2023年11月29日 (水)

国際決済銀行(BIS) による BIS Paper "Inflation and labour markets" やいかに?

先週11月24日に国際決済銀行(BIS)から BIS Paper "Inflation and labour markets" が公表されています。もちろん、pdfによる全文リポートもアップロードされています。公表はつい最近なのですが、このリポートの内容は今年2023年3月16-17日に開催された新興国中央銀行副総裁による国際会議 "Inflation and labour markets in the wake of the pandemic" の結果を取りまとめたものです。新興国の中央銀行副総裁による会議ですから我が国における注目は決して高くなかった上に、ロシアによるウクライナ侵攻という要素が薄かったもの注目度を上げなかった要因だろうという気がしますが、せんしんこくにくらべてた新興国のインフレにつてい、今回のコロナ禍における特徴をよく取りまとめているという気がします。まず、BISのサイトからペーパーの概要を引用すると以下の通りです。

Inflation shot up in both emerging market economies (EMEs) and advanced economies (AEs) in the wake of the Covid-19 pandemic. While labour market developments were not a key source of the surge, they could become important for the persistence of inflation and, thus, the path of disinflation. Despite this, there is comparatively little work on how labour market developments affect inflation in EMEs, quite in contrast to a substantial body of work in AEs. Instead, attention has mostly focused on other inflation drivers, for instance exchange rates. To fill this gap, the Bank for International Settlements dedicated its annual meeting of emerging market Deputy Governors to the topic of "Inflation and labour markets in the wake of the pandemic". The meeting was held in Basel 16-17 March 2023.
The current volume contains a background paper by BIS staff as well as contributions by the participating central banks. Using the responses to a survey of EME central banks, the BIS background paper analyses the structure of labour markets in EMEs, wage formation and the relationship between wages and inflation. While there are important parallels, there are also notable differences across countries, both within and between regions. For example, a few countries feature strong unions and collective bargaining, while these are mostly absent from others. Such parallels and differences are also apparent in the central bank contributions, which dig deeper into individual country cases.

この論文集にはアルファベット順で、アルゼンティン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、香港、など20か国の中央銀行副総裁がリポートを寄せています。その中で、p.85 から中国のリポート "Labour market and inflation: the case of China" に着目すると、日本と同じでフィリップス曲線が年を経るごとにフラットになっていくのが観察されています。

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上のフィリップス曲線のグラフはリポートから p.92 Graph 6 Relationship between China's inflation and growth を引用しています。明らかに年を経てフィリップス曲線がフラットに変化して行き、かつ、横軸であるy切片も小さくなっています。本来であれば、縦軸はGDP成長率ではなく、GDPギャップ、すなわち、統計から観察される実績GDPと潜在GDPの実績に対する比率、とすべきであろうと思いますが、第1次アプローチとしては実績の成長率でOKでしょう。おそらく、年を追ってフィリップス曲線の傾きがフラットになり、縦軸のy切片が小さくなってきているという意味で、同じことが多くの先進国、日本も含めての多くの国に当てはまっているのだろうと思います。加えて、このリポートで強調されているように、中国の場合は都市と農村の間で、また、産業間や地域間での労働移動の増加が大きく、少なくとも短期には労働市場のタイト化は、先進国や他の新興国に比べて、賃金上昇やインフレに対する大きな圧力にはなっていない可能性が高いと私も考えています。

最終的な結論を得るまでには至りませんが、ノーベル経済学賞も受賞したフェルペス教授らによる垂直のフィリップス曲線や自然失業率、などという仮説はほとんど意味をなさず、むしろ、フィリップス曲線は水平かもしれない、という仮説が出てくる可能性が示唆されているのかもしれません。そうなったら、中央銀行はその昔の日銀が主張するように物価に対する政策手段を持たない可能性すらあります。

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2023年11月28日 (火)

帝国データバンクによる「全国主要路線バス運行状況調査」の結果やいかに?

先週水曜日11月22日に帝国データバンクから「全国主要路線バス運行状況調査 (2023年)」の結果が明らかにされています。少子高齢化に伴う人口減少や来年からのいわゆる2024年問題をはじめ、バス業界では深刻な運転手不足に直面しています。ただ、この背景には、給与水準の低さや長時間労働など待遇面の悪さが人材定着に悪影響を及ぼしているとの見方もあり、構造的な要因も指摘されています。関西では大阪の金剛バスが9月11日付けで、今年2023年12月にはバス事業を廃止するとのプレスリリースを出しています。2023年中、さらに2024年に減便・廃止するなどの路線バス運行状況の調査結果が気になるところです。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果の概要を2点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 路線バスの8割が今年「減便・廃止」を実施 全路線数の約1割に影響の可能性
  2. 「人手不足」深刻 コロナ前から人手「減少」が約半数を占める

