40年ぶりの円安の日本経済への影響やいかに?
ドル円レートが約40年ぶりに162円台の円安水準となったことは、広く報じられている通りです。この為替レートに関して、先週金曜日の7月3日、大和総研から「約40年ぶりの円安ドル高、日本経済への影響は?」と題するリポートが明らかにされています。まず、長くなりますが、リポートから[要約]を2点引用すると次の通りです。
[要約]
- ドル円レートは2026年6月末に一時162円台と約40年ぶりの安値を付けた。当社のマクロモデルで推計すると、通常の経済状態における円安ドル高は日本経済にネットでプラスの影響をもたらすが、円安の恩恵が広く行き渡るわけではない。多くの企業や家計にとっては、輸入物価の上昇による負担増の影響の方が目立つだろう。加えて、足元では企業の価格転嫁の進展や、中東情勢の悪化等による輸出の下押し、日中関係の悪化による中国人訪日客数の減少などが円安のプラス効果を相殺したとみられる。こうした影響を考慮すると、10%の円安ドル高による直近1年間の実質GDPへの影響は▲0.14%程度だったと試算される。
- ドル円レートの動きは日米の実質金利差で説明されることが多いが、2025年秋以降は両者の関係が薄れ、実質金利差が縮小傾向にある中で円安ドル高が進んでいる。米国の実質金利とドル円レートとの関係は直近でも安定しており、日本の金利上昇による円高圧力は限定的だったようだ。日銀の金融政策が正常化の途上にあり、利上げを継続しているものの金利水準が物価上昇率などに比して低く、経済実態を踏まえた金利水準(中立金利)を下回っていることなどが背景にあるとみられる。こうした見方が実態を捉えているのであれば、高水準のインフレ率によって米金利の先高観が強いうちは円安ドル高が進みやすい。一方、日銀が利上げを続けても、当面は円高基調に反転しにくい可能性がある。
続いて、リポートから 直近1年間の円安ドル高(10%(約15円/ドル)を想定)による日本経済への影響 を引用すると次の通りです。
上のグラフの左のパネルから明らかなように、円安の恩恵は偏りが大きいと考えるべきです。すなわち、大雑把にいって、円安のメリットが企業セクターに偏る一方で、デメリットが家計部門に重い点は忘れるべきではありません。最近では、円安などのコストアップ要因を価格に転嫁しやすい経済が実現している一方で、最終的な価格転嫁の無視できない部分を負担するのは家計である点は忘れるべきではありません。もっと判りやすくいえば、企業はコストアップを価格転嫁しやすくなった一方で、家計は価格転嫁された価格を受け入れざるを得ない状況に追い込まれているのが事実です。私自身は、いわゆる為替のパススルーは大きくないとする Sasaki, Yuri et al. (2022) "Exchange Rate Pass-Through to Japanese Prices: Import Prices, Producer Prices, and the Core CPI" をエコノミストとして十分理解しているつもりですが、他方で、内閣府によるマンスリー・トピック「円安による国内食料品物価への影響」では、我が国では食料自給率の低さに加え、食料品製造業における輸入原料への依存度が高いことから、食品小売価格が輸入価格の変動の影響を受けやすく、10%の円安によって食料品CPIが1.5%程度押し上げられるとの試算結果を示し、「2023年末前後の食料インフレの大部分が円安に起因するものだった」と結論していることも事実です。
為替や賃金については、その昔からの言いまわしにある通り、「市場で決まる」と考えるべきかもしれませんが、少なくとも、ドル円レートで160円を超える現在の円安は、物価を通じたルートから、日本経済、特に、家計部門には好ましくないと考えられます。
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