2025年4月25日 (金)

IPSOS「人類と気候変動リポート2025」People and Climate Change に見る日本の意識の低さ

世界でも有数の大規模な世論調査機関であるIPSOSから「人類と気候変動リポート2025」People and Climate Change が明らかにされています。もちろん、pfdの全文リポートもアップロードされています。なお、私は英語の1次資料に当たっていますが、IPSOSの日本オフィスから日本語によるプレスリリース「気候変動対策への日本人の意識低下が明らかに、32か国中最下位」というショッキングなタイトルで出されています。リポートからいくつかグラフを引用して、日本語プレスリリースのタイトルを後付けておきたいと思います。

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まず、"If individuals like me do not act now to combat climate change, we will be failing future generations" 「私のような個人が、今すぐ気候変動に対処する行動を取らなければ、次世代の期待を裏切ることになる」という問いに対する調査対象32か国別の回答結果のグラフを引用すると上の通りです。32か国平均が64%であるところ、日本は最低の40%となっています。

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続いて、"If businesses in [COUNTRY] do not act now to combat climate change, they will be failing their employees and customers" 「(自国の)企業が、今すぐ気候変動対策に取り組まなければ、従業員や顧客の期待を裏切ることになる」という問いに対する調査対象32か国別の回答結果のグラフを引用すると上の通りです。32か国平均が60%であるところ、日本は最低の37%となっています。


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続いて、"If [COUNTRY]'s government does not act now to combat climate change, it will be failing the people of [COUNTRY]" 「(自国の)政府が、今すぐ気候変動対策に取り組まなければ、(自国)国民の期待を裏切ることになる」という問いに対する調査対象32か国別の回答結果のグラフを引用すると上の通りです。32か国平均が63%であるところ、日本は最低の42%となっています。

要するに、調査対象の32か国の中で、日本は、気候変動に対する取組みは、個人でもなく、企業でもなく、政府でもなく、すべての主体において他国と比較して責任が弱い、という意識が示されています。ひょっとしたら、日本では余りに「地球温暖化」という用語が広まりすぎて、「気候変動」という用語について理解が進んでいないのか、と考えなくもなかったのですが、それにしても少し驚くような結果といえます。まさに、プレスリリース通り、「気候変動対策への日本人の意識低下が明らかに、32か国中最下位」というしかありません。
私は従来から、日本人はPISAなどで示されている認知能力が高く、加えて、勤勉で時間に正確などという非認知能力も決して世界の中で低くはない、と認識してきましたが、日本人の意識、あるいは、ひょっとしたら、能力やリテラシーやスキルなどについても、私の認識を変える必要があるのかもしれません。

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2025年4月24日 (木)

6か月連続で+3%台の上昇率となった3月の企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、日銀から3月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月2月の+3.2%からわずかに縮小して+3.1%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIは前月と同じ+3.2%の上昇となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、3月3.1%上昇 人件費転嫁進む
日銀が24日に発表した3月の企業向けサービス価格指数(速報値、2020年平均=100)は109.7となり、前年同月に比べ3.1%上昇した。伸び率は2月(3.2%)から0.1ポイント低下したものの6カ月連続で3%台となった。人件費を価格に転嫁する動きが続く。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格動向を表す。貨物輸送代金やIT(情報技術)サービス料などが含まれる。企業間取引のモノの価格動向を示す企業物価指数とともに、今後の消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
日銀は今回の発表で2月分の前年同月比上昇率を3.0%から3.2%に遡及修正した。
3月分の内訳をみると、人件費の価格転嫁を背景に機械修理は前年同月比9.4%上昇、廃棄物処理は6.6%上昇した。いずれも2月から伸び率は横ばいだが、全体の押し上げに寄与した。宿泊サービスは11.0%上昇した。2月(11.8%上昇)から0.8ポイント鈍化したが、好調なインバウンド需要を受けて伸び率は高水準を維持している。
情報通信でも人件費の転嫁が進み、ソフトウエア開発が前年同月比2.5%上昇した。2月(1.9%上昇)から伸び率が拡大した。不動産では入居テナントの売り上げ増加などを受けて、ホテル賃貸や店舗賃貸などが2.6%上昇した。
調査品目のうち、生産額に占める人件費のコストが高い業種(高人件費率サービス)は前年同月比3.4%上昇し、低人件費率サービス(2.8%上昇)を上回った。人件費を価格に転嫁する動きが鮮明になりつつある。
24年度の企業向けサービス価格指数は108.3と前年度比2.9%上昇した。14年度(3.3%上昇)以来10年ぶりの高水準となった。宿泊サービスなどの伸びが大きく寄与した。