pdfの全文リポートも参照して、いくつかグラフを引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから 路線バス運行127 社の「減便・廃止」動向 のグラフを引用すると上の通りです。こういった減便や廃止街次ぐ要因として、リポートでは以下のようなものを上げています。すなわち、2024年問題への対応としては、残業規制に対する人材配置が困難ないし不可能、あるいは、運転手の確保難や既存ドライバーの高齢化、また、観光・貸切バスへの運転手流出などといった要因であり、加えて、収益環境が悪化しているのは、沿線住民の利用が減少しているとともに、コロナ禍からの減収分が戻らず、経営を圧迫していて、高速バス・貸切バス事業を犠牲にした路線バス維持策が限界に達している、との分析です。こういった減便や廃止は、調査対象となった127社で運行が判明した約1万4000路線のうち、少なくとも約1割に相当する路線に影響が及ぶ可能性がある、と指摘しています。

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続いて、リポートから 路線バス会社の人手状況 のグラフを引用すると上の通りです。需要サイドの人口減少とともに、供給サイドの運転手不足も深刻であり、運転手だけではない従業員単位ですが、1社当たりの従業員数はコロナ前の2019年時点に比べ、対象307社のうち53.1%にあたる163社で減少しています。特に、運転手については「待遇の良い貸切観光バスに人材が流出している」などの要因から、2024年問題への対応も含めたダイヤ維持に必要な運転手の確保や増員が難しくなっている、と指摘しています。

私は今年2023年9月に65歳の誕生日を迎えて、地元バス会社の「敬老パス」のような運賃体系の恩恵にあずかれることから、大学への通勤はJRからバスに切り替えました。しかし、朝夕の通勤時間帯でも30分に1本の運行であり、東京の地下鉄のように終電が夜の12時を軽く超えていたのが懐かしく、コチラの終バスは夜8時台ではないかと思います。確かに、バス会社にもいろんな困難があるとはいえ、加えて、十分な公共交通機関の発達が見られずマイカーに頼りがちな地域ではありますが、私のような自動車すら持たない一般庶民にとってバスは必要な交通手段です。

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2023年11月27日 (月)

再加速した10月の企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月から加速して+2.3%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIについても上昇幅が拡大し+2.4%の上昇を示しています。ヘッドライン上昇率は8月統計から上昇幅が再加速しています。また、32か月連続の前年比プラスを継続しています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格10月2.3%上昇 3年9カ月ぶり上げ幅
日銀が27日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は110.0と、前年同月比2.3%上昇した。上昇率は9月(2.0%)より拡大し、20年1月以来3年9カ月ぶりの大きさとなった。広告で企業の出稿意欲が改善したほか、サービス分野などで人件費上昇を転嫁した値上げが見られた。
企業向けサービス価格指数は企業間で取引されるサービスの価格変動を表す。調査対象となる146品目のうち価格が前年同月比で上昇したのは100品目、下落は27品目だった。
広告が前年同月比2.9%上昇した。スポーツイベントで単価が押し上げられ、9月は下落だったテレビ広告が上昇に転じた。運輸・郵便は1.3%上昇だった。中東情勢の悪化でタンカー市況が上昇し、宅配便の一部などで燃料費や人件費を転嫁した値上げも聞かれた。
2.7%上昇だった諸サービスは機械修理や労働者派遣サービスなどで人件費の上昇が影響した。宿泊サービスはインバウンド(訪日外国人)を含めた人流の回復で49.9%と大きく上昇した。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)の上昇トレンドは2022年中に終了した可能性が高い一方で、企業向けサービス物価指数(SPPI)はまだ上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の昨年2022年以降の推移は、2022年9月に上昇率のピークである+2.1%をつけてから、ジワジワと上昇率は低下し今年2023年に入って6月統計で+1.5%まで縮小した後、7月統計から再加速が始まり、7月+1.7%、8月+2.1%、9月+2.0%の後、本日公表された10月統計では前月からさらに加速して+2.3%の上昇率を記録しています。ただ今年2023年年央から上昇率が再加速したとはいえ、大雑把な流れとしては、+2%前後の上昇率が継続しているようにも見えます。もちろん、+2%前後の上昇率はデフレに慣れきった国民マインドからすれば、かなり高いインフレと映っている可能性が高いながら、日銀の物価目標、これは生鮮食品を除く消費者物価上昇率ですが、物価目標の+2%近傍であることも確かです。加えて、下のパネルにプロットしたように、モノの物価である企業物価指数のうちの国内物価のグラフを見ても理解できるように、インフレ率は高いながら、物価上昇がさらに加速するわけではないんではないか、と私は考えています。繰り返しになりますが、ヘッドラインSPPI上昇率にせよ、国際運輸を除いたコアSPPIにせよ、日銀の物価目標とほぼマッチする+2%程度となっている点は忘れるべきではありません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて10月統計のヘッドライン上昇率+2.3%への寄与度で見ると、宿泊サービスや機械修理や労働者派遣サービスなどの諸サービスが+0.96%ともっとも大きな寄与を示しています。引用した記事にもある通り、特に、宿泊サービスは前月比で+31.7%、前年同月比で+49.9%と大きな上昇となっています。ほかに、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスといった情報通信が+0.58%、リース・レンタルが+0.23%、加えて、SPPI上昇率再加速の背景となっている石油価格の影響が大きい道路旅客輸送や国内航空旅客輸送や鉄道旅客輸送などの運輸・郵便が+0.22%のプラス寄与となっています。

