が+26.5%増、電力業が+33.4%増、運輸業・郵便業が+13.9%増など、非製造業全体で+0.2%増でした。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を見込んでいる一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は見込み得る範囲の近い将来にはまだ続くことが軽く予想されますし、DXやGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、日銀が金利の追加引上げにご熱心で、市場における積極財政の評価もあって、長期金利はかなり高い水準にまで上昇しています。本日終了した日銀金融政策決定会合で政策金利は据え置かれたとはいえ、為替への影響を別にしても、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかです。米国とイスラエルによるイラン攻撃をはじめ、地政学的なリスクも不透明ですし、どう考えても、先行きについてリスクは下方に厚いと考えるべきです。

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2026年3月18日 (水)

市場予想に反して貿易黒字を計上した2月の貿易統計

本日、財務省から2月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+4.2%増の9兆5716億円に対して、輸入額は+10.2%増の9兆5143億円、差引き貿易収支は+573億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

2月の貿易黒字572億円 対米輸出は3カ月連続マイナス
財務省が18日発表した2月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は572億円の黒字と、前年同月に比べて89.8%縮小した。黒字は2カ月ぶり。対米輸出が3カ月連続でマイナスとなった半面、アジア向けに半導体などの電子部品の輸出が伸びた。
輸出額は前年同月比4.2%増の9兆5715億円だった。増加は6カ月連続で、2月としては過去最大だった。アジア向けにICなどの半導体等電子部品や鉱物性燃料の輸出が増えた。
輸入額は10.2%増の9兆5143億円だった。原油などの原粗油の輸入額は4.2%減の7563億円だった。数量は16.4%増えた。ドル建ての平均価格が1バレルあたり65.7ドルと18.3%下がり、円建て価格も17.7%下がった。
米・イスラエルによるイランへの攻撃は2月28日に発生した。財務省の担当者は影響について「2月の貿易統計は事態の発生以前のものだ。今後の状況を注視していきたい」と話した。
国・地域別でみると、米国向けの輸出額は1兆7528億円と、前年同月に比べ8.0%減った。3カ月連続で減少した。
トランプ米政権の関税政策の影響で対米の自動車輸出は14.8%減の4706億円だった。輸出額を台数で割った平均単価は10.6%減の400万円と12カ月連続で減少した。
中国向けの輸出額は10.9%減の1兆3696億円だった。減少は3カ月ぶり。半導体等製造装置やプラスチックの輸出が減った。輸入は35.4%増の2兆3368億円だった。
中国の春節(旧正月)は前年が1月に始まったのに対し、今年は2月開始だった。連休期間は現地の物流や工場が止まり、日本からの輸出の動きが鈍るなど変動が大きくなりやすい。
アジア全体向けの輸出は2.8%増の5兆274億円だった。台湾向けの半導体関連の輸出が増えた。欧州連合(EU)向けの輸出額は14.0%増の9168億円だった。電気自動車(EV)や建設用機械の輸出が拡大した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲5000億円を超える貿易赤字が見込まれていましたので、実績の+500億円をやや上回る黒字はやや上振れした印象です。ただ、予測レンジの上限が+2500億円でしたので、そのレンジ内ですし、このあたりの1-2月はよく判りません。というのは、毎年、1月や2月は中華圏の春節があり、今年2026年は2月17日から、昨年2025年は1月29日からでした。この旧暦に基づく春節が、日本をはじめとする近隣諸国の貿易をかく乱している気がします。引用した記事の最後から2パラめにあるように、「変動が大きくなりやすい」と指摘しているところです。また、季節調整済みの系列で見ると、貿易収支は1月の黒字から2月は赤字に戻っており、季節調整しても中華圏の春節の影響は除去しきれていない印象を私は持っています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観も楽観もする必要はない、逆に、2月の貿易統計のように、市場塗装に反して黒字となったからめでたいわけでもない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた1950-60年代の高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。それよりも、米国のトランプ大統領の関税政策による世界貿易のかく乱に加えて、米国とイスラエルによるイラン攻撃により石油価格の動向が大きな問題と考えるべきです。先行きの見通しが不透明であれば、家計の消費というよりも、企業の設備投資活動が大きく抑制される可能性が否定できません。
本日公表された2月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+16.4%増ながら、金額ベースでは▲4.2%減となっています。米国とイスラエルによるイラン攻撃の影響前の段階で、石油価格が低迷していた商品市況を反映しています。さらに、エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+7.9%増となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで+2.9%増ながら、商品市況の高騰により金額ベースでは+40.2%増を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が台数の数量ベースで+4.6%増、金額ベースでも+2.5%増となっています。ただし、米国向けの自動車輸出について、さらに詳しく見ると、数量ベースでは▲4.7%減にとどまっている一方で、金額ベースでは▲14.8%減となっており、引き続き、日本のメーカーあるいは輸出商社の方で部分的なりともトランプ関税を相殺するような価格設定により、販売台数の維持を図っている可能性があると考えられます。どこまでこういった関税負担がサステイナブルであるかは私には不明です。自動車を別にすれば、電気機器は金額ベースで+10.3%増となった一方、一般機械は▲2.3%減となっています。最後に、輸出入を通じて、電気機械、特にICをはじめとする半導体等電子部品が大きく増加しています。すなわち、いずれも季節調整していない原系列の前年同月比の金額ベースで見て、輸出では半導体等電子部品が+25.1%増、うちICは+32.3%増、輸入では半導体等電子部品が+35.0%増、うちICは+41.1%増となっています。私はそれほど詳しくないのですが、いわゆるシリコンサイクルが上向きになって、半導体部品取引が活発化している、ということなのだろうと受け止めています。

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2026年3月17日 (火)

2025年版「開発協力白書」

先週金曜日の3月13日に、外務省から2025年版「開発協力白書 (ODA白書)」が公表されています。pdfの全文リポートもダウンロードできます。

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私は日本経済論の授業の早めの回で、日本経済の規模を考える際に、国際貢献の重要なひとつの実例として、政府開発援助=ODAについて、いつも、上のグラフを引用して解説を加えています。2025年版「開発協力白書 (ODA白書)」冒頭のp.19 図表Ⅱ-3 主要DAC諸国の政府開発援助実績の推移 のグラフを引用しています。このグラフに示された政府開発援助=ODAの学について考えれば、米国とドイツには大きく遅れを取りましたが、欧州のフランスや英国と比較しても遜色なく、わずかながらカナダやイタリアを上回っています。
私が教えている大学生諸君が卒業して働き始めて、10年はまだしも、20年もすれば、日本は現在のG7から滑り落ちて経済大国ではなくなっている可能性が十分あるとはいえ、現時点ではまだまだ世界でもトップクラスの経済大国であり、それだけの国際貢献も実行しているという事実は忘れるべきではありません。私の実体験として、独身のころの外交官としての大使館勤務、家族を伴ってJICA専門家としてのインドネシア国家開発庁(BAPPENAS)勤務、それぞれ約3年間の海外生活から得た結論です。

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2026年3月16日 (月)

帝国データバンク「カレーライス物価指数」2026年1月

やや旧聞に属するトピックながら、先週火曜日の3月10日、帝国データバンクから「カレーライス物価指数」2026年1月分が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。まず、帝国データバンクのサイトからSUMMARYを引用すると次の通りです。

SUMMARY
2026年1月のカレーライス物価平均は1食370円(前年336円)となった。
調査開始以降で最高値を更新したものの、前年(2025年1月: 336円)からは34円・10.1%の増加にとどまり、値上げ幅は過去1年間で最小だった。
2026年2月のカレーライス物価は1食あたり平均367円台で推移する見通し。2カ月ぶりに360円台へ低下し、前月からは7カ月ぶりに低下する見込み。

続いて、帝国データバンクのサイトからカレーライス物価推移のグラフ画像を引用すると次の通りです。

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少し見にくいんですが、折れ線グラフの直近データである2026年1月の370円の右下にあるドットが2月367円の帝国データバンクによる予想値らしく、価格としては1月にピークを打って2月予想値はやや下がるものの、前年同月比ではまだプラスの上昇率が続く、ということのようです。
なお、私はそれほど良く認識していなかったのですが、このカレーライス物価指数はカレーライス総合ということで、ビーフカレー(国産・輸入)、ポークカレー(国産・輸入)、チキンカレー、シーフードカレー、野菜カレーを総合したもの、ということです。1月価格で見て、ビーフカレー総合が480円、ポークカレー総合が293円、チキンカレーが231円、シーフードカレーが535円、野菜カレーが280円、となっています。

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2026年3月15日 (日)

侍ジャパンのWBC終わる

侍ジャパンのWBC2026は終了みたいですね。
はい、私はそれほど関心もありませんでした。上にあるように、私は動画配信サイトでハイライトを見るくらいでしたが、メディアでは大いに取り上げていたのは知っています。ついでながら、夏のFIFAワールドカップにも私は関心ありません。
私の知り合いが、WBC見るためにNetflix加入した人が多いのに驚いた旨のポストをどこかのSNSでしていました。ただし、WBC観たさに加入するのではなく、WBCなくてもNetflixにはいいコンテンツあるのに、どうして、という意味でした。私自身に引き付けていえば、もともとそれほどテレビ見ない、ということになります。もう少し長生きして足腰弱ったらテレビも重宝するんだろうと思います。

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2026年3月14日 (土)

退職者を送るつどい

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大学の教職員組合による退職者を送るつどいに行きました。今日の午後、衣笠キャンパス内で行われました。
定年退職される方と定年後再雇用の終了された方々を送るつどいです。私も一昨年に定年退職しましたので、みなさんに送られた記憶がありますが、特任教授としてまだ働いていたりします。あと3年で特任の期間も終わります。私はすんなりと引退したいです。
ビールをしこたま飲んで酔っ払ってしまいました。

後日に、記念写真を追加しました。

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今週の読書はいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、冨山和彦[著]・松尾豊[監修]『日本経済AI成長戦略』(文藝春秋)では、AIによるトランスフォーメーション=AXについて考え、日本が失敗したDXとは不連続であり、情報の伝達や整理担うホワイトカラー職はAIに代替される一方で、ローカルな中小企業にも有利な点が少なくないと強調しています。溝尾良隆『日本と世界の観光史』(古今書院)では、日本近代の観光の歴史について、戦前期には海水浴やスキー・ゴルフといったレジャーを目的とする観光が、また、戦後はレジャーの領域が広がるとともに、1964年の東京オリンピックと1970年の大阪万博の果たした役割が強調されています。斧田小夜『では人類、ごきげんよう』(東京創元社)は、おおむね、麒麟や鴆といった神話や伝説に登場する架空の生物をモチーフにして、神代から現代、そして未来を横断する幻想的なSFないしファンタジー短編が6話収録されています。冒頭短編の「麒麟の一生」の麒麟のような人生が私には理想です。高田崇史ほか『それはそれはよく燃えた』(講談社)は、25人の作家による25のショートショートを収録していて、すべて書き出しの1文が統一されているシリーズ、会員制読書クラブ「メフィストリーダーズクラブ(MRC)ショートショート」で公開された作品です。スキマ時間潰しにはピッタリです。渡辺努『インフレの時代』(中公新書)は、部分的に私には異論ないでもないのですが、我が国の物価指数やインフレに関する第1人者による分析であり、2022年の輸入インフレから始まった現在の物価上昇は一過性のものではなく、持続性があり、第2にインフレは前向きな変化である、と主張されています。善教将大『民度』(中公新書)では、日本の民主主義が転換期にある中で、民度を通じて民主主義を考えようと試みており、コンジョイント実験によって民度の決定要因を探っています。第7章では、2024年兵庫県知事選挙について民度の観点から分析を進めています。
今年2026年の新刊書読書は、1~2月に合わせて49冊、3月に入ってから先週は7冊、今週の6冊を加えて合計62冊となります。また、これらの新刊書読書のほかに、原田ひ香『三千円の使いかた』(中公文庫)も読んでいます。ただ、新刊書ではないので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のtwitter)、あるいは、mixi、mixi2などのSNSでシェアしたいと予定しています。