もっとも注目されている物価指標のひとつですから、どうしても長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、上昇率としては2023年中に上昇の加速はいったん終了したように見えたのですが、昨年2024年年央時点で再加速が見られ、PPI国内物価指数の前年同月比上昇率は3月統計で+4.2%に達しています。昨年2024年12月から4か月連続での+4%台の上昇です。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてコンスタントに上昇を続けているのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、昨年2024年6月に+3.2%まで加速し、その後、2024年9月に瞬間風速で+2.8%を記録した以外は、本日公表の2025年3月まで+3%台の上昇率を続けています。2024年10月からカウントしても6か月連続の+3%台の上昇率です。日銀物価目標の+2%を大きく上回って高止まりしているわけです。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なるものの、+3%近傍の上昇率はデフレに慣れきった国民や企業のマインドからすれば、かなり高い物価上昇と映っている可能性が高いと考えるべきです。人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率と高人件費比率のサービスの違いに大きな差はなく、人件費をはじめとして幅広くコストが価格に転嫁されている印象です。その意味では、政府や日銀のいう物価と賃金の好循環が実現しているともいえますが、実態としては、物価上昇が賃金上昇を上回っており、国民生活が数量ベースで苦しくなっているのは事実であるといわざるをえません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて2月統計のヘッドラインSPPI上昇率+3.1%への寄与度で見ると、機械修理や廃棄物処理や宿泊サービスなどの諸サービスが+1.60%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分超を占めています。諸サービスのうち、引用した記事にもあるように、宿泊サービスは2月の+11.8%の上昇から3月には+11.0%になりましたが、インバウンド需要もあって引き続き高止まりしています。加えて、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、10月から郵便料金が値上げされた郵便・信書便、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送さらに、サードパーティーロジスティクスなどの運輸・郵便が+0.50%、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスなどといった情報通信が+0.44%、ほかに、不動産+0.20%、リース・レンタルも+0.14%、広告+0.13%などとなっています。

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2025年4月23日 (水)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」World Economic Outlookやいかに?

日本時間の昨夜、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook の見通し編が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。すでに、先週の段階で、高齢化や移民・難民に着目した分析編も明らかにされています。

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まず、リポート p.14 Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Reference Forecast を引用すると上のテーブルの通りです。世界経済の成長率を中心とした見通しの総括表といえます。米国は今年2025年の成長率は+1.8%、来年2026年は+1.7%と見込まれていますが、1月時点の見通しから2025年△0.9%ポイント、2026年△0.6%、それぞれ下方修正されています。日本は成長率見通しが2025年+0.6%、2026年も+0.6%なのですが、同じように1月時点の見通しから2025年△0.5%ポイント、2026年△0.2%ポイント、それぞれ下方修正されています。世界経済全体では2025年に△0.5%ポイント下方修正されて+2.8%成長、2026年は△0.3%ポイント下方修正されて+3.0%成長と予想されています。他方、図表は引用しませんが、インフレ率は少し上方修正され、世界全体で2025年+4.3%、2026年+3.6%と徐々に低下すると予想されています。

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このように、世界経済の成長率を大きく鈍化させ、インフレ率をわずかとはいえ加速させる大きな要因は米国トランプ政権の関税引上げを主軸とする通商政策にあります。上のグラフは IMF Blog The Global Economy Enters a New Era から米国関税率の歴史的推移と4月2日時点での世界の関税率を示す US tariffs are highest in a century, globaltariffs are also rising sharply を引用しています。米国のトランプ政権による関税引上げにより、米国の関税率は第2次世界大戦直前のスムート・ホーレー法のレベルをとうとう超えてしまいました。世界経済のブロック化を促進した関税引上げ競争が第2次世界大戦の引き金のひとつになった歴史的教訓が思い出されます。

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そして、最後に、 IMF Blog The Global Economy Enters a New Era から Global growth revised down significantly, inflation slightly revised up を引用すると上の通りです。すなわち、こういった米国の関税率の引上げは決して MAGA=Make America Great Again に貢献するものではなく、米国と世界の経済の成長率の減速とインフレの加速につながりかねない、との試算結果が示されています。