最後に、「宅配便の一部などで燃料費や人件費を転嫁した値上げ」などの引用した記事にみられる通り、資材などの仕入れ価格や人件費の上昇分を価格転嫁する動きが広がっている点は、ある意味で、健全な経済活動といえます。少なくとも、下請けの中小企業がコストアップ分の価格引上げを納入先の大企業に拒否されるよりは価格転嫁できる方が経済的には健全である、と私は受け止めています。

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2023年11月24日 (金)

4か月ぶりに上昇率が再加速した10月の消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から10月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+2.9%を記録しています。前年比プラスの上昇は26か月連続ですが、先月9月統計の+2.8%のインフレ率からは上昇幅を再加速させています。+3%を下回っていますが、日銀のインフレ目標である+2%をを大きく上回る高い上昇率での推移が続いています。ヘッドライン上昇率も+3.3%に達している一方で、エネルギーや食料品の価格高騰からの波及が進んで、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+4.0%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価指数、10月2.9%上昇 4カ月ぶり伸び拡大
総務省が24日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が106.4となり、前年同月比で2.9%上昇した。伸び率は4カ月ぶりに拡大した。政府の電気・ガス料金の補助が10月から半減し、エネルギー価格が物価を下げる効果が弱まった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の3.0%上昇は下回った。前年同月比でプラスとなるのは26カ月連続で、日銀の物価目標である2%を上回る水準での推移が続く。
生鮮食品を含む総合指数は3.3%上昇した。トマトが41.3%、りんごが29.4%それぞれ上がった。夏場の高温による生育不良などで出荷が落ち込んだ。
生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は4.0%上昇した。4%台の上昇は7カ月連続となる。4.2%の上昇だった9月は下回り、伸びは2カ月連続で縮小した。生鮮食品以外の食料品で、昨年秋以降に相次いだ値上げに一服感がある。
総務省によると電気・ガスの料金抑制策がない想定では、生鮮食品を除く総合指数の上昇率は3.4%だった。単純計算では政策効果で物価の伸びが0.5ポイント抑えられている。9月の抑制効果は1.0ポイントだった。
品目別では電気代が前年同月比で16.8%下がった。9月の24.6%低下から下げ幅を縮めた。都市ガス代も13.8%の低下で、9月の17.5%のマイナスから下落幅が縮小した。政府が石油元売りに支給する補助金を拡充したガソリンは5.0%上昇と、9月の8.7%プラスから上昇率が下がった。
全体をモノとサービスに分けると、サービスの上昇率は2.1%と9月より0.1ポイント拡大した。消費税増税の時期を除くと1993年10月以来30年ぶりの上昇率だった。原材料費の上昇に加え、人件費を価格に転嫁する動きがみられる。
宿泊料は42.6%上昇した。観光需要が回復している。政府の観光振興策「全国旅行支援」が各地で終了していることも押し上げ要因となった。携帯電話の通信料は10.9%伸びた。7月と10月に一部の事業者で料金プランの変更があった。
生鮮食品を除く食料は7.6%上昇と、9月の8.8%上昇から伸びを縮めた。伸びの縮小は2カ月連続となる。上昇率は高く、レトルトカレーを示す調理カレーは16.4%のプラスだった。アイスクリームも12.1%上がった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.0%の予想でしたので、実績の+2.9%の上昇率はやや下振れした印象ながら大きな違いは感じられません。まず、エネルギー価格については、2月統計から前年同月比マイナスに転じていて、本日発表された10月統計では前年同月比で▲8.7%に達し、ヘッドライン上昇率に対する寄与度も▲0.75%の大きさを示しています。ただし、9月統計ではこの寄与度が▲1.00%ありましたので、10月統計でコアCPI上昇率が9月統計から+0.1%ポイント再加速した背景はエネルギー価格にあります。すなわち、10月統計ではエネルギーの寄与度差が+0.26%に達しています。たぶん、四捨五入の関係で寄与度差は寄与度の引き算と合致しません。悪しからず。特に、そのエネルギー価格の中でもマイナス寄与が大きいのが電気代です。エネルギーのウェイト712の中で電気代は341と半分近くを占め、9月統計では電気代の寄与度が▲1.01%あったのが、10月統計では▲0.69%に縮小しています。+0.32%ポイントの寄与度差を示しています。統計局の試算によれば、政府による「電気・ガス価格激変緩和対策事業」の影響を寄与度でみると、▲0.49%に達しており、うち、電気代が▲0.41%に上ります。他方で、政府のガソリン補助金が縮減された影響で、6月統計で前年同月比▲1.6%だったガソリン価格は7月統計で+1.1%の上昇に転じた後、8月+7.5%、9月+8.7%、そして、直近の10月統計では+5.0%と、ふたたび上昇に回帰しています。この背景は国際商品市況における石油価格の上昇があります。中東のガザ地区の武力衝突が、今後、どのように推移するかについても予断を許しませんし、食料とともにエネルギーがふたたびインフレの主役となる可能性も否定できません。エネルギーだけではなく、食料についても細かい内訳をヘッドライン上昇率に対する寄与度で見ると、コアCPI上昇率の外数ながら、生鮮野菜が+0.36%と大きく値上がりしています。コアCPIの中では、調理カレーなどの調理食品が+0.30%、まだ暑さが続いていた10月の統計ですのでアイスクリームなどの菓子類が+0.26%、牛乳などの乳卵類が+0.24%、外食焼肉などの外食が+0.18%、食パンなどの穀類も+0.17%、などなどとなっています。