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まず、冨山和彦[著]・松尾豊[監修]『日本経済AI成長戦略』(文藝春秋)を読みました。著者と監修者は、それぞれ、日本共創プラットフォーム(JPiX)代表取締役と東京大学大学院工学系研究科教授です。本書の主張はまさにタイトル通りなのですが、冒頭第1章では、なぜDXで失敗したのか、から始めています。その主張は、要するに、DXではデジタル人材による業務改革であって、人材との競合や人材からの代替を目指していたのに対して、本書でいうAX、すなわち、AIを活用したAIトランスフォーメーションでは、フィジカルAIも活用しつつ、AIを部下として活用するボス型人材の時代になる、ということのようです。ですから、AXはDXから不連続であって、DXに失敗していても、リープフロッグ的にAXに成功する可能性は十分ある、と強調しています。逆にいって、DXの勝者がそのままAXでも先行できる保障はない、ということです。そして、AIを部下にするボス力として、問いを立てる=プロンプトの設計、決断する、責任を取る、などといった要素を指摘し、p.62から何度か登場する知的スマイルカーブが成立する、と主張しています。同時に、今までの情報の伝達や整理を担っていた部下的存在のホワイトカラーのこなす業務がAIに大きく代替される、という点が強調されています。ただ、この点は日本的なローカルな中小企業にはかえって利点となる可能性も同時に指摘されています。創業者一族のトップダウンによる意思決定や規模が小さくて小回りのきく経営体制などとともに、現在の部下的役割を果たしているホワイトカラーが現場に強い点も強調されています。少し前に流行った「現場力」を私は想像してしまいました。そういった部下的役割のホワイトカラーの現場化を、第4章ではライトブルーカラー、第5章ではアドバンスト・エッセンシャルワーカー、などと表現しています。いずれにしても、ホワイトカラーではなくなる、という含意なのだろうと私は受け止めました。ただ、マクロエコノミストの私の目から見ても、この第4章ないし第5章以降で論旨がよれ始めてスライスし、本書の最後の方はOBゾーンに落ちている可能性もあります。第7章で、個人としての対応にかこつけて Venture for Japan(VFJ) なるプログラムを推薦したり、第8章では、とうとう、著者の主宰する日本共創プラットフォーム(JPiX)の宣伝に走ったりしています。まあ、このあたりは眉に唾つけて読む読者もいそうな気がします。最後に、本書では、文部科学省ばりに首都圏や関西圏の伝統私学の文系学生の処遇についても、ひと捻りした考察を述べています。はい、まさに私が大学教員として教育の対象としている学生諸君であり、知的スマイルカーブの情報の伝達・整理といったボトムの部分でAIに大いに代替されてしまいそうな部下力の高いホワイトカラーです。本書では「現場エキスパート」と呼んでいるライトブルーカラーやアドバンスト・エッセンシャルワーカーへの選択肢を示し、「時間が止まっている親御さんや先生の意見は丁寧に聞き流す」ことにより、決して将来は暗くない未来を描いている点も付け加えておきます。詳しくは、読んでみてのお楽しみです。

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次に、溝尾良隆『日本と世界の観光史』(古今書院)を読みました。著者は、立教大学観光学部の教授を長らく務め、現在は名誉教授です。本誌は、冒頭にも明記されているように、観光史であって旅行史を目指しているわけではないようなのですが、まあ、近代以前については旅行史の部分も少なからずあります。4部構成となっていて、第Ⅰ部が近代以前、すなわち、古典古代の飛鳥時代から江戸末期まで、第Ⅱ部が江戸末期から昭和戦中期まで、第Ⅲ部が戦後から現在までの、それぞれの日本の観光史を後づけており、最後の第Ⅳ部で世界の観光史を一気に概観しています。基本的にはタイトル通りに歴史的視点が中心なのですが、もちろん、観光とは旅行を含んでいて、移動の要素もありますので地理的な視点も含まれています。観光ではなく旅行かもしれませんが、海外との交流という視点では、日本はつい最近の50年程度に至るまで、ほぼほぼ歴史的に一貫して後進国でしたから、古典古代の時期には遣隋使や遣唐使で中国からの技術や文明やの移入に努め、中世の時期は倭寇で海賊行為をしたり、宋銭を通貨として用いたり、近代に至ってもお雇い外国人を招聘するとともに、多くの若者を海外留学に送り出したりしています。観光にお話を絞ると、近代以前は経済的な余剰生産力がそれほどなかったことから、観光は寺社への宗教的な参詣や温泉場への湯治旅行が主流となります。江戸期には、松尾芭蕉の欧州への旅行、『東海道中膝栗毛』に収録された観光旅行なども登場し、庶民階層にも観光旅行が広がります。特に、本書でも伊勢参りに注目しています。明治期から大正・昭和の時期にかけて、まず、東京が首都となり、東海道を中心に交通網が整理され、観光の下地が出来上がります。私の住む琵琶湖南岸は、まさに、新しい首都の東京と古都京都を結ぶ東海道の通り道であり、現在では鉄道の東海道線と東海道新幹線、道路では国道1号線と名神高速道路などがよく整備されています。本書でもこういった交通網の整備とともに観光旅行が盛んとなり、戦前期には海水浴やスキー・ゴルフといったレジャーを目的とする観光、さらに、戦後になればさらにレジャーの領域が広がり、特に戦後高度成長期から1970年代までの間の大きなイベント、すなわち、1964年の東京オリンピックと1970年の大阪万博の果たした役割が強調されています。私も、それほど裕福でない家庭でしたので、東京オリンピックはムリでしたが、大阪万博にはいった記憶があります。その後、石油危機に伴う景気低迷などで観光需要は盛上がりを欠きましたが、他方で、1980年代からは海外旅行も庶民の間で広がり始めたと指摘しています。そういった詳細と最終の第Ⅳ部の世界の観光史については、読んでみてのお楽しみです。

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次に、斧田小夜『では人類、ごきげんよう』(東京創元社)を読みました。著者は、東京大学大学院情報理工学系研究科修了で、エンジニアとして培った広い技術的背景をもとに創作を行い、本書に収録されている「飲鴆止渇」で2019年に第10回創元SF短編賞優秀賞を受賞しています。本書は短編集であり、6話のSFファンタジーを収録しています。短編すべてではないのですが、大雑把に、麒麟や鴆といった神話や伝説に登場する架空の生物をモチーフに神代から現代、そして未来を横断する幻想的なSFないしファンタジー作品が本書には収録されています。短編ごとのあらすじは、まず、「麒麟の一生」では、宇宙を漂っていた光のような存在が地球の重力に捕らえられ、やがて麒麟という姿を得て漢の武帝に瑞獣として迎えられます。しかし、酒の味を覚えたため、人間の世界の欲望や政治的野心と距離を置いて、歴史の傍らで飄々と生き続けます。「飲鴆止渇」では、民主化運動が最高潮に達した揺碧国の首都に伝説の巨鳥である鴆が突如として現れ、広場に集まった人々や鎮圧に出動した軍隊はその毒によって壊滅的な被害を受け、国家の運命は大きく転換します。10年ほど後、揺碧国は体制が変わり急速な経済的発展を遂げます。明らかに天安門事件を下敷きにしています。「ほいち」は「耳なし芳一」をモチーフに、平家伝説で知られる赤間神社の駐車場に放置された自動運転EV車であるほいちの視点から、周囲で起こる不可解な出来事をセンサーと記録装置を通じて観測しています。「デュ先生なら右心房にいる」では、地球のロバを品種改良した宇宙ロバの驢䍺がデュ先生に診てもらうのですが、行方不明になります。驢䍺をはじめとして、かつて神話として語られてきた生物や何らかの存在が、未知の生命体や宇宙的現象として再解釈されており、宇宙の探査者たちはそれらの存在に遭遇しながら、人間の理解の枠組みを越える知性や生態と向き合うことになります。「海闊天空」では、海底資源採掘のための海中都市である螺京に生まれた高水月は、摂食障害のためチベット高原の精密機械再生工場で働き始めますが、上司の不正に気づき入院させられそうになりますが、それをきっかけに遊牧民の青年であるカンツォと知り合います。冒頭に伝説の翼獣である貔貅が登場します。高水月とカンツォの息子である志海が土中から貔貅の像を掘り出します。最後の表題作「では人類、ごきげんよう」では、月面が舞台となり、全天候型物流拠点であるビアンキー二・センターで貨物が爆発し、流出した液体により施設が損壊し浸水する事故が起こり、月面開発管理局から月面居住者に退避勧告が出されるところから始まり、太陽系に突如現れたアンノウンの正体を探るプロジェクトが始動し、その進捗をAIが報告する、というものです。はい、本書には、私のような感覚も頭の回転も鈍い読者には判りにくい短編がいっぱいありました。コミカルなのは「ほいち」だと思うのですが、「飲鴆止渇」のスケールの大きさは評価されるべきです。ただ、「海闊天空」の世界観は壮大であり、私はこの短編がイチ推しです。でも、「麒麟の一生」の麒麟のような人生を送りたい気もします。まあ、もう人生も終盤に差しかかっているのですが、酒に酔って世間から距離を置く、という人生です。いずれにせよ、本書はSFの好きな読者にはとってもオススメです。

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次に、高田崇史ほか『それはそれはよく燃えた』(講談社)を読みました。著者は、25人の作家であり、若手作家から皆川博子や島田荘司といった大ベテラン作家まで、きわめて幅広い作家が執筆しています。25人の作家による25のショートショートを収録していて、すべて書き出しの1文が統一されているシリーズ、会員制読書クラブ「メフィストリーダーズクラブ(MRC)」で有料会員限定コンテンツ「MRCショートショート」で公開された作品です。『黒猫を飼い始めた』、『嘘をついたのは、初めてだった』、『これが最後の仕事になる』、『だから捨ててと言ったのに』、『新しい法律ができた』に続くシリーズ第6弾だそうです。執筆者は出版社のサイトで一覧されています。私は本書以外のこのシリーズは最初の『黒猫を飼い始めた』と『これが最後の仕事になる』を読んでいます。当然、本書では「それはそれはよく燃えた」で始まるショートショートが収録されています。収録されているショートショートのうち、ホントに燃えたものは少なくありませんが、語感からSNSの炎上をテーマにする作品がもっとあるかと思いましたが、それほどでもなかった、というのが私の印象です。収録作品すべてはムリですので、思いつくままにいくつか取り上げると、米澤穂信「燃えろ恋ごころ」は、高校生の燃える恋で始まって、最後の1行で大きなどんでん返しがあります。短いながらも伏線も巧みに配されていました。我孫子武丸「消えない炎」は、その昔のチャイナ・シンドロームも持ち出しながら、原発の怖さをブラックジョークとして描き出しています。秋吉理香子「ファンの鑑」は、この作者らしいイヤミス的な作品で、女子校の同級生のアイドルをファンとしてサポートし続ける目的がブラックに取り上げられています。矢樹純「人形供養」や三津田信三「忌物を燃やす」は、まさにホラーであり、どんど焼きやお焚き上げなどで呪物を処理しようとする行為を思い起こさせます。最初の1文だけが統一されたお題で、2文めからは何ら関連性を欠くショートショートのアンソロジーで、しかも、作者紹介まで含めても200ページ足らずのボリュームですので、短い空き時間にスマホをいじる代わりにとっても有益な読書ができそうな気がします。

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次に、渡辺努『インフレの時代』(中公新書)を読みました。著者は、日本銀行ご勤務の後、現在は東京大学名誉教授、ナウキャスト創業者・取締役であり、ご専門はマクロ経済学だそうです。おそらく、日本における物価指数やインフレに関する権威の1人だと私は思います。本書では、まず、冒頭で第1に2022年の輸入インフレから始まった現在の物価上昇は一過性のものではなく、持続性がある、という点と第2にインフレは前向きな変化である、という2点が示されます。第1の点は私も長らく一過性の物価上昇で、すぐにデフレに近いゼロ近傍の物価上昇率に戻る、と考えていましたので、まさに物価に関する第1人者のご慧眼だと思います。第2の点は、本書では価格が動くことによる市場メカニズム機能の回復として考えてます。はい、私もその通りだと思います。ただ、本書でもそうですし、このご著者の一連の論考でもそうなのですが、デフレと物価が動かない、ゼロインフレとは違うという点はゴッチャにされており、私は正しく認識しておくべきだと考えています。ですので、やや論点がズレている、あるいは、意図的にズラしている印象があります。もうひとつ疑問なのが、本書では、デフレ、だろうと思うのですが、あるいは、日本の物価が動かない原因をグローバル化に求めています。もっと正しくいえば、グローバル化が進む中で、第1に、雇用を確保するために賃金を犠牲にして、すなわち、日経連『新時代の「日本的経営」』で示された非正規雇用の大幅な拡大が生じて賃金引上げが停滞したこと、さらに、第2に、中国からの安価な輸入品が増加したこと、の2点に求めていて、逆に、本書で明記しているのはグローバル化の巻戻しによるインフレの進行、ということになります。本書で明記していない点は、金融政策の失政によるデフレの深刻化です。ただし、黒田総裁時代の異次元緩和がデフレ脱却には役立たなかったという歴史的事実がありますので、私はリフレ政策の限界だという気もしますから、今回明らかにされた日銀政策委員2人の任命に示されたように、現在の高市内閣のリフレ政策志向には少し疑問を持っています。黒田総裁時のリフレ政策がデフレ脱却に失敗したことは、私は明らかだと思います。少し脱線しましたが、本書では、こういった基本的な物価やインフレに関する分析を明らかにした後、インフレの時代に、為替や政府債務がどうなるか、日銀や政府はどう対応するべきか、「自然」実質賃金という概念を用いた分析、令和の米騒動の原因、などなど幅広いマクロ経済のテーマを考えています。そのあたりは、読んでみてのお楽しみです。最後の最後に、私の従来からの主張ですが、グローバル化の中で賃金を犠牲にして雇用を確保した、というのであれば、グローバル化が巻き戻す中で労働分配率を上昇させて、インフレの加速なしに名目賃金を大幅な引き上げることが可能で、したがって、実質賃金の上昇が期待できます。