最後に、IMFは政策について、Policies: Navigating Uncertainty and Enhancing Preparedness to Ease Macroeconomic Trade-offs の必要があると分析しています。すなわち、国際協力を促進しつつ国内経済の安定を確保し、ひいては世界経済の不均衡の是正に資するよう、政策を調整する必要があるとの結論を示しています。

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2025年4月22日 (火)

米国経済の先行きを示唆するグラフ

やや旧聞に属するトピックも含まれていますが、最近、私がネットで見た範囲で米国経済に関して印象に残ったグラフを2枚ほど引用します。

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まず、国際通貨基金のゲオルギエヴァ専務理事のスピーチ "Toward a Better Balanced and More Resilient World Economy" の冒頭に示されているグラフです。IMF世銀による春季会合を前にしたスピーチなのですが、見ての通りで、貿易政策の不確実性はケタ外れに上昇しています。いうまでもなく、米国トランプ政権の関税政策に起因します。

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米国トランプ政権の関税政策は貿易政策の不確実性をケタ外れに高めているだけではなく、確実に、米国経済を景気後退に向かわせています。上のグラフはピーターソン国際経済研究所(PIIE)によるコラム "Policy shocks and rising uncertainty are weakening the global outlook" から引用しています。このグラフはPIIEによる Global Economic Prospects: Spring 2025 に向けて準備されているもののようです。一応、ギリギリで2四半期連続のマイナス成長は回避できる見通しとなっていますが、果たしてどうなりますことやら。

私は日本の景気局面について、景気拡大が後半に入ったことを認識しつつも、繰り返し、米国経済が景気後退に陥らずにソフトランディングするとすれば、日本経済もそう簡単には景気後退に入らない、との見方を示してきましたが、前半の米国経済に関する前提が崩れつつあるように感じています。もしも、米国経済が今年後半ないし来年早々に景気後退に入るとすれば、日本もご同様であろうと思います。

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2025年4月21日 (月)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」分析編やいかに?

国際通貨基金(IMF)と世界銀行の春季集会に際しての明日4月22日の見通し編の前に、国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」World Economic Outlook, April 2025 の分析編が公表されています。各章のタイトルは以下の通りです。

まず、第2章の高齢化の経済への影響は、いうまでもなく、成長の鈍化と財政圧力の増大 (slower growth and increased fiscal pressures) に現れると指摘しています。ただ、日本でいうところの健康寿命を伸ばすことにより、労働参加率の上昇、就労期間の延長、生産性の向上(boosting labor force participation, extending working lives, and enhancing productivity) をもたらすことができると主張しています。財政への影響については、労働供給の維持に加えて、利子率と成長率の差 (r-g) も重要な財政圧力要因となります。すなわち、高齢化が進んで貯蓄が取り崩され利子率が上がれば国債利払いがかさむ一方で、高齢化の影響で成長率が鈍化すれば税収が伸びないこともあるわけです。ですから、日本のように成長率が低い一方で、高齢化が進んで利子率の上昇が予想される場合、財政収支への影響は無視できません。下のグラフはモデルのシミュレーションによる予測結果 Figure 2.9. Baseline Projections: Growth, Interest Rates, and Primary Balances が示されていて、を引用しています。2025-50年の期間で日本の利子率と成長率の差 (r-g) もプライマリバランスも財政収支を悪化させる方向に進みかねないリスクが読み取れます。

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第3章の移民と難民の分析については、新興国と途上国が移民や難民の受入れ国となりつつある (Emerging market and developing economies have found themselves increasingly on the receiving end of migrant and refugee flows) 事実を指摘しています。そして、こういった流入が地域資源を圧迫する可能性 (inflows can strain local resources) がある一方で、移民や難民のスキルが受入れ国住民のスキルを補完できれば、生産への好影響を大きくできる可能性もある (output effects can be larger should the skills of migrants and refugees complement those of natives) と指摘しています。下のグラフは Figure 3.3. Changes in Stocks and Flows of Migrants and Refugees を引用しています。

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最後に、「世界経済見通し」World Economic Outlook, April 2025 の見通し編は米国東部時間の4月22日午前に記者発表が予定されています。

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2025年4月18日 (金)