何度も書きましたが、現在の岸田内閣は大企業にばかり目が向いていて、東京オリンピックなどのイベントを開催しては電通やパソナなどに多額の発注をかけましたし、物価対策でも石油元売とか電力会社などの大企業に補助金を出しています。こういった大企業向けの選別主義的な政策ではなく、たとえ結果としては同じであっても、国民に対して出来るだけ普遍主義的な政策を私は強く志向しています。物価対策であれば、例えば、消費税減税・消費税率引下げ、あるいは、物価上昇に見合った賃上げを促す政策が必要であると私は考えます。

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2023年11月23日 (木)

メルカリの男女賃金格差の是正姿勢を考える

メルカリの男女の賃金格差に関するメルカンの記事「『説明できない格差』を埋めてより良い社会にしていきたい - 男女間賃金格差に対する、メルカリが考える是正アクション」を見て、思わずツイッタでつぶやいてしまいましたが、ちょっと間違った部分がありましたので、訂正の意味も含めて、取り上げておきたいと思います。というのは、ミンザー型の賃金関数を用いてBlinder-Oaxaca分解していると思っていたのですが、どうも、階層ベイズモデルを用いているようです。「重回帰分析では全体平均的な補正値しか出せませんが、階層ベイズモデルではグループ差や個人差を考慮できる」とありますから、重回帰分析がミンサー型の賃金関数なのかもしれません。私は階層ベイズモデルの研究成果はありませんが、ミンサー型の賃金関数を基にBlinder-Oaxaca分解を用いた賃金格差分析のディスカッションペーパーを書いたことがありますので、改めて、私の研究成果ともあわせて簡単にコメントしたいと思います。
ということで、私が役所にいたころの研究成果で「ミンサー型賃金関数の推計とBlinder-Oaxaca分解による賃金格差の分析」と題するディスカッションペーパーがあります。何をしているかは、ありきたりな研究なので、詳しくは書きたくもないのですが、タイトル通りに、ミンサー型の賃金関数モデルに厚生労働省の賃金構造基本統計調査(賃金センサス)の個票データをインプットして賃金の決定要因を分析しています。さらに、Blinder-Oaxaca分解という手法を適用して、賃金に関して、産業間格差、地域間格差、企業規模別格差などとともに、もちろん、男女の性別格差についても分析をしています。2015年の研究ですので、データは2011年の震災年を外して、2007年、2010年、2013年の3年ごとの個票データを用いています。
男女の性別賃金格差は、学歴や役職などの詳細属性を含むデータで、各年35~40%と計測しています。そして、階層ベイズモデルを用いてメルカンで「説明できない格差」と呼んでいるのは、ミンサー型賃金関数を基にしたBlinder-Oaxaca分解では、通常、非属性格差と呼ばれています。これは、例えば、女性の場合は男性よりも大卒比率が低いとか、パートタイム比率が高いとか、勤続年数が短いとか、年齢が若いとか、こういった属性に起因する格差と、こういった明示的な属性の違いに起因しているわけではない非属性格差に分解するのが、Blinder-Oaxaca分解と呼ばれる手法です。ですから、非属性格差は人的資本の研究で有名なシカゴ大学のベッカー教授などはズバリ「差別」discrimination と呼んでいます。
私がメルカンの記事で驚いたのは、メルカリにおける男女間賃金格差37.5%は、私の研究成果に比べて平均的といえるのですが、非属性格差に近いと私がみなしている「説明できない格差」がわずかに7%しかない、という点です。すなわち、私の研究成果によれば、35~40%の男女間性別賃金格差のうち、18~20%くらい、すなわち、半分強が非属性格差であったのですが、メルカリの場合はわずかに⅕の7%というのは驚きでした。

まったく別のテーマながら、阪神タイガース優勝パレードはものすごい盛り上がりでした。感激しました。

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2023年11月22日 (水)

世界における基礎的スキルの充足度はどれくらいか?