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次に、善教将大『民度』(中公新書)を読みました。著者は、関西学院大学法学部政治学科の教授です。表紙画像の副題にもあるように、本書は日本の民主主義が危機とはいわないまでも、転換期にある中で、民度を通じて民主主義を考えようと試みています。ただ、私のイメージでは、専門外ながら、民度とは経済データのように計測できる定量的な指標ではなく、何らかのネガな印象を持って用いられる用語だと考えていました。例えば、「民度が低い」という表現は「民度が高い」よりも頻度高くしばしば使われるように思いますし、「X国と日本では民度が違う」といえば、X国の民度は日本より低いというインプリシットな表現だと受け止めています。しかし、本書では、失業率や成長率といった経済データのような定量的な計測を試みるのではありませんが、一定程度の限定的な範囲ながら、高いか低いかを考え、その高低を決める要因についても分析を進めています。まず、冒頭2章で民度に関する概念的な整理や認知度について考えた後、第3章からコンジョイント実験によって民度の決定要因を探っています。ポイ捨て率、図書館利用、大卒者割合、自粛協力率、投票率、支持政党などによる決定要因を考えています。そのあたりは、読んでみてのお楽しみですが、続いて、投票率や党派性を深堀りした分析に進み、さらに、年齢と民度の関係、すなわち、若い方が民度が低いかどうか、第7章で2024年の兵庫県知事選挙の結果が民度とどう関係しているか、にまで考察を進めています。このあたりも本書のハイライトですのでレビューで取り上げるのではなく、読んでいただくしかありませんが、1点だけ、党派性と民度はかなり強いつながりを本書では認めています。私自身は左派リベラルだと感じていますので、同じ党派性の人が多いと民度高いと感じますし、たぶん、ネトウヨの人たちはそういった同じ党派性の人のグループを民度高いと感じる可能性が高い、というのは事実だろうと思います。最後に、第7章で取り上げられている2024年兵庫県知事選挙結果ですが、はい、私も選挙結果の報道に接した際には、兵庫県民の民度が低いと感じました。県立大学の無償化がそこまで争点になっていたのも知りませんでした。逆に、本書のスコープ外ではありますが、1週間ほど前の石川県知事選挙の結果には、民度がどうしたかはともかく、大きな驚きを受けました。最後の最後に、本書でも力説されている通り、民度とも関係させつつ、問題の原因を個人の意識に帰属させる議論には疑問を感じるべきです。私が授業で指摘している通り、交通安全を心から願うよりも、速度制限や信号を設置した方が交通事故を減らす効果が大きいことは明らかです。核兵器廃絶や戦争反対も同じことです。平和を愛する個人の意識だけで解決できるかどうかは疑問です。

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2026年3月13日 (金)

日本経済は石油価格上昇に脆弱なのか?

広く報じられている通り、米国とイスラエルがイラン攻撃を始め、ホルムズ海峡が閉鎖されて、石油価格の指標となるWTI先物価格が乱高下しています。一般的な感触として、日本はエネルギーを産出しないので石油価格上昇に脆弱、という印象がありますが、私の知る限りで、経済学のフォーマルな実証研究では、日本経済は石油価格上昇に強い、という多くの結果が得られています。まず、今となっては古典的ともいえますが、逆にいえば、やや古い研究成果ながら、次の論文が石油価格と日本経済の関係についての21世紀初頭における研究の嚆矢となっています。

Hamilton (1996) で示された Hamilton's measure of oil price shock を日本に適用すると、石油価格上昇による産出への負のインパクトのうち30-50%は金融政策の引締めに起因する "between 30 and 50 percent of the negative impact of oil price shocks on Japanese output is attributable to monetary tightening" と結論しています。逆に、純粋な供給要因による石油価格上昇は負のインパクトの半分くらい、ということになります。

もう少し新しい祝迫先生と中田先生の一連の論文でも、構造VARを用いて日本の景気変動を計測したところ、日本の輸出やひいてはGDPに対する影響は世界経済の需要ショック "world economic activity (an aggregate demand shock)" であり、石油価格のショックの影響はほとんどない "exogenous variation in oil production has little effect" などと、特に最初の論文で結論しています。論文の引用情報は以下の通りです。

OECD加盟各国と比較しての欧州中央銀行(ECB)による実証分析結果では、日本は石油価格上昇の負のインパクトが見られない "oil price increases are found to have a negative impact on economic activity in all cases but Japan" との結論を得ています。以下の論文です。

もちろん、逆に、石油価格上昇の負の影響を計測した論文もあります。


この論文では、Kilian (2009) で示された石油価格ショックの分解を用いた分析を行っています。供給要因に起因する外生的な石油価格上昇はGDPの減少をもたらす "an exogenous change in oil prices on the supply side decreases GDP" 一方で、好景気などによる需要要因に起因する石油価格上昇はGDPの増加につながる、と結論しています。

最後の高橋先生の論文がおそらく例外なのですが、石油価格上昇そのものの日本経済への影響はそれほど大きくない、というのが、多くのアカデミックな分野のエコノミストのコンセンサスだと思います。ただし、シンクタンクや金融機関のエコノミストはもっと実際的で、石油価格の上昇のダメージをより過大評価していると私は考えています。ただし、これにはもっともな理由があります。すなわち、祝迫-中田論文で示されている日本経済が石油価格上昇そのものよりも世界経済の冷え込みによる影響の方が大きいというのがアカデミックなエコノミストのコンセンサスですが、石油価格上昇はECBのワーキングペーパーにもあるように世界経済に負のショックをもたらすわけですから、日本経済は石油価格上昇のショックもさることながら、石油価格上昇のショックが世界経済を悪化させることにより、負の影響を大きく受ける、ということなのだろうと思います。これは、いわゆるリーマン・ショック後の金融危機から始まった景気後退やコロナ禍の景気後退もよく似た構造であって、日本経済は世界経済のネガな影響を強く受ける、という結果であろうと私は受け止めています。

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2026年3月12日 (木)

チリの民政移管後もっとも右派のカスト大統領が就任

本日3月12日、南米チリで José Antonio Kast カスト大統領が就任しました。1990年にピノチェット将軍から当時のエイルウィン大統領に民政移管されてから、35年余りでもっとも右派色の強い大統領であろうと報じられています。自分自身のメモ代わりに、私が接した限りの報道を以下にリストアップしておきます。最初の3本は昨年2025年12月半ばの大統領選挙結果を報じたもの、つぎの2本は本日3月12日の大統領就任に関する報道です。私自身が理解できる範囲で、日本語、英語、スペイン語がごっちゃになっています。

私が在チリ日本大使館に経済アタッシェとして赴任していたのが1991-94年です。繰返しになりますが、ピノチェット将軍の政権から民政移管され、エイルウィン大統領が就任した直後であり、私の在チリ期間中に大統領はフレイ大統領に交代しました。エイルウィン大統領もフレイ大統領も、どちらも、中道左派のコンセルタシオンからの選出でした。
カスト大統領による今後のチリ政府の舵取りやいかに、ゆかりのある国でもあり、私も少しだけ注目しています。最後に、下の写真はチリの高級紙 El Mercurio のサイトから引用しています。昨夜のうちに、大統領府のモネダ宮殿にカスト大統領が入るところのようです。

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米国・イスラエルのイラン攻撃前の法人企業景気予測調査は過去の数字か?

本日、財務省から1~3月期の法人企業景気予測調査が公表されています。ヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は足元の1~3月期は+4.4、先行き4~6月期には+2.0、7~9月期には+5.6と、景況感は改善が続くと見込まれています。ただ、調査時点は米国とイスラエルのイラン攻撃前の2月15日だっと報じられており、どこまで先行きの景況感が維持されるかは未知数です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

大企業の1-3月景況感、3四半期連続プラス イラン情勢悪化前の調査
内閣府と財務省が12日発表した1~3月期の法人企業景気予測調査によると、大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラス4.4だった。3四半期連続のプラスとなった。
調査は米国・イスラエルとイランの軍事衝突前の2月15日時点。中東情勢の悪化による原油価格の急騰などを反映していない。
指数は自社の景況が前の四半期より「上昇」と答えた企業の割合から「降下」の割合を引く。前回の2025年10~12月期はプラス4.9だった。
製造業はプラス3.8、非製造業もプラス4.6でいずれも3四半期連続のプラスだった。
製造業は生産用機械器具製造業で半導体製造装置や省人化投資関連の需要が増加した。自動車・同付属品製造業はプラス9.6だった。米国の関税措置による業績悪化の懸念でマイナスになった25年4~6月期以降は改善が続いた。
非製造業ではサービス業に価格改定の効果がみられたほか、コンサルタントや広告といった職種で需要が増えた。建設業はデータセンター需要の高まりが景況判断を押し上げた。
大企業の先行きは全産業ベースで4~6月期はプラス2.0、7~9月期はプラス5.6と改善が続く見通しだ。
中堅企業の現状は全産業がプラス0.2でプラスを維持した一方、中小企業の全産業はマイナス12.9と悪化が続いた。
財務省の担当者は「景気が緩やかに回復しているという政府の認識と齟齬(そご)がない」と語った。

かなり長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIのグラフは下の通りです。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と水色の折れ線の色分けは凡例の通り、濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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繰返しになりますが、統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラスを継続していて、したがって、景況感は順調に改善を続けると考えるべきです。ただ、繰返しになりますが、米国とイスラエルによるイラン攻撃やその余波としての石油価格上昇前に調査された結果ですので、企業マインドにどのような変化があったかは、この統計からは不明としかいいようがありません。過去の数字と見なすエコノミストも少なくないと私は想像しています。なお、日銀発表によれば、日銀短観の調査表発送日は2月26日、基準回収日は本日3月12日だそうですから、この法人企業景気予測調査の結果から日銀短観は大きな違いを見せる可能性が十分あります。
大企業においては、製造業・非製造業とも景況判断指数(BSI)は似通った動きで、ついでながら、中堅企業も同じなのですが、中小企業の景況判断指数(BSI)については足元の1~3月期がそもそも▲12.9と大きなマイナスであり、先行き7~9月期の▲1.6までマイナスが続く、という結果が示されています。また、引用した記事にはありませんが、雇用と設備投資計画について簡単に見ておくと、従業員数判断BSIは引き続き大きな「不足気味」超を示しており、大企業でも、中堅企業でも、中小企業でも、足元の3月末時点、6月末のじて、9月末の時点まで、ずっとで+20の大きな不足超=人手不足が継続するという見通しが示されています。設備投資計画は今年度2025年度に全規模全産業で+3.9%増が見込まれています。ただ、前回調査では+6.6%増が見込まれていましたので、下方修正された印象があります。
どうでもいいことながら、引用した日経新聞の記事では「米国・イスラエルとイランの軍事衝突」と表現されている一方で、時事通信の配信では、私のブログと同じ「米イスラエルによるイラン攻撃」となっています。政府による暗黙の報道統制めいたものが日経新聞にはよく現れている、おそらく、それをポジに受け止める購読者も少なくない、と私は勝手に想像しています。

果たして、4月1日公表予定の3月調査の日銀短観やいかに?

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2026年3月11日 (水)

国内物価が+2%上昇まで縮小した2月の企業物価指数(PPI)

本日、日銀から2月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+2.0%の上昇となり、60か月、すなわち、5年連続の上昇です。先月1月統計からやや上昇率が縮小し、日銀物価目標の+2%近傍となっています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

国内企業物価、2月は前年比2.0%上昇 銅・金など市況高で
日銀が11日に発表した2月の企業物価指数(CGPI)速報によると、国内企業物価指数は前年比2.0%上昇した。60カ月連続プラス。銅や金などの市況高により非鉄金属が大幅上昇したほか、農林水産物、飲食料品なども押し上げに寄与した。一方、前月比では0.1%下落し、2025年8月以来6カ月ぶりのマイナスとなった。
ロイターがまとめた民間調査機関の予測中央値は前年比2.1%上昇、前月比0.1%上昇だった。
前年比で最も押し上げに寄与したのは非鉄金属で、前年比32.5%上昇した。銅や金などの市況上昇が影響した。続く農林水産物は同18.5%上昇。集荷業者が農家に支払う概算金が引き上げられたことがコメの値上がりにつながった。飲食料品は同4.6%上昇。引き続き原材料や包装資材などの諸コスト上昇を転嫁する動きが出ている。
全515品目中、前年比で上昇したのは365品目、下落は127品目。差し引きは38品目だった。
>イラン攻撃の影響は3月以降に反映<
前月比で最も押し下げ方向に影響したのは、電力・都市ガス・水道。電気・ガス料金負担軽減支援事業による負担軽減策で事業用電力と都市ガスの価格が下落した。上水道も一部の自治体が減免措置を講じたことで値下がりした。
一方、石油・石炭製品は前月比で押し上げに寄与した。中東地域の地政学リスクの高まりに伴って上昇したドバイ原油市況を反映し、ガソリンや軽油などが値上がりした。
エネルギー関連財の価格上昇を、事業用電力や都市ガスの価格下落がおおむね相殺する形となり、前月比は小幅な下落となった。米国とイスラエルのイラン攻撃の影響は反映されておらず、3月以降の指数に影響が出てくるとみられている。
2月の輸入物価指数(円ベース)は前年比2.8%上昇だった。前月(0.7%上昇)から上昇幅を拡大。2024年7月以来の高い伸びとなった。銅や金など国際商品市況の価格上昇を反映した。