まだまだ+3%台の上昇率が続く3月の消費者物価指数(CPI)

本日、総務省統計局から3月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+3.0%からやや加速して+3.2%を記録しています。まだまだ+3%台のインフレが続いています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から36か月、すなわち、3年間続いています。ヘッドライン上昇率も+3.6%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+2.9%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

3月の消費者物価3.2%上昇 コメは伸び率92%で過去最大
総務省が18日発表した3月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が110.2となり、前年同月と比べて3.2%上昇した。2月の3.0%を上回り、2カ月ぶりに伸びが拡大した。電気・都市ガス代の上昇は鈍化したものの、コメなど食料高が続いている。
3%台の上昇率は4カ月連続で、上昇は43カ月連続となった。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は3.2%の上昇だった。
政府による電気・ガス代補助でエネルギー関連の伸びは抑制されている。一方で、コメ類は92.1%上がり、比較可能な1971年1月以降で最大の上げ幅となった。6カ月連続で過去最大幅を更新した。生産や運送のコスト上昇に加え、需給が逼迫している現状を映している。
物流費や人件費の上昇を受けて3月に価格改定があった外食のハンバーガーや、1月の鳥インフルエンザ発生の影響を受けた鶏卵なども物価を押し上げた。生鮮食品を除いた食料の上げ幅は6.2%に達した。2月の5.6%を上回った。
生鮮食品も含めた総合は3.6%上がった。2月の3.7%から伸びは縮小した。ブロッコリーやトマト、イチゴといった生鮮食品の価格が下落している。
エネルギー関連の全体の上昇率は6.6%となり、2月の6.9%から縮んだ。電気・ガス代への政府補助が効いている。上げ幅は電気代が8.7%、都市ガス代が2.0%と、いずれも2月から伸びが縮小した。
ガソリン代は6.0%上昇し、2月の5.8%から拡大した。価格高騰を抑える政府補助の目安を1月から小売価格で1リットルあたり185円程度に引き上げた影響が出ている。
2024年度の1年間で見ると、生鮮食品を除く総合は平均で108.7となり、前年度と比べて2.7%上昇した。上昇は4年連続。伸び率は23年度の2.8%からやや縮小した。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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引用した記事には、2パラめに市場の事前コンセンサスは+3.2%とありますが、私の調べた範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.3%、ロイターの記事「全国コアCPI、3月は+3.2%に加速 米関税で下方リスクの声」では+3.2%ということでした。また、エネルギー関連の価格が抑制されているのは、政府の「電気・ガス料金負担軽減支援事業」による押下げ効果です。総務省統計局の公表資料によれば、ヘッドラインCPI上昇率への寄与度は▲0.33%、うち、電気代が▲0.28%、都市ガス代が▲0.05%との試算値が示されています。続いて、品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、食料価格の上昇が引き続き大きくなっています。すなわち、先月2月統計では生鮮食品を除く食料の上昇率が前年同月比+5.6%、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度+1.35%であったのが、3月統計ではそれぞれ+6.2%、+1.49%と、一段と高い伸びと寄与度を示しています。他方で、エネルギー価格も上昇していますが、政府の「電気・ガス料金負担軽減支援事業」により上昇幅は縮小しています。すなわち、エネルギー価格については2月統計で+6.9%の上昇率、寄与度+0.52%でしたが、本日公表の3月統計では上昇率+6.6%と高い伸びは続いますが、やや縮小していて、寄与度も+0.50%となっています。寄与度差は▲0.02%ポイントと、わずかながらマイナスを記録しました。特に、エネルギーの中で上昇率が大きいのは電気代であり、エネルギーの寄与度+0.50%のうち、実に電気代だけで寄与度は+0.29%に達しています。また、ガソリン価格も高騰を続けており、2月統計の+5.8%の上昇から、3月は+6.0%になりました。食料とエネルギー以外では、公正取引委員会のカルテル摘発もあった宿泊料が2月統計の上昇率+5.2%、寄与度+0.06%から、3月統計では上昇率+6.6%、寄与度+0.07%に加速しています。3月にはすでに中華圏の春節休暇が終了しているのですから、もしも、昨日の日経新聞記事「名門ホテルにカルテル恐れ、問題視された業界の情報交換」にあるようなカルテル行為で価格が上昇しているのだとすれば、公正取引委員会の厳正な措置が望まれるところです。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+6.2%、寄与度+1.49%に上ります。その食料の中で、コアCPIの外数ながら、生鮮野菜が上昇率+22.1%、寄与度+0.43%、生鮮果物も上昇率+10.2%、寄与度+0.11%と大きな価格上昇を示しています。特に、私がよく例として取り上げているキャベツは上昇率+111.6%と昨年同月から2倍超に跳ね上がっていて、寄与度もキャベツ単独で+0.12%もあったりします。ほかには、なんといっても注目はコメといえます。コシヒカリを除くうるち米が上昇率+92.5%ととてつもない価格高騰を示していて、寄与度も+0.34%あります。そもそも、スーパーなどの店頭で見かけなくなった気すらします。うるち米を含む穀類全体の寄与度は+0.58%に上ります。さすがに、農林水産省も備蓄米の放出にかじを切ったようですが、現時点で価格の安定は見られません。主食に加えて、チョコレートなどの菓子類も上昇率+6.9%、寄与度+0.18%を示しており、コメ値上がりの余波を受けたおにぎりなどの調理食品が上昇率+4.6%、寄与度+0.17%、同様に外食も上昇率+3.6%、寄与度+0.17%と、それぞれ大きな価格高騰を見せています。ほかの食料でも、豚肉などの肉類が上昇率+5.1%、寄与度+0.13%、コーヒー豆などの飲料も上昇率+6.2%、寄与度0.11%、などなどと書き出せばキリがないほどです。何といっても、食料は国民生活に欠かせない基礎的な物資であり、価格の安定を目指す政策を望むとともに、価格上昇を上回る賃上げを目指した春闘の成果を期待しています。