来年1月に刊行予定の学術誌で "Global universal basic skills: Current deficits and implications for world development" と題する論文が掲載予定と聞き及びました。まず、この論文の引用情報は以下の通りです。

この論文のAbstractを学術誌のサイトから引用すると以下の通りです。なお、下線は引用者が付しています。

Abstract
How far is the world away from ensuring that every child obtains the basic skills needed to be competitive in a modern economy? And what would accomplishing this mean for world development? We provide new approaches for estimating the lack of basic skills that allow mapping achievement across countries of the world onto a common (PISA) scale. We then estimate the share of children not achieving basic skills for 159 countries that cover 98% of world population and 99% of world GDP. We find that at least two-thirds of the world's youth do not reach basic skill levels, ranging from 24% in North America to 89% in South Asia and 94% in Sub-Saharan Africa. Our economic analysis suggests that the present value of lost world economic output due to missing the goal of global universal basic skills amounts to over $700 trillion over the remaining century, or 12% of discounted GDP.

この論文では、著者たちが学習ないしスキルの達成度を経済開発協力機構(OECD)で実施している学習到達度調査(PISA)のスケールに合わせてマッピングするアプローチを開発し、それを世界GDPの99%をカバーする159か国について推計しています。推計方法に注目するアカデミアも少なくなさそうですが、一般向けに結果に着目して、イメージをつかむために、そのマッピングされた世界地図 Fig. 3.World map of lack of basic skills: Share of children who do not reach basic skill levels を論文から引用すると以下の通りです。

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基礎的スキルの欠如に従ってグラデーションさせていますので、黄色とかの色の薄い方が欠如の割合が小さく、したがって、習得あるいは到達の度合いが高い、ということになります。日本、韓国、中国、カナダ、英国、オランダなどが欠如率10-20%、ということで、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアなどのいくつかの大陸欧州諸国、米国、ロシアなどがやや高く20-30%、もっとも高い地域はサブサハラ・アフリカや南アジアなどとなっています。おおよそ、世間一般の常識に合致する結果ではないかと思います。

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続いて、論文から Table 3 Sensitivity of skill estimates: Restriction to higher layers of reliability and bounding of out-of-school children を引用すると上の通りです。タイトルには「学校教育外の子供たち」out-of-school children も表にあることが明記されていますが、日本では学校外教育が一般的ではないことやその他の諸般の事情により割愛しています。Abstract に下線を引いておいたように "at least two-thirds of the world's youth do not reach basic skill levels" なわけで、上のテーブルからは、基礎的スキルの欠如比率が67.2%に達していると結論されていることが理解できます。低所得国では95.6%、低位中所得国で85.8%、高位中所得国で42.3%、高所得国でも25.5%に上ります。なお、引用はしませんが、論文には Table A4. Student achievement on a global scale: Country data として基礎的スキルの欠如率の国別データも収録されています。日本は11.2%、中国が13.9%、米国が22.9%、などとなっています。

この論文から私が得た結論は以下の2点です。

  1. 世界ではまだまだ子供たちに基礎的スキルが不足していて、さらに教育を進めることにより、経済成長をはじめとする社会的・文化的・経済的な各国の発展につなげることができる。
  2. やっぱり、日本の子供たちは優秀であり、当然に、日本の労働者の潜在的な生産性は高いと考えられ、生産性が低いから賃金が上がらない、という経営者団体などの主張にはどこかに誤りがある

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2023年11月21日 (火)

帝国データバンク「2024年の注目キーワードに関するアンケート」の結果やいかに?

先週木曜日の11月16日に帝国データバンクから「2024年の注目キーワードに関するアンケート」の結果が明らかにされています。詳細についてはpdfの全文リポートもアップロードされています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果を3点引用すると以下の通りです。

調査結果
  • 2024年の注目キーワード、「ロシア・ウクライナ情勢」が73.2%でトップ、物価高や人手不足関連が上位に並ぶ
  • 特に「ロシア・ウクライナ情勢」「中東情勢」「チャイナリスク」といった『海外情勢』をキーワードとして捉える企業は93.7%にのぼる
  • 業界別、『運輸・倉庫』で「2024年問題」が突出して高く、『小売』は「食品・日用品価格」が目立つ

続いて、帝国データバンクのリポートから 2024年の注目キーワード トップ20(複数回答) を引用すると以下の通りです。

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画像の右下に昨年2023年の注目キーワードが小さく示されています。相変わらず、ロシア・ウクライナ情勢がトップで、中東情勢も4位に入っています。こういった国際情勢に関するキーワードに続いて、物価高やインフレが続いているのは昨年と同じです。大きく異なるのはコロナ関連で、昨年はまだコロナの感染法上の扱いが2類でしたが、今年2023年5月に5類になってから、かなり極端に見方が変化したようで、来年の注目キーワードでは17位で大きく後景に退いています。それに代わって、物流・建設をはじめとするいわゆる2024年問題などの人手不足・人材確保が3番めに入っています。

来年のことをいうと「鬼が笑う」といいますが、果たしてどうなりますことやら。

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2023年11月20日 (月)

気候温暖化が貿易を阻害する?