インフレ動向が注目される中で、長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率を、下のパネルは国内物価指数そのものを、それぞれプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、企業物価のうちヘッドラインとなる国内物価上昇率は、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.1%でした。引用した記事の2パラにもあるように、ロイターでも同じ+2.1%と見込んでおり、実績の+2.0%はホンの少し、▲0.1%ポイントだけ下振れしました。国内物価が上昇率が高止まりしている要因は、引用した記事の1パラメや3パラめにあるように、非鉄金属と農林水産物の価格上昇であり、さらに、農林水産物に連動して飲食料品の価格上昇も継続しています。コメなどが高い上昇率を示しています。また、対ドル為替相場は、2月に入って▲1.1%の円高ですが、平均で対ドルレートは150円台後半を記録しています。さらに、私はエネルギー動向に詳しくないので、日本総研「原油市場展望」(2026年2月)を参考として見ておくと、1月のWTI原油先物価格は、米国によるベネズエラ攻撃やイランにおける反政府デモの激化、さらに、ロシアの石油タンカーに対するドローン攻撃など、地政学的リスクの増大を通じた供給懸念により一時60ドル台に乗せたものの、先行き見通しについては「原油価格は、年央にかけて50ドル台に下落する見通し」とされています。ただ、3月に入って、米国とイスラエルによるイラン攻撃やホルムズ海峡の封鎖などにより、石油価格動向はまったく不透明です。いずれにせよ、2月統計を見る限り、国内物価の上昇は原油価格ではなく国内要因による物価上昇であることは明らかです。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず、引用した記事にもある通り、非鉄金属は1月+33.0%、2月+32.5%と、きわめて高い上昇率が続いています。農林水産物も1月の+21.9%からやや減速したとはいえ、2月も+18.5%と高止まりしています。農林水産物の価格上昇に伴って、飲食料品の上昇率も2月は+4.6%と、前月1月の+5.1%と大きな違いはない上昇となっています。電力・都市ガス・水道は▲6.7%と政府の電気・ガス料金負担軽減支援事業により下落しています。ただ、この政策は3月使用分までですので、4月からはどうなるのか不透明です。最後に、石油・石炭製品は1月▲12.9%に続いて、2月統計でも▲11.7%の下落を見せていますが、指標となるWTI先物価格が大きく乱高下しており、3月統計でどうなるかはまったく見通せません。

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2026年3月10日 (火)

2025年10-12月期GDP統計速報2次QEはやや上方改定

本日、内閣府から2025年10~12月期GDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの系列で前期比+0.3%増、年率換算で+1.3%成長を記録しています。1次QEから上方改定されいます。設備投資などが上振れています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+3.4%、国内需要デフレータも+2.8%に達しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

GDP年率1.3%増に上方修正 10-12月改定値、設備投資など伸び
内閣府が10日発表した2025年10~12月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.3%増、年率換算で1.3%増だった。2月発表の速報値(前期比0.1%増、年率0.2%増)から上方修正した。最新の経済指標を反映した結果、設備投資などが上振れした。
1次速報時と同様に、実質ベースで2四半期ぶりにプラスに転じた。QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は年率1.1%増だった。
成長率への年率の寄与度は内需がプラス0.3ポイント、外需がマイナス0.00ポイントだった。速報値はそれぞれプラス0.04ポイント、プラス0.02ポイントで、設備投資や個人消費など内需の伸びが全体を押し上げた。
設備投資は速報値の前期比0.2%増から1.3%増に上振れした。3月発表の法人企業統計など各種統計を反映した。人工知能(AI)需要を背景にデータセンター投資が続く情報通信業が堅調だった。建設も都市開発で速報値の想定より高くなった。
GDPの半分を占める個人消費は速報値の0.1%増から0.3%増に上方修正した。「サービス産業動態統計調査」などの最新の統計を反映した結果、ゲーム・玩具や飲食サービスのマイナス幅が速報時より縮小した。インバウンド(訪日外国人)需要が堅調だった宿泊サービスも上振れした。
住宅投資は4.9%増と速報値の4.8%増から上方修正した。
民間在庫の成長率への寄与度は0.3ポイントのマイナス寄与だった。速報値から0.1ポイント下向きに修正した。
政府消費は0.1%増から0.4%増に見直した。公共投資は1.3%減から0.5%減に上方修正した。
輸出と輸入はいずれも0.3%減で速報値から変わらなかった。
25年通年でみると、実質GDPは前年比1.2%増の591兆4314億円だった。名目GDPは4.7%増の663兆7573億円で、いずれも速報段階から上振れした。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比3.4%上昇で、速報値と変わらなかった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。なお、雇用者報酬については2種類のデフレータで実質化されていてる計数が公表されていますが、このテーブルでは「家計最終消費支出(除く持ち家の帰属家賃及びFISIM)デフレーターで実質化」されている方を取っています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2024/10-122025/1-32025/4-62025/7-92025/10-12
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.5+0.3+0.6▲0.7+0.1+0.3
民間消費+0.0+0.7+0.2+0.5+0.1+0.3
民間住宅+0.6▲0.2+0.0▲8.4+4.8+4.9
民間設備▲0.5+0.5+1.2▲0.0+0.2+1.3
民間在庫 *(▲0.2)(+0.4)(+0.0)(▲0.2)(▲0.2)(▲0.3)
公的需要▲0.2▲0.1+0.5▲0.1▲0.2+0.2
内需寄与度 *(▲0.3)(+0.9)(+0.5)(▲0.4)(+0.0)(+0.3)
外需寄与度 *(+0.8)(▲0.6)(+0.1)(▲0.3)(+0.0)(▲0.0)
輸出+1.7▲0.2+1.9▲1.4▲0.3▲0.3
輸入▲1.9+2.5+1.4▲0.1▲0.3▲0.3
国内総所得 (GDI)+0.5▲1.0+0.7+0.1+0.1+0.4
国民総所得 (GNI)+0.2+0.4+0.6+0.3▲0.5▲0.2
名目GDP+1.1+0.9+2.2▲0.0+0.6+0.9
雇用者報酬+0.5▲1.0+0.7+0.1+0.5+0.5
GDPデフレータ+3.0+3.6+3.2+3.5+3.4+3.4
内需デフレータ+2.5+3.1+2.6+2.8+2.6+2.6

上のテーブルに加えて、需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2025年10~12月期のGDP統計速報2次QEの最新データでは、前期比成長率が2四半期ぶりのプラス成長を示し、赤の民間消費と緑色の民間住宅と水色の民間設備がにプラス寄与していますが、灰色の民間在庫がマイナスの寄与度を示しているのが見て取れます。なお、最近時点での見やすさを重視したスケールに変更していて、コロナ期の大きな振幅を無視してカットされる部分もあります。

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先月2月17日に公表された1次QEでは季節調整済みの系列で前期比+0.1%増、前期比年率で+0.2%増の成長であったところ、繰り返しになりますが、本日の2次QEではそれぞれ+0.3%増、+1.3%増に上方修正されています。内需のうち、民間消費と民間住宅と民間設備の国内需要が上方修正された一方で、民間在庫が少し下方修正されています。ただ、民間税この下方修正は成長率にはマイナス寄与ですが、在庫調整の進展があったことを示しており、決して、好ましくない動向と考えるべきではありません。加えて、1次QEから昨年公表された産業連関表に従って、基準年次が2020年に変更されており、これに従って過去にさかのぼって、かなり大きな改定がなされています。他方で、外需(純輸出)は小幅にマイナス寄与となっています。ただし、この統計はまったく過去の数字、と私は考えています。いうまでもなく、米国とイスラエルによるイラン攻撃に伴うホルムズ海峡封鎖により、石油価格が跳ね上がっているからです。米国の関税に関しても不透明感が強く、先行きはまったく見通せません。ただし、大きな原則的見方として、米国がこのままソフトランディングに成功して、景気後退にならなければ、日本もそうそう景気後退に陥ることはない、と私は楽観しています。いずれにせよ、景気後退ともなれば雇用をはじめとして急激な景気の悪化が見られるのが通常であり、それ故に景気後退については回避できれるのであれば回避すべきという考えがエコノミストの間では強いのですが、直前のリーマン証券破綻後の金融危機とか、コロナのパンデミックとか、きわめて厳しい景気の悪化に比べれば、現在の日本経済は景気後退局面ではない、というか、それほど厳しい景気悪化には陥っていない、と私は考えています。ただ、先行きはまったく不透明、と考えるべきです。

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2026年3月 9日 (月)

1-2月の統計はすでに過去の数字かも-景気動向指数と景気ウォッチャーと経常収支

本日、内閣府から1月の景気動向指数と2月の景気ウォッチャーが、また、財務省から1月の経常収支が、それぞれ公表されています。統計のヘッドラインを見ると、景気動向指数については、CI先行指数は前月から+2.1ポイント上昇の112.4を示し、CI一致指数も+2.5ポイント上昇の116.8を記録しています。また、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+1.3ポイント上昇の48.9となった一方で、先行き判断DIは▲0.1ポイント低下の50.0を記録し、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+9416億円の黒字を計上しています。まず、それぞれの統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

景気一致指数1月は2.5ポイント上昇、生産押し上げ3カ月ぶり改善
内閣府が9日公表した1月の景気動向指数速​報(2020年=100)によると、自動車の生産・輸‌出好調などにより、足元の景気を示す一致指数は前月比2.5ポイント上​昇の116.8で、3カ月ぶりに改善した。先行​指数も同2.1ポイント上昇し112.4となり、9カ月連続で改善した。基調判断​は「下げ止まりを示している」​で据え置いた。
一致指数を押し上げたのは、鉱工業用生産財出荷指数と耐久消​費財出荷指数、鉱工業生産​指数、輸出数量指数など。国内外向け自‌動車生産が好調だったほか、欧州連合(EU)向け自動車輸出なども伸びた。有効求人倍率は求職​者の増加​で悪化し指数を押し下げた。
先行指数を押し上げたの​は、鉱工業用生産財在庫率​指数や日経商品指数、東証株価指数、消費者態度指数など。電子部品の出荷好​調や銅価格上昇、​株価最高値更新などが寄与した。一方、​新規求人数は指数を押し下げた。
街角景気、2月は4カ月ぶり改善 前月比1.3ポイント上昇の48.9
内閣府が9日公表した2月の景気ウオッ​チャー(街角景気)調‌査によると現状判断DIは前月比1.3ポイント上昇の48.9となり、4カ月ぶりに改​善した。基調判断は「景気​は持ち直している」とした。
先行きについては「価格​上昇の影響等を懸念しつつ​も、持ち直しが続くとみられる」とした。
業界別のDIの前月比では、住宅関連が4.1ポ​イント、サービス関連​が3.0ポイント、飲食関連が2.9ポイント改善し‌た。小売り関連は0.6ポイントと小幅な伸びにとどまった。
企業からは「物価高騰で酒類の販​売に影響​が生じている」(北海道・小売店)、「値上げで単価​が上がったがその価格​に客が慣れてきている」(九州・衣料専門店)などの声が聴かれた。
経常収支1月は9416億円の黒字=財務省
財務省が9日発表した国際収支状況速報によると、1月の経常収支は9416億円の黒字となった。ロイターが民間調査機関に行った事前調査の予測中央値9600億円程度の黒字をわずかに下回った。
経常黒字は、12カ月連続。前年同月は3446億円の赤字だったが、貿易収支が赤字幅を縮小したため黒字に転化した。
貿易収支は6004億円​の赤字。赤字幅は前年比2兆3336億円縮小した。
経常収支の稼ぎ頭で、海外への直接投資からの収益や海外の​子会社からの配当の受け取り等からなる第1次所得収支は2兆7466億円の黒字だったが、黒字幅は前年比7824億円縮小した。
第一生命経済研究所主席エコノミストの星野卓也氏は、貿易収支は半導体・AI(人工知​能)周りの輸出が持ち直しており、データセンターへ​の投資や需要に支えられていると指摘する。貿易赤字の縮小で‌改善する中、円安により所得収支が膨らむという足元のトレンドに大きく変わりはない、とみる。
一方で、中東情勢不安定化による原油市場の高騰が、4月以降経常収支に影響が出​てくることを​懸念する。貿易赤字が再拡大して即経常赤字とはいかなくとも、経常収支面で影響が明確に出​てくる可能性がある、と同氏は指摘する。
サー​ビス収支で日中関係冷え込みによる、中国人観光客の減少が旅行収支に与える影響に関しては、中国以外である程度カバーされて​おり、インバウンド訪日旅行客​への影響はひと頃より「中国インパクト」分散化で押さえられてい​る、とも述べた。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。ただし、統計公表からそれほど時間をおかずに引用していますので、その後追加記事が出ている可能性があります。続いて、景気動向指数のグラフは次の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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繰返しになりますが、1月統計のCI一致指数は、前月から+2.5ポイント上昇しました。3か月ぶりの上昇となります。加えて、内閣府のプレスリリースによれば、3か月後方移動平均は+0.37ポイント上昇し、2か月ぶりの上昇となり、加えて、7か月後方移動平均も前月から+0.13ポイント上昇し、3か月ぶりの上昇となっています。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、昨年2025年5月統計から「下げ止まり」に下方修正されましたが、今年2026年1月統計でも「下げ止まり」に据え置かれています。基調判断はまだ据置きながら、これらはすでに「過去の数字」と考えるべきです。先行きに関しては、私はいろいろと紆余曲折を経つつも、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはない、と考えています。ただし、そもそも、米国経済でも日本経済でもまだまだインフレが高止まりしており、特に、日本ではすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありません。それにもまして、米国とイスラエルによるイラン攻撃から、先行きはまったく不透明になったと考えるべきです。石油価格は指標となるWTI先物がバレル当たり100ドルを大きく突破います。東証の日経平均株価も大きく下げて、50,000円が近づいています。さらにさらにで、長期金利が2%超となっている中で、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めは景気を下押しすることが明らかです。中国は全人代で今年2026年の成長目標を引き下げたと広く報じられていますし、再び、日米同時リセッションの可能性が高まっているのかもしれません。一応、本日公表の統計のうち、CI一致指数だけ見ておくと、引用した記事にもあるように、鉱工業用生産財出荷指数と耐久消費財出荷指数がともに+0.76ポイントの寄与度、さらに、生産指数(鉱工業)も+0.37ポイントの寄与度と、引用した記事のタイトルにもあるように、生産や出荷の押上げ効果が大きくなっています。