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2025年4月17日 (木)

2か月連続で黒字を記録した3月の貿易統計

本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比+3.9%増の9兆8478億円に対して、輸入額は+2.0%増の9兆3038億円、差引き貿易収支は+5441億円の黒字を計上しています。2か月連続の貿易黒字となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

貿易赤字4年連続、24年度15%減の5兆2216億円
財務省が17日発表した2024年度の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5兆2216億円の赤字だった。4年連続の赤字となった。歴史的な円安を背景に輸出額が伸び、赤字幅は前年度比で15%縮小した。
輸出額は前年度比5.9%増の108兆9345億円だった。2年連続で100兆円を超えて、比較可能な1979年度以降で過去最高となった。人工知能(AI)向けの投資の増加を背景に半導体製造装置などが輸出額を押し上げた。
為替レートは平均で1ドル=152.60円で、6.1%の円安・ドル高だった。
輸入額は4.7%増の114兆1562億円と、2年ぶりに増加した。パソコンやスマートフォンなどの輸入が増えた一方で原粗油は減少した。原粗油の輸入価格は1キロリットルあたり7万9083円と1.5%上昇したものの、数量ベースで7.1%減った。
地域別でみると対米国の輸出額は3.8%増の21兆6482億円、輸入額は7.7%増の12兆6429億円だった。輸出入ともに過去最高額で、貿易黒字は1.3%減の9兆53億円だった。全体の輸出額に占める米国の割合は19.9%で、3年連続で最大の輸出相手だった。
輸出では自動車が1.6%増えた。為替の影響のほか、ハイブリッド車など付加価値の高い車種の需要が高かった。輸入では電算機類が2.9倍だった。データセンターなど向けの単価の高い業務用サーバーの需要が増えた。
アジアとの輸出額は8.8%増の58兆513億円、輸入額は7.1%増の55兆1760億円だった。そのうち対中国は輸出額が3.4%増の18兆8917億円、輸入額が7.1%増の25兆9392億円でいずれも過去最高だった。7兆474億円の貿易赤字で、2年ぶりに赤字幅が拡大した。
半導体等製造装置の輸出が増えた。輸入ではスマホなどの通信機やパソコンなどの電算機類の増加が寄与した。
欧州連合(EU)は輸出額が7.8%減の9兆7740億円、輸入額が7.6%増の12兆3047億円だった。輸入額は過去最高で、円安や医薬品の単価が上昇したことなどを反映した。
25年3月単月の貿易収支は5440億円の黒字で、黒字幅は前年同月比55.5%拡大した。輸出額は3.9%増の9兆8478億円、輸入額は2%増の9兆3037億円だった。