先週11月15日の IMF Blog で「気候変動が国際貿易を混乱させる」 Climate Change is Disrupting Global Trade という記事がポストされています。何それ? と思ったのですが、パナマ運河が干ばつ制限により通行が制限されていることを指しているようです。以下、このIMF Blogの記事の概要です。

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IMF Blog のサイトから Port Watch と題する画像を引用すると上の通りです。Port Watch とはIMFと英国オックスオード大学が共同で開設したオープン・プラットフォームだそうです。このプラットフォームは、リアルタイムの衛星データを使用して世界の海上貿易の99%以上に当たる世界中の約12万隻の貨物船とタンカーを追跡しているそうです。
パナマ運河は毎月約1000隻の船が通過し、世界の海上貿易の約5%に相当する4000万トン超の貨物が運ばれています。しかし、運河に水を供給するガトゥン湖 Gatún Lake での降水量が不足し、干ばつ制限 drought restrictions により通行量が今年に入って1500万トン減少し、船舶の運行が6日間遅れている、と報告されています。
上の画像に見られる通り、もちろん、地理的に近い米州大陸諸港への影響が大きいのですが、実は、欧州よりも日本の港への影響の方が大きいようです。気候変動=地球温暖化はさまざまな局面で経済や生活に大きな影響を及ぼし始めています。気候変動の防止のために温室効果ガス排出削減は待ったなしの状況です。

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2023年11月17日 (金)

今年の年末ボーナス予想やいかに?

今月11月に入って、例年のシンクタンク4社から2023年年末ボーナスの予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下のテーブルの通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因で決まりますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。加えて、ボーナス予想だけではなく、できる限り、消費との関連を記述した部分を拾おうとしています。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほリサーチ&テクノロジーズのみ国家公務員+地方公務員であり、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員ベースの予想、と明記してあります。第一生命経済研ではそもそも公務員は予想の対象外です。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研40.2万円
(+2.4%)
67.2万円
(+3.1%)
今冬の賞与は3年連続の増加を予想。民間企業の支給総額は前年比+3.7%の増加となる見込み。支給対象者が増加することに加え、一人当たり支給額も同+2.4%と増加。
背景には、賞与支給の原資となる2023年度上期の企業収益の改善。4~6月期の経常利益は、全産業で26.9兆円(前期比+9.5%)と過去最高水準。製造業では、円安を背景に、海外子会社からの受取利息など営業外収益が増加。非製造業では、好調なインバウンド需要や国内家計のサービス消費の増加などを受け、サービス関連業種を中心に改善。
みずほリサーチ&テクノロジーズ40.3万円
(+2.5%)
76.5万円
(+4.2%)
2023年冬の民間企業の一人当たりボーナスは前年比+2.5%と、3年連続の増加を予想。2023年春闘での近年にない高い水準での賃上げや労働需給の引き締まりを背景に、所定内給与が増加
価格転嫁の進展にともない企業の経常利益は増益を維持。これを受けて、支給月数は若干増加すると予想。2023年冬のボーナスは増加も、伸びは昨冬と比べ鈍化する見通し
民間・公務員合わせたボーナス支給総額は前年比+2.8%と増加する見込み。実質ベースでは夏に比べてマイナス幅が縮小し、個人消費の緩やかな回復を支える要因となろう
三菱UFJリサーチ&コンサルティング40.1万円
(+2.2%)
67.0万円
(+2.8%)
一人当たり支給額と支給労働者数の増加を受け、ボーナスの支給総額は17.5兆円(前年比+3.8%)と3年連続で増加しよう。支給総額の増加率は物価上昇率を上回り、個人消費の回復を後押しすることが期待される。
第一生命経済研n.a.
(+2.1%)
n.a.今冬のボーナスで増加が予想されることは好材料ではあるが、物価上昇が続いていることが引き続き個人消費の頭を押さえる。23年9月の消費者物価指数(持家の帰属家賃を除く総合)は前年比+3.6%と非常に高い伸びが続いており、年末時点でも+3%台で推移している可能性がある。賃金の増加ペースが物価上昇に追い付かない状況には変わりがない。今冬のボーナス増加が個人消費の活性化に繋がる可能性は低いだろう。