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続いて、景気ウォッチャーのグラフは上の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。景気ウォッチャーの現状判断DIは、最近では昨年2025年10月統計の48.2まで6か月連続で上昇または横ばいを記録した後、今年2026年1月統計までジワジワと低下した後、本日公表の2月統計で48.9、前月差+1.3ポイントと4か月ぶりに上昇しています。ただし、現状では緩やかな上昇の動きであり、それほど大きな動きには見えません。いずれにせよ、本日公表された統計は「過去の数字」です。米国とイスラエルによるイラン攻撃、さらに、それに起因する石油価格の上昇を考えれば、景気ウォッチャーの基調判断「景気は、持ち直している。先行きについては、価格上昇の影響等を懸念しつつも、持ち直しが続くとみられる。」というのは、やや怪しくなってきたと考えるべきです。一応、本日公表の昨年2月統計の季節調整済みの現状判断DIをより詳しく前月差で見ると、家計動向関連のうちでは、住宅関連が+4.1ポイント前月から上昇し、サービス関連も+3.0ポイント、飲食関連が+2.9ポイント、小売関連が+0.6ポイント、それぞれ上昇しています。企業動向関連では、製造業は先月1月統計から+1.4ポイント上昇した一方で、非製造業は▲0.9ポイント低下しています。景気判断理由の概要については、記事で引用されているほかに、内閣府の調査結果の中から近畿地方の家計動向関連に着目すると、「来客数は変わらず安定している。海外からの客も昼夜問わず、多く来店している状況に変化はない(コンビニ)。」といっインバウンドに大きな変化はない、といった見方もありました。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。引用した記事の通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスは+9600億円の黒字ということでしたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、+1兆円余りの黒字の見込みでしたので、実績の+9400億円超の黒字はやや下振れした印象です。季節調整していない原系列の統計では、+3兆円を超える黒字を計上しています。ただし、1-2月の経常収支は季節調整していない原系列の統計はもちろん、季節調整がなされていても、旧暦で決まる中華圏の春節の日取りによって大きく変化します。ですから、季節調整以外の方法でも均して統計を見る必要があります。もっとも、何といっても、日本の経常収支は第1次所得収支が巨大な黒字を計上していますので、貿易・サービス収支が赤字であっても経常収支が赤字となることはほぼほぼ考えられません。はい。トランプ関税によって貿易収支や貿易・サービス収支の赤字が拡大したとしても、第1次所得収支で十分カバーできると考えるべきです。ただ、細かな動きとしては、引用した記事に丸ように、中国との外交関係に基づくインバウンド観光客が旅行収支やひいてはサービス収支に及ぼす影響、さらに、何といっても、米国とイスラエルによるイラン攻撃に端を発する中東情勢に基づく石油価格の動向、などなど考慮すべき点はいくつかあります。いずれにせよ、対外不均衡の問題が経常収支にせよ、貿易・サービス収支にせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はありません。エネルギーや資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常収支や貿易収支が赤字であっても何の問題もない、逆に、経常黒字が大きくても特段めでたいわけでもない、と私は考えています。

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2026年3月 8日 (日)

大学生の学生生活やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、2月24日に全国大学生協協同組合連合会から「第61回学生生活実態調査」の結果が報告されています。やや、国立大学に偏りあるものの、全国の国公私立の大学学部生13,000人余からの回答を得ている大規模調査です。まず、長くなりますが、リポートp.2から調査結果の特徴を5点引用すると次の通りです。

調査結果の特徴
  1. 自宅生・下宿生ともに、物価高の中で食費は増加する一方、交通費や教養娯楽費、学習関連支出を抑制している。とくに書籍費は2016年以降で初めて1,000円を下回り、学習関連支出の低下が続いている。収入総額は維持・拡大しており、収入の中心はアルバイト収入や仕送り・小遣いなどである。
  2. 給付型奨学金受給者が増加し、授業料の減額・免除を受けている学生の割合も上昇していることから、修学にあたって支援を受けられる学生が増えている。しかし、貸与型奨学金受給者に限れば、引き続き、暮らし向きは苦しいと感じる学生が相対的に多く、返済不安など困難を抱えている割合も多い。
  3. 登校日数や平均滞在時間は2019年水準に近づいているが、滞在時間の分布構造はコロナ禍前と異なる。中程度の滞在時間層が縮小する一方、短時間滞在と長時間滞在が増加している。
  4. 大学生活における人間関係形成のあり方として、従来想定されてきたサークルなどの組織的な活動への参加よりも、趣味や推し活など個々の関係性への接続を重視する方向へと、緩やかな変化が生じている。
  5. 「生成AIの利用経験あり」は92.2%に大幅に増加した。利用目的は授業・研究やレポート作成など学修関連が中心であるが、翻訳や相談相手など補助的・日常的な用途にも広がっている。

まず、最初の特徴のひとつに上げられていますが、書籍費がここ数年で激減しています。1か月の支出額で見て、自宅生は2024年に1,450円あった書籍費が2025年には970円となり、下宿生では2024年1,500円から2025年990円となっています。そして、食費については自宅性と下宿生の差が大きいでしょうから、下宿生を見るとリポートにある2016年以降10年間に渡って、月3万円を下回っています。1日当たり1,000円未満で済ませていることになります。大丈夫なのか、という気にさせられます。私の興味あるところから、グラフを2枚だけ引用しておくと次の通りです。

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まず、上のグラフは、リポート p.19 ChatGPTなど生成AIの利用状況 を引用しています。見れば明らかですが、毎年大きく増加してきており、最近時点では90%を超えています。どこまで使いこなせているかは別にして、事実上、100%と見なして差し支えないものと考えるべきです。今でもリポートや論文作成の際に、生成AI禁止で臨んでいる教員がいると聞き及んでいますが、むしろ、ChatGPTなどの生成AIは積極的に活用した方がいいと私は考えています。禁止してしまうと使い方を教えないので、逆に、使い方を間違う可能性が高くなって、その方が望ましくないと考えるべきです。先日、別の大学の先生と会議の合間に雑談していて、私がどのように生成AIを使ったかをお話した記憶があります。最近の紀要論文 "How Tourism Promotes Economic Development: A Case of Cambodia" は、カンボジアを例にした観光経済学の論文なのですが、ギャンブルが観光資源として適格(eligible)かどうか、を論じる際に、私は不適格だと考えているのでChatGPTにギャンブルは観光資源として不適格とする論文をリストアップしてもらって、いくつか読んで引用したのですが、実は、ギャンブルは観光資源として適格でありしっかりと活用すべき、という論文も負けず劣らずいっぱいあるのを知った、と笑い話をしていました。

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次に、読書時間です。上のグラフは、リポート p.22 1日の読書時間「0分」と読書時間(分)の推移 を引用しています。50歳以上くらいで年配になればなるほど、最近の大学生や若者は読書しない、という根拠のない思いこみを持つ人が多いのですが、そんなことはありません。むしろ、数十年前から比べて読書時間は増えているくらいですし、ここ10年という短期ながら、少なくとも読書ゼロが増加していたり、読書時間が減少していたり、という年輩の方の思いこみに根拠はないということが読み取れます。

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2026年3月 7日 (土)

今週の読書は芥川賞受賞作を含めて計7冊かな?

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、軽部健介『人事と権力』(岩波書店)では、内閣が日銀の総裁・副総裁や政策委員の任命という人事をテコとして、中央銀行の独立を無意味にしたり、金融政策を歪めたりといった可能性について、ジャーナリストの視点からの考察しています。ただ、国民主権の観点から私は疑問を感じました。鳥山まこと『時の家』(講談社)は、第174回芥川賞受賞作品であり、30代半ばの男性が『売物件』と掲示された家に忍び込んで、その家を中心に人々の暮らしや何やを描写しています。ストーリー全体としてタイムスパンは長いのですが、各センテンスはとても短くテンポよくなっています。畠山丑雄『叫び』(新潮社)は、第174回芥川賞受賞作品であり、30歳を過ぎた地方公務員の主人公が結婚を考えていたお相手に振られて、自暴自棄になって金遣いが荒くなったところで、銅鐸作りの先生に出会い銅鐸にのめり込みます。関西言葉の会話のテンポがいい作品です。山口二郎『現代ファシズム論』(朝日新書)では、戦後民主主義の危機の時代にあって、21世紀の現代型のファシズムをフェイク=虚偽をフルに活用した「フェイクファシズム」として捉え、米国トランプ政権がファシズムであるかどうかを運動、思想、体制の3つの観点から分析しています。橋本努・金澤悠介『新しいリベラル』(ちくま新書)では、従来型のリベラルが弱者救済型の福祉政策や高齢者への支援を重視するのに対して、新しいリベラルは成長支援型の福祉政策を支持し、子育てや世代や次世代への支援を重視するのではないか、との仮説から、その特徴を把握しようと試みています。エルモア・レナード『ビッグ・バウンス』(新潮文庫)は、1960年代の米国5大湖周辺を舞台に、流れ者=季節労働者として農園で働く主人公が、その農園の社長の愛人である10代の若くて奔放な女性と出会って引かれて行き、農園労働者の給料を盗む計画を持ちかけられる、というノワールな小説です。葉室麟『螢草』(文春文庫)では、16歳の主人公の菜々が風早家に女中奉公に上がり、身分の分け隔てなく接してくれる主人、優しい奥方様や2人の可愛い子供たちに囲まれますが、奥方様は結核で亡くなり、藩政改革派の主人も卑劣な謀略に嵌められます。菜々は周囲に助けられながら風早家の2人の子どもを守って孤軍奮闘します。
今年2026年の新刊書読書は、1月中に24冊、2月に25冊、今週の7冊を加えて合計56冊となります。また、本日取り上げた新刊書読書のほかに、井上真偽『ぎんなみ商店街の事件簿』Sister編とBrother編(小学館)も読んでいます。ただ、新刊書ではないので、本日のレビューには含めず、すでにいくつかのSNSにポストしてあります。残る読書感想文についても、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

 

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まず、軽部健介『人事と権力』(岩波書店)を読みました。著者は、帝京大学経済学部教授なのですが、時事通信社に長らくお勤めのジャーナリストです。本書のタイトルは大きく出ていますが、実は、日銀総裁の任命をめぐる問題点を議論しています。時期的には、1998年の新しい日銀法の制定の直前、すなわち、新日銀法の企画立案のころから始まっています。新日銀法により、日銀は中央銀行として世界標準の独立を果たしたものの、人事で日銀の金融政策が歪められた可能性はないのか、すなわち、総裁や政策委員の任命は国会の同意のもとに内閣によって行われることから、内閣が、あるいは、首相が総裁・副総裁や政策委員の任命という人事を通じて日銀の独立を実体的に無意味にするような支配力を行使しているのではないか、という問題意識からファクトを積み重ねています。特に、アベノミクス期の安倍首相がリフレ派のエコノミストを日銀に送り込んで、金融政策に対する大きな影響力を持っていたのではないか、という疑問を解明しようと試みています。ただし、私の考えでは、中央銀行とて民主主義国家では民主主義的な統治の下にあります。当然です。他方、本書で1回も登場しない国民主権が民主主義の大きな原則です。ですから、中央銀行は政府から独立しているとしても、国民主権を離れて経済社会や国民生活から独立しているわけではありません。その国民主権によるチェック・アンド・バランスとして、国会の同意と内閣の任命という行為があるのだろうと私は考えています。本書が、中央銀行の独立というのは、あくまで、政府からの独立である点を認識しているのかどうか、読んでいて、私は少し疑問を感じました。まさか、中央銀行が国民主権からも独立して、あくまで専門家として行動すべき、と考えているとは思わないのですが、中央銀行というインナーサークルが主権者たる国民からのチェックを受けずに、あまりに国民生活を考慮することなくデフレに陥ったために国民生活が犠牲になった、というのが一面の真理ではないだろうかと私は考えています。本書で言及されている「オーソドックスな人事」の基礎の下に、金融政策は国民生活からも独立して、日銀エリートだけが関与する、というのは明らかに民主主義国家の中央銀行として誤った道だと私は考えます。例えば、かつては日銀エリートは「岩石理論」を振り回してリフレ派理論を否定していたのですが、今では「岩石理論」なんて恥ずかしくて、誰も口にしないと思います。はい、本書でいう中央銀行の独立のもとで日銀エリートが政策判断を間違った、という観点は本書ではとても希薄に感じます。米国の連邦準備制度理事会はいわゆるデュアル・マンデートで物価と雇用の両睨みですが、日銀は他の中央銀行と同じで物価安定がもっとも重要な金融政策目標です。そこに、1990年代初頭のバブル崩壊から「羹に懲りて膾を吹く」教訓を得て、バブルを回避すればバブル崩壊は起こらない、という誤った使命感からデフレに陥った面があると私は考えています。ですので、デフレに陥ることがなければ、それほどリフレ派に頼った政策変更を必要としなかったように感じています。逆から見て、アベノミクス前の日銀が金融政策運営を失敗してデフレになったので、その反動も含めてアベノミクスで強引なリフレ政策が持ち込まれた、というのが私の理解です。そのあたりは、どちらの面を見るかで違ってくるのだろうと思いますが、本書の視点は逆に反リフレ派的な印象を持つのは私だけではないと感じます。最後に、私が本書を読もうと考えた内幕を明かすと、本書は2年前の出版であり、それほど新刊という気はしないのですが、先月2月に高市内閣が日銀政策委員の新規候補者2人を国会に提示した、しかも、2人ともリフレ派エコノミストである、というニュースに接して、読み逃していた本書を手に取った次第です。