3月のデータが利用可能となって年度計数ばかりが報じられて、私が景気動向との関係で注目している月次計数は最後のパラに追いやられていますが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、+4500億円超の貿易黒字が見込まれていたところ、実績の+5400億円を少し超える黒字はやや上振れした印象です。また、年次計数ばかりに注目している記事には何の言及もありませんが、季節調整済みの系列で見ると、貿易赤字はこのところジワジワと縮小していて、中華圏の春節の影響もあって、2月統計では+1914億円の黒字となった後、本日公表の3月統計では▲2336億円の赤字を計上しています。なお、財務省のサイトで提供されているデータによれば、季節調整済み系列の貿易収支では、2021年6月から直近で利用可能な2025年3月統計まで、3年半超に渡って継続して赤字を記録しています。例外的に黒字となっているのは、2024年1月と12月、2025年2月だけですが、中華圏の春節の影響は季節調整では除去しきれていない可能性があり、2024年1月と2025年2月の黒字は実勢に従ったものかどうか、やや怪しいと私は感じています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。そして、これも季節調整済みの系列で見て、貿易収支赤字がもっとも大きかったのは2022年年央であり、2022年7~10月の各月は貿易赤字が月次で▲2兆円を超えていました。ですので、現状の▲2000億円程度の貿易赤字は、特に、何の問題もないものと考えるべきです。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。赤澤暖人が米国の首都ワシントンDCにて日米交渉に当たっていますが、成行きが注目されます。
本日公表された3月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで▲13.6%減、金額ベースで▲17.2%減となっています。エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+3.5%増と、輸入総額の+2.0%を超える伸び率で増加しています。ただし、食料品のうちの穀物類は数量ベースで▲14.9%減、金額ベースで▲19.9%減となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで+3.5%増、金額ベースで▲4.1%減を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が数量ベースで+3.3%増、金額ベースでも+16.3%増となっている一方で、電気機器が金額ベースで+16.1%増、一般機械も同じく+19.3%増と高い伸びを示しています。トランプ関税発動前の駆込み輸出の可能性は否定できません。国別輸出の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で▲4.8%減となったにもかかわらず、中国も含めたアジア向けの地域全体では+5.5%増となっています。米国向けは+3.1%増、西欧向けも+2.4%増などとなっています。今後の輸出については、米国トランプ政権の関税政策次第と考えるべきです。

最後に、国際通貨基金(IMF)と世銀の春季会合を前に「世界経済見通し」World Economic Outlook 分析編の第2章と第3章が公表されています。タイトルは以下の通りです。少し時間をかけて読んで、来週になってから取り上げたいと予定しています。なお、第1章の見通し編は4月22日に公表とアナウンスされています。

  • Chapter 2: The Rise of the Silver Economy: Global Implications of Population Aging
  • Chapter 3: Journeys and Junctions: Spillovers from Migration and Refugee Policies

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2025年4月16日 (水)

3か月ぶりの前月比プラスを記録した2月の機械受注

本日、内閣府から2月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から+4.3%増の8947億円と、3か月振りの前月比プラスを記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