見れば明らかな通り、民間企業では+2%強の伸びで40万円を少し上回るくらいの支給額の予想が中心となっています。増えるであろうボーナスが消費にどこまでインパクトを持つかが注目なのですが、大雑把に、第一生命経済研究所ではボーナスの伸びが物価上昇に追いつかないので消費の活性化につながる可能性を低いと見ているのに対して、逆に、みずほリサーチ&テクノロジーズや三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは消費の回復を支える、ないし、後押しする、と評価しています。三菱UFJリサーチ&コンサルティングではボーナスの伸びが物価上昇を上回ると見ているので、ボーナスと物価の関係は第一生命経済研究所と逆ですから、ボーナスと消費についても逆の関係を想定するのは当然といえます。ただ、消費をサポートすると見ているみずほリサーチ&テクノロジーズや三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、第一生命経済研究所のように1人当たりボーナスの伸びと物価上昇を単純に比較するのではなく、1人当たり支給額の伸びに支給対象労働者の増加を考慮したボーナス支給総額に着目して消費に対するインパクトを考えているので、支給対象者が増加する今冬ではボーナスが消費に対してより大きなインパクトを持つ、という結論なのではないか、と想像しています。支給総額の伸びの予想を見ると、日本総研では+3.7%、みずほリサーチ&テクノロジーズでは+2.8%、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは+3.8%、とそれぞれ見込んでおり、みずほリサーチ&テクノロジーズの場合はボーナス支給総額の伸びと物価上昇の大小関係がビミョーなのですが、日本総研と三菱UFJリサーチ&コンサルティングの予想は物価上昇を上回りそうに見えます。いずれにせよ、平たくいえば、そこそこボーナスも増えると見られ、消費を下支えする効果を私は期待しています。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから 賞与の支給総額 引用しています。

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2023年11月16日 (木)

赤字を計上した10月の貿易統計と足踏み続く9月の機械受注をどう見るか?

本日、財務省から10月の貿易統計が、また、内閣府から9月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見て、輸出額が前年同月比+1.6%増の9兆1470億円に対して、輸入額は▲12.5%減の9兆8096億円、差引き貿易収支は▲6625億円の赤字を記録しています。機械受注の方は、民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注が、季節調整済みの系列で見て前月比+1.4%増の8529億円となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから手短に引用すると以下の通りです。

10月の貿易赤字6625億円、前年比7割縮小 資源高一服
財務省が16日発表した10月の貿易統計速報によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6625億円の赤字だった。赤字は2カ月ぶり。赤字幅は前年同月比で70.0%縮小した。資源高が一服して輸入額が減った。
輸入額は9兆8096億円で12.5%減少した。輸出額は9兆1470億円で1.6%増えた。
輸入を見ると、原油が1兆146億円で16.8%減、液化天然ガス(LNG)が4955億円で37.6%減、石炭が4231億円で45.7%減と資源関連が押し下げた。
原油はドル建て価格が1バレルあたり92.7ドルと前年同月から12.6%下がった。円建て価格は1キロリットルあたり8万6808円と10.3%下落している。
地域別では中国からの輸入が2兆3255億円で2.9%減った。電算機類や半導体など電子部品が落ち込んだ。米国は1兆134億円で4.5%減だった。航空機類や液化石油ガスの減少幅が大きかった。
輸出は半導体等製造装置が2858億円で18.2%減少した。船舶や自動車などは増えた。
地域別では中国向けが1兆6512億円で4.0%減少した。半導体など電子部品や鉄鋼が落ち込んだ。米国向けは1兆9286億円で8.4%増えた。ハイブリッド車など自動車の輸出が5536億円と37.9%増加した。
10月の貿易収支は季節調整値で見ると、4620億円の赤字だった。輸入が前月比で0.7%減の9兆2616億円、輸出が1.2%減の8兆7996億円だった。赤字幅は9.9%拡大した。
7-9月の機械受注1.8%減 2四半期連続でマイナス
内閣府が16日発表した7~9月期の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる民需(船舶・電力を除く、季節調整済み)は前期比1.8%減の2兆5385億円だった。マイナスは2四半期連続。製造業、非製造業ともに発注が減少した。
9月単月の民需は前月比1.4%増の8529億円だった。プラスは3カ月ぶり。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値の0.8%増を上回った。
7~9月期の動きを見ると、製造業は前期比2.5%減で3四半期ぶりのマイナスとなった。船舶と電力を除く非製造業は0.8%減で2四半期連続のマイナスだった。非製造業の減少幅は前期の8.8%減から縮んだ。
製造業では電気機械からの受注が12.1%減った。具体品目として大型コンピューターや半導体製造装置などの「電子計算機等」が低調だった。非製造業では金融業・保険業からの受注が9.6%減った。
内閣府は実績を見通しで割った「達成率」を公表しており、7~9月期は94.6%だった。4~6月期の89.8%から上昇した。
9月末時点の10~12月期の受注額見通しは前期比0.5%増だった。船舶と電力を除く非製造業からの受注が4.8%伸びて全体をけん引する。見込み通りであれば、3四半期ぶりのプラスとなる。
9月単月では船舶と電力を除く非製造業が前月比5.7%プラスとなった。リース業や金融業・保険業からの受注が増えた。製造業は1.8%マイナスで、化学工業や汎用・生産用機械からの受注が減った。