 

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次に、鳥山まこと『時の家』(講談社)を読みました。著者は、小説家であり、京都府立大学から九州大学大学院を終えており、ご専門は建築のようです。本作品は第174回芥川賞受賞作品です。一応、お断りですが、表紙画像は単行本のバージョンを引用していますが、私は『文藝春秋』2026年3月特別号にて、選評や受賞者インタビューとともに読んでいます。ですので、単行本の読者よりは、ある意味で、情報は豊富かと考えています。ということで、まず、主人公はタイトル通りに家なんだろうと思います。冒頭、30代半ばの男性が『売物件』と掲示された家に忍び込んで、その家を中心に人々の暮らしや何やを描写しています。ストーリー全体としてはタイムスパンも長くて、決して短文ではないのですが、各センテンスはとても短くしてあります。テンポがよくなっています。私なんかが大学や大学院で論文指導をする場合に、「一文一義」という原則を最初に教えます。そういった短いセンテンスの文章が続きます。ただ、取壊しの際の描写にはセンテンスが長くなり、取壊しが終わるとまた短いセンテンスに戻ります。このあたりは意識して書いたのであれば素晴らしい技巧ですし、無意識にそうなったというのであっても素晴らしい文章センスだと感じました。ただ、短いセンテンスにしては前半はモッチャリした描写が続きます。吉田修一の選評によれば、立ち上がりが遅い、暖房器具だったら風邪をひく、と表現されています。ただし、逆にそのペースに慣れれば段々とストーリーにのめり込む読者もいそうです。

 

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次に、畠山丑雄『叫び』(新潮社)を読みました。著者は、小説家であり、京都大学文学部のご出身です。本作品は第174回芥川賞受賞作品です。一応、お断りですが、表紙画像は単行本のバージョンを引用していますが、私は『文藝春秋』2026年3月特別号にて、選評や受賞者インタビューとともに読んでいます。ですので、単行本の読者よりは、ある意味で、情報は豊富かと考えています。ということで、まず、舞台は大阪府茨木市です。我が立命館大学は茨木にもキャンパスがあって、私は何度も授業に通ったことがあります。でも、それほど土地勘はありません。それはともかく、主人公は30歳を過ぎた地方公務員らしいのですが、結婚を考えたお相手がいて、両者の中間地点の茨城に引越してまでしたのですが、そのお相手に振られて、自暴自棄になって金遣いが荒くなったところで、銅鐸作りの先生に出会い銅鐸にのめり込みます。ストーリーもさることながら、関西言葉での会話のテンポがいいです。かつての川上未映子の芥川賞受賞作「乳と卵」のようでした。ただ、それは私が関西出身だからという面がある可能性は否定しません。ですから、島田雅彦の選評では、読者の東西の出身によって評価が分かれる可能性が指摘されています。すなわち、関西出身者には高く評価されそうだ、という指摘です。もうひとつ、小説の重要な要素に「聖」があります。社会福祉によって「聖」を支える必要性については、私自身も「聖」のスコープをもう少し芸術くらいまで広げて賛成です。最後の最後に、山田詠美の選評に私が激しく同意するのは、最後のエピローグがまったく不要、という点です。

 

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次に、山口二郎『現代ファシズム論』(朝日新書)を読みました。著者は、長らく北海道大学の教授だと私は思っていたのですが、今は法政大学法学部の教授だそうです。前世紀ながら社会党の村山内閣のブレーンだったり、今世紀初頭には政権交代した後の民主党の鳩山内閣などのブレーンであったと私は認識しています。本書では、タイトル通り、約100年前の戦間期のイタリアやドイツのファシズムではなく、現在の21世紀における民主主義の危機を現代型のファシズムという観点から分析しようと試みています。ただ、その前提として、戦間期ファシズムの成立の3条件を上げています。すなわち、第1に、民主主義の宿命ですが、民主主義を否定する勢力の拡張です。ロシアで成立した共産党政権とか、イタリア・ドイツのファシズム政党などを上げています。第2に、オルテガ・イ・ガセットの論点で、普通選挙制による民主主義を担う市民層の拡大により、それまで所得や資産の裏付けのある教養や公共的な精神を持った市民だけではなく、自己の利益を追求するグループも参加を拡大した点です。第3に、1929年から始まる世界恐慌と経済危機により、合理的に判断できる基盤を失った市民が少なくありませんでした。加えて、ウンベルト・エーコ『永遠のファシズム』からファシズムを構成する14の要素をpp.15-16に列挙しています。その上で、戦後から1970年代くらいまでは安定した経済成長とともに民主主義が機能していた一方で、1980年代から新自由主義的な経済政策運営とともに民主主義が怪しくなり、21世紀に入り、特に、2016年の英国のいわゆるBREGXITや米国でのトランプ大統領を選出した大統領選挙あたりに象徴されるように、民主主義が危機に陥った、と指摘しています。そして、その21世紀の民主主義の危機の背景としてグローバル化への反発、SNSをはじめとする情報やコミュニケーションの変化を上げています。経済面では、新自由主義的経済政策とともに、まるで営利企業を経営するような国家運営が始まり、国家が政権権力者の家産国家化した、との結論を導いています。要するに、トランプ大統領に対して "No King" とのプラカードを持ったデモがあったように私は記憶していますが、国家が権力者の私物になって、権力さえあれば、嘘をついても不法行為をしても、何でも許されるという日本でも安倍内閣から菅内閣のころに見られた国家観が示されています。そして、慶応義塾大学の金子勝教授の著書のタイトルを借りて、フェイク=虚偽をフルに活用したファシズムという意味で、現代型のファシズムを『フェイクファシズム』と読んでいます。また、第6章では米国のトランプ政権を運動、思想、体制の3つの観点からファシズムであるかどうかについて短い考察を提供しています。トランプ政権の分析とそれに続く左派勢力のファシズムへの対抗などについては、読んでみてのお楽しみです。最後に、私自身はこの著者に対して、一定の親近感は持っているものの、それほど強い思い入れはありません。1980年代だったと思いますが、強烈に小選挙区制を推奨していましたし、かつ、村山内閣の成立時に当時の社会党に安保や自衛隊に関して、いわゆる「現実路線」を主導したりと、なし崩し的な左派勢力の右傾化を進めてきたような印象もあります。したがって、本書に関してもいわゆる「左からの批判」が出る可能性があると認識しています。はい、期待しているのではなく、予想しているだけです。

 

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次に、橋本努・金澤悠介『新しいリベラル』(ちくま新書)を読みました。著者は順に、北海道大学大学院経済学研究科教授とシノドス国際社会動向研究所所長、および、立命館大学産業社会学部現代社会学科教授だそうです。まず、本書ではリベラル派の衰退について事実関係を示しています。はい、その通りだと思います。本書のスコープを超えて、先月2月の総選挙でも立憲民主党が公明党に取り込まれて新党を結成した上で選挙でも大敗した、という事実は隠しようがありません。そういったリベラルの衰退を考える際に、本書ではかつての保守vs革新、という構図からの変化を基に、実は、旧来リベラルではなく、本書のタイトルになっている新しいリベラルはそれほど衰退していない可能性がある、という主張を数千人規模の社会調査に基づいて検証しようと試みています。その新しいリベラルの特徴として、3点上げています。すなわち、(1) 旧来リベラルの弱者保護ではなく、成長支援型の社会福祉、(2) 従来の高齢世代支援ではなく、子育て世代や将来世代への支援、(3) 新しいリベラルは反戦護憲などの戦後民主主義的な論点には強くコミットしない、ということになります。そして、社会調査結果の分析に先立って、新しいリベラルの理論的背景をなす4つの潮流を考えます。第1に、1990年代の英国労働党のブレア政権の理論的基礎となったギデンズの『第3の道』、第2に、エスピン-アンデルセンの『福祉資本主義の三つの世界』、第3に、ベッラメンディの『先進的資本主義の政治』、そして、第4に、マッツカートの『ミッション・エコノミー』です。一応、私はエコノミストですので『ミッション・エコノミー』は読みましたし、『第3の道』と『福祉資本主義の三つの世界』の2冊は大雑把に内容を把握していますが、『先進的資本主義の政治』についてはよく知りませんでした。その理論的解明の上で、社会調査結果から日本における6グループを抽出しています。すなわち、新しいリベラルのほか、従来型リベラル、成長型中道、政治的無関心、福祉型保守、市場型保守、となります。それぞれが占めるシェアや特徴などはp.240表6-4に簡単に取りまとめられており、その後に詳細な分析結果が続きます。そのあたりは読んでみてのお楽しみです。最後に、私自身の政治経済的な傾向は、おそらく、新しいリベラルと従来型リベラルの間のどこかにあるような気がします。

 

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次に、エルモア・レナード『ビッグ・バウンス』(新潮文庫)を読みました。著者は、米国の小説家であり、カウボーイたちの西部小説から本作品で現代ノワール小説に転じています。舞台は米国の5大湖周辺のリゾート地ジェニーヴァ・ビーチで、主人公はジャック・ライアンです。かつてはマイナーリーグの野球選手をしていたこともありますが、現在は流れ者=季節労働者として、ピクルス向けのキュウリの摘み取りをしています。働き先の農園リッチー・フーズの社長であるレイ・リッチーの愛人のナンシー・ヘイズと出会います。ナンシーは奔放なハイティーンで、よその家の窓ガラスを割ったり、不法侵入などでスリルを求める生活を送っていたりします。ジャックは作業頭に大立ち回りを演じて裁判沙汰になり農園をクビになります。町から出て行けといわれますが、その裁判に関連した治安判事、ジェニーヴァ・ビーチでカバーニャ=コテージをいくつか所有している治安判事のミスター・マジェスティックのリゾートで雑用係として働き始めます。親しくなった仲で、ナンシーはリッチー・フーズの季節労働者への給料5万ドルの強奪をジャックに持ちかけます。ということで、出版が1960年代後半ですから、それほど荒唐無稽なお話ではありません。荒唐無稽ではない、という意味は、禁酒法下の大恐慌時代、1930年代の Bonnie and Clyde、すなわち、「俺たちに明日はない」と題して映画化された実在の2人のような物語を想像して読むことに比較して、という意味です。どうして、そういう発想になったかといえば、表紙画像の帯に「あんた、いったい、何発撃ったんだよ?」とありますので、発砲しまくって銀行強盗を繰り返す、というイメージを持ってしまったからです。ですので、Bonnie and Clyde の一行のようにド派手、というか、何というか、拳銃をぶっ放しまくる、というストーリー展開ではありません。その分、地味なお話と感じないでもありませんが、それでも、なかなかビミョーに面白いです。ナンシーの実に適当に振る舞う遊び心、奔放さに何ともいえず、本能的に引かれるジャックの心理や行動・言動が、実にたくみに微妙なラインで描写されています。

 

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次に、葉室麟『螢草』(文春文庫)を読みました。著者は、時代小説作家なのですが、2017年に亡くなっています。本書は2012年に双葉社から単行本として出版され、2015年に双葉文庫で文庫化され、今年2026年1月に文春文庫で再文庫化されています。本書の舞台は江戸末期の小藩である鏑木藩です。主人公は女中として武家に仕える16歳の菜々です。菜々が仕える風早家は150石取りながら、鏑木藩は5万2千石の小藩ですので、中士ではなく上士の格となります。主人の風早市之進は藩内の改革派で、清廉な人物であり、病弱な妻の佐知とともに菜々にやさしく接してくれ、子どもの嫡男の正助ととよもよく菜々に懐いています。年配の家僕の甚兵衛が通いで主人に仕えています。菜々はもともと武士の娘でしたが、父親が城内で刃傷沙汰に及んで切腹を命じられお家は断絶し、母親の里の赤村の庄屋の家で育っています。母親の五月が亡くなり、菜々が赤村を離れて風早家に仕えるようになったわけです。しかし、病弱だった奥方様の佐知が亡くなり、主人の風早市之進が謀略にあって罪人として江戸に送られたあげく、他藩預かりという流罪に処せられます。もちろん、風早家のお子2人と菜々は屋敷から追い出されます。何と、菜々の父が刃傷沙汰に及んだ仇が、風早市之進を嵌める謀略を仕組んだ黒幕と知ります。そこから、菜々はがんばって自活し、質屋のお船、地廻りの親分である涌田の権蔵、鏑木藩の剣術指南役である壇浦五兵衛、塾を開いている儒学者の椎上節斎らの助けを得て、父親の仇を討ち、風早市之進の復権を目指す、というストーリーです。結末は見えているわけですが、あらすじはここまでとします。それほど重いお話ではありません。例えば、菜々に助力するお船を「おほね」と、涌田の親分を「駱駝の親分」と、壇浦五兵衛を「だんご兵衛」と、椎上節斎を「死神先生」と、それぞれ誤って呼びかけるというコミカルな要素もありますし、全体のお話のトーンがとても明るい時代小説です。最後に、菜々に助力する人々の設定がとてもご都合主義的に見えるかもしれません。でも、時代小説はしばしばこういった人柄のいい主人公に自然と加勢する人が集まる、そして、主人公は成功裏に目的を達成する、あるいは、勧善懲悪ハッピーエンドのお話が完成する、というものです。その点が、私が時代小説に感じる大きな魅力のひとつだといえます。

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2026年3月 6日 (金)

市場予想を大きく下回った2月の米国雇用統計

日本時間の今夜、米国労働省から2月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は、1月統計の+126千人増から2月統計では▲92千人減と市場予想を大きく下回り、失業率は1月の4.3%から+0.1%ポイント上昇して4.4%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を手短に最初の2パラだけ引用すると以下の通りです。

US shed 92,000 jobs, unemployment ticked up to 4.4% in February
The U.S. economy shed 92,000 jobs in February, the Bureau of Labor Statistics estimated March 6, a sign the overall labor market is still in low-hire mode as employers continue to navigate tariff-related inflation pressures, AI adoption, and geopolitical uncertainty.
The February estimate comes in much lower than the BLS' now-revised gain of 126,000 jobs added in January, which was much higher than the agency's revised figures for 2025, when U.S. employers added only 181,000 jobs throughout the entire year, or about 15,000 a month.