2月機械受注4.3%増、3カ月ぶりプラス 非製造業伸びる
内閣府が16日発表した2月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で4.3%増の8947億円だった。3カ月ぶりにプラスに転じた。非製造業(船舶・電力除く)が11.4%増と大きく伸びた。
非製造業を業種別にみると、運輸業・郵便業が39.6%増と高い伸び率だった。鉄道車両で100億円を超える大型案件の受注があったという。デジタルトランスフォーメーション(DX)関連の投資が堅調な金融業・保険業や、建設業も全体を押し上げた。
製造業は3.0%増だった。核燃料処理施設関連の受注があった影響から、非鉄金属が前月と比べ2倍超に膨らんだ。このほか、化学工業が39.6%増、鉄鋼業が33.7%増だった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は0.5%増で、実績は市場予測を上回った。毎月のぶれをならした3カ月移動平均の民需(船舶・電力除く)は横ばいだったことから、基調判断は「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
米トランプ政権が打ち出す一連の施策の影響については「3月以降に先取りの動きが出るのか様子見となるのか、数字を注視する必要がある」(内閣府)と説明した。官公需などを含む受注総額全体では、3.0%増の3兆3623億円と2カ月連続で増加した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事には、コア機械受注の季節調整済みの前月比で見て「市場予測の中央値は0.5%増」とあるものの、私が調べた範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、市場の事前コンセンサスは季節調整済みのコア機械受注で前月比+0.8%増でした。また、予測レンジ上限は+2.6%増でしたから、実績の+4.3%増はレンジ上限を超えて、大きく上振れした印象です。ただし、これまた記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では、コア機械受注の3か月後方移動平均が▲0.0%であることなどから、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。季節調整済みの前月比で見て、製造業が+4.3%増であった一方で、船舶・電力除く非製造業は+11.4%増と大きく伸びています。非製造業のうちの運輸業・郵便業が+39.6%増と大きく伸びたのは鉄道車両の大型受注があったとはいえ、金融業・保険業で+33.8%増であったのはデジタルトランスフォーメーション(DX)投資が出始めている印象です。人手不足の象徴ともなっている建設業も+14.1%増と堅調な受注となっています。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を示している一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合がありましたが、さすがに、人手不足への対応やDXあるいはGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、やや異常な気すらしていましたので、今後の伸びを期待したいところです。しかし、先行きについては決して楽観はできません。特に、米国のトランプ政権の関税政策により先行き不透明さが増していることは設備投資にはマイナス要因です。加えて、国内要因として、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、金利に敏感な設備投資にはネガな影響を及ぼすことは明らかです。いずれにせよ、先行きリスクは下方に厚いと考えるべきです。

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2025年4月15日 (火)

とうとう1食400円を超えた帝国データバンクの「カレーライス物価指数」

やや旧聞に属するトピックながら、先週4月10日に帝国データバンクから2025年2月調査の「カレーライス物価指数」が明らかにされています。先月段階で2月調査では400円を超える見通しでしたが、結局、407円という結果になっています。まず、帝国データバンクのサイトから 「カレーライス物価」推移 を引用すると以下の通りです。

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グラフで3月の予想めいた数値が示されていますが、帝国データバンクによれば、来月3月の「カレーライス物価」は1食420円前後と予想しています。また、2月の実績407円というのは、前年同月の319円から+88円の上昇を見せているわけですが、うち、ごはん(ライス)が+77円を占めています。コメ価格の高騰が原因であることはいうまでもありません。
私は1950年代の生まれですから、白米のごはんが「銀シャリ」と呼ばれる贅沢品だったという歴史的事実を知っています。でも、もう80年も昔のことです。日本経済は歴史を逆行しながら貧しくなっていくのでしょうか?

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2025年4月14日 (月)

今年のゴールデンウィークの旅行需要は盛り上がりに欠けるのか?

かなり旧聞に属するトピックながら、4月3日にJTBから「ゴールデンウィークに、1泊以上の旅行に出かける人」の旅行動向見通しが明らかにされています。ここでゴールデンウィーク=GWの日付は今年2025年4月25日~5月7日ということになっています。まず、JTBのサイトからGWの旅行動向の推計結果のテーブルを引用すると以下の通りです。

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見れば明らかな通り、総旅行人数や総旅行消費額は昨年2024年を下回っており、コロナ前の2019年比でも及びません。ただ、最近の物価動向や為替相場を反映しているような気がしますが、1人あたり平均旅行費用は国内旅行も海外旅行もそれほど減少しているわけではありません。
たぶん、私自身は大阪・関西万博を含めて、このゴールデンウィークに宿泊をい伴う旅行はしないと思うのですが、それは別としても、旅行に行かない理由としては、前年から△1.3%ポイント低下したものの「GWは混雑するから(45.9%)」がもっとも多くなっています。次いで、「GWは旅行費用が高いから(34.6%)」、「家計に余裕がないので(25.9%)」といった経済的な理由が続いています。

昨年の春闘はそれなりに盛り上がりを見せて、名目ベースでの賃上げは進みました。しかし、物価上昇が賃上げを超えてしまい、厚生労働省の毎月勤労統計によれば、実質賃金は3年連続で減少しています。総務省統計局による今年2025年2月の消費者物価指数(CPI)では、うるち米(コシヒカリを除く)の価格は+81.4%というとてつもない上昇を示しています。あくまで一般論ながら、消費の優先順位として、コメを買うよりも旅行を断念する家計が決して少なくないことは容易に想像できます。所得が伸びずに、このまま国民生活が貧しくなって行くのでしょうか?

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