やたらと長くなってしまいましたが、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、▲7400億円の貿易赤字が見込まれていたのですが、大きな額ではないとはいえ、実績の▲6625億円の貿易赤字は、ほぼジャストミートしたといえます。何らサプライズはありませんでした。他方、季節調整済みの系列の統計で見て、まだ10月統計でも貿易赤字は継続しているわけで、赤字幅は縮小したとはいえ▲5000億円近い赤字が継続していることも確かです。季節調整していない原系列の統計で見ても、季節調整済みの系列で見ても、グラフから明らかな通り、輸出額の伸びではなく輸入額の落ち込みが貿易赤字縮小の原因です。ただし、注意すべきは為替水準であり、円安については足元で1ドル150円近辺で推移しています。ですので、最近ではもう取り上げられなくなったJカーブの初期の効果が出ている可能性があります。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、貿易収支が赤字であれ黒字であれ、輸入は国内生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。
10月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が大きく減少しています。すなわち、原油及び粗油は数量ベースで▲7.3%減、金額ベースで▲16.8%減となっています。この差は単価の低下です。LNGは原油からの代替が進んだのか、数量ベースでは+6.4%増ながら、金額ベースでは▲37.6%減となっています。価格は国際商品市況で決まる部分が大きく、そこでの価格低下なのですが、少し前までの価格上昇局面でこういったエネルギー価格に応じて省エネが進みましたので、原油からの代替が進んだ可能性のあるLNGは別としても、価格と数量の両面から輸入額が減少していると考えるべきです。ただ、少しタイムラグを置いて、価格低下に見合って逆方向の輸入の増加が先行き生じる可能性は否定できません。ある意味で、エネルギーよりも注目されている食料について、穀物類は数量ベースのトン数では▲10.3%減にとどまっている一方で、金額ベースでは▲22.5%減と数量の減少を超えて輸入額が減少しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器の中の自動車は季節調整していない原系列の前年同月比で数量ベースの輸出台数は+22.8%増、金額ベースでは+35.4%増と大きく伸びています。半導体部品などの供給制約の緩和による生産の回復が寄与しています。自動車や輸送機械を別にすれば、一般機械▲6.4%減、電気機器▲3.8%減と、自動車以外の我が国リーディング・インダストリーの輸出額はやや停滞気味です。ただし、こういった我が国の一般機械や電気機械の輸出の停滞はソフトランディングに向かっている米国をはじめとする先進各国に起因するものではなく、むしろ、10月統計を見る限り、中国向け輸出額の減少が寄与しているように見えます。すなわち、例えば、米国向け輸出額は前年同月比で+8.4%と伸びている一方で、中国向けは▲4.0%減を記録しています。国際通貨基金(IMF)の「地域経済見通し アジア太平洋編」 でも指摘しているように、中国の不動産セクターの動向が気にかかるところです。

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機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事には「QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は0.8%」とありますが、私が確認したところ、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注で見て前月比+0.7%増でした。いずれにせよ、微増ないしほぼ横ばい圏内の予想でしたから、実績の+1.4%増はやや上振れた印象です。もっとも、予想レンジの範囲内ですし、もともとが単月での振れの大きな指標ですので、大きなサプライズはなかったと私は考えています。引用した記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いています。11か月連続の据え置きだそうです。上のグラフで見ても、太線の移動平均で示されているトレンドとして下向きとなっている可能性が読み取れると思います。加えて、4~6月期▲3.2%減の2兆5855億円に続いて、7~9月期も▲1.8%減の2兆5385億円と2四半期連続で減少しています。ただ、受注水準としてはまだ8,000億円をかなり上回っており決して低くはありませんし、足元の10~12月期の受注見通しは+0.5%増の2兆5,506億円と見込まれています。引用した記事にもある通り、達成率を見ると、今年2023年4~6月期に89.8%と一瞬90%を下回りましたが、7~9月期には94.6%に上昇しています。記事にはありませんが、この達成率が90%を下回ると景気後退局面入りのサインと経験的に考えられています。
ただ、インフレ抑制のための金融引締めが進められた欧米先進国の景気減速により製造業への受注が停滞している一方で、インバウンドが本格的に増加し始めコロナ前の水準に近づきつつあることから非製造業では増加、という明暗が分かれています。本日公表された9月統計では、製造業が季節調整済みの前月比▲1.8%減の4082億円であった一方で、船舶・電力を除く非製造業が+5.7%増の4448億円となっていて、10~12月期の受注見通しでも、製造業は前期比▲3.8%減の1兆1836億円、船舶と電力を除く非製造業は+4.8%増の1兆3656億円と見込まれています。もっとも、欧米先進国で景気後退に陥ることなくソフトランディングに成功すれば、輸出が回復して製造業が盛り返すことも十分ありえます。非製造業も、この先、インフレのダメージが現れる可能性がないとはいえません。

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