いつもの通り、よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたのですが、それでもまだ判りにくさが残っています。その上、米国連邦政府のシャットダウンにより、2025年10月の失業率は公表されていません。よ~く見ると、下のパネルの失業率がその部分が欠損値になっているのが見て取れます。

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米国の雇用は非農業部門雇用者の増加については、最新の利用可能な2月統計もさることながら、昨年2025年12月の非農業部門雇用者の前月差が前回公表値の+48千人増から▲17千人減へ、また、今年2026年1月統計のデータも+130千人増から+126千人増へ、それぞれ下方修正されています。失業率は4%台半ばにあるとはいえ、わずかながら上昇し、米国雇用は減速が鮮明になっています。米国連邦準備制度理事会(FED)は2025年中に175ベーシスの利下げを実行していますが、この雇用統計を受けて、次回3月17-18日の連邦公開市場委員会(FOMC)では追加利下げが決定されるかどうか、私はビミョーだと受け止めています。どうしてかというと、米国とイスラエルによるイラン攻撃は、石油価格の上昇を通じて明らかにインフレ圧力を高めると考えられるからです。雇用と物価のデュアルマンデートを背負う米国連邦準備制度理事会(FED)は難しい金融政策の舵取りを担うことになります。

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2026年3月 5日 (木)

来週公表予定の2025年10-12月期GDP統計速報2次QEは1次QEから上方修正の予想

今週火曜日3月3日の法人企業統計をはじめとして必要な統計がほぼ出そろって、来週3月10日に、昨年2025年10~12月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である昨年2025年10~12月期ではなく、足元の1~3月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。先行き経済について言及しているシンクタンクはみずほリサーチ&テクノロジーズと第一生命経済研究所などいくつかあり、特にこの2機関は長々と引用してあります。ただし、いつもの通り、2次QE予想は法人企業統計のオマケ的な扱いのシンクタンクも少なくありません。いずれにせよ、1次情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。ただし、最後の行の東京財団だけは、いわゆるナウキャスティングですので、足元の1~3月期の予想となっています。なお、"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.1%
(+0.2%)
n.a.
日本総研+0.3%
(+1.2%)
2025年10~12月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資と公共投資が上方改定される見込み。この結果、成長率は前期比年率+1.2%(前期比+0.3%)と、1次QE(前期比年率+0.2%、前期比+0.1%)から上振れると予想。
大和総研+0.4%
(+1.5%)
2025年10-12月期のGDP2次速報(QE)(3月10日公表予定)では実質GDP成長率が前期比年率+1.5%と、1次速報(同+0.2%)から上方修正されると予想する。主因は10-12月期の法人企業統計の結果を受けた設備投資の上方修正だ。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.2%
(+0.8%)
先行きについてみると、2026年1~3月期の実質GDPは個人消費や設備投資などの内需を中心に緩やかな拡大ペースを維持すると予想する。
個人消費は、実質賃金の改善が追い風になると見込む。名目賃金の上昇傾向が続く一方、食料インフレの減速や政府の物価高対策を受けて物価の伸びが抑制されるためだ。2025年末にいわゆるガソリン暫定税率が廃止されたことに加え、2025年度補正予算に盛り込まれた電気・ガス代支援の効果が2026年2~4月のインフレ率を押し下げる(支援実施期間は1~3月)要因になる。実際、2月の都区部コアCPI(生鮮食品を除く総合)は前年比+1.8%(1月: 同+2.0%)と、2024年10月以来の2%割れとなった。こうした実質賃金の改善に加えて、足元のいわゆる「高市トレード」による株高も資産効果(消費性向の高まり)を通じて個人消費を支える要因になろう。
設備投資は、企業の堅調な景況感・業績や、省力化・DX関連投資といった構造的な投資需要を背景とする旺盛な設備投資意欲を受け、拡大傾向が続くだろう。なお、米国の関税政策については、2月20日の米連邦最高裁判所の判決を受けて相互関税が廃止され、新たな追加関税が発動された。日本からの輸出品に対する関税率は大きく変化しない見通しだが、新たな追加関税が時限的な措置であり、今後も米国関税政策に関する不確実性が残る点には注意が必要だ。
2026年度の日本経済は、こうした個人消費や設備投資の拡大に、高市政権の総合経済対策の効果も本格的に加わり、前年比+1%前後の堅調な成長になると見込まれる。公共投資を中心とする公的需要の拡大、エッセンシャルワーカーの処遇改善や子育て応援手当などを通じた消費喚起、そして、「危機管理投資・成長投資」による設備投資の支援策が、2026年度の成長率を押し上げる主な要因になろう。
ニッセイ基礎研+0.3%
(+1.4%)
3/10公表予定の25年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.3%(前期比年率1.4%)となり、1次速報の前期比0.1%(前期比年率0.2%)から上方修正されると予想する。
第一生命経済研+0.3%
(+1.0%)
先行きについても、好調に推移する米国景気と実質所得の持ち直しという二つの要因が日本経済を下支えし、景気は緩やかな回復が続くと見込んでいる。一方、中東情勢の緊迫化による原油価格の高騰がリスク要因として浮上している。事態が短期で収束に向かえば経済への影響は限定的にとどまるが、長期化すればエネルギー価格の上振れを通じて物価が押し上げられ、景気の下押し要因となり得る。物価鈍化を背景に実質賃金がプラス圏に浮上することが2026年度の景気を支えると予想されるだけに、エネルギー高が長引けば、景気回復シナリオにも暗雲が立ち込めることになる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.3%
(+1.2%)
2026年3月10日に内閣府が公表する2025年10~12月期の実質GDP(2次速報値)は、前期比+0.3%(年率換算+1.2%)と、2月16日に公表された1次速報値の同+0.1%(同換算+0.2%)から上方修正される見込みである。GDP1次速報値公表後に追加された法人企業統計等の基礎統計の結果が、想定より上振れた。国内景気が、内需を中心に緩やかに回復していることを改めて確認できる結果となりそうだ。
伊藤忠総研+0.1%
(+0.6%)
今後はトランプ関税の行方が再び不確実性を高めているほか、中東情勢の悪化によるエネルギー価格高騰のリスクも高まっているが、製造業、非製造業とも大幅な人手不足状態にあるため、企業は来年度の春闘においても今年度並みの高い賃上げを実施、個人消費の拡大を後押ししよう。
明治安田総研+0.2%
(+0.8%)
先行きについて、アメリカ・イスラエルのイラン攻撃に伴う中東情勢の悪化は景気の下押しリスクとなる。原油供給が滞れば生産の重石となるほか、原油価格が上昇すればインフレ圧力は高まる。ただ、3月2日時点のWTI原油先物価格は72ドル台と上昇は限定的である。
この価格水準を前提とすると、物価上昇率は、食品価格の寄与低下や、ガソリン税の旧暫定税率廃止などの効果で鈍化が見込まれる。実質賃金はプラス圏に浮上し、個人消費は緩やかな回復傾向で推移すると予想する。また、設備投資は、日銀短観など各種調査でみられるとおり企業の計画は堅調である。良好な企業収益に加え、省力化投資の需要が安定的に見込まれることが下支え要因となり、底堅い推移が続くとみる。
一方、財輸出は米国の関税が引き続き下押し圧力となるほか、中国向けも振るわないことで停滞気味の推移が見込まれる。日中関係の悪化による訪日客の減少も2026年1-3月を中心に足枷となる可能性が高い。これらを踏まえると、2026年の日本景気は緩やかな回復傾向で推移するというのがメインシナリオである。
東京財団+0.28%
(+1.13%)
モデルは、2026年1-3月期のGDP(実質、季節調整系列前期比)を、0.83%と予測。※年率換算: 3.35%

すでに、2025年10~12月期は過去の数字と考えるべきなのかもしれませんが、私自身も直感的に法人企業統計を受けてGDP統計速報2次QEは先月公表の1次QEよりも上方修正されると考えています。ほぼほぼすべてのシンクタンクも同じく上方修正を見込んでいるようです。ただし、その程度は大きくなく、前期比年率で+1%前後と考えています。問題は足元の3月からの先行きです。米国とイスラエルによるイラン攻撃は、エコノミストには何とも想定し難く、日本経済に対する大きな影響は石油をはじめとするエネルギー価格の動向である点は衆目の一致するところです。ホルムズ海峡は封鎖されているらしいのですが、現時点では広く報じられているように、石油価格の指標となっているWTI先物でバレル70ドル台半ばですから、ムチャな価格ではないだろうという気はします。ただ、戦闘がいつまで継続し、ホルムズ海峡封鎖がいつまで続くのかは、私にはまったく不明ですし、当然の帰結として、平時でも不案内な石油価格動向は私にはまったく見通せません。
最後に、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから 2025年10-12月期GDP(2次速報) のグラフを引用すると次の通りです。

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2026年3月 4日 (水)

基調判断が引き上げられた2月の消費者態度指数

本日、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。2月統計では、前月から+2.1ポイント高い40.0を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数2月は+2.1ポイント、判断上引き上げ 物価見通し低下
内閣府が4日公表した2月の消費動向調査調査によると、消費者態度指数は前月比2.1ポイント上昇し40.0となり、2カ月連続で改善した。消費者マインドの基調判断は、前月の「持ち直している」から「改善に向けた動きがみられる」に上方修正された。物価見通しでは、上昇するとの回答比率が低下した。
消費者態度指数を構成する4つの意識指標は全て前月から改善した。このうち「耐久消費財の買い時判断」は3.5ポイントと大きく上昇した。
物価見通しでは、1年後は今よりも上昇するとの回答比率は85.6%で、前月から5.7ポイント低下した。1年後の物価上昇率が2%未満との回答比率は増えたが、2%以上5%未満、5%以上との回答がそれぞれ減少した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「耐久消費財の買い時判断」が+3.5ポイント上昇して33.9、「暮らし向き」が+2.9ポイント上昇し39.7、「雇用環境」も+1.6ポイント上昇して44.0、「収入の増え方」が+0.5ポイント上昇し42.5と、消費者態度指数を構成するコンポーネントすべてが上昇しました。引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直している」から「改善に向けた動きがみられる」に引き上げています。私が従来から主張しているように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があります。総務省統計局による消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除くコアCPI上昇率は、昨年2025年10-11月に+3.0%を記録した後、12月には+2.4%に、さらに、今年2026年1月には+2.0%まで着実に減速し、依然として+2%の日銀物価目標スレスレなのですが、落ち着きを取り戻し始めています。インフレとデフレに関する消費行動は、1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、1990年代後半にデフレに陥る前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、バブル経済崩壊後の長い長い景気低迷期とさらにデフレを経て、物価上昇により実質所得の減少が目立って実感されるようになったのか、消費者が買い控えをする行動が目につくように変化したのかもしれません。
また、引用した記事でも言及されているように、消費者態度指数以上に注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が、直近のピークだった昨年2025年10月統計の50.5%から最新の今年2026年2月統計では36.5%まで低下しています。昨年2025年4月には60%に達していたことを考えれば、着実に割合が低下していることは忘れるべきではありません。他方で、2%未満の物価上昇との回答がボトムの2025年10月の9.2%から2026年2月統計では14.2%まで着実に上昇しています。ただ、これらも含めた物価上昇を見込む割合は85.6%と、依然として高い水準が続いています。引用した記事にもあるように、「耐久消費財の買い時判断」が改善しても、物価上昇の中心である食料品については、まだ大きな懸念が残っている可能性を私は感じます。

最後に、米国とイスラエルによるイラン攻撃の影響は、当然ながら、この統計には反映されていません。まあ、常識的に考えて、武力衝突により消費者マインドは冷え込むのだろうと私は予想しています。

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2026年3月 3日 (火)

好調な企業業績を反映する10-12月期法人企業統計と陰りの見え始めた1月の雇用統計

本日、財務省から昨年2025年10~12月期の法人企業統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。雇用統計は、いずれも1月の統計です。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で見て、売上高は前年同期比+0.7%増の400兆6499億円、経常利益は+4.7%増の30兆270億円に上っています。さらに、設備投資も+6.5%増の15兆3865億円を記録しています。また、設備投資を季節調整済みで見ると、GDP統計の基礎となる系列については前期比+3.5%増となっています。雇用統計については、失業率は前月から+0.1%ポイント上昇して2.7%、有効求人倍率も前月から▲0.02ポイント低下して1.18倍と、それぞれ雇用は悪化しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

10-12月法人企業、設備投資6.5%増 都市開発や情報関連伸び
財務省が3日発表した2025年10~12月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)のソフトウエアを含む設備投資は前年同期比6.5%増の15兆3865億円だった。4四半期連続でプラスだった。都市開発やデータセンター関連の投資が伸びた。
法人企業統計は上場企業に限らず日本企業全体の動向を調べている。設備投資は10~12月期としては過去最高だった。
非製造業は10.1%増と4四半期連続で増えた。10~12月期の伸び率は前期から加速した。不動産業や情報通信業が全体をけん引した。運輸業・郵便業は落ち込んだ。
製造業は前年同期と比べて横ばいだった。半導体材料や医薬品の生産体制を増強する動きがみられ、化学が18.7%伸びた。情報通信機械や生産用機械は落ち込んだ。
季節調整済みの前期比でみると、設備投資は3.5%増となり、2四半期ぶりのプラスになった。非製造業が全体をけん引した。
経常利益は前年同期比で4.7%増の30兆270億円だった。5四半期連続のプラスだった。
非製造業は7.1%増加した。飲食店で価格改定が進み収益力が改善したほか、娯楽分野で客数が増加したことなどで、サービス業が20.7%増だった。デジタル関連の需要が強く、情報通信業も20.9%増えた。
製造業は0.9%増と小幅の伸びだった。情報通信機械が52.9%増と全体の押し上げに寄与した。人工知能(AI)やデータセンター関連の需要がみられた。
売上高は0.7%増の400兆6499億円だった。製造業は電気機械が、非製造業は卸売業・小売業が全体をけん引した。
財務省の担当者は今回の結果について「景気が緩やかに回復しているという政府の認識と齟齬(そご)がない」との判断を述べた。
1月の失業率2.7%、5カ月ぶり上昇 有効求人倍率は1.18倍に低下
総務省が3日発表した1月の完全失業率(季節調整値)は2.7%だった。前月と比べて0.1ポイント上昇した。上昇は5カ月ぶり。より良い待遇を求めて仕事探しをする人が増えた。
厚生労働省が3日発表した1月の有効求人倍率(季節調整値)は1.18倍と、前月から0.02ポイント下がった。低下は3カ月ぶり。省人化投資の広がりや最低賃金の引き上げに伴って求人を控える動きがみられた。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人について、1人あたり何件の求人があるかを示す。有効求人数は0.1%減った。有効求職者数は0.9%増だった。よりよい条件を求めて仕事を探す動きがあった。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月と比べて4.6%減った。主要産業別でみると、宿泊・飲食サービス業が13.8%減、卸売・小売業は11.6%減、情報通信業は7.0%減だった。
教育・学習支援業が4.3%増、製造業は0.8%増だった。製造業の動きに関して担当者は「政府の戦略分野である造船や半導体、防衛などにおいて求人が増えた」という。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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法人企業統計の結果について、基本的に、企業業績は好調を維持していると考えるべきです。ただし、法人企業統計の売上高や営業利益・経常利益などはすべて名目値で計測されていますので、物価上昇による水増しを含んでいる点は忘れるべきではありません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは、現時点では明らかではありません。来週のGDP統計速報2次QEを待つ必要があります。他方で、その物価上昇も含めて、企業業績が昨年来の株価に反映されているわけで、米国とイスラエルによるイラン攻撃から始まった中東の地政学的リスクの顕在化の前まで、東証平均株価は5万円を超えて6万円に近づいていたわけです。ただし、所得の伸び悩みに起因する個人消費などと違って、企業業績は基本的に好調を維持しているものの、何といっても、中東の地政学的リスクが顕在化し、エネルギー価格がどうなるか次第といえます。先行きが不透明であることはいうまでもありません。先行きの景気への影響という点に関しては、中東情勢に伴うエネルギー価格とともに、トランプ関税の今後の動向も懸念されます。製造業、中でも影響の大きい自動車産業の動向が今後一段と悪化する可能性が高いと考えられます。景気動向に関しては自動車をはじめとする製造業に注目しつつ、設備投資動向に関しては人手不足による影響が大きい非製造業、中でも、比較的労働集約的な業種の動向が注目されます。いずれにせよ、最大の懸念材料は中東情勢とエネルギー価格、さらに、米国の関税率や通商政策だろうとお考えるべきです。いずれも、先行き不透明です。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍を経て労働分配率が大きく低下を示しています。もう少し長い目で見れば、デフレに入るあたりの1990年代後半からほぼ一貫して労働分配率が低下を続けています。そして、現在でも労働分配率の低下は続いています。いろんな仮定を置いていますので評価は単純ではありませんが、デフレに入ったあたりの1990年代後半の75%近い水準と比べて、最近時点では▲20%ポイント近く労働分配率が低下している、あるいは、コロナ禍の期間の65%ほどと比べても▲10%ポイントほど低下している、と考えるべきです。名目GDPが約600兆円として50-100兆円ほど労働者から企業に移転があった可能性が示唆されています。加えて、一昨年2024年や昨年2025年の春闘では人口減少下の人手不足により賃上げ圧力が高まった結果として、労働分配率が下げ止まった可能性が示唆されていましたが、統計を見る限り決してそうはなっていません。昨年今年と春闘ではあれだけの賃上げがありながら、まだ労働分配率は低下し続けている可能性が高いと考えるべきです。しかも高インフレが続いており、これでは消費は伸びません。中東情勢に起因してエネルギー価格が上昇すれば、さらに物価上昇に拍車が掛かる可能性も大いにあります。いずれにせよ、日本経済には大きなマイナス要因だと私は考えています。設備投資/キャッシュフロー比率も底ばいを続けています。DXやGXに対応した設備投資の本格的な増加が始まったことが期待される一方で、決して楽観的にはなれません。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金はまだまだ伸びが続いています。また、4枚めのパネルにあるように、直近統計で2020年くらいからは、人件費の伸びが高まっている可能性が見て取れますが、人件費以上に経常利益が伸びているのがグラフの傾きから明らかです。労働分配率の低下と整合的なデータであると考えるべきです。アベノミクスではトリクルダウンを想定していましたが、企業業績から勤労者の賃金へは滴り落ちてこなかった、というのがひとつの帰結といえます。しかし、先月の総選挙ではアベノミクスをなぞるような「責任ある積極財政」を掲げる高市内閣が圧倒的な信任を受けました。さらに、企業に傾斜し国民生活を顧みない経済政策が強化されるおそれすらあります。反対に、勤労者の賃金が上がらない中で、企業業績だけが伸びて株価が上昇する経済が終焉して、資本分配率が低下して労働分配率が上昇することにより、諸外国と比べても高いインフレにならずに日本経済が成長するパスが実現できる可能性が生じており、それは中期的に望ましい、という私の考えは代わりありません。

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法人企業統計を離れて、雇用統計のグラフは上の通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの統計であり影を付けた部分は景気後退期を示しています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、失業率が2.6%有効求人倍率は1.19倍が予想されていました。本日公表された実績で、失業率2.7%、有効求人倍率1.18倍はともに、市場の事前コンセンサスより下振れしました。ただし、雇用情勢は引き続き悪くなく、雇用は底堅いと私は考えています。というのは、失業率が上昇している背景を考えると、確かに失業者数が増加していて、季節調整していない原系列の統計で見て、失業者数は1月に+16万人増加しているのですが、非自発的な離職が6万人いる一方で、よりよい労働条件を求めるなど、自己都合で自発的に離職した人が5万人、さらに、新たに求職を始めた人も5万人います。雇用者は前年同月から+22万人増加しています。逆に、非労働力人口が減少を続けています。1月は前年同月から▲41万人減となっています。専業主婦や高齢者、だけとは限りませんが、労働市場に参入していなかった非労働力人口が労働市場に参入して、雇用者と失業者をともに増加させている、という図式です。基本は、実質所得を増加させるには不十分とはいえ、春闘から続く賃上げによって就業意欲が高まる、という形で、賃金上昇に伴って労働市場への参入が増加し、雇用者も失業者もともに増加している、その相対的な増え方の差で失業率が上昇している、と考えるのが伝統的な経済学の見方であろうと思います。加えて、総務省統計局のプレスリリースによれば、1月統計では「正規の職員・従業員」は前年同月から+57万人増加した一方で、「非正規の職員・従業員」は▲37万人減少しています。雇用者の待遇も改善していると考えるべきです。

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2026年3月 2日 (月)

高市政権の消費減税と成長戦略やいかに?

先週木曜日の2月26日に大和総研から「高市政権の消費減税と成長戦略を検証する」というタイトルのリポートが明らかにされています。2年間の飲食料品の消費税率を免除する一方で、責任ある積極財政として成長戦略や危機管理強化の方向を目指しています。まず、リポートから要約を3点引用すると次の通りです。

[要約]
  • 高市早苗政権は2年間の飲食料品の消費税ゼロに向けて議論を加速させる方針である。しかし、この消費減税は、年間約5兆円の歳入減が生じる一方でGDP押し上げ効果は0.3兆円にとどまる。基礎控除の引き上げなどの家計支援策がすでに実施され、物価上昇率の低下も見込まれる中、必要性の乏しい政策だ。
  • 消費減税の財源を「成長投資」や「危機管理投資」に充てる方が、供給面に課題を抱える日本経済にとっては有効だ。その際には、政権が掲げる17分野に均等に資源を投入するのではなく、半導体・AIなど経済成長への効果が大きい分野に重点的に投資をするなど、政策目的と効果の大きさに応じたメリハリが重要となろう。
  • 危機管理投資においても、発生頻度の低いリスクを完全に抑制することを目指すと費用対効果の面で効率が悪い。中国からのレアアース等の輸入途絶など、リスクの発生頻度が比較的高く、影響の大きい分野に絞って進めることが肝要である。

まず、飲食料品(軽減税率対象)の消費税ゼロによる日本経済への影響 について、リポートから引用すると次の通りです。

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経済効果については、消費喚起や成長率押上げで考えているようで、財政負担に比較して「経済効果は小さい」という結論のようです。加えて、消費者物価上昇率も日銀目標の+2%にアンカーされつつあるので、物価対策としても必要性低い、ということのようです。評価基準がそうであれば、私もこの結論に賛成します。ただ、逆進的な消費税に関して低所得者家計をはじめとする国民生活の観点からは、別の評価がありそうな気がします。特に、食料品は価格弾性値が低く、消費税を免税にしても実質消費が増加する割合は高くないため、消費喚起や成長率押上げ効果で評価するのは疑問があります。私自身は、食料品だけでなく消費税率の一律引下げが、国民生活の安定や工場に有効だと考えるのですが、取りあえずの政策としては、食料品の消費税軽課の有効性は否定できません。

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続いて、リポートから 高市政権が掲げる17の戦略分野と分野横断的課題 を引用すると上の通りです。成長投資と危機管理投資がグラデーションになっていて、両方にまたがる投資分野もあります。日本経済が供給面で弱点あるというのは事実その通りなのですが、その弱点をどこまで政府と企業とで負担するかは議論のあるところです。例えば、小川英治[編] (2023) 『ポストコロナの世界経済』(東京大学出版会)、特に第2章では、デカップリングという用語を用いて、経済制裁を意味する攻撃的なデカップリングと対比する形で、供給確保などの経済安全保障を防衛的なデカップリングと呼び、その防衛的なデカップリングでは、輸入依存度の高さだけを問題とするのではなく、供給の途絶リスクの蓋然性に加えて、どの程度の期間で代替が可能となるかを分析することが必要とし、こういった対応は、「民間企業による効率性とリスク対応のバランスに関する意思決定の中で、かなりの程度は解決済みである。」と結論しています。私自身は公務員や教員を長らくしていて、企業に勤務した経験は乏しいのですが、基本はこの通りだと理解しています。それほど政府が経済安全保障の観点から手厚く企業を保護する必要については懐疑的です。

1980年代以降、世界的に新自由主義的な経済政策が採用されて、かなり露骨に企業を優遇し国民生活を顧みない経済政策が優先されてきたと私は考えています。しかし、企業や富裕層を優遇して、それが結果的に中間層や低所得層にトリクルダウンするというのは、アベノミクス期の経験から明確に否定されました。しかし、そういった方向性を明らかにした政権選択選挙たる2月の総選挙で、国民はその方向を選択しました。この先、数年に渡って国民生活を犠牲にして企業が優遇される経済政策が続く可能性は否定できません。

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2026年3月 1日 (日)

今日はカミさんの誕生日

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今日は、カミさんの誕生日です。
夫婦2人して、すでにしっかりと60歳を超えています。私はとうに年金受給資格の年齢を過ぎていますが、カミさんももうすぐですから、そのうちに、お誕生日は決してめでたくない年齢に達するのだろうと覚悟しています。

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